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ispace社の月着陸機RESILIENCE、月周回軌道到達成功 – 6月5日の歴史的着陸へカウントダウン開始

ispace社の月着陸機RESILIENCE、月周回軌道到達成功 - 6月5日の歴史的着陸へカウントダウン開始 - innovaTopia - (イノベトピア)

Last Updated on 2025-05-08 10:03 by admin

日本の宇宙企業ispace社の月着陸機「RESILIENCE」が2025年5月7日午前5時41分(日本時間)に月周回軌道への投入に成功した。これはミッション2「SMBC x HAKUTO-R VENTURE MOON」における全10のミッションマイルストーンのうち、「Success 7」を達成したことを意味する。

着陸機は2025年1月15日にSpaceX社のFalcon 9ロケットで打ち上げられ、約5ヶ月間、最大で地球から約110万キロメートルの深宇宙を航行した。月周回軌道投入のためのエンジン噴射は約9分間続き、これはミッション2で最も長いエンジン噴射となった。

RESILIENCEには、ispace-EUROPE(ルクセンブルク子会社)が設計・開発した小型ローバー「TENACIOUS」が搭載されており、月面着陸後に探査活動を行う予定である。着陸予定地は月の北半球にある「寒冷の海(Mare Frigoris)」の中心付近で、北緯60.5度、西経4.6度に位置している。

月面着陸は世界協定時で2025年6月5日、日本時間では6月6日午前4時24分に予定されており、着陸ウィンドウは6月8日まで開いている。着陸に成功すれば、ispace社は日本初の民間企業として月面着陸を達成することになる。

ispace社の創業者兼CEOである袴田武史氏は「ミッション1で得た運用経験を活かし、最も重要なマヌーバーを成功させ、月周回軌道に入ったことを非常に嬉しく思う」とコメントしている。

from:Japan’s ispace moon lander enters lunar orbit ahead of landing attempt

【編集部解説】

ispace社の月着陸機「RESILIENCE」の月周回軌道到達は、日本の民間宇宙開発における大きな一歩です。2023年4月の初回ミッションでの着陸失敗から学び、今回のミッション2「SMBC x HAKUTO-R VENTURE MOON」では着実に成果を上げています。

特筆すべきは、ispace社が採用している「低エネルギー軌道」という燃料効率の良い経路です。この経路は時間はかかるものの、燃料消費を抑えられるため、小型の月着陸機でも効率的に月に到達できます。約110万キロメートルも離れた深宇宙を航行したことは、民間企業の技術力の高さを示しています。

搭載されているペイロードの多様性も注目に値します。タカサゴサーマルエンジニアリング社の水電解装置は、将来の月面基地での水資源利用に不可欠な技術です。また、ユーグレナ社の食料生産実験は、長期的な月面滞在を可能にする自給自足システムの基盤となるでしょう。

ispace-EUROPE(ルクセンブルク子会社)が開発した小型ローバー「TENACIOUS」(不屈)という名前には、前回の失敗を乗り越えて再挑戦するispace社の決意が表れています。わずか5kgという軽量ながら、HDカメラとショベルを搭載し、月の土壌(レゴリス)を採取する能力を持つ点は技術的に興味深いものです。

着陸予定地の「寒冷の海(Mare Frigoris)」は月の北半球に位置し、北緯60.5度、西経4.6度という高緯度地域です。この地域は比較的平坦ですが、極地に近いため将来的な水氷探査の足がかりになる可能性があります。着陸ウィンドウは6月5日から8日まで設定されており、最適な条件での着陸を目指します。

今年に入ってからすでに米国のFirefly AerospaceとIntuitive Machines社が月面着陸を成功させています。特にFirefly社は「完全に成功した最初の民間月面着陸」という称号を獲得しました。ispace社が6月5日(世界協定時)に成功すれば、日本初の民間月面着陸という偉業を達成することになります。

ispace社は今後も着実に事業を拡大する計画で、ミッション3は米国子会社が主導し2026年に打ち上げ予定、ミッション6は日本で設計中のシリーズ3着陸機を使用し2027年までに打ち上げる予定です。また、オーストラリアの原子力技術開発企業entX社との協力も進めており、将来的には放射性同位体熱ユニット(RHU)を月面でテストする計画もあります。

民間企業による月面探査競争は、単なる技術デモンストレーションを超え、月の資源利用や長期滞在に向けた実用的な技術開発へと進化しています。ispace社の挑戦は、日本の宇宙産業の国際競争力を高めるだけでなく、人類の持続可能な宇宙活動の実現に貢献するものと言えるでしょう。

【用語解説】

低エネルギー軌道(Low Energy Transfer):
燃料効率を優先した月への移動経路。直線的な経路より時間はかかるが、少ない燃料で月に到達できる。家庭の例で言えば、高速道路(燃料多消費だが速い)ではなく、裏道(燃料節約だが時間がかかる)を選ぶようなものである。

レゴリス(Regolith):
月の表面を覆う細かい砂や岩の破片のこと。月の土壌に相当する。将来的な月面基地建設や資源利用の重要な材料となる可能性がある。

Mare Frigoris(寒冷の海):
月の北半球にある比較的平坦な玄武岩質の平原。「海」と呼ばれるが、実際には水がない。地球の砂漠のような広大な平原である。

マヌーバー(Maneuver):
宇宙船の軌道や姿勢を変更するための操作。自動車の運転で言えば、ハンドル操作やブレーキ、アクセル操作に相当する。

ミッションマイルストーン:
ispace社が設定した10段階の成功基準。「Success 7」は月周回軌道投入、「Success 10」は月面着陸成功を意味する。

【参考リンク】

ispace株式会社(外部)
民間月面探査を行う日本の宇宙ベンチャー企業。月の資源利用と持続可能な宇宙開発を目指している。

SMBC x HAKUTO-R VENTURE MOON(外部)
ispaceが運営する民間月面探査プログラム。「白兎」を意味するHAKUTOに、「Reboot」「Restart」「Return」の意味を込めたR を加えた名称。

ユーグレナ株式会社(外部)
ミドリムシ(ユーグレナ)を活用した食品・化粧品などを開発する企業。月面での食料生産実験のペイロードを提供。

タカサゴサーマルエンジニアリング(外部)
空調設備などを手がける企業。月面での水電解装置の実験を担当している。

【参考動画】

ispace公式によるRESILIENCE着陸機の詳細な紹介と技術説明を行う動画。

小型ローバー「TENACIOUS」の開発過程を追ったドキュメンタリー動画。

SpaceX社のFalcon 9ロケットによるRESILIENCE着陸機の打ち上げ映像。

【編集部後記】

月面は再び人類の挑戦の舞台となっています。かつてのアポロ計画とは異なり、今回は持続可能な月面活動を目指す新時代の幕開けです。ispace社の「SMBC x HAKUTO-R VENTURE MOON」ミッションは、単なる国家威信ではなく、ビジネスとしての宇宙開発の可能性を示しています。月の資源を活用した食料生産や水電解実験は、どのような未来を切り開くでしょうか?6月5日(世界協定時)の着陸成功を、ぜひ一緒に見守りましょう。皆さんは月面での持続可能な活動に、どのような可能性を感じますか?

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TaTsu
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