NASAが月面での宇宙飛行士救助システムの設計コンペを実施
【開催概要】
・募集期間:2025年2月6日まで
・賞金総額:65,000ドル
・受賞者発表:2025年3月27日
- 最優秀賞:20,000ドル
- その他:45,000ドル(2チーム以上で分配)
【技術要件】
・ローバー不使用での救助システム設計
・移動距離:2km
・20度の傾斜に対応
・対象重量:約57kg(月面での宇宙服重量)
・想定環境:月の南極地域
- 温度変化:+55℃~-200℃
- 月のレゴリス(細かい研磨性の粉塵)への対応
【背景】
・Artemis計画の一環として実施
・Artemis III号とIV号による月の南極探査に向けた安全対策
・プラダと共同開発したアクシオム宇宙服(地球上で343kg)の着用者を想定
【過去の事例】
・1971年:ソユーズ11号事故で3名の宇宙飛行士が死亡
・1969年:アポロ11号では救助計画が未整備
from:NASA Is Offering $45,000 to Help Rescue a Stranded Astronaut on the Moon
【編集部解説】
月面探査における安全性確保は、人類の宇宙進出において最も重要な課題の一つです。2026年9月に予定されているArtemisミッションでは、月の南極地域の探査が計画されていますが、この地域は特に過酷な環境条件を有しています。
救助システムが必要となる背景には、月面活動における現実的なリスクがあります。宇宙飛行士が負傷したり、医療緊急事態に陥ったりした場合、現状では効果的な救助方法が確立されていません。
技術的課題の特殊性
月面での救助活動を困難にしている要因として、地形の特殊性が挙げられます。月の南極地域には1〜30メートルの直径のクラターが点在し、最大20メートル幅の岩石も存在します。
温度変化も大きな課題です。日中は54℃まで上昇し、夜間は-203℃まで低下する環境下で、電子機器を含むすべての機器が正常に機能する必要があります。
将来への影響と可能性
このコンペティションは、単なる救助システムの開発以上の意味を持っています。開発される技術は、将来の月面基地建設や火星探査にも応用できる可能性があります。
特筆すべきは、NASAがこの課題解決にオープンイノベーションを採用している点です。従来の宇宙開発とは異なり、世界中の革新的なアイデアを募ることで、予想外の解決策が生まれる可能性があります。
日本の宇宙開発への示唆
この取り組みは、日本の宇宙開発にも重要な示唆を与えています。JAXAも月面活動を計画していますが、安全対策の観点から、このような救助システムの開発は不可欠となるでしょう。
技術開発における新たな視点
注目すべきは、このシステムに求められる「シンプルさ」です。ローバーに依存しない設計が求められており、これは信頼性と実用性を重視する新しいアプローチと言えます。
保管時のコンパクトさや、50ポンド(約22.7kg)以下という軽量化要件も、革新的な設計思想を必要としています。
今後の展望
このプロジェクトの成果は、2026年以降のArtemisミッションで実際に活用される可能性があります。さらに、開発される技術は民間の月面活動にも応用できる可能性を秘めています。