2026年5月11日、CNETはオーストラリアのニューサウスウェールズ大学(University of New South Wales、UNSW Sydney)が率いる天文学者チームが、2つの太陽を持つ周連星惑星(circumbinary planet)の候補27個を特定したと報じた。研究を主導したのは博士課程学生のマーゴ・ソーントンであり、論文はMonthly Notices of the Royal Astronomical Society(MNRAS)2026年5月号に掲載された。
これまで太陽系外で確認されている約6,000個の惑星のうち、周連星惑星として確認されているのは18個にとどまる。チームは「アプシダル歳差運動(apsidal precession)」と呼ばれる手法を用い、新たな惑星探索の大規模調査に初めて活用した。データはNASAが2018年に打ち上げたTransiting Exoplanet Survey Satellite(TESS)から得られた。発見された惑星候補は地球から最短で約650光年、最長で18,000光年離れている。従来主流であったトランジット法では検出できなかった軌道角度の惑星も発見できるとされる。現時点では候補段階であり、追観測による確認が必要だとソーントンは述べた。
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Scientists May Have Discovered 27 Star Wars-Like Planets With Two Suns
【編集部解説】
今回の研究で注目すべき最大のポイントは、「27個の惑星候補を見つけた」ことそのものよりも、惑星探査における観測バイアスを打破する新たな方法論を確立した点にあります。論文はオーストラリアのニューサウスウェールズ大学(UNSW Sydney)のマーゴ・ソーントン氏らによって執筆され、英国王立天文学会の学術誌Monthly Notices of the Royal Astronomical Society(MNRAS)の2026年5月号に掲載されました。研究自体の公表は2026年5月4日「スター・ウォーズの日(May the 4th)」に合わせて行われ、CNETによる報道はその約1週間後の5月11日となります。広報的な遊び心も、この分野の人々の楽しみ方を象徴しています。
これまでの系外惑星探査の主流は「トランジット法」でした。これは惑星が恒星の前を横切る瞬間の僅かな減光を捉える手法で、約6,000個に達する系外惑星カタログの大半はこの方法で発見されたものです。ただし大前提として、惑星の軌道面が地球からの視線上にきれいに揃っている必要があります。つまり「見つけやすい惑星ばかりを見てきた」という根本的な偏りを抱えていたわけです。
研究チームが用いたのは「アプシダル歳差運動(apsidal precession)」と呼ばれる手法です。連星系では2つの恒星が互いに公転していますが、第3の天体(=惑星)が存在すると、その重力的な影響で連星軌道の長軸方向そのものがゆっくりと回転していきます。この微細な軌道のズレを長期観測から抽出することで、視線方向にトランジットしない惑星まで検出可能になる、というのが今回の核心です。
データ源となったのは、NASAが2018年に打ち上げたTransiting Exoplanet Survey Satellite(TESS)の測光データです。チームはGaia DR3カタログから1,590個の食連星を抽出し、一般相対論的効果や潮汐力、自転による歳差では説明できない異常なズレを示すシステムを精査しました。その結果、惑星質量の周連星惑星候補が27個、加えて最小質量がより大きい伴天体候補が6個——この6個には褐色矮星のようなより重い天体が含まれる可能性もありますが——合計33個の重力的痕跡が浮かび上がりました。
この成果はSF的なロマンに留まらず、宇宙物理学における実利的な意味を持ちます。連星系は宇宙にありふれた存在で、太陽のような単独星よりむしろ「2つで一組」のほうが標準的とも言われます。にもかかわらず、これまで確認された周連星惑星はわずか18個。私たちが描いてきた宇宙の惑星マップは、現実の姿を十分に反映していない可能性があると研究者たちは指摘しています。
一方で慎重に見るべき点もあります。今回の27個はあくまで「候補」であり、確定ではありません。歳差運動の原因が惑星なのか、より重いブラウンドワーフ(褐色矮星)なのか、軌道半径とのトレードオフによって現時点では区別がつかないと論文自体が明記しています。ソーントン氏は今後、オーストラリア・クーナバラブランのアングロ・オーストラリアン望遠鏡(Anglo Australian Telescope)を用いて分光観測を行い、視線速度法で確定作業に進む予定です。
長期的な視点では、この手法の登場は将来的に「ハビタブルゾーン(生命居住可能領域)」の議論にも波及しうるでしょう。連星系の周囲にも液体の水が安定して存在しうる領域があるとされ、もしそこに惑星が普遍的に存在することが今後示されれば、生命探査のターゲットは広がる可能性があります。ただしこれは本研究そのものの結論ではなく、方法論的ブレイクスルーがもたらしうる将来的展望としての位置づけです。
この研究を「発見された惑星の数」ではなく、「観測技術が見落としてきた領域を、別の物理現象の解釈で再アクセスする」という方法論的ブレイクスルーとして読み解きたいと考えています。Gaia・TESSといった大規模サーベイミッションのデータ蓄積、連星力学の理論研究、そしてそれらを精緻に解析する計算技術の進歩——これらが2026年の今、一つの結果として結実したのです。
【用語解説】
周連星惑星(circumbinary planet)
1つの恒星ではなく、2つの恒星(連星)の周囲を公転する惑星のこと。映画『スター・ウォーズ』に登場する架空の惑星タトゥイーンが象徴的な存在である。
アプシダル歳差運動(apsidal precession)
惑星や恒星の楕円軌道の長軸方向が、ゆっくりと回転していく現象。連星系に第3の天体が存在すると、その重力的影響によってこの歳差が加速・減速し、観測される「食」のタイミングに微細なズレが生じる。
トランジット法
惑星が地球と恒星の間を通過する瞬間に発生する、恒星のわずかな減光を捉えて惑星を検出する手法。これまで発見された系外惑星の大半はこの方法で見つかっているが、惑星軌道が地球からの視線上にある場合にしか機能しない。
食連星(eclipsing binary)
互いに公転する2つの恒星のペアのうち、地球から見て一方が他方の前を通過し、定期的に光度が変化する連星系のこと。
Gaia DR3
欧州宇宙機関(ESA)の宇宙望遠鏡Gaiaによる第3次データリリース。本研究では同データに含まれる食連星候補カタログから1,590個の天体が解析対象として選ばれた。
視線速度法(radial velocity)
惑星の重力で恒星がわずかに振動する様子を、光のドップラーシフトから検出する手法。アプシダル歳差運動法で見つかった候補天体の確定観測に用いられる。
ハビタブルゾーン
恒星の周囲で、惑星表面に液体の水が存在しうる温度領域。生命居住可能領域とも呼ばれ、地球外生命探査の重要な指標となっている。
褐色矮星(ブラウンドワーフ)
木星よりはるかに重いが、恒星として核融合を維持するには質量が足りない天体。惑星と恒星の境界に位置するため、本研究の候補天体が惑星か褐色矮星かの判別は、視線速度法による追観測が必要となる。
【参考リンク】
NASA TESS Mission(外部)
TESS衛星のミッション概要や発見惑星、最新観測ニュースを掲載する公式ページ。
TESS – MIT(外部)
TESS運用を主導するマサチューセッツ工科大学の公式サイト。技術仕様と科学成果を公開。
UNSW Sydney School of Physics(外部)
本研究を主導したニューサウスウェールズ大学物理学部の公式ページ。系外惑星科学を含む研究紹介。
Monthly Notices of the Royal Astronomical Society(外部)
英国王立天文学会が発行する天文学の代表的査読学術誌。本研究の論文掲載誌である。
arXiv論文ページ(外部)
ソーントン氏らによる本研究論文のプレプリント。手法と全候補天体の詳細が掲載されている。
ESA Gaia Mission(外部)
欧州宇宙機関による恒星測位ミッションGaiaの公式概要ページ。観測史と科学目標を公開。
ESA Cosmos – Gaia Data Release 3(外部)
本研究の元データであるGaia DR3の公式詳細ページ。データ構成とアクセス方法を提供。
【参考記事】
Detection of 27 candidate circumbinary planets through apsidal precession of eclipsing binaries observed by TESS (arXiv)(外部)
研究チーム自身による原論文プレプリント。Gaia DR3カタログから抽出した1,590個の食連星をTESS測光データで解析し、27個の周連星惑星候補と最小質量がより大きい6個の伴天体候補を特定した。
Detection of 27 candidate circumbinary planets through apsidal precession of eclipsing binaries observed by TESS (Oxford Academic / MNRAS)(外部)
査読を経て正式掲載された論文ページ。MNRAS第548巻第3号(2026年5月)に掲載され、一般相対論効果や潮汐力では説明できない歳差から惑星候補の質量と軌道分離を制約した。
Tatooine-Class Planet Discovered Orbiting Two Suns (Astrobiology.com)(外部)
2026年5月4日「スター・ウォーズの日」に合わせた発表であることを強調。新手法が見落とされてきた隠れた惑星集団を明らかにする可能性を解説している。
Astronomers discover 27 potential Tatooine-like planets (Bangla Mirror News)(外部)
27個という発表数を、既存の18個の周連星惑星および約6,000個の系外惑星全体と対比して報じている。手法の独自性についても解説。
New Star Wars-Like Planet Candidates With Two Suns Discovered (Eurasia Review)(外部)
ソーントン氏の今後の予定として、Anglo Australian Telescopeを用いた分光観測による候補天体の確定作業に言及している。
ESA Cosmos – Gaia Data Release 3 (公式)(外部)
本研究の解析対象である食連星候補カタログを含むGaia DR3の公式仕様ページ。データ構成と仕様確認に用いた。
New Star Wars-like planet candidates with two suns discovered (Scimex)(外部)
オーストラリアの科学ニュースサイトによる解説。検出しやすい惑星に偏った従来の宇宙像が、新手法によって描き直される可能性を論じる。
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トランジット法による系外惑星探査の歴史と背景。本記事の「トランジット法の限界を超える」議論の前提として読み合わせ可能。
【編集部後記】
タトゥイーンの二重夕日は、多くの方にとってSFの象徴的な風景だったかもしれません。でも今、その景色は宇宙のどこかで、実際に誰かが(あるいは何かが)眺めているかもしれない、現実の選択肢として浮かび上がりつつあります。
今回の研究が示したのは、「見つけ方を変えれば、見える宇宙が変わる」というシンプルで力強い事実でした。みなさんは、この27個の候補天体の中に、どんな世界を想像されますか。生命の存在、地球とは違う進化、あるいはまったく未知の風景——一緒に未来の発見を見届けていけたら嬉しく思います。












