Last Updated on 2025-05-28 06:26 by admin
欧州宇宙機関(ESA)は2025年5月31日、ヨハン・シュトラウス2世生誕200周年とESA創設50周年を記念して、ワルツ「美しき青きドナウ」を深宇宙に向けて送信する。
ウィーン交響楽団による演奏が、スペインのセブレロスにある直径35メートルのESA深宇宙アンテナDSA-2から電磁波として送信される。信号は光速で進み、月まで約1.5秒、火星まで約4.5分、木星まで約37分、海王星まで約4時間で到達し、約23時間後には地球から150億マイル以上離れたNASAのボイジャー1号の位置に達する。
この楽曲は1968年の映画「2001年宇宙の旅」で宇宙のテーマ曲として使用されたが、1977年にボイジャーと共に打ち上げられたゴールデンレコードには収録されていなかった。ESA事務局長ヨーゼフ・アシュバッハーは「音楽は時間と空間を通じて私たち全員を結びつける」と述べた。
References:
Why ESA Is Blasting ‘Blue Danube’ Toward the Edge of the Solar System
【編集部解説】
今回のESAによる「美しき青きドナウ」の宇宙送信は、単なる記念イベントを超えた深い意味を持っています。
この取り組みの技術的側面を見ると、ESAの35メートル径DSA-2アンテナが使用される点が注目されます。深宇宙通信用に設計されたこのアンテナは、通常はJuice、BepiColombo、Heraなどの探査機との交信に使われており、今回のような文化的コンテンツの送信は異例の用途と言えるでしょう。
興味深いのは、1977年のボイジャー・ゴールデンレコードからシュトラウスが除外された経緯です。当時の選考委員会は天文学者カール・セーガンが主導し、バッハやベートーベン、モーツァルトは選ばれたものの、なぜかシュトラウスは漏れました。ウィーン観光局のノルベルト・ケットナー局長は、これを「宇宙的な間違い」と表現し、今回の送信で修正すると述べています。
この送信が示すのは、宇宙開発における文化外交の新たな側面です。ESAは技術力のアピールと同時に、ヨーロッパの文化的アイデンティティを宇宙に投影しようとしています。これは過去のNASAによるビートルズ「アクロス・ザ・ユニバース」(2008年)、ミッシー・エリオット「ザ・レイン」(2024年)の送信と同様の流れにあります。
長期的な視点では、このような取り組みが宇宙探査の人文学的価値を高める効果が期待されます。技術偏重になりがちな宇宙開発に芸術的要素を加えることで、一般市民の関心を引きつけ、宇宙予算への理解促進にもつながるでしょう。
ただし、深宇宙通信リソースの使用については慎重な議論も必要です。限られたアンテナ時間を文化イベントに割り当てることの是非は、今後の宇宙機関の運営方針に影響を与える可能性があります。
【用語解説】
ボイジャー1号:
1977年に打ち上げられたNASAの無人宇宙探査機で、現在は太陽系を脱出し星間空間を飛行中。地球から最も遠い人工物体である。
ゴールデンレコード:
ボイジャー1号・2号に搭載された金メッキの銅製レコード。地球の音楽や言語、画像を収録し、地球外知的生命体への「メッセージボトル」として機能する。
深宇宙アンテナ:
惑星探査機との通信に使用される大型パラボラアンテナ。ESAのセブレロス基地にある35メートル径のDSA-2アンテナは、火星や木星の探査機との交信に使われている。
星間空間:
太陽系の影響圏(ヘリオスフィア)を超えた宇宙空間。太陽風の影響が及ばない領域で、ボイジャー1号は2012年にここに到達した。
【参考リンク】
欧州宇宙機関(ESA)公式サイト(外部)
ヨーロッパの宇宙開発を統括する機関の公式サイト。宇宙ミッションや技術開発の最新情報を提供している。
NASA ボイジャーミッション公式ブログ(外部)
ボイジャー1号・2号の最新状況やミッション履歴を詳しく解説するNASAの公式ブログ。
ボイジャー・ゴールデンレコード公式サイト(外部)
1977年にボイジャーと共に打ち上げられたゴールデンレコードの詳細情報と収録内容を紹介。
【編集部後記】
今回のESAによる「美しき青きドナウ」宇宙送信は、技術と芸術の融合という新たな可能性を示しています。皆さんは、もし自分が宇宙に音楽を送るとしたら、どんな楽曲を選びますか?日本の楽曲なら何が相応しいでしょうか。また、将来的に火星や月面基地との通信が日常的になった時、私たちはどのような文化的コンテンツを宇宙に届けたいと思うでしょうか。宇宙開発が単なる技術競争を超えて、人類の文化的表現の場となりつつある今、この分野の動向にぜひ注目してみてください。