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MIT開発の「プチプチ」型装置、砂漠で電源不要の飲料水生成に成功

MIT開発の「プチプチ」型装置、砂漠で電源不要の飲料水生成に成功 - innovaTopia - (イノベトピア)

Last Updated on 2025-07-02 00:05 by admin

MIT(マサチューセッツ工科大学)の機械工学者Xuanhe Zhao教授とChang Liu研究員らが、電源不要で空気中から飲料水を生成する大気中水分収集装置を開発した。この装置はNature Water誌で発表された。

装置は窓サイズの黒いパネルで、ポリビニルアルコール、塩化リチウム、グリセロール、黒インクで構成されたハイドロゲル素材をガラス板で挟んだ構造である。ハイドロゲルはプチプチ状のドーム型構造で表面積を拡大し、夜間に水蒸気を吸収、日中に蒸発した水分がガラス面で凝縮して回収される。

研究チームはカリフォルニア州デスバレーでテストを実施し、1日あたり57〜161.5ミリリットルの飲料水を生産した。夜間の最も湿度が高い条件で1日160ミリリットル(約3分の2カップ)の水を抽出した。複数パネルを配列すれば家庭用水供給も可能とされる。世界では45億人が安全な飲料水の安定供給を受けていない状況にある。

From: 文献リンクThis Strange ‘Bubble Wrap’ Can Produce Drinking Water in The Desert

【編集部解説】

この技術の核心は、従来の大気中水分収集装置が抱えていた根本的な課題を解決した点にあります。これまでの装置は電力を必要とし、1日数ミリリットル程度の微量な水しか生産できませんでした。

MITチームが開発したハイドロゲル素材は、ポリビニルアルコール(PVA)をベースに塩化リチウム、グリセロール、黒インクを配合した独自の組成となっています。特に注目すべきは、従来の装置で問題となっていた塩の漏出を、グリセロールによって0.06ppm以下に抑制した点です。これは飲料水の安全基準値を十分に満たしています。

プチプチ状のドーム構造は単なるデザインではなく、表面積を最大化するための工学的な設計です。夜間の高湿度時に水蒸気を吸収し、日中の温度上昇で蒸発させ、冷却されたガラス面で凝縮させるという熱力学的サイクルを巧みに活用しています。

この技術が持つ最大のインパクトは、インフラが整備されていない地域での水供給を可能にすることです。太陽光発電すら困難な僻地でも、複数パネルを配列することで家庭用水の確保が期待できます。

一方で、現段階では1日160ミリリットルという生産量は個人の最低限の飲料水需要(WHO推奨の1日2リットル)を大きく下回ります。実用化には大幅なスケールアップが必要で、製造コストや耐久性も未知数です。

長期的な視点では、この技術は気候変動による水不足問題への対応策として重要な意味を持ちます。大気中の水蒸気量は温暖化とともに増加するため、従来の水源に依存しない新たな水資源として位置づけられる可能性があります。

【用語解説】

ハイドロゲル
親水性ポリマーが三次元網目構造を形成し、大量の水を吸収・保持できる材料。生体適合性が高く、ソフトコンタクトレンズや医療用材料として広く使用されている。

ポリビニルアルコール(PVA)
水溶性の合成高分子で、接着剤や繊維、フィルムなどに使用される。今回の研究では、ハイドロゲルのベース材料として採用されている。

塩化リチウム
吸湿性の高い無機塩で、空気中の水蒸気を効率的に吸収する性質を持つ。従来の大気中水分収集装置でも使用されているが、水への漏出が問題となっていた。

グリセロール
三価アルコールの一種で、保湿剤や甘味料として使用される。本研究では塩化リチウムの漏出を防ぐ封じ込め材として機能している。

大気中水分収集装置(Atmospheric Water Harvester)
空気中の水蒸気を捕集し、液体の水として回収する装置の総称。従来は電力を必要とするものが多かったが、本研究では完全にパッシブな動作を実現している。

Nature Water
2023年に創刊されたネイチャー・ポートフォリオの水資源研究専門誌。自然科学、工学、社会科学にわたる水関連研究を月刊で発行している。

【参考リンク】

MIT News(外部)
マサチューセッツ工科大学の公式ニュースサイト。最新の研究成果や技術開発情報を発信している。

Zhao Lab at MIT(外部)
Xuanhe Zhao教授が率いるMITの研究室公式サイト。ソフトマテリアル技術と人間-機械インターフェースの研究を行っている。

MIT J-WAFS(外部)
MITの水・食料システム研究所。世界的な水不足問題の解決に向けた技術開発を支援している。

【参考動画】

【参考記事】

MIT’s passive water harvester pulls water from air(外部)
New Atlas誌による技術的特徴の詳細解説。他の水収集技術との比較分析を含んでいる。

New MIT tech turns desert air into safe drinking water(外部)
Fast Company誌による技術の実用化可能性に焦点を当てた解説記事。商業化への展望について言及している。

【編集部後記】

この技術を見て、皆さんはどのような可能性を感じられるでしょうか。電力インフラのない地域での水確保はもちろん、災害時の緊急用水源や、宇宙開発での応用など、様々な展開が考えられそうです。一方で、現在の生産量では実用化までにはまだ課題も多そうですね。皆さんなら、この技術をどのような場面で活用したいと思われますか?また、スケールアップの課題をどう解決していけばよいと思われるでしょうか。ぜひSNSで、皆さんのアイデアや感想をお聞かせください。

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TaTsu
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