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NASA支援の火星建設技術|火星のレゴリスから自動で建材を生成する技術が実現

NASA支援の火星建設技術|火星のレゴリスから自動で建材を生成する技術が実現 - innovaTopia - (イノベトピア)

Last Updated on 2025-06-28 06:36 by admin

テキサスA&M大学のCongrui Grace Jin博士とネブラスカ大学リンカーン校の共同研究チームが、火星での自律的建設を可能にする合成地衣類システムを開発した。

この研究は2025年6月にJournal of Manufacturing Science and Engineeringに発表されたものである。このシステムでは、糸状菌とシアノバクテリアを組み合わせ、火星のレゴリス(塵、砂、岩石)を結合させてバイオマテリアルを生成する。シアノバクテリアが火星大気の二酸化炭素と窒素を固定して酸素と有機栄養素に変換し、菌類がレゴリス粒子を結合する鉱物の成長を促進する。そしてこれらを3Dプリンティング技術と組み合わせることで、建物、住宅、家具などの構造物を人間の介入なしに製造できると考えられる。

従来の硫黄ベースやマグネシウムベースの結合技術は人間の支援が必要だったが、この合成地衣類システムは火星の固有資源のみで動作する。

From: 文献リンクFrom Sci-Fi to Reality: Self-Building Tech Set to Make Mars Habitats a Reality

【編集部解説】

この研究が注目される理由は、火星植民地化における最大の課題の一つである「建設資材の現地調達」に対する画期的な解決策を提示している点にあります。従来の宇宙探査では、地球から必要な物資をすべて運搬する必要があり、1キログラムの物資を火星に送るために莫大なコストがかかるとされています。

今回開発された合成地衣類システムの革新性は、完全な自律性にあります。これまでの微生物を使った建材製造技術では、継続的な栄養供給や人間による管理が必要でした。しかし、Jin博士らのシステムは、糸状菌とシアノバクテリアの共生関係を人工的に再現することで、火星の大気と土壌のみで機能する点が画期的です。

技術的な仕組みを詳しく見ると、シアノバクテリアが火星大気中の二酸化炭素(約95%)と窒素を固定して酸素と有機物を生成し、糸状菌がこれを栄養源として成長しながらバイオミネラルを産生します。このバイオミネラルがレゴリス粒子を結合させる「生体セメント」として機能するのです。

この技術の実用化により、火星での建設コストは劇的に削減される可能性があります。3Dプリンティング技術との組み合わせにより、住居から家具まで幅広い構造物を現地で製造できるため、初期の火星基地建設から本格的な都市開発まで対応可能です。

一方で、潜在的なリスクも存在します。合成生物システムの火星環境での長期安定性や、予期しない変異による生態系への影響は未知数です。また、火星の放射線環境下での微生物の生存性や、季節変動による性能への影響についても継続的な検証が必要でしょう。

規制面では、惑星保護協定との整合性が重要な課題となります。地球由来の合成生物を火星に導入することは、火星固有の生命体が存在する可能性を考慮すると慎重な検討が求められます。

長期的な視点では、この技術は火星だけでなく月面基地建設や小惑星での資源利用にも応用が期待されます。宇宙開発における「現地資源利用(ISRU)」の新たなパラダイムを切り開く技術として、人類の宇宙進出を加速させる可能性を秘めています。

【用語解説】

レゴリス
火星の表面を覆う塵、砂、岩石の混合物。地球の土壌とは異なり、有機物を含まず、主に玄武岩質の岩石破片から構成される。火星での建設材料として注目されている。

シアノバクテリア
光合成を行う細菌の一種で、二酸化炭素と窒素を固定して酸素と有機栄養素を生成する能力を持つ。地球上で最初に酸素を生産した生物として知られ、青緑色の色素を持つことから「藍藻」とも呼ばれる。

糸状菌
長い糸状の構造(菌糸)を持つ多細胞の菌類。菌糸が網目状に広がってマイセリウムを形成し、有機物を分解して栄養を吸収する。カビの一種で、バイオミネラルの生成能力を持つ。

地衣類
菌類と藻類(またはシアノバクテリア)が共生して形成される複合生物。菌類が構造を提供し、藻類が光合成により栄養を供給する相互依存関係を築いている。

バイオミネラル
生物が生成する鉱物質。微生物の代謝活動により形成され、炭酸カルシウムなどの無機化合物として析出する。建材の結合剤として機能する。

ISRU(In-Situ Resource Utilization)
現地資源利用技術。宇宙探査において、探査先の惑星や天体にある資源を活用して必要な物資を製造する技術概念。

【参考リンク】

テキサスA&M大学(外部)
1876年設立の研究大学で、工学、農学、獣医学などの分野で高い評価を受けている。

ネブラスカ大学リンカーン校(外部)
1869年設立のネブラスカ州の基幹州立大学。土地付与大学として農学研究に強みを持つ。

Journal of Manufacturing Science and Engineering(外部)
アメリカ機械学会(ASME)が発行する製造科学・工学分野の査読付き学術誌。

【参考記事】

Growing Homes On Mars: Texas A&M Research Pioneers Autonomous Construction Using Synthetic Lichens(外部)
テキサスA&M大学の公式発表記事。NASA Innovative Advanced Conceptsプログラムの資金提供を受けた研究の詳細と技術的背景を解説。

Construction on Mars: NASA Suggests a Synthetic Lichen to Autonomously Convert Regolith into Building Material(外部)
従来の火星建設技術の課題と新しい合成地衣類システムの優位性について詳細に分析した技術解説記事。

Growing Building on Mars with Lichen and Bacteria(外部)
合成地衣類システムの技術的仕組みと、従来の微生物建設技術との比較を詳しく解説した記事。

【編集部後記】

火星での生活が現実味を帯びてきた今、皆さんはどのような未来を想像されますか?この合成地衣類システムは、単なる建設技術を超えて、人類の生存圏を拡張する可能性を秘めています。

地球上でも、この技術が自己修復コンクリートや持続可能な建材として活用される日が来るかもしれません。宇宙開発に興味をお持ちの方は、現地資源利用技術の進展にも注目してみてください。また、合成生物学の倫理的側面についても、一緒に考えていけたらと思います。皆さんのご意見やご感想をお聞かせください。

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TaTsu
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