Last Updated on 2024-10-23 16:48 by admin
フロリダ大西洋大学とウィスコンシン大学オークレア校の共同研究チームが、米国の13歳から17歳の若者5,005人を対象にメタバースとVRデバイスにおけるサイバーいじめ被害実態を調査した結果を発表した。この研究は学術誌「New Media & Society」(2024年10月号)に掲載された。
主な調査結果は以下の通り:
• 米国の若者のVRヘッドセット所有率は32.6%
• 被害経験の割合:
– ヘイトスピーチ/差別的発言:44%以上(うち8.9%が頻繁に経験)
– いじめ:37.6%
– 一般的な嫌がらせ:35%
– 性的嫌がらせ:19%
– トローリング:43.3%
– 悪意のある妨害:31.6%
– 脅迫:29.5%
– ドッキシング(個人情報の暴露):18%
– なりすまし:22.8%
– 不適切な暴力/性的コンテンツへの暴露:21%
– グルーミング/性的搾取:18.1%
研究を主導したのは、フロリダ大西洋大学犯罪学・刑事司法学部のサミール・ヒンドゥジャ教授とウィスコンシン大学オークレア校のジャスティン・パッチン教授。両氏はサイバーいじめ研究センターの共同ディレクターを務めている。
この調査結果を受け、研究チームはプラットフォーム提供者、保護者、教育機関、コンテンツクリエイターに向けた具体的な安全対策の推奨事項を提示した。
from Dangers of the metaverse and VR for US youth revealed in new research
編集部解説
この調査結果は、メタバースやVR空間における若者の安全性について、初めて大規模かつ包括的なデータを提供するものとして注目に値します。
特筆すべきは、VRヘッドセットの所有率が32.6%に達していることです。この技術が若者の間で急速に普及していることを示しています。
被害の種類と頻度から見えてくるのは、現実世界のSNSで見られる問題が、VR空間ではより深刻な形で現れている可能性です。これは、VR空間の没入感の高さと、アバターを通じた自己表現が密接に結びついているためです。
特に懸念されるのは、性的嫌がらせやグルーミングの問題です。女子の被害が男子より多いという結果は、現実世界のジェンダーに基づく暴力がVR空間にも持ち込まれていることを示唆しています。
一方で、この調査では「Space Bubble」や「Personal Boundary」といった安全機能の活用も明らかになりました。女子ユーザーの方が積極的にこれらの機能を使用している点は、プラットフォーム側の安全対策が一定の効果を上げていることを示しています。
親の認識についても興味深い発見がありました。多くの親がVR機器のプライバシーリスクを過小評価しており、目の動きから政治的傾向や性的指向まで推測できるという事実を知らないことが分かっています。
メタバース空間の安全性向上には、プラットフォーム提供者、保護者、教育機関の連携が不可欠です。特に13歳未満の利用については、年齢制限の実効性を高める取り組みが求められるでしょう。
このような課題がある一方で、メタバースには教育や社会的つながりの面で大きな可能性があることも忘れてはいけません。重要なのは、リスクを理解した上で、適切な対策を講じながら、この技術の恩恵を最大限に活かすことです。
今後は、AIを活用した不適切行為の自動検出や、ブロックチェーン技術を用いた年齢確認システムなど、新しい安全対策の開発も期待されます。
【編集部追記】
追記:NHKによる日本のメタバースハラスメントの現状調査
2023年に実施された870人のメタバースユーザーへの調査によると、57.8%が何らかのハラスメントを経験し、特に女性ユーザーは69.1%と高い被害率を示しています。VRの没入感により75%以上のユーザーがハラスメントをより深刻に感じる一方で、77%のユーザーが法的規制には消極的で、代わりに「ユーザー間の思いやり」による自主的な解決を望んでいることが明らかになりました。
参考情報
【用語解説】
• ドッキシング(Doxxing):他人の個人情報を本人の同意なくインターネット上で暴露する行為
• グルーミング:オンライン上で未成年に対して性的な目的で親密な関係を築こうとする行為
• トローリング:意図的に他者を挑発して反応を引き出そうとする嫌がらせ行為