innovaTopia

ーTech for Human Evolutionー

IWF「Image Intercept」 – EUで急増する実在児童性的虐待画像への対策と欧州の構造的課題

 - innovaTopia - (イノベトピア)

Last Updated on 2025-04-24 15:16 by admin

英国の非営利団体インターネット・ウォッチ・ファウンデーション(IWF)は、2025年4月、EU域内でホストされている児童性的虐待画像が急増していると警告した。

IWFの最新報告によれば、EUは現在、世界で最も多くの児童性的虐待画像が保存・配信されている地域となっており、特にティーンエイジャーの被害が目立つ。こうした状況を受け、IWFは数千の小規模プラットフォーム向けに、既知の違法画像を自動で検知・遮断する無料ツール「Image Intercept」の提供を開始した。

この取り組みは、2023年10月に英国で成立したオンライン安全法(Online Safety Act)とも連動しており、違法コンテンツの拡散防止と児童保護の強化を目指している。IWFは今後も国際的な協力と技術革新を通じて、児童のオンライン上での安全確保に取り組む方針である。

from:Charity raises alarm over surge in level of child sexual abuse imagery hosted in EU

【編集部解説】

EUは、実在する児童への性的虐待とその画像流通が深刻な社会問題となっている地域です。IWFの最新報告が示す通り、EU域内でホストされる児童性的虐待画像(CSAM: Child Sexual Abuse Material)は世界的にも突出して多く、現実の被害児童が増加している現状があります。背景には、EU域内のサーバーやオンラインサービスがグローバルな違法コンテンツの温床となりやすい構造的問題が存在します。

EUは過去から児童の性的搾取や虐待に対する法整備を進めてきました。2007年には欧州評議会が包括的な条約を採択し、児童買春や児童ポルノの犯罪化、防止措置、被害者保護の強化などを規定しています。

近年はインターネットを介したCSAMの拡散や、SNS・チャットサービスを利用した「グルーミング」(児童の勧誘)が深刻化し、欧州委員会は2022年に「オンラインの子どもの性的虐待の規制に関する新たな規則案」を提案しました。

この新規則案では、サービスプロバイダーに対してCSAMの検出・通報義務を課し、独立機関「EU子どもの性的虐待センター(EU Centre)」の設立も盛り込まれています。さらに、裁判所の命令に基づき、合理的な疑いがある場合に限って通信内容の検出を許可するなど、プライバシーと児童保護のバランスを模索しています。

しかし、EUの規制強化には強い反発も根強く存在します。プライバシー保護団体や法曹界は、「無差別な監視」やエンドツーエンド暗号化(E2EE)通信の無効化につながると批判し、欧州議会も修正案を採択するなど議論は続いています。また、プラットフォームの設計や運用方法が悪用されやすいという指摘もあり、技術的・社会的な課題が複雑に絡み合っています。

EUの現状を総括すると、実在児童の性的虐待画像が大量に流通する温床となっている一方、規制強化とプライバシー保護のせめぎ合いが続き、法制度と技術の両面で抜本的な解決策が求められています。今後は国際的な連携や新たな検知技術の導入、そして被害児童の保護と加害者の摘発を両立させるための社会的合意形成が不可欠です。

なお、近年はAIによる児童虐待画像の生成・拡散も新たな脅威となっています。AI生成画像の規制や検知技術の進化は、実在児童の被害を防ぐためにも今後ますます重要な論点となるでしょう。

 【用語解説】

EU子どもの性的虐待センター(EU Centre)
欧州委員会が設立を計画している独立機関。EU域内のCSAM対策の中核を担い、違法コンテンツの検出・通報、被害児童の支援、国際協力の推進などを行う予定。

グルーミング
インターネットやSNSを通じて大人が児童に接近し、信頼関係を築いたうえで性的搾取や虐待に誘導する行為。近年、オンライン上での被害が増加している。

オンライン安全法(Online Safety Act)
2023年10月に英国で成立した法律。オンラインサービス事業者に違法コンテンツのリスク評価・対策を義務付けており、特に児童保護の強化が図られている。

【参考リンク】

Internet Watch Foundation(IWF)(外部)
英国に拠点を置く非営利団体で、1996年からインターネット上の児童性的虐待画像(CSAM)の通報受付や削除要請を行っている。世界中の警察やIT企業、政府機関と連携し、違法コンテンツの特定と削除、被害児童の保護に取り組んでいる。

IWF: Image Intercept(外部)
IWFが開発・提供する無料ツール。中小規模プラットフォーム向けに、既知の児童性的虐待画像を自動で検知・遮断する機能を持つ。

欧州委員会:子どもの性的虐待防止政策(外部)
EUにおける児童性的虐待対策や新たな規則案、EU Centre設立計画の公式発表。

【関連記事】

テクノロジーと社会ニュースをinnovaTopiaでもっと読む

投稿者アバター
りょうとく
主に生成AIやその権利問題について勉強中。
ホーム » テクノロジーと社会 » テクノロジーと社会ニュース » IWF「Image Intercept」 – EUで急増する実在児童性的虐待画像への対策と欧州の構造的課題