中国商務省は2024年1月17日、米国の半導体産業への補助金政策が不公正な貿易慣行に該当するかどうかの調査を開始すると発表しました。
調査の主な対象は「成熟ノード半導体」と呼ばれる、自動車・産業機器・消費者製品向けの汎用チップです。これは最先端プロセスではなく、古い製造プロセスで生産される半導体を指します。
中国側は、バイデン政権による「CHIPS and Science Act(CHIPSと科学法)」に基づく補助金供与が、米国企業に不当な競争優位性を与え、中国市場への低価格輸出を可能にしていると主張しています。同法では、米国内の半導体製造強化のために約527億ドル(約7.8兆円)の補助金が計上されています。
from:China to probe US chip subsidies as export curbs rattle allies
【編集部解説】
半導体産業における米中対立の新局面
半導体産業の「成熟ノード」を巡る米中の対立について、より深い視点から解説させていただきます。
今回の中国商務省による調査開始は、単なる対米報復以上の戦略的意味を持っています。成熟ノード半導体は、自動車から家電まで、私たちの生活に密着した製品に不可欠な部品です。
特に注目すべきは、この調査がTexas InstrumentsやAnalog Devicesなど、パワー半導体やアナログチップの分野で世界をリードする米国企業を対象としている点です。これらの企業は、電力制御や信号変換といった基礎的な機能を担うチップの製造で高い技術力を持っています。
中国の半導体産業は、2024年に約5,500億個、金額にして3,856億ドル相当の集積回路を輸入しており、その大部分が成熟ノード製品です。この分野での自給自足を目指す中国にとって、米国企業の価格競争力は大きな課題となっています。
一方で、ガートナーのアナリストが指摘するように、米国は成熟ノードの製造分野では必ずしも支配的な地位にあるわけではありません。むしろ、この調査は半導体産業のエコシステムが米中で二極化していく「予兆」とも解釈できます。
特筆すべきは、中国の半導体製造能力が今後5〜7年で2倍以上に増加する見通しである点です。これは世界の半導体市場に大きな影響を与える可能性があります。
さらに興味深いのは、中国の半導体補助金制度が米国とは異なるアプローチを取っている点です。中国は国家レベルと地方レベルで様々な政策を展開し、新規開発だけでなく、既存の投資に対しても報酬を与える柔軟な支援体制を構築しています。
このような状況下で、EUも中国からの成熟ノードチップの使用状況について正式な調査を検討しており、この問題が米中二国間だけでなく、グローバルなサプライチェーンの再編につながる可能性があります。
今後は、半導体産業における技術革新の停滞や、企業間の協力関係の制限といったリスクにも注意を払う必要があります。特に、世界的な半導体サプライチェーンの分断は、製品コストの上昇や技術開発の遅延につながる可能性があります。
このような動きは、テクノロジー産業全体にとって重要な転換点となる可能性があり、私たち消費者の生活にも長期的な影響を及ぼす可能性があります。innovaTopiaとしては、この問題の推移を注意深く見守っていきたいと考えています。