【解説】スペースデータ「IAMD SIMULATOR」公開|探知から迎撃までを3D地球で可視化

弾道ミサイルが迎撃される様子が、実在の東シナ海の地形の上で、何度でも再生できます。ただし飛んでくるミサイルも、撃ち落とす部隊も、すべて架空のデータです。本物の地球の上で、架空の戦争だけが動く——このちぐはぐな組み合わせに、スペースデータの狙いが隠れています。


株式会社スペースデータ(本社:東京都港区、代表取締役社長:佐藤航陽)は2026年7月13日、統合防空ミサイル防衛(IAMD)をWebブラウザ上で可視化する「IAMD SIMULATOR」をリリースした。宇宙AIプラットフォーム「SpaceBrain」の作戦運用、防衛・安全保障領域「AMATERASU」の可視化シミュレーターである。

画面は「3D作戦イメージ図」と「2D作戦マップ」の2つで構成する。3D作戦イメージ図は国土地理院の衛星写真タイル、実建物3Dデータ、公開情報に基づくADIZ・EEZの境界データを重ね、東シナ海・南西諸島方面を舞台とした架空シナリオで、弾道・極超音速・巡航の3種類の脅威ミサイルの探知・追尾から兵器割当、迎撃までを表示する。部隊や装備はNATO標準に準拠した記号で示す。シミュレーション速度は1〜30倍で変更できる。

2D作戦マップは俯瞰・斜め・陸上の3視点を切り替えられる。専用ソフトウェアのインストールは不要である。脅威・部隊配置・迎撃・パネル数値はすべて演出用の合成データである。

なお、本シミュレーターが可視化するのは、主として探知・追尾・兵器割当・要撃・迎撃の連鎖である。日本政府がIAMDに含める反撃能力は、公開されている機能説明には含まれていない。

From: 文献リンクスペースデータ、統合防空ミサイル防衛能力を可視化する「IAMD SIMULATOR」をリリース – 株式会社スペースデータ

【編集部解説】

このリリースが出たのは2026年7月13日です。日付だけを見れば単発の製品発表ですが、直前の動きと並べると景色が変わります。

同社は6月22日に宇宙AIプラットフォーム「SpaceBrain」を公開し、7月3日にその作戦運用領域を担う「AMATERASU」を始動させて第一弾「AIR OPERATION SIMULATOR」を、7月9日に第二弾「GROUND IMPACT SIMULATOR」を出しました。

つまりIAMD SIMULATORは、AMATERASUとしては3本目にあたります。同じ三週間には、防災領域の「Snowstorm & Avalanche」(7月8日)と「DROUGHT CRISIS SIMULATOR」(7月10日)も挟まっている。SpaceBrain公開から本作まで、経過日数はちょうど21日です。

ひと月に満たない期間に、防衛と防災を行き来しながらこれだけの数を出す。単品の思いつきではなく、ひとつのプラットフォームを社会に着地させるための、計画された連続露出だと編集部は見ています。広報計画そのものが公開されているわけではないので、あくまで公開の並びから読み取れる推測です。

この製品が売っているのは「防空」ではなく「理解」です

公開発表で主な想定利用者として明示されているのは、防衛・安全保障分野への参入や事業強化を検討する企業、教育・研究機関、そして報道機関です。用途はセミナー、社内研修、記事解説。自衛隊や防衛省を対象から外すとは書かれていません。

少なくとも現在公開されているIAMD SIMULATORについて、実作戦用の意思決定支援システムとして提供されているとは確認できません。公式発表で明示された中心用途は、説明・学習・研修を通じて共通のイメージをつくることです。もっとも2D作戦マップについては「現場の戦術・作戦判断を容易にするため」とも説明されており、「迎撃案の承認」という操作も用意されている。教材と運用支援のあいだに、きれいな線が引かれているわけではありません。

親基盤であるAMATERASUに至っては、同社は計画立案、予行演習、そして実作戦における意思決定支援への発展を明言しています。両者は分けて考える必要があります。

防衛装備庁は、新規参入の相談窓口や参入促進展を設け、スタートアップの技術を早期に装備品へ取り込む「ファストパス調達」も進めています。経済産業省との合同推進会は2023年に立ち上がっている。国の側には、防衛産業の裾野を広げたいという明確な意思があります。

一方で、防衛装備庁の資料は、スタートアップから見た課題として、防衛特有の要素に不慣れである点を挙げています。その隙間に、ブラウザで開く3D地球儀を差し込んだ——編集部はそう解釈しています。

AMATERASU本体を売るための、最も上質なショーウィンドウ、という見方もできるでしょう。

実データと合成データを、あえて混ぜている

ここが技術的にも倫理的にも一番おもしろい設計です。

地図・地形・建物・ADIZ・EEZの境界には実データを使う。一方で、脅威も、部隊配置も、迎撃も、画面のパネルに出る数値も、すべて演出用の合成データ。リリースはこの区別を、冒頭と注記の二か所で念を押すように書いています。

舞台が東シナ海・南西諸島という、誰が見ても特定できる場所である以上、この線引きは飾りではありません。実配置に見えるものを描けば、それは教材ではなく公開情報からの推定図になってしまう。「本物の地球の上で、架空の戦況を動かす」という不自然な組み合わせは、意図的に選ばれた安全装置ではないか。同社がその目的を明言しているわけではないので、これは編集部の読みです。

画面に映っていないものがある

もうひとつ、押さえておきたいことがあります。

日本が2022年の防衛3文書で掲げたIAMDは、迎撃だけの構想ではありません。防衛白書は、質・量ともに強化したミサイル防衛網で迎撃しつつ、スタンド・オフ防衛能力を活用した反撃能力によって相手のミサイル発射そのものを制約し、攻撃を抑止する、と明記しています。防衛省が公表している図表にも「今後の統合防空ミサイル防衛(迎撃部分)(イメージ)」という名がついている。

このシミュレーターが描くのは、まさにその迎撃部分です。目の前で動いているのは、日本のIAMDのうち迎撃を担う部分である——そこは押さえておいたほうがいい。

批判として言うのではありません。同社はAIR OPERATION SIMULATORの発表時に、専守防衛に即し、迎撃で生じた破片の落下先や民間インフラへの影響まで予測して、法的・倫理的に妥当な行動方針を根拠とともに示すこと、そして最終的な交戦判断は必ず人間が担うヒューマン・イン・ザ・ループを設計の前提とすることを、はっきり述べています。防御側だけを描くという判断は、その思想と地続きのものと見るのが自然でしょう。もっとも、反撃を描かない理由を同社が説明しているわけではありません。

可視化には、説得力という副作用がある

動く3Dは強い。文章や図表より速く人を納得させる力がある、と感じます。

だからこそ、合成データの上で迎撃が成功する様子を何度も見た人は、現実の防空もそれくらい機能するはずだ、と受け取ってしまうかもしれません。

実際には、変則軌道で飛ぶ極超音速滑空体(HGV)への対処は、探知・追尾能力の強化と既存迎撃装備の能力向上が並行して進められている最中です。なかでも、HGVを滑空段階で可能な限り遠方から迎撃する滑空段階迎撃用誘導弾(GPI)は、日米が2023年8月に共同開発の開始を決定し、2024年5月に正式に開発を開始した段階にある。防衛省自身、飽和攻撃などに対して既存のミサイル防衛網だけで完全に対応することは難しいと説明しています。

シミュレーターに「迎撃弾の残量」パネルが用意されているのは示唆的です。理解を助ける道具は、同時に、理解した気にさせる道具でもある。その両義性は、使う側が引き受けるしかありません。

次の一歩が、性格を変える

今後の展望として、同社は実観測データとの接続を挙げています。

現在公開されている用途は、合成データを使った説明・研修が中心です。実観測データとの接続は、リアルタイムの状況把握や運用支援へ近づく一つの条件になります。もっとも、データが合成か実観測かという一点だけで、教材と作戦支援が切り分けられるわけではない。合成シナリオを用いた計画立案支援や予行演習は、それ自体すでに成立する用途です。

そして、実運用に載せるには、一般に越えるべき課題として、認証、データ品質、セキュリティ、既存の指揮統制システムとの統合といった壁が待っています。

それでも、2025年3月24日に統合作戦司令部が発足し、陸・海・空自衛隊の主要部隊を平素から有事まで統合運用する体制が動き出した今、この方向への需要は見込まれると編集部は考えます。IAMD SIMULATORは、その手前に置かれた入口ではないでしょうか。

そして、安全保障を「専門家だけのもの」から「誰もが理解できるもの」へ、という同社の言葉を額面どおり受け取るなら——理解した先で何を語るかは、もう専門家ではなく、私たちの側の責任になります。

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【編集部後記】

反撃能力は、このシミュレーターには出てきません。日本のIAMDは迎撃と反撃の二本柱で成り立っているのに、画面が描くのは迎撃だけ。防衛白書の図にわざわざ「(迎撃部分)」と注記が付いているのと、同じ線引きです。

守る様子は動く3Dで誰でも見られて、撃ち返す様子は見られない。この非対称は、専守防衛という国のかたちを、そのまま可視化の設計に写し取った結果なのかもしれません。では、見えない半分について、私たちはどこで学べばいいのでしょうか。


【用語解説】

統合防空ミサイル防衛(IAMD:Integrated Air and Missile Defense)
衛星・レーダー・陸海空の各センサーが得た情報を指揮統制システムで一元的に束ね、目標の探知・追尾から兵器割当、要撃・迎撃までを一体で運用する防空の枠組みである。日本は2022年の防衛3文書で、従来の弾道ミサイル防衛(BMD)を含み込む、より広いIAMDへの拡張を打ち出した。政府の説明するIAMDには、迎撃だけでなく、スタンド・オフ防衛能力を活用した反撃能力も組み合わされる。

極超音速滑空体(HGV:Hypersonic Glide Vehicle)
ロケットで打ち上げられたのち、低い高度を高い機動性をもって滑空しながら目標へ向かう飛翔体である。放物線を描く従来の弾道ミサイルと違い、探知・追尾および迎撃が難しい。

巡航ミサイル
翼と推進装置を備え、航空機のように飛行するミサイルである。低高度を飛ぶ運用が多く、とくに海面すれすれを航走するシースキミング型は、レーダーの水平線に隠れやすい。

兵器割当
探知した目標に対し、どの迎撃手段を差し向けるかを決定する工程である。IAMDにおける中核的な判断であり、本シミュレーターでもこの過程が可視化される。

要撃・迎撃
本記事では、要撃を航空機によって侵入機に対処すること、迎撃を飛来するミサイルを撃ち落とすことの意味で用いる。実務上はこの使い分けが多いものの、「迎撃」は航空機を含む対処全般を指すこともあり、排他的な定義ではない。

戦術データリンク
レーダー、艦艇、航空機、指揮所といったアセット同士が、目標情報などをリアルタイムで共有するための通信の仕組みである。

デジタルツイン
現実の地形・建物・環境をデジタル空間上に写し取り、そこで事象を動かして検証する技術である。スペースデータが公開してきた一連のシミュレーター群は、いずれもこの技術を基盤としている。

防空識別圏(ADIZ)
領空侵犯を未然に防ぐため、各国が識別・警戒の目的で設定している空域である。国家主権が及ぶ領空そのものではなく、境界や運用は国ごとに異なる。

排他的経済水域(EEZ)
沿岸国が水産資源や海底資源について主権的権利を持つ、領海の外側の水域である。領海とは異なり、他国の航行や上空飛行の自由は残る。

NATO標準に準拠した記号
北大西洋条約機構が定めたAPP-6(NATO Joint Military Symbology)に代表される、部隊や装備を地図上で表現するための共通記号体系である。同盟国間で作戦図を読み解く共通言語として機能する。

ヒューマン・イン・ザ・ループ(HITL)
処理の途中に必ず人間の判断を挟み込む設計思想である。スペースデータはAMATERASUについて、最終的な交戦判断は必ず人間が担うことを前提としている。

行動方針(COA:Course of Action)
指揮官が選択しうる行動の案である。AMATERASUは、法的・倫理的に妥当なCOAを根拠とともに提示することを目指すとしている。

キルチェーン
探知から攻撃までの一連のプロセスを指す。スペースデータは、諸外国のシステムがAIによるキルチェーンの極限短縮を進めるのに対し、自社は結果を事前に見通すことに重点を置くと説明している(同社の見解)。

スタンド・オフ防衛能力を活用した反撃能力
スタンド・オフ防衛能力は、相手の脅威圏の外から長射程兵器で対処する能力であり、侵攻艦艇や上陸部隊への対処にも用いられる広い概念である。防衛省は、これを活用した反撃能力によって相手のミサイル発射そのものを制約し、攻撃を抑止するとしている。日本のIAMD構想の、迎撃と並ぶもう一方の柱にあたる。

ファストパス調達
スタートアップ等が持つ優れた技術を、従来より大幅に短い期間で研究開発・装備化する防衛省の調達手法である。防衛産業への新規参入を促す施策のひとつとして進められている。

統合作戦司令部(JJOC)
2025年3月24日、東京・市ヶ谷の防衛省内に約240人体制で発足した常設の司令部である。統合作戦司令官は防衛大臣の命令を受け、陸・海・空自衛隊の主要部隊を平素から有事まで統合運用する。

滑空段階迎撃用誘導弾(GPI:Glide Phase Interceptor)
HGVを滑空段階で、可能な限り遠方において迎撃するための誘導弾である。日米は2023年8月に共同開発の開始を決定し、2024年5月に正式に開発を開始。同年9月に開発コンセプトを決定した。

【参考リンク】

株式会社スペースデータ 公式サイト(外部)
「宇宙を誰もが活用できる社会へ」を掲げる東京・虎ノ門のスタートアップ。デジタルツイン技術を軸に事業を展開する。

SpaceBrain デモ環境(外部)
AMATERASUの親プラットフォーム「SpaceBrain」の公式デモ。ブラウザ上で軌道や接近解析などの状況図を確認できる。

AIR OPERATION SIMULATOR リリース(外部)
AMATERASU第一弾の発表。専守防衛に即した設計思想、HITL、COA提示の考え方が明確に述べられている。

GROUND IMPACT SIMULATOR リリース(外部)
AMATERASU第二弾の発表。着弾・衝突被害を3D地図上で推定するシミュレーターの詳細が読める。

防衛省 統合防空ミサイル防衛について(外部)
日本のIAMDの公式解説。迎撃と反撃能力を組み合わせる構造が図解されている。

防衛省 令和7年版防衛白書 統合防空ミサイル防衛能力の強化(外部)
各種センサーとシューターの一元運用、GPI日米共同開発の経緯が記されている。

防衛装備庁 防衛産業への参入促進について(外部)
新規参入相談窓口、参入促進展、ファストパス調達など、国が講じている参入促進策がまとめられている。

スペースデータ 公式X(外部)
プロダクト公開やデモ映像が随時投稿される公式アカウント。最新の発表を追える。

【参考記事】

防衛省・自衛隊|統合防空ミサイル防衛について(外部)
日本のIAMDの公式解説。各種センサーとシューターをネットワークで一元運用する体制に加え、飽和攻撃などに対して既存のミサイル防衛網だけで完全に対応することは難しいとし、迎撃とスタンド・オフ防衛能力を活用した反撃能力を組み合わせる構造を示している。本作が可視化しているのが「迎撃を担う部分」である理由を裏づける。

防衛省・自衛隊|令和7年版防衛白書|2 統合防空ミサイル防衛能力の強化(外部)
強化したミサイル防衛網による迎撃と、スタンド・オフ防衛能力を活用した反撃能力を組み合わせ、ミサイル攻撃そのものを抑止するとしている。図表が「今後の統合防空ミサイル防衛(迎撃部分)(イメージ)」と明示されている点、およびHGV対処のためGPIの日米共同開発を進めていることを記載している。

防衛省・自衛隊|令和7年版防衛白書|<解説>GPIの日米共同開発について(外部)
HGVが低い高度を高い機動性で滑空し、探知・迎撃が困難であることを説明したうえで、滑空段階で可能な限り遠方から迎撃するGPIについて、2023年8月の開始決定、2024年5月の正式な開発開始、同年9月の開発コンセプト決定という経緯を記している。

スペースデータ、航空作戦運用を支援する「AIR OPERATION SIMULATOR」をリリース(外部)
AMATERASU第一弾の一次情報。諸外国のシステムがAIによるキルチェーンの極限短縮を進めるのに対し、本プラットフォームは専守防衛に即して行動の結果を事前に見通すことに重きを置くと明言している。迎撃で生じた破片の落下先や民間インフラへの影響まで予測し、法的・倫理的に妥当なCOAを根拠とともに提示すること、そして計画立案・予行演習・実作戦の意思決定支援へ発展させる方針を示しており、IAMD SIMULATORの位置づけを読み解く鍵になる。

防衛装備庁 防衛産業への参入促進について(外部)
新規性のある技術を持つ企業の防衛産業参入を促し、民生先端技術の取り込みを図る方針を掲げる。新規参入相談窓口の開設、防衛産業参入促進展の開催、そして従来より遥かに速く研究開発・装備化を実現する「ファストパス調達」の活用が示されている。本作の想定利用者に「参入を検討する企業」が挙がる背景を裏づける。

防衛省 統合作戦司令官のメッセージ(外部)
2025年3月24日、東京・市ヶ谷に約240人規模で発足した常設の統合作戦司令部について、統合作戦司令官が防衛大臣の命令を受け、陸・海・空自衛隊の主要部隊を平素から有事まで統合運用する役割が示されている。自衛隊側の制度的基盤を示す資料である。

スペースデータ、豪雪・雪崩リスクをAIでシミュレーションする「Snowstorm & Avalanche」をリリース(外部)
2026年7月8日発表。防災領域のシミュレーターであり、同社が三週間のうちに防衛と防災を並行して投入していたことを示す。連続リリースの実像を確認できる。

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山本 達也
『デジタルの窓口』代表。名前の通り、テクノロジーに関するあらゆる相談の”最初の窓口”になることが私の役割です。未来技術がもたらす「期待」と、情報セキュリティという「不安」の両方に寄り添い、誰もが安心して新しい一歩を踏み出せるような道しるべを発信します。 ブロックチェーンやスペーステクノロジーといったワクワクする未来の話から、サイバー攻撃から身を守る実践的な知識まで、幅広くカバー。ハイブリッド異業種交流会『クロストーク』のファウンダーとしての顔も持つ。未来を語り合う場を創っていきたいです。