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ギルモア・スペース、オーストラリア初の国産軌道ロケット「エリス」打ち上げへ – 5月15日から打ち上げウィンドウ開始

ギルモア・スペース、オーストラリア初の国産軌道ロケット「エリス」打ち上げへ - 5月15日から打ち上げウィンドウ開始 - innovaTopia - (イノベトピア)

Last Updated on 2025-05-15 07:05 by admin

オーストラリアの宇宙企業ギルモア・スペース・テクノロジーズが、同国初の国産軌道ロケット「エリス」の打ち上げを2025年5月15日(木曜日)から開始する予定である。打ち上げはクイーンズランド州北部のボーエン宇宙港から行われる。この打ち上げが成功すれば、オーストラリアは世界で12番目に自国製ロケットで軌道到達を達成する国となる。また、オーストラリアの地から50年以上ぶりの軌道打ち上げとなる。

エリスロケットは高さ約25メートル(82フィート)、フェアリング直径最大1.5メートルで、高度500kmの地球低軌道に305kgのペイロードを投入する能力を持つ。このロケットは3段式で、第1段と第2段は「シリウス」と呼ばれる大型ハイブリッドロケットエンジン、第3段は「フェニックス」という3Dプリント製の再生冷却式液体ロケットエンジンで推進される。

ギルモア・スペースは2015年にアダム・ギルモア氏と彼の兄弟ジェームズ・ギルモア氏によってゴールドコーストに設立された。同社はイーロン・マスクのスペースXを含む主要なアメリカの企業と競争するために、オーストラリアの独立した宇宙能力を高めることを目標としている。

打ち上げに向けたカウントダウンはすでに始まっており、オーストラリア宇宙機関と民間航空安全局(CASA)から最終承認を受けている。天候は木曜日から日曜日にかけて良好な見通しとなっている。

ギルモア氏はミッションの成功指標として、発射台からの離陸と飛行時間を挙げ、最初の10秒間が特に重要だと述べている。歴史的に見ると、宇宙企業が初回の打ち上げで軌道に到達した例はなく、スペースXは2008年9月の4回目の試みでこのマイルストーンを達成した。ギルモア社は3回目の試みまでに軌道到達を目指している。

ロケットにはオーストラリアの国民的食品であるベジマイトの瓶とカメラが搭載される予定である。

ギルモア・スペース社は、ブラックバードやメイン・シーケンスなどのベンチャーキャピタル企業、クイーンズランド投資公社、HESTA、HostPlusなどのスーパーアニュエーション(退職年金)ファンドから支援を受けており、昨年は5,500万オーストラリアドル(約50億円)を調達してエリスロケットの製造とテストを促進した。

References:
文献リンクGilmour Space Technologies prepares for first Eris rocket launch in Bowen

【編集部解説】

オーストラリアの宇宙開発は新たな転換点を迎えようとしています。ギルモア・スペース・テクノロジーズによる国産ロケット「エリス」の打ち上げは、単なる一企業の挑戦にとどまらず、オーストラリアの宇宙主権確立への重要なステップとなります。

この打ち上げは当初2025年3月15日に予定されていましたが、熱帯低気圧アルフレッドの影響と規制当局からの承認取得の遅れにより、5月15日に延期されました。CEOのアダム・ギルモア氏によれば、この遅延により約2,000万オーストラリアドル(約18億円)の追加コストが発生したとのことです。宇宙開発における規制の複雑さと、新興企業が直面する現実的な課題を示す一例といえるでしょう。

特筆すべきは、この挑戦が民間企業主導で行われていることです。世界的に宇宙開発が国家プロジェクトから民間ビジネスへと移行する中、オーストラリアもこの流れに乗り遅れまいとしています。ギルモア・スペースのアプローチは、日本のスタートアップ企業による宇宙開発にも示唆を与えるものでしょう。

エリスロケットの技術的特徴も注目に値します。第1段と第2段には「シリウス」と呼ばれる大型ハイブリッドロケットエンジンを採用し、第3段には「フェニックス」という3Dプリント製の再生冷却式液体ロケットエンジンを使用しています。この組み合わせは、コスト効率と革新性を両立させる現代的なアプローチです。特に3Dプリント技術の活用は、宇宙産業における製造コスト削減と短納期化の可能性を示しています。

ギルモア氏が「高マージン製造業」としての宇宙産業の可能性に言及している点も重要です。労働コストの高い先進国においても、高度な技術と付加価値によって競争力を維持できるという主張は、日本の製造業の未来にも通じる視点です。

また、初回の打ち上げで軌道到達を目指しながらも、ギルモア氏は現実的な成功基準を設定しています。発射台からの離陸と最初の10秒間の飛行を最低限の成功と位置づけ、SpaceXが4回目の試みで軌道到達に成功した事例を引き合いに出しながら、自社は3回目までの成功を目指すとしています。この姿勢は、宇宙開発における「失敗」を学習プロセスの一部として捉える現代的なアプローチを反映しています。

さらに、ボーエン宇宙港の開設は、オーストラリアの地方経済にも影響を与える可能性があります。打ち上げ施設を持つ宇宙企業は世界でも限られており、ギルモア・スペースはその希少な企業の一つとなりました。自社の打ち上げ施設を持つことで、打ち上げスケジュールの自由度が高まり、商業的な競争力も向上するでしょう。

一方で、規制当局との関係構築は依然として課題です。ギルモア氏は規制プロセスの長さに不満を示していますが、これはオーストラリア初の民間軌道ロケット打ち上げという前例のない事業に対する慎重なアプローチの表れでもあります。安全性と革新のバランスをどう取るかは、宇宙産業に限らず新技術導入における普遍的な課題といえるでしょう。

今回の打ち上げは、オーストラリアが宇宙産業における「第12番目の国」になるかどうかの分岐点です。成功すれば、オーストラリアの宇宙産業は大きく飛躍し、アジア太平洋地域における新たな宇宙アクセス拠点として発展する可能性があります。日本を含むアジア諸国の宇宙企業にとっても、新たな協力パートナーとしての可能性を秘めています。

【用語解説】

ハイブリッドロケットエンジン
従来の固体燃料ロケットと液体燃料ロケットの特性を組み合わせたエンジン。固体燃料と液体酸化剤を使用し、安全性が高く、コスト効率に優れている。自動車に例えると、ガソリン車と電気自動車の利点を組み合わせたハイブリッド車のようなもの。

低軌道(LEO)
地球の表面から約160〜2,000km上空の軌道。人工衛星やISS(国際宇宙ステーション)が位置する軌道で、地球観測や通信に適している。

ペイロード
ロケットが運搬する貨物(衛星など)のこと。トラックの荷台に載せる荷物に相当する。

ペイロードフェアリング
ロケットの先端部分にある保護カバーで、打ち上げ中に衛星を保護する役割を持つ。新幹線の先頭部分のような空気抵抗を減らす形状をしている。

ウェットドレスリハーサル
実際の打ち上げ前に行われる総合リハーサル。燃料や酸化剤を実際に充填し、点火直前までのすべての手順を確認する。演劇の本番前の衣装を着けた最終リハーサルに相当する。

アビオニクス
航空機や宇宙機に搭載される電子機器システムの総称。ロケットの「脳」と「神経系」に相当し、飛行制御や通信を担当する。

宇宙主権
自国の宇宙活動を自律的に行う能力。特に、他国に依存せずに衛星を打ち上げる能力は国家安全保障上重要視される。

ブラックバード
オーストラリアのベンチャーキャピタル企業。テクノロジー企業への投資に特化しており、ギルモア・スペースの主要投資家の一つ。

メイン・シーケンス
オーストラリアの科学技術分野に特化したベンチャーキャピタル。オーストラリア連邦科学産業研究機構(CSIRO)が設立に関わっている。

オーストラリア宇宙機関(ASA)
2018年に設立されたオーストラリアの宇宙活動を監督する政府機関。日本のJAXAに相当する。

民間航空安全局(CASA)
オーストラリアの航空安全を管理する政府機関。ロケット打ち上げの際の空域管理も担当する。

【参考リンク】

ギルモア・スペース・テクノロジーズ公式サイト(外部)
オーストラリアの宇宙企業ギルモア・スペースの公式サイト。エリスロケットや同社の宇宙事業に関する情報を提供している。

オーストラリア宇宙機関(ASA)公式サイト(外部)
オーストラリアの宇宙政策や規制を担当する政府機関の公式サイト。宇宙活動法に基づく許認可情報なども掲載。

【参考動画】

【編集部後記】

宇宙開発が国家だけのものから民間企業の挑戦へと広がる時代、オーストラリアの新興企業の挑戦は日本の宇宙ビジネスにも新たな視点を与えてくれるのではないでしょうか。皆さんは民間宇宙開発にどのような可能性を感じますか? 日本でもispace、インターステラテクノロジズ、スペースワンなど、民間の宇宙企業が台頭しています。宇宙という「最後のフロンティア」に、私たちはどう関わっていけるのか。ぜひ一緒に考えていきましょう。

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TaTsu
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