デジタル庁が公開したのは、22MBのガイドブック1冊ではありません。その隣に、要件定義ワークシート、プロトタイプ作成ツール、チェックリストなど5つのファイルが個別に置かれています。しかも一つはPowerPoint形式で、Power BIがなくても開けます。この一式が想定している読み手は、行政職員だけではなさそうです。
デジタル庁は2026年3月31日、「ダッシュボードデザインの実践ガイドブック」とデザインテンプレートの正式版を公開した。テンプレートはPower BI用で、pbitファイル形式で配布される。2026年7月17日にはカラーパレットのカラーコードを更新した。
ガイドブックは、要件整理からプロトタイプによる合意形成までを含むQCD(品質・コスト・納期)の改善プロセスや、情報表現のDo’s/Dont’sを紹介する。テンプレートには背景・チャート・書式の設定があらかじめ整えられ、レイアウト用のグリッドシステムと、Solid Gray、Blue、Light Blue、Cyan、Green、Orange、Redの7色のカラーパレットを備える。ガイドブックはデジタル庁のJapan Dashboardや政策データダッシュボードの制作知見をもとに体系化された。
テンプレートに適用するJSONファイルはGitHubで公開されている。
From:
ダッシュボードデザインの実践ガイドブックとデザインテンプレート|デジタル庁
【参考動画】
【編集部解説】
役所が公開するもの、と聞いて多くの人が思い浮かべるのは、統計の数字や制度の解説かもしれません。ところが今回デジタル庁が配っているのは、データそのものではなく「データの見せ方」です。ここに、この取り組みの面白さがあります。
背景には、EBPM(証拠にもとづく政策立案)という考え方の広がりがあります。勘や前例ではなく、データを根拠に政策を決め、その効果を確かめる。そのために、まずは数字を「誰が見てもわかる形」にする必要があります。ダッシュボードは、その入り口にあたる道具です。
ただ、行政の現場には「データは大事だと言われても、どう見せればいいのかわからない」という壁がありました。ガイドブックとテンプレートは、まさにこの壁を低くするために用意されたものだと受け取れます。
とりわけ注目したいのが、Power BI用のテンプレートに背景や書式があらかじめ組み込まれている点です。色を選び、グリッドに沿ってグラフを置くだけで、ある程度整った画面ができあがる。これは、ダッシュボードを一度も作ったことのない職員でも成果物にたどり着ける、という意味を持ちます。
つまりこの取り組みは、専門家だけのものだった「データを見せる技術」を、組織の誰もが扱えるように広げようとしているわけです。データ活用の裾野を広げる仕掛け、と言い換えてもよいかもしれません。
一方で、見過ごせない論点もあります。ガイドブックが「望ましい表現(Do’s)」と「避けるべき表現(Dont’s)」を示していることです。グラフの見せ方ひとつで、人の受ける印象や判断は変わります。だからこそ「誤解を生まない表現」を標準として定めることには、大きな意味があります。
もっとも、これは筆者の解釈ですが、見せ方の作法を統一することは、諸刃の剣でもあります。整った画面は信頼を生みますが、同時に「整っているから正しい」と受け手が思い込むきっかけにもなり得ます。データの見た目と、その背後にある数字の確からしさは、本来別の話です。
この点は、テンプレートを使う側のリテラシーにゆだねられる部分でしょう。デザインが誠実さを保証してくれるわけではない——そのことは、作り手も読み手も心に留めておきたいところです。
なお、こうした素材はGitHubでJSONファイルとして公開され、色のカラーコードも今も更新が続いています。行政の成果物がオープンソースの作法で手入れされ続けている点は、それ自体が静かな変化だと感じます。
未来の政策が、より確かなデータの上に立つのか。その土台づくりが、こうした地味なテンプレート配布から始まっている——そう考えると、一見素通りしそうなこのニュースが、少し違って見えてこないでしょうか。
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デジタル庁が作法をガイドラインとして定める動き。Do’s/Dont’sによる標準化と構造が重なる。
【編集部後記】
公開されているファイルを一つずつ開いていくと、22MBのPDF本体より先に、周辺資料のほうへ手が伸びます。ダウンロードできるのは本体だけではありません。要件定義ワークシート、プロトタイプ作成ツール、利用マニュアル、チェックリスト、要約テキストフォーマット。この5点が、本体とは別に個別に置かれています。
なかでもプロトタイプ作成ツールはPowerPointファイルで、BIツールを持っていなくても画面案を組み立てられます。企画の段階で「こういう見せ方はどうか」を関係者に見せる用途に、そのまま使えます。Power BI用のテンプレートばかりが目に入りますが、多くの人にとって先に効くのはこちらかもしれません。
要件定義ワークシートは、誰が何を知りたくて、それを見て何をするのかを書き出す型です。可視化に限らず、資料でも記事でも、設計の出発点は変わりません。チェックリストは公開前の自己点検表で、問われているのは表現が誤解を生まないかどうかですから、提案資料にも図版にも同じように使えます。要約テキストフォーマットのほうは、グラフの内容を文章で伝えるための書式です。視覚に頼らず数字を届ける必要がある場面は、行政の外にもいくらでもあります。
GitHubに置かれたカラーテーマも、中身はカラーコードの一覧です。Power BIを離れて、資料作成ツールでも表計算ソフトでもWebでも、配色をそろえる基準として持ち出せます。同じリポジトリには都道府県・市区町村の行政区域ポリゴンデータもありますが、こちらは国土数値情報の利用規約が別にかかるため、使う前の確認が要ります。
そして、作らない人にも使い道があります。ガイドブックが示す望ましい表現と避けるべき表現は、そのまま読む側の物差しになります。企業のリリースや調査レポートのグラフを前にして、なぜこの見せ方に引っかかるのかを言葉にできるようになる。本体には全文のテキスト版も用意されているので、必要なところだけ探して読むこともできます。
こうした判断の型は、本来ならデータビジュアライゼーションの専門書を何冊か読んで身につけるものでした。それが日本語で、無料で、一式そろって置かれている。対象は行政職員に限られていません。公式ページは民間事業者や個人も含むと明記していますし、自治体や企業ですでに使われているとする政府資料もあります。では、このガイドが実務の共通言語になっていったとき、「避けるべき表現に載っていないから問題ない」という判断は、どこまで通用するのか。
【用語解説】
ダッシュボード
複数のデータや指標を、グラフや表として一つの画面にまとめて表示する仕組み。数字の全体像を一目で把握し、状況の変化を追いやすくするために用いられる。
EBPM(証拠にもとづく政策立案)
Evidence-Based Policy Makingの略。勘や前例ではなく、データという客観的な根拠にもとづいて政策を立案・評価・改善する考え方。
QCD
Quality(品質)、Cost(コスト)、Delivery(納期)の頭文字をとった言葉。ものづくりやプロジェクト管理で、成果物の良し悪しを測る基本的な観点として使われる。
プロトタイプ
本格的に作り込む前に用意する試作品。関係者と早い段階でイメージを共有し、方向性のずれを修正するために用いられる。
カラーパレット
資料やデザインで使う色の組み合わせをあらかじめ定めたもの。色の統一により、見た目の一貫性や読み取りやすさを保つ役割を持つ。
グリッドシステム
画面や紙面を格子状の基準線で区切り、要素を整列させて配置するためのデザイン手法。誰が作ってもレイアウトが崩れにくくなる。
pbit / JSON
pbitはPower BIのテンプレート形式のファイルで、ここではデザインテンプレートとして配布されている。JSONはデータや設定を記述するテキスト形式で、ここではカラーテーマ(配色の設定)に使われている。
【参考リンク】
ダッシュボードデザインの実践ガイドブックとデザインテンプレート|デジタル庁(外部)
本件の一次情報。ガイドブックとPower BI用テンプレートの概要、ダウンロード先、活用事例がまとまった公式ページ。
policy-dashboard-assets|GitHub(外部)
テンプレート(.pbit)とカラーテーマ(.json)、地図データを公開するリポジトリ。利用規約や出典表記の指針も記載。
Japan Dashboard|デジタル庁(外部)
GDP統計や人口、地方財政などの公的統計を可視化する公式ダッシュボード。ガイドブックの知見の土台となった取り組み。
政策ダッシュボード一覧|デジタル庁(外部)
行政手続のデジタル化やマイナンバーカードの普及状況など、政策分野のデータを可視化した公式ダッシュボード群の一覧。
Power BI|Microsoft(外部)
本テンプレートが対象とするMicrosoftのデータ可視化ツール。データ取り込みからグラフ作成、共有までを行える公式ページ。
【参考記事】
データを使って政策を進めることを「アタリマエ」に|デジタル庁note(外部)
EBPMや政策効果の可視化を担う「ファクト&データユニット」(約15名)の活動と仕組みづくりを紹介した記事。
政策ダッシュボードの取組等について(資料9)|内閣官房(外部)
ガイドブックの利用状況や、全国学力・学習状況調査(毎年4月・約200万人)のダッシュボード事例を記載した政府資料。
デジタル行財政改革におけるEBPMの取組(資料4-1)|内閣官房(外部)
政策の因果検証にデータの見える化が重視され、その取得・分析コスト低減が課題であることを示した政府資料。
ダッシュボードを活用した政策実務の調査研究|デジタル庁(外部)
EBPMが重点計画に位置づけられた経緯と、国内外の行政組織のダッシュボード活用事例(2024年10月時点)を整理。
ガイドブックとデザインテンプレートの活用事例集|デジタル庁ニュース(外部)
ガイドブックとテンプレートで品質向上と開発効率化を実現した、行政現場の4つの先行事例を紹介した記事。
Power BI|Microsoft(公式製品ページ)(外部)
テンプレートが対象とする可視化ツールの公式ページ。参考リンクのURL確認にあたって参照した。












