Last Updated on 2025-06-28 20:20 by admin
NASAとノースロップ・グラマンは2025年6月26日木曜日、ユタ州プロモントリー生産・試験サイトでBOLE(ブースター陳腐化・寿命延長)固体ロケットモーターの初回フルスケール静的燃焼試験を実施した。
140秒間の試験では140万ポンド以上の推進剤を燃焼し、390万ポンド以上の推力を発生させた。数百のセンサーを使用してその動作を監視し、この試験はBOLEモーター設計の弾道性能、ならびにそのノズル、断熱材、電子推力ベクトル制御(eTVC)ベクタリング性能を実証した。
この燃焼試験はまた、従来の設計と比較して約25%のコスト削減を目指した新しい国産材料と製造プロセスの使用を検証することも目的としていた。比較として、SpaceXの主力ロケットFalcon 9は打ち上げ時に約170万ポンドの推力を生成し、SpaceXの強力なStarship機体は発射台を離れる際に1670万ポンドの推力を生成する。
木曜日の燃焼試験は正常に開始されたが、約100秒後にプルーム内で何らかの爆発的事象が発生したように見え、おそらく排気ノズルに関わるものだった。しかし、ブースターは目立った困難もなくさらに40秒間燃焼を続けた。ノースロップ・グラマンは、この明らかな異常の原因や影響についてまだコメントしていない。
試験終了のわずか数分後に話したNASA SLSブースタープログラムマネージャーのデイブ・レイノルズは「これは先端から末端まで全く新しいブースターです。このブースターには非常に多くの異なる点があります — 実際、近く予定されているアルテミスII任務で飛行する現在のブースターとはほとんど関係がありません。私たちは多くのことを学ぶことを期待していました。そして、今後6か月間をかけてそのすべてのデータを掘り下げ、何をする必要があるかを見つけ出すことを保証します」と述べた。
このブースターは、NASAのSLSロケットの一部として初回飛行が予定されており、現在2034年に予定されている第9回アルテミス任務で、有人月面着陸を伴う予定である。しかし、トランプ政権はアルテミス予算の削減を望んでおり、代わりに商業打ち上げパートナーシップを優先し、月面任務を犠牲にして初回有人火星任務に焦点を移すことを目指している。言い換えれば、このブースターが飛行することはないという可能性がある。
From: NASA just test fired its next-gen SLS lunar rocket booster – watch it here
【編集部解説】
今回のBOLE(ブースター陳腐化・寿命延長)モーター燃焼試験は、単なる技術実証を超えた重要な意味を持っています。このモーターはNASAのSLS用次世代固体ロケットブースターであり、従来の設計と比較して約25%のコスト削減を目指した革新的な設計となっています。
特筆すべきは、新しい国産材料と製造プロセスの採用です。これにより製造コストの大幅な削減と供給チェーンの安定化を同時に達成し、長期的な宇宙探査計画の持続可能性を高めることが期待されています。また、電子推力ベクトル制御(eTVC)システムの導入により、従来の油圧式システムより軽量で信頼性の高い制御が可能になります。
しかし、試験開始から約100秒後に発生した爆発的事象は看過できない問題です。固体ロケットモーターは一度点火すると停止できないため、このような異常事象への対処は極めて困難になります。ノースロップ・グラマンがまだコメントしていない状況は、この問題の深刻さを示唆している可能性があります。
このBOLEモーターの実用化は、月面基地建設や火星探査といった長期的な宇宙開発計画の実現可能性を大きく左右します。390万ポンド以上の推力により、より重いペイロードの月面輸送が可能となり、持続可能な月面活動の基盤構築に貢献することが期待されています。
一方で、トランプ政権によるアルテミス計画予算削減の動きは、この技術革新の成果を活用する機会そのものを奪う可能性があります。2034年予定のアルテミスIX任務での初回飛行が実現しなければ、数十億ドルの開発投資が無駄になるだけでなく、アメリカの宇宙開発における技術的優位性の維持にも影響を与えかねません。
今後6か月間のデータ解析結果は、アメリカの宇宙政策の方向性を決定する重要な判断材料となるでしょう。技術的な課題解決と政治的な予算確保、この両方が揃って初めて、人類の宇宙進出における新たな章が開かれることになります。
【用語解説】
BOLE(Booster Obsolescence and Life Extension)
ブースター陳腐化・寿命延長の略称。NASAのSLSロケット用次世代固体ロケットブースターの開発プログラム名である。現行ブースターの部品調達困難化と性能向上を目的として2017年に開始された。
SLS(Space Launch System)
NASAが開発する超大型使い捨てロケット。アルテミス計画の主力打ち上げ機として設計され、有人月面探査ミッションに使用される。Block 1、Block 1B、Block 2の3つの構成が計画されている。
セグメント式固体ロケットモーター
複数の円筒状セグメントを組み合わせて構成される固体燃料ロケットエンジン。スペースシャトル時代から使用されている技術で、製造・輸送・組み立てが容易になる利点がある。
電子推力ベクトル制御(eTVC)
ロケットノズルの向きを電子制御で調整し、飛行方向を制御する技術。従来の油圧式システムより軽量で信頼性が高く、有害物質を使用しない。
アルテミス計画
NASAが主導する月面探査プログラム。2017年に正式発足し、2030年代の持続的月面基地建設と火星探査の足がかりとすることを目標としている。
【参考リンク】
NASA公式サイト(外部)
アメリカ航空宇宙局の公式ウェブサイト。宇宙探査ミッション、科学研究、技術開発に関する最新情報を提供
ノースロップ・グラマン公式サイト(外部)
アメリカの大手航空宇宙・防衛企業の公式サイト。宇宙システムなどの製品情報と企業情報を掲載
【参考動画】
【参考記事】
Northrop Grumman tests SLS Block 2 BOLE booster in Utah(外部)
BOLE DM-1試験の詳細な技術解析記事。試験手順、異常事象の詳細について専門的な視点から解説
Northrop Grumman tests most powerful segmented solid rocket booster ever built(外部)
BOLE燃焼試験の基本情報と技術仕様について報じた記事。数百のセンサーによる監視体制について言及
【編集部後記】
今回のBOLE燃焼試験を見て、皆さんはどんなことを感じられたでしょうか。技術的な成功と政治的な不確実性が交錯する現代の宇宙開発は、まさに私たちが生きる時代の縮図のように思えます。
一方で民間企業のSpaceXが躍進し、他方で国家プロジェクトが予算削減の危機に直面する。この状況をどう捉えるべきか、皆さんと一緒に考えてみたいのです。宇宙開発の未来は、技術だけでなく私たち市民の関心と支持にも左右されるのかもしれませんね。