折紙は「順番に」開く|東大・JAXAが幾何だけで展開順序を設計

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ドミノ倒しは、蓄えた力が次を倒すから進みます。では、力ではなく形だけで「順番」を設計できるでしょうか。東京大学とJAXAの研究チームが示したのは、折線の角度とつなぎ方だけで、折紙が端から順に開くようにする方法でした。かつて実現不可能と考えられていた現象です。


宇宙航空研究開発機構宇宙科学研究所の今田凜輝日本学術振興会特別研究員(PD)と東京大学大学院総合文化研究科の舘知宏教授は、ドミノ倒しのように端から順番に展開する折紙「ドミノ・オリガミ」を設計する新しい幾何学原理を発見した。従来の折紙の多くは展開時にそれぞれの折線を一括して開く必要があり、宇宙展開構造で知られるミウラ折りもその代表例である。

研究では、変化が隣り合う部分へ順々に伝播する遷移フロントを折紙において幾何学的に設計し、エネルギー論に依存せず折紙の幾何学的な拘束関係だけで順次展開を実現した。厚みのあるパネルで構成した模型で逐次的な展開・折り畳みを実証し、展開の順序を保ちながら最終的な展開形状も独立にプログラムできることを示した。東京大学が2026年9月14日に発表した。

From: 文献リンク【研究成果】ドミノ・オリガミ ──折紙の順次展開をプログラムする新しい幾何学原理の発見──

【編集部解説】

「畳めるか」から「どの順に開くか」へ

折紙工学が長く問いかけてきたのは、どれだけ小さく畳めるか、そして開いたときにどんな形になるか、でした。今回の研究が設計対象として前面に押し出したのは、別の問いです。どの順番で開くか。

従来の折紙の多くは、展開するときにすべての折線を同時に動かす必要があります。宇宙展開構造で知られるミウラ折りがその代表で、全体をいっせいに開くための協調した駆動を要求します。そして折線が4本集まる頂点でできた系で伝播する遷移フロントは、かつて実現不可能と考えられていました。

エネルギーではなく、幾何が順番を決める

順々に伝わる現象を工学的に作る方法として代表的なのは、双安定な要素に弾性エネルギーを蓄えておき、その解放が隣を切り替えていく方式です。一方で、エネルギー障壁に頼らず幾何学的な拘束だけで伝播が起きる系も知られていました。トポロジカル・メカニクスの文脈で研究されてきたケイン・ルーベンスキー鎖などがそれにあたります。

折紙についても、不可能という見方は覆りつつありました。著者ら自身が2025年に発表した研究で、頂点のつなぎ方を変えれば実現できる可能性が示されています。ただし運動学的な遷移フロントは個別の例が報告されるにとどまり、一般的・体系的な設計方法はまだ確立されていませんでした。論文は、これらの知見がおおむね理論にとどまり、実験による検証を伴わなかったとも整理しています。

今回の仕事は、その空白を埋めたものです。個別の例から、体系的な設計手法へ。そしておおむね理論にとどまっていた遷移フロントを、手で触れる模型へ。

順序を決めているのは、折線の角度と、頂点どうしのつなぎ方です。材料ごとのエネルギー障壁ではありません。一点だけ補うと、動かす力が要らないという話でもない。順序を決めているのが力ではなく形である、ということです。なお、これは理想化した運動学モデルでの話で、材料や温度、駆動の速さを変えたときに実機がどう振る舞うかは、この研究の範囲の外に置かれています。論文は、面の弾性変形の影響を対象外と明記しています。

模型が示した「堅さの向き」

実証に使われたのは、5つの単位セルからなる厚板の模型ひとつです。PLA樹脂の板を3Dプリントし、スナップフィットのヒンジでつないでいます。写真に添えられたスケールバーは2cm。

この模型を一方の端から開くと、遷移が帯に沿って順に伝わり、完全な展開状態まで到達します。畳むときは、展開と逆の順序で戻っていく。さらに興味深いのは、反対側の端の振る舞いです。展開状態では、そちら側は機械的に堅いままで、そこから折り畳みを始めるのは難しい。論文はこれを、力学系におけるトポロジカル分極に類比しています。

開く順序が決まっているというだけではありません。どちらの端から動かしやすいかまでが、形によって方向づけられている。

「掃く領域」が変わるということ

発表資料の図2は、同じS字型に至る2通りの展開を並べ、それぞれについて展開途中の姿を重ねて描いています。一括展開では、途中で構造が大きく扇状に広がります。対して逐次展開では、大きく動く領域が帯の一部分に集中するため、最終形状の輪郭に沿った細い範囲しか通りません。

論文はこの違いから、展開中に掃く体積を減らせる可能性を挙げています。そして具体的な応用先として名指ししているのは、宇宙ではありません。カテーテルや内視鏡のような低侵襲の医療機器、狭いインフラの内部を点検する道具、すでに建っている建物の中へ構造物を設置する場面。展開後の形が同じでも、途中で通る場所が違えば、使える場所が変わるということです。

折紙の設計が、力学系の問題になった

数学的な中身は、隣り合う折線の非対称な連動が非線形の漸化式を生み、その合成が「開ききった状態」と「畳みきった状態」という2つの不動点を結ぶ軌道を生む、というものです。単位セルの番号を時刻とみなすと、折紙の折り畳みが離散力学系の軌道として書ける。プレプリントの主分類が数学の力学系であることが、この研究の性格をよく表しています。

面白いのは、この見方がそのまま設計の自由度になる点です。漸化式を変えずに角度を動かせる範囲が分かるので、伝播の仕方を保ったまま、最終形状だけを別の曲線に差し替えられる。科研費の課題名「力学系の数理に基づく不均一なマクスウェル格子の機能の解明と設計」が、この研究の立ち位置をそのまま言い表しています。

ここから先に置かれている宿題

著者らが自ら次の課題として挙げているのは、展開可能性の条件をゆるめること、そして帯からシートや立体の集合体へと次元を上げることです。ただし後者については、ミウラ折りのような格子状・セル状の折紙は拘束が過剰で、一様な変形になりやすいとも書き添えられています。厚板化の手法についても、模様によっては板の削り方やヒンジの置き方が込み入ってくるとされています。

それでも、設計できる項目が一つ増えたという事実は動きません。かつて不可能と考えられていたものが、個別の例として現れ、設計の方法になり、手のひらの上で動く模型になった。折紙を小さく畳んで運び、開いて使うという発想は、ミウラ折りから、2026年4月に軌道へ送り込まれた10×10×34cmの3U超小型衛星OrigamiSat-2まで、日本が長く育ててきたものです。畳む、開く。その語彙に「順番に」が加わったとき、次は何が畳めるようになるのか。楽しみに見ていきたいところです。

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【編集部後記】

論文の参考文献をたどっていて、手が止まりました。マーティン・ガードナーが2002年に書いた「トランプのソリトン」が、まじめに引かれているのです。テーブルに広げた札の列が、端からぱたぱたと裏返っていく、あの現象です。

同じ並びには、植物のつるのねじれや、生体組織を伝わるカルシウムの波も入っています。順に伝わるものを集めた目録として見ると、トランプも折紙も同じ棚に載っている。遊びの数学のような話が、内視鏡や狭い配管の設計につながっていくのは、悪くない眺めです。


【用語解説】

遷移フロント
局所的な相互作用が次々に状態変化を引き起こし、その境界が伝わっていく現象。ドミノ倒しが身近な例で、生体組織を伝わるカルシウム波や、植物のつるのねじれにも現れる。

ミウラ折り
平行四辺形を並べた折り畳みパターン。大きな面を小さく畳めるため宇宙展開構造への応用で知られる。展開時にはすべての折線を同時に動かす必要がある。

双安定
2つの安定な状態を持ち、その間を切り替えられる性質。切り替えの際にエネルギーを蓄えたり放出したりするため、遷移波を工学的に作る際の基本要素として使われてきた。

ケイン・ルーベンスキー鎖
回転する棒を連ねた1次元の機構模型。幾何学的な拘束だけで状態変化の順序と向きが決まる例として、トポロジカル・メカニクスの分野で研究されてきた。

トポロジカル分極
力学系において、端の堅さや変形の起きやすさが左右で異なる性質。どちらから手をつけられるかが、構造そのものによって方向づけられる。

漸化式
ある項から次の項を決める規則。本研究では、隣り合う折線の折り角の関係がこの形で表され、それを次々に適用することで帯全体の折り状態が決まる。

離散力学系と不動点
時間を飛び飛びの値として扱う力学系。不動点は、規則を適用しても変化しない状態を指す。本研究では「開ききった状態」と「畳みきった状態」が不動点にあたる。

マクスウェル格子
各単位で自由度の数と拘束の数がつり合っている周期的な骨組み。トポロジカルな力学的メタマテリアルの母体として注目されている。

スナップフィットヒンジ
部品どうしをはめ込んで固定する方式の蝶番。接着やねじを使わずに組み立てられるため、3Dプリントした部品の連結に適する。

3U
超小型衛星キューブサットの大きさの規格。10cm角の立方体を1Uとし、それを3つ並べた10cm×10cm×34cm程度の機体を3Uと呼ぶ。

日本学術振興会特別研究員(PD)
博士号取得後の研究者が、自ら選んだ課題に専念できるよう日本学術振興会が採用する制度。研究奨励金と研究費が支給される。

【参考リンク】

東京大学 舘知宏研究室(外部)
本研究の共著者である舘知宏教授の研究室。計算折紙と構造形態学を専門とし、所属メンバーや発表論文の一覧などを掲載している。

Programming sequential deployment of origami via kinematic transition fronts(PNAS)(外部)
本研究の査読済み論文。設計理論の導出から厚板模型による実証までを、著者自身の記述で確認できる一次資料である。掲載は2026年9月。

arXiv:2605.04473(外部)
同じ論文のプレプリント。2026年5月に投稿され、数式や図版、補足動画の一覧まで無料で読める。主分類は数学の力学系である。

JAXA 宇宙科学研究所(外部)
筆頭著者の今田凜輝氏が日本学術振興会特別研究員として所属する研究所。相模原市に拠点を置き、宇宙科学の研究と探査機開発を担う。

【参考記事】

Kinematic folding propagation in degree-4 origami strips(外部)
著者らが2025年に発表した先行研究。折りの伝播が減衰も増幅もする仕組みを離散力学系として解析し、厚板模型でも確認している。

東京科学大学/OrigamiSat-2インタビュー(外部)
10cm立方から50cm四方へ展開する2層膜アンテナの設計思想を、開発者自身が語ったJAXAのインタビュー。衛星は4.4kgである。

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山本 達也 代表社員
合同会社デジタルの窓口 代表。ウェブ解析士。生成AI・サイバーセキュリティ・ 宇宙開発領域を中心に執筆。

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