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HAKUTO-R RESILIENCE、6月6日月面着陸へ – ispaceが描く失敗からの復活ストーリー

HAKUTO-R RESILIENCE、6月6日月面着陸へ - ispaceが描く失敗からの復活ストーリー - innovaTopia - (イノベトピア)

Last Updated on 2025-06-08 12:45 by admin

2025年6月6日午前4時17分(日本時間)。この瞬間、日本の宇宙開発史に新たな1ページが刻まれるかもしれない。株式会社ispaceの月着陸船「RESILIENCE(レジリエンス)」が、日本初・アジア初の民間月面着陸に挑戦する。

この挑戦は、単なる技術的達成を超えた深い意味を持つ。2023年4月26日、民間企業として世界初の月面着陸を目指したHAKUTO-R Mission 1は、着陸直前に通信が途絶え、惜しくも失敗に終わった。あれから約2年1ヶ月。失敗を「次に向けた大きな一歩」と捉え、決して諦めることなく再挑戦を続けてきたispaceチームの不屈の精神が、ついに結実しようとしている。

💔 紙一重の失敗 – 2023年4月26日午前1時40分の記憶

運用室に響いた沈黙

その夜、東京・日本橋のHAKUTO-Rミッション・コントロール・センターは緊張に包まれていた。5年間の開発期間を費やし、ついに迎えた月面着陸の瞬間。午前1時40分の着陸予定時刻に向け、着陸運用メンバーが固唾を飲んで見守っていた。

ランダーの自動着陸シーケンスは順調に進行していた。月周回軌道から降下を開始し、着陸姿勢に移行、そして高度がゼロに近づく。一瞬、着陸成功かと思われた瞬間があった。

「タッチダウン信号を固唾を飲んで待つ。来ない。まだ来ない。だんだん不安になる」

ispaceエンジニアの田枝正寛氏は、当時の心境をそう振り返る。見守ること数分、急速に降下速度が上昇した後、テレメトリが停止。皆が何が起きたかを一瞬で理解した瞬間だった。

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高度3kmでの致命的な誤認識

後の詳細な解析により、失敗の原因が明らかになった。月着陸船は、クレーターの縁の上空で高度情報に異常が生じ、実際の高度3kmの地点で「着陸完了」と誤認識してしまったのだ。約3kmの高低差があるクレーターの影響により、高度センサーが想定外の動作を示し、ソフトウェアがこれを測定異常と判定。推進剤が尽きるまで降下を続け、最終的に月面に衝突したと推定される。

「紙一重だった」と感じる関係者も多い。着陸成功まで、わずかな判断ミスが分けた結果だった。

🛠️ 「失敗を失敗と言わない」哲学 – 袴田CEOの復活への信念

記者会見で語られた言葉の真意

2023年4月26日の記者会見で、袴田武史CEOは印象的な言葉を残した。

「次に向けた大きな一歩だ」

この時、袴田氏は意図的に「失敗」という言葉を使わなかった。その理由について、後のインタビューで「データを獲得できたのは大きな達成」と語っている。

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得られた貴重な財産

Mission 1では、10段階のマイルストーンのうちSuccess 8まで達成。着陸シーケンス中のデータも含め、月面着陸ミッションを実現する上での貴重なデータやノウハウを獲得することに成功した。これらの経験は、すべてMission 2にフィードバックされることになる。

袴田氏は「複数のミッションを同時に並行できる資金を調達し、知見を次のミッションにフィードバックできる体制を整えている」と語り、失敗を糧とした継続的な挑戦への意志を示していた。

🌟 RESILIENCE – 復活への想いを込めた名前

「再起」「復活」「回復」への不屈のコミットメント

Mission 2の月着陸船に「RESILIENCE(レジリエンス)」という名前が選ばれたのは偶然ではない。この名前には「再起」「復活」「回復」という意味が込められており、Mission 1の失敗から立ち上がる企業の揺るぎないコミットメントが表現されている。

「RESILIENCEランダーの名前に込めた思いは、『再起』と『復活』への私たちの揺ぎ無いコミットメントです」

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効率化された開発プロセス

興味深いことに、RESILIENCEはMission 1と基本的に同型の機体を使用している。これにより開発期間を約40%短縮し、より効率的なプロジェクトマネジメントを実現した。ただし、ソフトウェア面では前回の教訓を活かした重要な改良が施されている。

📈 約2年間の復活への軌跡

2025年1月15日:再び宇宙へ

Mission 1の失敗から約1年9ヶ月後の2025年1月15日15時11分(日本時間)、RESILIENCEランダーは米国フロリダ州ケネディ宇宙センターからSpaceX Falcon 9ロケットで打ち上げられた。この打ち上げは、民間企業による月面探査機の相乗り打ち上げという新たな試みでもあった。

史上初の成果を積み重ねて

2月15日:民間初の月フライバイ成功
RESILIENCEは月表面から高度約8,400kmの地点を通過し、高度14,439kmから月の写真撮影に成功。これは史上初の民間月フライバイとなり、Success 5マイルストーンを達成した。

5月7日:月周回軌道投入成功
約5ヶ月間の深宇宙航行を経て、RESILIENCEは月周回軌道への投入に成功。これはMission 2で最も長い約9分間のエンジン噴射を伴う重要なマヌーバーだった。

5月28日:最終準備完了
月周回軌道上でのすべての軌道制御マヌーバが完了し、6月6日の月面着陸に向けた準備が整った。

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👥 チームの絆 – 失敗を乗り越えた結束力

手書きで加えられたメッセージ

Mission 1の着陸失敗翌日、運用室で心温まる光景が見つかった。着陸成功時に掲げる予定だったプラカードに、誰かが手書きで「Mission 2で頑張ろう!」と書き加えていたのだ。

田枝氏はこの光景について「うちのチームすごいな、こんなことが書けるなんて。このチームならMission 2の成功に向けて気持ちが一つになれると信じられる」と感動を語っている。

国際的なチーム体制

ispaceは現在、日本、ルクセンブルク、アメリカの3拠点で約300名のスタッフが在籍する国際企業に成長している。各拠点の文化や多様性を活かしながら、統合的なグローバル企業として宇宙開発を進めている。

🚀 6月6日への想い – 15年間の夢の結実

Google Lunar XPRIZEから始まった旅路

袴田武史CEOの月への挑戦は、2010年のGoogle Lunar XPRIZEへの参加から始まった。当初は日欧共同チーム「White Label Space」として参加し、日本側がローバー開発を担当。最終的に5チームのファイナリストに残るという快挙を成し遂げた。

持続可能な宇宙開発への信念

袴田氏のビジョンは明確だ。「人類の生活圏を宇宙に広げ、持続性のある世界へ」。単なる技術デモンストレーションではなく、月の資源を活用した持続可能なビジネスモデルの構築を目指している。

搭載される希望 – 6つのペイロード

RESILIENCEには未来への希望を込めた6つのペイロードが搭載されている:

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  • 高砂熱学工業の月面用水電解装置:月面での持続可能な生活の基盤となる水資源利用技術
  • ユーグレナの食料生産実験モジュール:宇宙での自給自足システムの実証
  • TENACIOUSローバー:「不屈」を意味する5kgの小型月面探査車
  • 台湾国立中央大学の深宇宙放射線プローブ:宇宙環境の理解を深める科学実験
  • バンダイナムコ研究所のGOI宇宙世紀憲章プレート:人類の宇宙進出への文化的メッセージ
  • スウェーデンのアーティストによる「ムーンハウス」:宇宙と地球を結ぶアート作品

🌙 歴史を変える6月6日午前4時17分

日本初・アジア初の重要性

6月6日の成功は、単なる企業の達成を超えた意味を持つ。日本初・アジア初の民間月面着陸は、アジアの宇宙産業をリードし、次世代に希望とインスピレーションを与える歴史的瞬間となる。

世界が見守る瞬間

ispaceは日本時間6月6日午前3時10分から公式YouTubeでライブ配信を実施予定。世界中の人々が、この歴史的瞬間を共に見守ることになる。

「紙一重」の壁を越える時

2023年4月の「紙一重」の失敗。あの時乗り越えられなかった最後の壁を、今度こそ乗り越えることができるのか。約2年間の準備と改良、そして何より失敗から学んだチームの真の力が試される瞬間だ。

🚀 未来への扉

継続的なミッション展開

成功すれば、ispaceの挑戦はここで終わらない。Mission 3は2027年以降、Mission 4は2027年に予定されており、より精度を高めた月面輸送サービスでNASAのアルテミス計画にも貢献する計画だ。

月面ビジネスの本格始動

RESILIENCEの成功は、月面での商業活動の実現可能性を実証する重要な一歩となる。月の資源利用、月面データサービス、輸送サービスなど、新たな宇宙経済圏の創出につながる可能性を秘めている。


💫 復活の物語が紡ぐ新たな章

2023年4月26日の失敗から約2年間。HAKUTO-Rチームが歩んできた道のりは、単なる技術的な挑戦を超えた人間ドラマだった。失敗を「失敗」と呼ばず、「次に向けた大きな一歩」と捉える袴田CEOの哲学。手書きのメッセージで仲間を励ますチームの絆。そして「RESILIENCE(復活力)」という名前に込められた、絶対に諦めない意志。

6月6日午前4時17分。この瞬間、15年間の夢が現実となり、人類の宇宙進出の新たな章が始まるかもしれない。失敗から学び、立ち上がり、そして挑戦し続ける。それこそが、真の「レジリエンス」なのだ。

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世界中が見守る中、HAKUTO-Rの復活劇がついにクライマックスを迎える。


HAKUTO-R公式ライブ配信で、この歴史的瞬間を一緒に見守りましょう。


【用語解説】

レジリエンス(Resilience)
「復活力」「回復力」「再起力」を意味する英語。困難や失敗から立ち直り、元の状態またはより良い状態に戻る能力を指す。ispaceはMission 2の月着陸船にこの名前を採用した。

ランダー(Lander)
月面や惑星表面に着陸するための宇宙機。「着陸船」とも呼ばれる。ispaceのHAKUTO-Rプログラムでは、月面に軟着陸する無人探査機を指す。

ローバー(Rover)
月面や惑星表面を移動しながら探査活動を行う無人探査車。ispaceのTENACIOUSローバーは重量5kgの小型月面探査車である。

テレメトリ(Telemetry)
宇宙機から地上管制室に送信される、機体の状態や動作を示すデータ。温度、電力、位置、速度などの情報が含まれる。

マヌーバー(Maneuver)
宇宙機の軌道や姿勢を変更するための制御操作。エンジン噴射により速度や方向を調整する。

フライバイ(Flyby)
宇宙機が天体の近くを通過する航法技術。重力を利用して軌道を変更したり、観測を行ったりする。

クレーター
隕石の衝突などによって形成された円形の窪地。月面には無数のクレーターが存在し、着陸時の障害となることがある。

ペイロード(Payload)
宇宙機やロケットが運ぶ搭載物の総称。科学実験装置、通信機器、探査機器などが含まれる。

マイルストーン
プロジェクトの進捗を測る重要な節目や達成目標。ispaceはミッション成功を10段階のマイルストーンで評価している。

Mare Frigoris(寒冷の海)
月の北半球にある玄武岩質の平原。「海」と呼ばれるが実際には水がない古い溶岩流の跡である。HAKUTO-R Mission 2の着陸予定地。

【参考リンク】

株式会社ispace
民間月面探査プログラム「HAKUTO-R」を運営する日本の宇宙ベンチャー企業。月への高頻度かつ低コストの輸送サービス提供を目指している。

HAKUTO-R公式サイト
ispaceが実施する民間月面探査プログラムの公式サイト。ミッション詳細や最新情報、技術仕様などを掲載している。

SpaceX
イーロン・マスク氏が設立した米国の宇宙開発企業。HAKUTO-R Mission 2のランダーをFalcon 9ロケットで打ち上げを担当した。

高砂熱学工業株式会社
空調設備や熱交換器を手がける日本企業。HAKUTO-R Mission 2に月面用水電解装置を提供し、月面での水資源利用技術の実証を行う。

ユーグレナ株式会社
ミドリムシ(ユーグレナ)を活用した食品・化粧品などを開発する企業。月面環境での食料生産実験用モジュールをHAKUTO-R Mission 2に提供している。

バンダイナムコ研究所
エンターテインメント事業を手がけるバンダイナムコグループの研究開発部門。HAKUTO-R Mission 2にGOI宇宙世紀憲章プレートを提供した。

【参考動画】

【参考記事】

1. ミッション 2 の月面着陸予定時間を午前4時17分(日本時間)に更新!
ispace公式による最新の着陸予定時刻発表。当初の4時24分から4時17分に7分早められたことを報告。ライブ配信情報も含む。

2. 「ハクトR」月面着陸失敗、原因はソフトウェアによる高度値の誤判断
Mission 1失敗の詳細な原因分析。クレーターの影響による高度センサーの誤動作とソフトウェアの判断ミスについて技術的に解説。

3. HAKUTO-R Mission1運用を振り返って-ispace 田枝正寛
ispace社員による内部視点からのMission 1運用体験記。失敗後のチームの心境や「Mission 2で頑張ろう!」の手書きメッセージエピソードを詳述。

4. 月への挑戦、HAKUTO-R計画 「失敗」と言わなかった理由は?
袴田CEO が「失敗」という言葉を使わなかった理由と企業哲学についてのインタビュー記事。

5. ispace、民間初の月面着陸に失敗 「次へ大きな一歩」
Mission 1失敗直後の日経新聞報道。袴田CEOの「次に向けた大きな一歩」発言を記録。

6. ispaceが挑む民間月面探査 1度目の挑戦で得た「財産」とは
失敗を糧とした継続的挑戦への企業姿勢と複数ミッション並行体制についてのインタビュー記事。

7. ispace、ミッション1の月面着陸予定日を最短で4月26日(日本時間)に
Mission 1の正確な着陸予定時刻(午前1時40分)を記載した公式発表。

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TaTsu
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