偽造品対策は、見破る技術があるだけでは十分ではありません。誰が、どこで、どれだけ簡単に確認できるかが実用性を左右します。スマートフォンを入口にした新しい認証方式は、真贋判定の担い手をどこまで広げられるのでしょうか。
中国・南充職業技術学院(Nanchong Vocational and Technical College)芸術学部(Department of Art)の研究チームは、温度と光に反応するマイクロカプセル、UVインク、スマートフォン分光センシングを利用した携帯型検出端末を組み合わせた偽造防止ラベルを開発した。
研究成果はInternational Journal of Materials and Product Technologyに掲載されている。ラベルは、5回のコールドチェーンサイクル後も83.33%の色保持率を維持した。特定条件の5段階高品質模倣ラベルに対する試験では、97.5%の分類精度を記録した。
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This new technology could make spotting fake products easier for everyone
【編集部解説】
偽造防止技術には、ホログラム、特殊インク、微細加工、個体ごとに異なるQRコードなど、さまざまな方式があります。日本でも複数の印刷技術を一つのラベルに組み合わせ、コピーや貼り替えを難しくする方法が提供されています。
ただし、高度なラベルを製造できても、流通現場で簡単に確認できなければ活用範囲は限られます。専用の読み取り装置を倉庫、小売店、税関、消費者の手元にまで配置することは、費用や運用の面で容易ではありません。
今回の研究が目指しているのは、偽造されにくい印刷材料を開発するだけでなく、その判定手段を持ち運べる形にすることです。温度と光に反応する二室型のマイクロカプセル、高速印刷に対応するUVインク、スマートフォン分光センシングと機械学習を利用した携帯型検出端末を一つのシステムとして設計しています。
この技術の意味は、スマートフォンが高性能な分析装置へ完全に置き換わることではありません。論文要旨では、スマートフォン分光センシングを利用した「携帯型検出端末」が構築されたと説明されています。現時点では、一般的なスマートフォンのカメラだけで、誰でも直ちに真贋を判定できるとまでは確認できません。
それでも、判定結果を取得・分析する入口としてスマートフォンを使えるのであれば、専用の据え置き型装置に比べて導入場所を広げやすくなります。メーカーの検査部門だけでなく、物流倉庫や小売店でも確認できるようになれば、偽造品を流通経路の複数地点で発見する仕組みを構築できます。
さらに将来、消費者向けの仕組みとして提供されれば、購入者自身が商品を確認することも考えられます。これは、真贋判定を一部の専門担当者に集中させる方式から、流通に関わる複数の主体が確認に参加する方式への変化です。
偽造品の国際取引は、一部の商品だけに限られた問題ではありません。OECDと欧州連合知的財産庁の報告では、2021年の偽造品・海賊版商品の国際取引額は約4670億ドルと推計され、世界の輸入額の2.3%に相当するとされています。
研究では、5回のコールドチェーンサイクル後に83.33%の色保持率を維持しました。また、特定条件の5段階高品質模倣ラベルに対する試験では、97.5%の分類精度を記録したと報告されています。
ただし、この数値は研究で設定された特定条件における結果です。市場に流通するあらゆる製品や偽造手法に対して、同じ精度を保証するものではありません。
実用化には、ラベルを既存の印刷・包装工程へ組み込む費用に加え、検出端末の供給、基準データの管理、機械学習モデルの更新などが必要になると考えられます。また、正規品を偽物と判定した場合や、偽造品を見逃した場合に、メーカー、販売者、認証サービスのどこが対応するのかも決めなければなりません。
今回の技術は、すぐに利用できる消費者向け真贋判定アプリではなく、大量印刷できる反応型ラベルと携帯可能な認証手段を組み合わせた研究段階のシステムです。
ただし、真贋判定を専門設備の置かれた場所から流通現場へ広げる設計は、偽造防止を「企業が付ける印」から「多くの人が確認できる仕組み」へ変える可能性を持っています。
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【編集部後記】
偽造品を見分ける技術が、専門家だけのものではなくなる点に面白さを感じました。スマートフォンを入口にできれば、購入者自身が商品を確かめられる場面も増えそうです。一方で、実際には携帯型検出端末が必要であり、誰でもすぐ使える段階ではありません。判定精度だけでなく、導入費用や誤判定への対応も重要になるでしょう。
それでも、商品を「信用する」だけでなく「確認する」選択肢が増えることには期待しています。
【用語解説】
インテリジェント応答型印刷材料
温度や光などの外部環境に応じて、色や光学的な特性が変化する印刷材料。変化の組み合わせを真贋判定に利用する技術。
二室型マイクロカプセル
内部を二つの区画に分け、温度と光に応答する構造を持たせた微小なカプセル。今回の研究では、複数の環境条件に反応するラベル材料として採用。
UVインク
紫外線を照射することで硬化するインク。乾燥時間が短く、スクリーン印刷やインクジェット印刷などの高速な製造工程への組み込みに利用される。
スマートフォン分光センシング
物体に当たった光の波長や強度を、スマートフォンと検出機器を組み合わせて測定する方法。今回の研究では、ラベルが示す光学的な反応の取得に利用。
SVM-CNN
論文がSVM-CNNと呼ぶ、取得した光学データから真正品と模倣品を分類するための機械学習アルゴリズム。
色保持率
温度変化や保存試験などを経た後に、印刷物の色がどの程度維持されているかを示す指標。今回の研究では、5回のコールドチェーンサイクル後に83.33%を記録。
【参考リンク】
International Journal of Materials and Product Technology(外部)
材料技術、製品設計、製造工程などを扱うInderscienceの査読付き学術誌。今回の研究論文の掲載誌。
OECD「Counterfeit and pirated goods」(外部)
偽造品・海賊版商品の国際取引や、経済、知的財産、消費者の安全への影響をまとめたOECDの公式情報ページ。
TOPPANインフォメディア「セキュリティラベル・シール/関連サービス」(外部)
ホログラム、特殊インク、可変QRコード、改ざん防止ラベルなど、国内で提供されている偽造防止・真贋判定技術の紹介ページ。
【参考記事】
Preparation of intelligent responsive printing materials and their application in anti-counterfeiting and packaging|International Journal of Materials and Product Technology(外部)
温度・光応答型マイクロカプセル、UVインク、スマートフォン分光センシングを統合した今回の研究論文。試験方法、判定精度、耐環境性能の概要を掲載。
DOI: 10.1504/IJMPT.2026.155361
Mapping Global Trade in Fakes 2025|OECD・EUIPO(外部)
2021年の偽造品・海賊版商品の国際取引額を約4670億ドル、世界の輸入額の2.3%と推計した報告書。流通経路や対象品目の変化も分析。
セキュリティ技術ラインアップ|TOPPANインフォメディア(外部)
マイクロ文字、カラーシフトインキ、ブラックライトインキ、ホログラム、可変QRコードなど、複数技術を組み合わせる既存の偽造防止ラベル事例。


















