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欧州発の宇宙物流革命 エクスプロレーション・カンパニーが挑む再利用可能宇宙船の実証

 - innovaTopia - (イノベトピア)

ドイツの宇宙物流スタートアップ「エクスプロレーション・カンパニー」が、ミッション・ポッシブル・カプセルをカリフォルニアの打ち上げサイトに出荷した。同社は5月2日に出荷前審査を完了し、その後米国の打ち上げサイトに輸送を行った。

ミッション・ポッシブルは直径2.5メートルの実証カプセルで、複数の小型顧客ペイロードを搭載する。2025年6月22日にSpaceXファルコン9のトランスポーター14相乗りミッションで打ち上げ予定である。カプセルは軌道上で最大2時間過ごし、300キログラムの顧客ペイロードが最低30分間の無重力環境を体験する。

同社は国際宇宙ステーション向け貨物輸送を行うNyx宇宙船を開発中で、フルスケール版は直径約4メートルとなる予定だ。ミッション・ポッシブルは同社2番目の実証機で、2024年7月のアリアン6初飛行で打ち上げられたミッション・ビキニに続くものである。2025年6月19日のパリ航空ショーでは5名乗りの有人版Nyx Crew Vehicleも発表し、2035年の実現を目指している。

From:
The Exploration Company Ships Completed Mission Possible Capsule

【編集部解説】

ミッション・ポッシブルの打ち上げが6月22日に実施された今、この実証実験が持つ戦略的意味を理解する必要があります。エクスプロレーション・カンパニーは2021年設立のスタートアップながら、既に欧州の商業宇宙輸送市場での存在感を急速に高めています。

この実証実験の技術的な挑戦は想像以上に複雑です。カプセルはファルコン9上段に取り付けられたまま軌道離脱燃焼を行い、その後分離して独自の姿勢制御システムで大気圏再突入を実行します。直径2.5メートルという中型サイズながら、多くの核心技術を搭載している点が注目されます。

特に革新的なのは、同社が採用する「打ち上げロケット非依存」戦略です。SpaceX、インド宇宙研究機関、アリアンスペースなど複数の打ち上げプロバイダーと連携することで、顧客の要求に応じて最適な打ち上げ手段を選択できます。これは従来の宇宙輸送企業にはない柔軟性を提供します。

今回のミッションで特筆すべきは、NASAのSCIFLI(Scientifically Calibrated In-Flight Imagery)チームが再突入時の撮影支援を行うことです。これは欧州企業の技術実証に米国の宇宙機関が協力する象徴的な事例であり、国際的な宇宙協力の新たな形を示しています。

商業的な観点では、300キログラムの顧客ペイロードにセレスティス社のメモリアル・カプセルが含まれている点が興味深いところです。3歳のマッテオ・バルト君のDNAと亡くなった祖父のディーター・バルト氏の遺灰が一緒に宇宙に送られ、宇宙産業の多様化を物語っています。

しかし、同社自身が「失敗の可能性」を認めているように、宇宙技術の実証には常にリスクが伴います。特に今回は初の商業ミッションでもあるため、顧客ペイロードの損失リスクも考慮する必要があります。

長期的な視点では、2028年の国際宇宙ステーション向け本格運用開始、そして2035年の有人宇宙船実現という野心的なロードマップが描かれています。これが実現すれば、欧州は約30年ぶりに独自の有人宇宙輸送能力を回復することになり、宇宙開発における地政学的バランスに大きな影響を与える可能性があります。

【用語解説】

軌道離脱燃焼(デオービット・バーン)
宇宙船が地球軌道から離脱するためにエンジンを逆噴射する操作。速度を減速させることで重力に引かれて大気圏に再突入させる。

相乗りミッション(ライドシェア・ミッション)
複数の小型衛星や実験装置を一つのロケットで同時に打ち上げるサービス。コストを分担することで安価な宇宙アクセスを実現する。

姿勢制御システム(GNC)
Guidance, Navigation, and Controlの略。宇宙船の位置、方向、速度を制御するシステム。

SCIFLI(サイフライ)
Scientifically Calibrated In-Flight Imageryの略。NASAの飛行中画像収集チームで、宇宙船の打ち上げや再突入時のデータ収集を専門とする。

【参考リンク】

The Exploration Company公式サイト(外部)ドイツ・フランス拠点の宇宙物流スタートアップの公式サイト。Nyx宇宙船の技術仕様、ミッション詳細、採用情報などを掲載。

欧州宇宙機関(ESA)(外部)欧州22カ国が参加する宇宙機関。国際宇宙ステーション計画や火星探査、地球観測衛星などの宇宙開発を推進。

SpaceX(外部)イーロン・マスクが設立した米国の宇宙企業。ファルコン9ロケットやドラゴン宇宙船を開発し、商業宇宙輸送市場をリード。

【参考動画】

【参考記事】

NASA to gather in-flight imagery of commercial test capsule re-entry(外部)
NASAのSCIFLIチームとエクスプロレーション・カンパニーの協力による再突入データ収集について詳細解説。

SpaceX’s Transporter 14 launch will carry more than 150 capsules(外部)
トランスポーター14ミッションの詳細と、セレスティス社のメモリアル・ペイロードを含む多様な顧客ペイロードについて報告。

The Exploration Company Unveils Proposed Crew Capsule(外部)
2035年実現予定の有人版Nyxカプセルの技術仕様と、10億ユーロの開発費用、ESA加盟国の政治的決断の必要性について報告。

NASA and The Exploration Company’s ‘Mission Possible’(外部)
NASAのSCIFLIチームとの協力による再突入データ収集の重要性と、計算流体力学モデルの改善への貢献について解説。

【編集部後記】

今回のミッション・ポッシブルは、まさに宇宙輸送の民主化が始まる瞬間を目撃できる貴重な機会です。300キログラムの顧客ペイロードには様々な実験装置が搭載され、短時間の軌道飛行でも科学技術の進歩に貢献できることを実証します。

また、欧州発のこうした技術革新が、日本の宇宙産業にどのような影響を与えるか、一緒に考えてみませんか?宇宙がもはや特別な場所ではなく、ビジネスの舞台として身近になりつつある今、私たちの生活にどんな変化をもたらすのでしょうか。

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乗杉 海
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