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中国の衛星レーザー通信が1Gbps達成、Starlink比5倍速で宇宙通信に革命

中国の衛星レーザー通信が1Gbps達成、Starlink比5倍速で宇宙通信に革命 - innovaTopia - (イノベトピア)

Last Updated on 2025-06-24 07:27 by admin

中国の科学者チームが高度36,000キロメートルの静止軌道衛星から地球へのレーザー通信で1Gbpsのデータ伝送速度を達成した。

この衛星はわずか2ワットの赤外線レーザーを使用しているにもかかわらず、その速度はSpaceXのStarlinkの数百Mbpsと比較して約5倍高速である。

研究チームは北京郵電大学のWu Jian教授と中国科学院のLiu Chaoが率いた。技術的革新として適応光学(AO)とモード多様性受信(MDR)を組み合わせた「AO-MDRシナジー」手法を開発し、大気乱流による信号歪みを補正した。実験では357個のマイクロミラーを配置し、大気乱流による波面歪みを補正した。信号受信成功率は従来の72%から91.1%に向上した。

Starlinkは高度約550キロメートルで運用されているのに対し、この中国衛星は60倍以上高い軌道から通信を実現した。

From: 文献リンクChina Strikes Hard: Chinese Satellite Pulverizes Starlink With a 2-Watt Laser 36,000 KM From Earth

【編集部解説】

まず技術的な背景を整理しましょう。従来の衛星通信では電波を使用していましたが、レーザー光を用いることで理論上はるかに高速な通信が可能になります。実際、JAXAも「だいち4号」と光データ中継衛星間で1.8Gbps(計画値)の高速通信実証を進めるなど、この分野での技術競争が激化しています。

中国の研究チームが開発した「AO-MDRシナジー」技術は、地球の大気が光を散乱させる問題に対する革新的なアプローチです。適応光学(AO)で光の歪みをリアルタイムで補正し、同時にモード多様性受信(MDR)で散乱した光信号を効率的に捕捉する仕組みです。357個のマイクロミラーを使った補正システムにより、信号受信成功率を72%から91.1%まで向上させています。

ただし、Starlinkとの直接比較には注意が必要です。Starlinkは低軌道衛星群による全球カバレッジを目指すサービスですが、今回の中国の実験は静止軌道の単一衛星による技術実証です。用途も目的も異なるため、単純な速度比較だけで優劣を論じるのは適切ではありません。

中国は現在、「Guowang」「千帆」など複数の衛星コンステレーション計画を進めており、今後数十年で43,000基のLEO衛星打ち上げを計画しています。さらには長光衛星技術が100Gbpsの衛星地上間レーザー通信を実現し、宇宙での計算処理能力向上にも注力しています。

この技術が実用化されれば、まず軍事・政府機関での高速データ通信に活用される可能性が高いでしょう。民生分野では、災害時の緊急通信や、海洋・山間部での高速インターネット接続などが期待されます。

一方で、レーザー通信技術の軍事転用リスクも考慮すべき点です。高出力レーザーは通信だけでなく、他国の衛星への妨害や攻撃にも使用可能な技術だからです。国際的な宇宙利用ルールの整備が急務となるでしょう。

技術的な課題としては、天候による影響があります。雲や霧、雨などによってレーザー光は遮断されるため、地上局の複数配置や電波通信との併用が必要になります。

長期的には、この技術は6G通信網の基盤技術として発展する可能性があります。特に、地上の光ファイバー網と宇宙のレーザー通信網を統合した、真のグローバル高速通信インフラの実現に向けた重要な一歩と言えるでしょう。

【用語解説】

適応光学(AO:Adaptive Optics)
大気乱流による光の歪みをリアルタイムで補正する技術。望遠鏡内の数百個のマイクロミラーが高速で動作し、波面の歪みを修正する。

モード多様性受信(MDR:Mode Diversity Reception)
散乱した光信号を複数の経路から同時に受信し、最適な信号を選択・合成する技術。信号の安定性と品質を向上させる。

静止軌道
地球の自転と同期して周回する高度約36,000kmの軌道。衛星が地上から見て常に同じ位置に留まるため、通信衛星や気象衛星に使用される。

低軌道衛星(LEO)
高度200-2,000km程度の軌道を周回する衛星群。地上との距離が近いため低遅延通信が可能だが、移動するため多数の衛星が必要。

大気乱流
大気中の温度や密度の不均一により光が散乱・歪曲される現象。地上からの天体観測や衛星レーザー通信の主要な障害となる。

波面歪み
光波が大気を通過する際に生じる位相のずれ。これにより光の焦点がぼやけ、通信品質が劣化する。

衛星コンステレーション
複数の人工衛星を連携させて一体的に運用するシステム。全球カバレッジや冗長性確保が可能になる。

【参考リンク】

北京郵電大学(Beijing University of Posts and Telecommunications)(外部)
中国の情報通信分野における最高峰の大学の一つ。今回の研究を主導したWu Jian教授が所属する機関

中国科学院(Chinese Academy of Sciences)(外部)
中国最大の研究機関で、106の研究所と71,300人の研究者を擁する。今回の研究に参加したLiu Chaoが所属

SpaceX Starlink(外部)
SpaceXが運営する低軌道衛星インターネットサービス。全世界でブロードバンドインターネット接続を提供

【参考記事】

Chinese satellite achieves 5 times Starlink speed with 2-watt laser(外部)
中国の科学者が静止軌道から2ワットレーザーで1Gbpsのデータ伝送を実現したと報じる記事

This Chinese satcom tech transmits data 5x faster than Starlink(外部)
中国の衛星通信技術がStarlinkの5倍の速度でデータ伝送を実現したことを詳細に解説

China beats Starlink to hi-res space-ground laser transmission at 6G standard(外部)
中国の長光衛星技術が100Gbpsの超高速衛星地上間レーザー伝送を実現したことを報告

China Achieves Milestone in Satellite-to-ground Laser Communications(外部)
中国科学院が10Gbpsの衛星地上間レーザー通信実験に成功したことを公式発表

Progress and Prospect of Space Laser Communication Technology(外部)
宇宙レーザー通信技術の進歩と展望について包括的に解説した学術論文

China’s Advancements in Laser Technology and Remote Sensing Satellites(外部)
中国のレーザー技術とリモートセンシング衛星の進歩について市場分析の視点から解説

【編集部後記】

宇宙からのレーザー通信技術、皆さんはどう感じられましたか?わずか2ワットという微弱な光で地球との高速通信を実現する技術は、私たちの未来の通信環境を大きく変える可能性を秘めています。

この技術が実用化されたとき、皆さんの生活や仕事にはどのような変化が訪れるでしょうか?災害時の緊急通信から、リモートワークの新たな可能性まで、想像してみていただけませんか?技術の進歩とともに、私たちも新しい未来を一緒に考えていけたらと思います。

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TaTsu
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