ゲーミングスマートフォン市場は、スペック競争の次のステージとして「熱管理」を主戦場に定めつつあります。処理能力がどれだけ高くても、発熱によってパフォーマンスが制限されれば、ゲームの快適さは半減します。そのボトルネックを正面から解決しようとしているのが、中国発のゲーミングブランド「Red Magic」です。
Red Magicは5月27日、最新ゲーミングスマートフォン「Red Magic 11S Pro」のグローバル展開を発表した。中国での先行発売を経て、6月10日より北米・欧州でも正式販売が開始される。
本機の最大の特徴は冷却性能だ。SoCにはSnapdragon 8 Elite Gen 5 Leading Versionを採用し、進化版「AquaCoreクーリングシステム」を搭載する。毎分24,000回転のファン、液体冷却、圧電セラミックマイクロポンプ、ベーパーチャンバーを組み合わせたこの機構は、背面の透明パネルから視認できる。映像・音声・触覚制御を担う専用の「RedCore R4」ゲーミングチップも搭載する。
ディスプレイは2688×1216解像度のアンダーディスプレイパネルで、ノッチもカットアウトも持たない。144Hzリフレッシュレート、最大1,800ニット輝度、3,000Hzのタッチサンプリングレートに対応し、520Hzのショルダートリガーを備える。バッテリーは7,500mAhで最大80Wのワイヤレス充電に対応し、リバースチャージも可能だ。カメラはOIS搭載の5,000万画素メイン・5,000万画素超広角のリア2眼と1,600万画素フロントカメラで構成され、Android 16ベースのRed Magic OS 11.5が動作する。
価格は北米向けが12GB+256GBモデルで849ドルから、欧州向けは799ユーロから。上位の16GB+512GBモデルは北米949ドル・欧州899ユーロとなる。なお、価格は地域によって異なる。
From:
Red Magic 11S Pro debuts globally with Snapdragon 8 Elite Gen 5 Leading Version & 7500mAh battery
アイキャッチ画像はRedMagic公式サイトより引用
【編集部解説】
スマートフォンの性能向上は、ここ数年で新たな壁にぶつかっています。チップそのものの進化は続いているが、その恩恵をフルに享受するための「熱管理」が追いついていない、という問題です。
ゲームをはじめとする高負荷処理を続けると、チップの温度が上昇します。一定の温度に達すると、スマートフォンは部品の損傷を防ぐために処理速度を意図的に下げます。これが「サーマルスロットリング」と呼ばれる現象で、ゲーミングスマートフォンというカテゴリが存在する理由のひとつが、まさにこの熱管理への集中投資にあります。
冷却技術そのものも、段階的に進化してきました。最初期はグラファイトシート(熱伝導性の高い黒鉛素材)や銅のヒートパイプが中心でした。次に普及したのがベーパーチャンバー(均熱板)です。これは密閉された薄い空間に少量の液体を封入し、熱によって液体が蒸発・凝縮を繰り返すことで熱を広い面積に分散させる「受動的」な仕組みです。iPhoneやGalaxyをはじめとするメインストリームのフラッグシップ端末の多くは、現在もこのベーパーチャンバーを採用しています。しかしベーパーチャンバーには物理的な限界があります。熱を「広げる」だけで、端末の外に積極的に逃がす能力は持っていません。Red Magicがこの限界を超えるために選んだのが、「能動的な液体循環」という別のアプローチです。
AquaCoreクーリングシステムの核心は、液体を「循環させる」ことにあります。使われているのはフッ素化液体と呼ばれる特殊な冷却媒体で、熱や化学変化に対して安定しており、かつ電気を通しません。電気を通さないという特性は、精密な電子部品に隣接して液体を流す上で不可欠な条件で、同素材はAIサーバーやデータセンターの冷却にも使われています。この液体を動かすのが圧電セラミックマイクロポンプです。「圧電(ピエゾ)」とは電圧をかけると素材が変形する性質のことで、このセラミック素子への通電で微細な振動を発生させ、液体を押し流します。
モーターや可動部品を使わないためコンパクトで、スマートフォンの薄い筐体に組み込める点が強みです。液体はマイクロ流路を通ってチップとバッテリーを巡り、吸収した熱をファンとベーパーチャンバーに渡して放出します。Red Magicはこの経路をガソリン車のラジエーターと冷却水の関係に例えており、この循環の流れは透明な背面パネルから実際に目で確認できます。液冷システムに加えて、面積13,116mm²の大型ベーパーチャンバー、毎分24,000回転のアクティブファン、複合液体金属3.0(Liquid Metal 3.0)が重ね合わされ、熱管理ソフトウェア「Energy CUBE 3.0」がこれらを統合的に制御します。
Red Magicは前世代の11 Pro(2025年)でこの液体冷却を量産スマートフォンに初めて搭載したと主張しており、11S Proはその進化版という位置づけです。ここで重要なのは「量産」という点です。実験的なプロトタイプや着脱式アクセサリーではなく、製品として販売される端末の内部に液体循環機構を組み込み、耐久性・耐漏液性・量産コストを確保するのはエンジニアリング上の難題です。同社はリーク防止・非腐食性設計・コンパクト化を実現したと主張しており、11S Proのグローバル展開はその実績を積み重ねる段階にあると見ることができます。
現状では、ゲーミングスマートフォンという特化したカテゴリでこそ成り立つ設計です。液体を内部で循環させるため筐体はどうしても分厚くなり、コストも嵩みます。iPhoneやPixelのような薄型重視の設計思想とは、現時点では相容れません。ただし、モバイルチップの性能向上が続き、AIによるオンデバイス処理の負荷が上がり続ける中で、熱管理の重要性はゲーミング端末に限らず高まっています。ベーパーチャンバー技術はすでに2025〜26年のフラッグシップで主流となっており、以前のグラファイト中心の設計と比べて持続性能を大幅に改善しているとも報告されています。「液冷は特殊端末のもの」という前提が、数年後も変わらないとは言い切れません。
Red Magic 11S Proの冷却設計が示しているのは、スマートフォンがどこまで「コンピューターに近づけるか」という問いへの、ひとつの現段階の回答です。その技術が「専用機の過剰設計」に留まるのか、モバイルコンピューティングの次の標準を先取りしているのか——それはチップの発熱トレンドと市場の選択次第で、まだわかりません。
【用語解説】
サーマルスロットリング(Thermal Throttling)
プロセッサーが一定温度を超えた際に、損傷を防ぐために処理速度を自動的に下げる機能。ゲームや高負荷処理中に発生しやすく、フレームレートの低下として体感される。
ベーパーチャンバー(Vapor Chamber/均熱板)
密閉された平板状の空間に少量の液体を封入した受動冷却部品。熱によって液体が蒸発・凝縮を繰り返すことで熱を広い面積に分散させる。多くのフラッグシップスマートフォンに採用されている標準的な冷却技術。
AquaCoreクーリングシステム
Red Magicが開発した能動的冷却システム。フッ素化液体を圧電セラミックマイクロポンプで循環させる液冷機構と、大型ベーパーチャンバー、高速ファン、液体金属を組み合わせた多層構造。
圧電セラミックマイクロポンプ(Piezoelectric Ceramic Micropump)
電圧をかけると変形する圧電素子の性質を利用して液体を送り出す超小型ポンプ。モーターを持たないため薄型・軽量で、スマートフォン内部への実装が可能。
フッ素化液体(Fluorinated Liquid)
フッ素原子を含む化学的に安定した液体。高い熱伝導性を持ちながら電気を通さないため、電子部品に隣接した冷却媒体として適している。AIサーバーやデータセンターの冷却にも用いられる。
アンダーディスプレイカメラ(Under-Display Camera)
フロントカメラをディスプレイパネルの下に埋め込む技術。ノッチやパンチホールなしに全画面表示を実現できる。
RedCore R4
Red Magicが独自開発したゲーミング専用チップ。映像処理・音声・触覚フィードバック・タッチ応答・パフォーマンスチューニングを担い、メインSoCの負荷を軽減する。
【参考リンク】
REDMAGIC 11S Pro 公式製品ページ(グローバル)(外部)
Red Magic 11S Proのスペック、カラーバリエーション、購入情報を掲載するグローバル公式ページ。
REDMAGIC 公式サイト(グローバル)(外部)
Red Magicブランドのゲーミングスマートフォン・タブレット全製品ラインアップと最新情報。
AquaCoreクーリングシステム詳細解説(Red Magic公式ブログ)(外部)
AquaCoreの仕組みを分解写真とともに詳しく解説するRed Magic公式ブログ記事。
REDMAGIC 冷却技術の変遷(公式ページ)(外部)
グラファイト→ヒートパイプ→ベーパーチャンバー→液冷へのRed Magicの冷却技術史。
Qualcomm Snapdragon 8 Elite Gen 5 公式ページ(外部)
Snapdragon 8 Elite Gen 5の技術仕様と機能をQualcommが公式に解説するページ。
【参考動画】
【参考記事】
Red Magic 11S Pro debuts globally with Snapdragon 8 Elite Gen 5 Leading Version & 7500mAh battery(外部)
グローバル発表の速報。ベーパーチャンバー面積、フッ素化液体冷却の詳細スペックを確認するために参照。
RedMagic 11S Pro goes global – 7,500mAh, 144Hz, SD 8 Gen 5 Elite Leading Edition, liquid cooled(外部)
「業界初の流動フッ素化液体冷却」という表現とEnergy CUBE 3.0の情報を参照。
RedMagic’s 11S Pro is a gaming beast, and it’s crazy to think Liquid Cooling is in this phone(外部)
中国先行発売時の詳報。AquaCoreのアーキテクチャ(4Dベーパーチャンバー、液体金属3.0)の情報源。
Freeze Frame: REDMAGIC’s AquaCore Cooling System in Focus(外部)
圧電セラミックポンプの動作原理、AquaCoreの詳細を解説するRed Magic公式一次情報。
Guide to Smartphone Thermal Management: Passive and Active Cooling Technologies in Detail(外部)
ベーパーチャンバーとアクティブ冷却の技術比較、2025〜26年フラッグシップのトレンドを参照。
RedMagic 11S Pro review: frightening power, but too few upgrades(外部)
前世代比での価格上昇と差別化ポイントに関する批評的視点を参照。
【編集部後記】
スマートフォンの内部に液体が循環している、という事実を、写真ではなく実物を手に持って眺める体験はどんなものだろうと想像します。透明な背面から泡が動く様子が見えるという11S Proの設計は、テクノロジーをあえて「見せる」という選択でもあります。機能を隠すことで洗練を演出するアプローチが主流の中で、メカニズムをそのまま美学にする方向性は、ゲーミングというカテゴリが持つ独特の文化とも重なります。私たちの手の中にあるデバイスが、どんな原理で動いているのか——もっと多くの人がそこに関心を持つようになったとき、テクノロジーとの関係は少し変わるかもしれません。












