WordPress 7.1が8月19日に公開されました。目玉と目されていたリアルタイム共同編集は、7.0に続いて今回も入っていません。代わりに固まったのは、画像処理とエディターという足回りです。地味に見えるこの選択が、毎日書いている人の手元にはいちばん効きます。
WordPress.orgは2026年8月19日、WordPress 7.1「Mary Lou」を公開した。WordCamp US 2026の最終日に合わせたリリースで、800人を超える貢献者が参加し、うち170人以上が初参加である。Coreのチケットは310件超、Gutenberg由来の機能強化は約600件に及ぶ。
画像の圧縮やリサイズをブラウザ側で行うクライアントサイドメディア処理、カスタムCSSを使わないレスポンシブスタイル、テキスト選択単位のNotesと@メンション、PlaylistとTabsの2ブロック、SVG Icon APIの公開が入った。投稿エディターは全テーマでiframe化される。一方、リアルタイム共同編集とReact 19への更新は含まれない。
From:
WordPress 7.1 “Mary Lou”
【編集部解説】
8月19日、アメリカ・フェニックスで開かれていたWordCamp US 2026の最終日に、WordPress 7.1「Mary Lou」が公開されました。名前の由来は、ジャズのピアニストで編曲家・作曲家のメアリー・ルー・ウィリアムズです。6歳で人前に立ち、スウィングからビバップ、そして宗教的なジャズへと、自分の音を作り替えつづけた人でした。
このリリースを読み解く手がかりは、入ったものよりも、入らなかったもののほうにあります。
リアルタイム共同編集(RTC)は、7.1にも入りませんでした。5月の7.0でリリース直前に外され、その後7.1のサイクルで広範なテストとフィードバックの収集が進められましたが、最終リリースでは有効化されませんでした。編集体験、コンフリクトの処理、互換性の作業は続いています。「加えないことのほうが、加えることより価値を持つ場合がある」——リリースリードのアン・マッカーシーは、フィールドガイドに引かれた言葉でそう述べています。
では、7.1には何が入ったのか。実務にいちばん近いところで言えば、画像の扱いです。
7.1では、画像の圧縮・リサイズ・サムネイル生成を、ブラウザ側で行えるようになりました。libvipsをWebAssemblyへ移植したwasm-vipsが動き、変換やサブサイズの生成といった処理をブラウザへ移します。サーバー側のPHPメモリ制限やアップロードのタイムアウトに引っかかりにくくなる、という仕組みです。共用サーバーで大きな画像を上げようとして失敗した経験のある方には、意味がすぐ伝わると思います。
ただし、この仕組みが動くのは、いまのところ主にChromium系のブラウザです。デスクトップ版のChromeとEdgeは137以降、Android版のChromeは146以降が対象。FirefoxとSafariは、前提となるDocument-Isolation-Policyに未対応のため、WASMを使う処理はこれまでどおりサーバー側へ戻ります。端末のメモリやCPUのコア数、回線の速さによっても判定が入ります。条件を満たさなければ黙って従来の経路に戻る設計で、書き手の画面に違いは出ません。FirefoxとSafariでも有効にするプラグインは、開発を担当したアダム・シルバースタイン自身が公開しています。
あわせて、AVIF、HEIC、HDRゲインマップへの対応が入りました。対応するブラウザとOSであれば、iPhoneで撮ったHEIC写真を、ブラウザ側でJPEGへ変換してアップロードできます。ブラウザ側でデコードできれば、サーバーがHEICに対応している必要はありません。元のHEICは付随ファイルとして保管され、その添付ファイルを削除すると一緒に消えます。HEICのデコードだけはDocument-Isolation-Policyを必要としないため、macOSのSafariでも動きます。開発者向けの解説でも、iPhoneの写真をアップロードできることが利点の筆頭に挙げられていました。
切り抜きも専用のモーダルに集約されました。自由形状と比率指定、水平・垂直の反転、細かい回転、メタデータの編集が一か所にまとまっています。入口はこれまでどおりCropボタンです。
書き手まわりの変化も挙げておきます。Notesは、ブロック単位ではなく任意のテキスト選択に付けられるようになりました。太字やリンクが使え、@でメンションすればメールで通知が飛び、同じブロックに複数のスレッドを並行させられます。原稿に赤を入れて戻す、あの往復にかなり近づいたという感触です。ブロックの見た目も、基本のスタイルに加えてタブレットとモバイル向けに上書きできるようになりました。境目は既定で480ピクセルと782ピクセル、テーマ側はtheme.jsonで自分の設計に合わせて変えられます。これまでカスタムCSSを書いて実現していた領域です。
新しいブロックも2つ増えました。複数の音声トラックをまとめるPlaylistと、内容をタブに分けて見せるTabsです。どちらも、これまで追加のプラグインで実現できた機能を、コアだけで使えるようにする変更です。
もうひとつ、静かですが影響範囲の広い変更があります。投稿エディターのiframe化が、レガシーなメタボックスを登録しているサイトも含めて、すべてのテーマで完了しました。編集画面の中身が管理画面のスタイルから切り離されるため、ビューポート相対単位やメディアクエリが期待どおりに効くようになります。
見た目はほとんど変わらないのに、壊れるとしたらここです。エディターのドキュメント境界をまたいでDOMやCSSを触っているプラグイン、自作ブロックは、本番に当てる前に一度確認しておきたいところ。WordPress VIPも顧客向けの告知で、クライアントサイドの画像処理とiframe化という2点を、プラットフォーム水準の注意点として名指ししています。同梱のjQuery UIが1.14.2に上がった点も、古いプラグインを抱える環境では確認の対象になります。
フィールドガイドのコメント欄では、ブロックのCSSがそのブロックを含むページでだけ出力される挙動に変わった、という報告も上がっていました。コア側のトリアージ担当は、どこかに記載すべき変更に見えると応じています。困りごとと、それを受け止める手が公開の場に並ぶのは、オープンソースの強みだと思います。
開発者向けでは、Abilities APIが一段進みました。wp_get_abilities() にフィルタリングが加わり、実行ライフサイクルのフック、公開範囲を示す public フラグの統一、クライアント互換を意識したJSON Schemaの整備が入っています。WordPressのMCP Adapterも、8月12日公開のv0.6.0からこのフラグを既定の公開判定に使うようになりました。7月に7.1の開発版を追ったとき、「WordPressが機械に読まれる側になる」という設計思想の話を書きました。今回入ったのは派手なAI機能ではなく、その地ならしのほうです。
もっとも、この public は発見されやすさと外部クライアントへの露出を示すフラグであって、認可そのものではありません。開発者向けの解説も、これが permission_callback を置き換えるものではないと明記しています。外部へ開くAbilityごとに適切な permission_callback を置き、必要最小限のcapabilityを確かめる。ここがAbilities APIを安全に使うための防御線になります。
なお、Abilities APIとは別に、コアのセキュリティリリースは7月17日から8月12日までの1か月足らずに、7.0.2、7.0.3、7.0.4と三度続いています。
数字も見ておきます。W3Techsの8月20日付レポートでは、WordPressを使うサイトのうち7系がすでに57.0%を占めています。6系は35.8%。7.0の公開が5月20日ですから、3か月で世代交代の峠を越えたことになります。全ウェブサイトに占めるWordPressの割合は40.7%、既知のCMSの中では59.0%です。
規模の話をもうひとつ。7.1には800人を超える人が関わり、うち170人以上が初めての参加でした。20を超えるロケールが公開初日に翻訳を完了しています。多言語でWordPressが使えるのは、こうした翻訳コミュニティの手が動いた結果です。
RTCは消えたわけではありません。テストは続き、コアへ入る道筋の検討も続いています。ただ、今回の7.1では、RTCが見送られた一方で、画像とエディターという足回りの改善がまとまって入りました。地味な変化に見えて、毎日その上で書いている人間にとっては、こちらのほうが効く場面もあります。今日アップロードする一枚の写真から、変化は始まっています。
【関連記事】
WordPress 7.1、AIに読まれるCMSへ ─ シェア41.5%が問う「エージェント時代の生き残り方」
開発中だった7.1を追った回。Abilities APIとMCPが進む背景と、その裏にある設計思想について解説している。
WordPress、守る場所は管理画面からAPIへ|wp2shellが示したもの
8月にかけて三度続いたコアのセキュリティリリースを扱った回。APIが守るべき攻撃面へと変わっていく構造を丁寧に追っている。
WordPress 7.0 RC3公開、目玉機能「リアルタイム共同編集」は土壇場で見送りへ
7.0からリアルタイム共同編集が外れた、5月の記事。今回7.1での見送りは、このときに下された判断の続きにあたっている。
【編集部後記】
クライアントサイド処理について、開発者向けの解説には正直な一文が添えられていました。元画像とすべてのサムネイルを送るため、アップロード時に流れる総バイト数はむしろ増える、と。得られるのはサーバーのCPUとメモリの余裕であって、回線の節約ではありません。
便利さの中身を言い換えずに書く文章は、読んでいて気持ちがいいものです。何が良くなり、何と引き換えなのか。最初から書いてあれば、使う側は自分の環境に当てはめて判断できます。
【用語解説】
リアルタイム共同編集(RTC)
複数の書き手が同じ記事を同時に開き、互いの編集を即座に反映しながら書き進める機能。WordPressでは開発が続いているが、7.0でも7.1でも最終リリースには含まれていない。
Abilities API
WordPressが「できること」を、機械が読める形で登録・発見・実行できるようにする仕組み。入力と出力の形式、権限チェック、実行内容が一つの単位にまとまる。6.9で導入され、7.1で拡張された。
permission_callback
その処理を実行してよい相手かどうかを判定する関数。WordPressのREST APIやAbilities APIでは、ここに書かれた条件が実質的な入口の鍵になる。
capability
WordPressにおける権限の最小単位。「投稿を編集できる」「設定を変更できる」といった個別の許可を指し、ユーザーの役割ごとに束ねられている。
WebAssembly
ブラウザの中で高速に動くプログラム形式。C言語などで書かれた既存のソフトウェアを、ブラウザ上で動かせる形に変換して使える。
libvips/wasm-vips
libvipsは画像処理の高速なライブラリ。wasm-vipsはそれをWebAssemblyへ変換したもので、7.1ではこれがブラウザ内で画像を処理する。
Document-Isolation-Policy
ページを他のサイトから隔離し、高度な処理に必要な機能を安全に使えるようにするブラウザの仕組み。7.1のブラウザ内画像処理は、これを前提としている。
iframe
ページの中に別のページを埋め込んで表示する枠。7.1では投稿エディターの編集領域がこの枠の中に入り、管理画面のスタイルと分離された。
HEIC
Appleが採用している写真の保存形式。同じ画質でJPEGより容量が小さいが、対応していない環境では扱えないことがある。
HDRゲインマップ
明るさの情報を、従来の画像に重ねて持たせる方式。対応する環境では明暗の幅が広く表示され、非対応の環境では通常の画像として表示される。
theme.json
ブロックテーマの設定をまとめて記述するファイル。色や文字の設定に加え、7.1ではレスポンシブの境目もここで指定できる。
メタボックス
投稿編集画面に表示される、追加情報を入力するための枠。プラグインが独自の項目を足す際に古くから使われてきた仕組み。
サブサイズ
1枚の画像から自動生成される、用途別の縮小版。サムネイルや一覧用の画像がこれにあたる。
Gutenberg
WordPressのブロックエディターを開発するプロジェクト。プラグインとして先行公開され、安定した機能が本体に取り込まれる。
フィールドガイド
メジャーリリースごとに公開される、開発者向けの変更点まとめ。個別の解説記事への入口となる。
【参考リンク】
WordPress.org(外部)
WordPressの公式サイト。ソフトウェア本体の配布と、ドキュメント、プラグインやテーマの提供までを一手に担っている。
WordPress 7.1 機能紹介ページ(外部)
7.1の新機能をまとめた公式のショーケースページ。実際の画面例とともに、追加された機能をひとつずつ順番に確認していける。
WordPress VIP(外部)
Automatticが提供するエンタープライズ向けのWordPressプラットフォーム。大規模サイトの運用を対象としている。
WordPress MCP Adapter(外部)
Abilities APIをModel Context Protocolへ橋渡しする公式パッケージ。8月12日にv0.6.0が公開された。
wasm-vips(外部)
画像処理ライブラリlibvipsをWebAssemblyへ変換したもの。7.1でブラウザ内の画像処理を担う中核にあたる。
W3Techs WordPress利用統計(外部)
WordPressの利用率と、バージョン別の内訳を日次で更新している調査サイト。本記事で用いたすべての数値の出典である。
client-side-media-everywhere(外部)
FirefoxとSafariでもブラウザ内の画像処理を有効にできるプラグイン。開発を担当した本人が、個人で公開している。
【参考記事】
WordPress 7.1 Field Guide(外部)
7.1の開発者向け変更点の全体像。Coreチケット310件超、Gutenberg由来の機能強化約600件という規模の内訳を示す。
Client-Side Media Processing in WordPress 7.1(外部)
ブラウザ内画像処理の設計解説。対応するブラウザ、フォールバックが起きる条件、HEICの変換仕様までを細かく詳述している。
Iframed Editor Changes in WordPress 7.1(外部)
投稿エディターのiframe化が全テーマへ広がった経緯と、拡張する側が本番へ当てる前に確認しておきたい点をまとめている。
A unified public exposure flag for Abilities in WordPress 7.1(外部)
Abilityの公開範囲を示すフラグの解説。これが認可とは別物であり、権限チェックを置き換えるものではないと明記している。
Responsive block styles and configurable viewports in WordPress 7.1(外部)
基本のスタイルに、タブレットとモバイル向けの指定を重ねていく仕組みと、既定の境目をテーマ側で変更する方法を説明している。
Real-time collaboration will not ship in WordPress 7.0(外部)
5月8日に出た、7.0での見送りの告知。将来のリリースに向けて検証と反復を続けるという方針が、この時点ですでに示されている。
Now Available: WordPress 7.1(外部)
WordPress VIPによる顧客向けの告知。画像処理とiframe化の2点を、とくに注意すべき変更として名指ししている。


















