HKU5-CoV-2:中国研究チームが発見した新型コロナと同じ感染経路を持つコウモリ由来ウイルスの実態
2025年2月21日、Cell誌に掲載された研究で、中国の研究チームが新型のコウモリ由来コロナウイルス「HKU5-CoV-2」を発見したと発表しました。
研究チームと発見の詳細
広州研究所のBSL-4施設で実施された本研究は、石正麗博士(1964年生まれ)を中心に、広州科学院、武漢大学、武漢ウイルス研究所との共同研究として行われました。
発見されたHKU5-CoV-2は、Pipistrellus abramus(アブラコウモリ)から分離された新型コロナウイルスで、実験室環境下でヒトACE2受容体との結合が確認されました。ただし、SARS-CoV-2と比較して結合効率は約1/50と著しく低いことが判明しています。
from:Chinese team finds new bat coronavirus that could infect humans via same route as Covid-19
【編集部解説】
新型コロナウイルスのパンデミックから5年が経過した今、私たちは再び重要な転換点に立っています。今回の発見は、ウイルス研究における予防的アプローチの重要性を示す象徴的な事例といえます。
研究チームが発見したHKU5-CoV-2は、コウモリのウイルスが人類に及ぼす潜在的な脅威を改めて示しています。このウイルスがSARS-CoV-2と同じACE2受容体を使用できるという事実は、ウイルスの種間伝播メカニズムの解明に重要な示唆を与えています。
特筆すべきは、このウイルスが人工培養された肺組織や腸管組織に感染できることが実験で確認された点です。これは、理論上の可能性ではなく、実際の感染リスクが存在することを意味しています。
ただし、研究チームは過度な懸念を抱く必要はないと強調しています。HKU5-CoV-2のヒトACE2受容体への結合効率は、SARS-CoV-2と比較して著しく低いことが判明しているためです。
今回の研究成果の重要な意義は、パンデミック予防における早期警戒システムの構築に貢献する点にあります。WHOが2024年にメルベコウイルスをパンデミック対策優先リストに加えたことからも、国際社会がこの脅威を認識していることがわかります。
研究チームのリーダーである石正麗博士は、コウモリのコロナウイルス研究の第一人者として知られています。彼女のチームによる継続的な監視活動は、将来的なパンデミックの予防に不可欠な役割を果たすでしょう。
テクノロジーの進歩により、私たちはウイルスの変異や進化をリアルタイムで追跡できるようになりました。この能力は、将来的な感染症の流行を予測し、効果的な対策を講じる上で極めて重要です。
最新のゲノム解析技術と人工培養組織を用いた実験手法の組み合わせは、ウイルス研究における新しいスタンダードとなりつつあります。これにより、潜在的な脅威をより早期に、より正確に評価することが可能になっています。
今後は、このような研究成果を活かし、グローバルな早期警戒システムの構築と、効果的な予防策の開発を進めていく必要があるでしょう。