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NAS・NSF・EPAが緊急警告:米国科学界が直面する『自由な研究』崩壊の衝撃

 - innovaTopia - (イノベトピア)

Last Updated on 2025-04-22 16:06 by admin

2025年4月1日、全米科学アカデミー(NAS)など米国の主要科学団体に所属する1,900人以上の科学者・技術者が、トランプ政権による科学政策への懸念を表明する公開書簡を発表した。書簡では、連邦政府による科学研究費の大幅削減、科学者の解雇や雇用停止、気候変動やワクチンに関する研究への検閲・圧力などが、米国の科学の独立性と国際競争力を著しく損なうと警告している。具体的には、コロンビア大学では2025年春の大学院新入生が前年より11%減少。国務省(State Department)による大気汚染モニタリングの停止や、疾病管理予防センター(CDC)の感染症監視体制縮小などの事例が挙げられている。

from:Hundreds of scientists accuse Donald Trump of censorship

【編集部解説】

今回の声明は、単なる予算削減の問題にとどまらず、科学の自由と健全なイノベーション生態系の根幹を揺るがす深刻な事態です。特に、政府による研究テーマや発表内容への介入・検閲は、研究者の自律性を損ない、長期的には基礎科学や応用技術の発展を大きく阻害します。気候変動やワクチンといった社会的影響の大きい分野での情報統制は、科学的知見の正確な社会還元を妨げ、政策決定や市民生活にも悪影響を及ぼします。

また、コロンビア大学の大学院新入生が31%減少した事例は、若手研究者のキャリアパスが断たれ、将来の人材不足や「知の空洞化」を招くリスクを示しています。これは米国だけでなく、グローバルな科学技術競争においても大きな損失となります。

一方で、こうした状況を受け、分散型科学(DeSci)やDAO(分散型自律組織)などのWeb3技術を活用した新しい研究資金調達やデータ管理の仕組みが注目されています。既存の中央集権的な研究体制の課題を補完し、研究の自由と透明性を高める動きが広がりつつあります。

日本でも、学術会議の独立性や研究倫理の問題が議論されています。科学の自由と社会的責任のバランスをどう保つかは、今後ますます重要なテーマとなるでしょう。

【編集部追記】

なぜ科学者や科学リテラシーが健全な社会に不可欠なのか

歴史を振り返ると、科学者はしばしば巨大な社会的責任を担ってきました。たとえば、第二次世界大戦中の「マンハッタン計画」では、原爆開発に関わった科学者たちが、その後、核兵器の使用や軍拡競争に対して警鐘を鳴らし、政府に対して倫理的な提言や批判を行いました。また、近年では気候変動や感染症対策など、政治や経済の利害と科学的知見がしばしば対立する場面が増えています。

科学的な良識や知識は、時に政治や経済の短期的な利益と「水と油」のように相容れないことがあります。しかし、だからこそ科学者や市民一人ひとりが科学リテラシーを持つことは、健全な社会の基盤となります。

科学リテラシーとは、単に科学の知識を知っているだけでなく、情報の真偽を見極め、根拠に基づいて判断し、異なる意見や利害が交錯する中でも冷静に議論できる力を指します。この力が社会に広がることで、政策決定や日常の選択が「思い込み」や「感情論」ではなく、客観的な事実や合理的な根拠に基づいて行われるようになります。

現代社会は、気候変動、感染症、AIやバイオテクノロジーなど、複雑で専門的な課題に直面しています。こうした課題に対して、科学リテラシーを持つ市民やリーダーが増えることは、誤情報や陰謀論に惑わされず、社会全体でより良い意思決定を行うための「知の防波堤」となります。

また、科学リテラシーは多様な価値観や利害を調整し、公平で持続可能な社会を構築するうえでの「共通言語」となります。科学者の知見や警鐘が社会で正しく受け止められるためにも、私たち一人ひとりが科学リテラシーを高めていくことが、これからの時代にますます重要になると言えるでしょう。

【参考リンク】

米国科学財団(NSF):基礎研究を支援する連邦機関。AIや量子技術などの先端分野に投資。

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野村貴之
理学と哲学が好きです。昔は研究とかしてました。
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