Last Updated on 2025-05-04 10:45 by admin
トランプ政権は2025年5月2日、2026年度の連邦予算案を発表し、NASAの予算を現行の248億ドルから188億ドルへと24%(約60億ドル)削減する計画を明らかにした。この削減幅は、NASAの歴史上最大の単年度予算削減となる見込みである。
主な削減内容
- ルナー・ゲートウェイ計画の即時中止:月軌道上に建設予定だった小型宇宙ステーションを完全に中止
- SLSロケットとオリオン宇宙船の早期引退:アルテミスIII(2027年予定の月面着陸ミッション)後に引退
- 科学部門から23億ドルの削減
- 地球科学部門から12億ドルの削減
- 火星サンプルリターンミッションの中止
- 国際宇宙ステーション(ISS)予算の5億800万ドル削減:乗員数と補給の削減、2030年の廃棄を確定
- 気候関連の「グリーン航空」プログラムの完全廃止
- ミッションサポート部門から10億ドル以上の削減:人員削減、施設維持、建設、環境コンプライアンス活動の縮小
新たな優先事項
一方で、予算案は以下の分野に資金を振り向ける方針を示している:
- 有人宇宙探査に6億4700万ドルの増額
- 火星関連プログラムに10億ドルの新規投資
- 商業宇宙企業への依存度を高める:SLSとオリオンの代わりに「より費用対効果の高い商業システム」を活用
この予算案はまだ議会の承認が必要であり、NASAは議会で超党派の支持を得ているため、クリス・ヴァン・ホレン上院議員(民主党-メリーランド州)やテッド・クルーズ上院議員(共和党-テキサス州)らが削減に反対する可能性が高い。
惑星協会の宇宙政策責任者ケイシー・ドライアーは、この予算案を「撤退と後退の予算」と批判し、インフレ調整後のNASA予算は1960年代初頭の水準まで落ち込むと指摘している。
from:Trump wants to fire quarter of NASA budget into black hole – and not in a good way
【編集部解説】
トランプ政権が提案した2026年度のNASA予算削減案は、アメリカの宇宙政策における大きな転換点となる可能性を秘めています。この予算案が示す方向性は、単なる財政的な緊縮策ではなく、アメリカの宇宙探査の優先順位を根本から変えようとするものです。
まず注目すべきは、この削減案がNASAの歴史上最大規模の単年度予算削減となる点です。ニューヨーク・タイムズの報道によれば、惑星協会のドライアー氏は「アメリカが宇宙におけるリーダーシップの役割を放棄し、国として内向きになっていることを示す予算だ」と指摘しています。
この予算案の背景には、イーロン・マスクの影響力が垣間見えます。ロイターの報道によれば、マスクはトランプの前顧問であり、トランプの大統領復帰を支援するために2億5000万ドルを投資しています。マスクが長年夢見てきた火星有人探査に向けて、新たに10億ドルの予算が配分される計画は偶然とは思えません。
特筆すべきは、NASAの「レガシーシステム」から商業宇宙企業への大幅なシフトです。SLSロケットは1回の打ち上げに40億ドルかかり、予算を140%超過していると批判されています。代わりに「より費用対効果の高い商業システム」への移行が提案されていますが、これはSpaceXやBlue Originといった民間企業を念頭に置いたものでしょう。
国際協力の観点からも重要な問題が生じています。ルナー・ゲートウェイの中止は、カナダ、日本、UAE、欧州との共同プロジェクトに影響を与えます。また、欧州宇宙機関(ESA)との共同ミッションである火星サンプルリターンの中止も、国際的な科学協力に影響を及ぼすでしょう。
気候変動研究への影響も見逃せません。航空機からの温室効果ガス排出削減を目的とした研究の中止や、地球科学部門からの12億ドル削減は、環境問題への取り組みを後退させる可能性があります。
一方で、NASAのジャネット・ペトロ代理長官は、この予算案が「我々のミッションへの政権の支持を示し、今後の重要な成果への基盤を築く」と述べています。しかし、「困難な決断」が必要になることも認めており、一部のNASAの「活動」が縮小されることを示唆しています。
この予算案はまだ議会の承認が必要です。過去にもオバマ政権やトランプ前政権がNASAの教育プログラムの廃止を試みましたが、議会が資金を復活させた経緯があります。今回も同様の展開となるか注目されます。
最後に、この予算削減が実施された場合、アメリカと中国の宇宙開発競争にどのような影響を与えるかも重要な論点です。中国は2030年までに月面に宇宙飛行士を送る計画を進めており、アメリカがアルテミス計画を縮小すれば、宇宙探査における主導権が中国に移る可能性も否定できません。
innovaTopia読者の皆様には、この予算案の行方と、それが宇宙探査の未来にどのような影響を与えるか、引き続き注目していただければと思います。
【用語解説】
アルテミス計画(Artemis Program):
NASAが主導する月面探査計画。アポロ計画以来の有人月面着陸を目指し、女性や有色人種の宇宙飛行士を初めて月面に送ることを目標としている。最終的には火星有人探査の足がかりとなる。
SLS(Space Launch System):
NASAが開発した超大型ロケット。高さ約98メートル、アポロ計画のサターンVロケット以来最も強力なロケットとされる。アルテミス計画の主力打ち上げ機。
オリオン宇宙船(Orion Spacecraft):
アルテミス計画で使用される有人宇宙船。乗員モジュールと欧州が開発したサービスモジュールで構成される。
ルナー・ゲートウェイ(Lunar Gateway):
月周回軌道に建設予定の小型宇宙ステーション。国際協力プロジェクトで、月面探査の拠点となる予定だった。
火星サンプルリターン:
火星の岩石サンプルを地球に持ち帰るミッション。パーサヴィアランス探査機が収集したサンプルを回収する計画だった。
【参考リンク】
NASA公式サイト(外部)
アメリカ航空宇宙局の公式サイト。最新の宇宙ミッション情報や科学的発見を提供している。
アルテミス計画公式ページ(外部)
NASAのアルテミス計画に関する詳細情報、ミッションの進捗状況、目標などを掲載。
SpaceX(外部)
イーロン・マスクが創業した民間宇宙企業。再利用可能ロケットの開発や商業宇宙飛行を行っている。
Blue Origin(外部)
ジェフ・ベゾスが創業した宇宙企業。サブオービタルロケットや月着陸船の開発を行っている。
惑星協会(The Planetary Society)(外部)
宇宙探査と科学の推進を目的とする非営利団体。カール・セーガンらによって設立された。
【参考動画】
【編集部後記】
宇宙開発の予算削減は、私たちの未来にどのような影響を与えるでしょうか?アルテミス計画や火星探査に興味をお持ちの方は、この予算案がどう変化していくか注目してみませんか。また、SpaceXやBlue Originなど民間宇宙企業の動向も今後ますます重要になりそうです。皆さんは宇宙開発において、政府と民間のどちらが主導すべきだと思いますか?ぜひSNSでご意見をお聞かせください。