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Lp-convolution – IBS・延世大学・マックスプランク脳研究所が開発した「脳型AI」画像認識の新時代

 - innovaTopia - (イノベトピア)

Last Updated on 2025-04-24 15:00 by admin

2025年4月22日、韓国の基礎科学研究院(IBS)認知社会性研究センター、延世大学医学部、ドイツのマックスプランク脳研究所の共同研究チームは、人間の脳の視覚野の情報処理メカニズムを模倣した新しいAI技術「Lp-convolution」を開発したと発表した。

この技術は、従来の畳み込みニューラルネットワーク(CNN)が持つ固定的な正方形フィルターの限界を克服し、多変量p-一般化正規分布(MPND)を用いてフィルター形状を動的に変形させることで、画像認識の精度と計算効率を大幅に向上させる。

研究チームは、Lp-convolutionを既存のCNNモデル(AlexNetやRepLKNet)に組み込むことで、CIFAR-100データセットにおいてRepLKNet-31の精度を83.2%から85.7%へと2.5ポイント向上させたと報告している。

また、Vision Transformer(ViT-B/16)と比較して、計算量(FLOPs)は約12%、メモリ使用量は約19%に抑えられることが確認された。さらに、Lp-convolutionの内部処理パターンがマウスの視覚野(V1野)の神経活動データと類似していることも、Allen Brain Observatoryの2光子イメージングデータを用いて実証された。

研究成果は2025年1月23日に第13回国際学習表現会議(ICLR 2025)で発表され、コードとモデルはApache 2.0ライセンスでGitHub上に一般公開されている。今後は自動運転、医療画像診断、ロボティクス、衛星画像解析など幅広い分野での応用が期待されている。

from:Brain-inspired AI breakthrough: Making computers see more like humans

【編集部解説】

今回発表されたLp-convolution技術は、AIの画像認識分野における大きな転換点となる可能性を秘めています。従来のCNNは、正方形のフィルターで画像を処理するため、自然界の複雑なパターンや局所的な特徴を十分に捉えきれないという課題がありました。

Lp-convolutionは、フィルター形状を多変量p-一般化正規分布(MPND)によって動的に変形できるため、より柔軟かつ生物学的に妥当な特徴抽出が可能となります。これは、人間の脳の視覚野が持つ「選択的注意」の仕組みに近づけた設計思想であり、AIが人間に近い認識能力を持つための重要な一歩です。

特筆すべきは、Lp-convolutionを既存のCNNモデルに組み込むだけで、CIFAR-100などのベンチマークデータセットで精度が2.5ポイント向上した点です。さらに、Vision Transformer(ViT)と比べて計算量は約12%、メモリ使用量は約19%と、圧倒的な効率性を実現しています。

これにより、従来は大規模な計算資源が必要だった高精度AIが、限られたリソース環境でも実装可能となり、中小企業や研究機関、医療現場など幅広い現場への導入が現実的になります。

また、Lp-convolutionの内部処理がマウスの視覚野(V1野)の神経活動パターンと類似していることが、実際の生体データを用いて検証された点は、AIの「ブラックボックス」問題に対する新たなアプローチとして注目されます。AIの判断根拠を生物学的な観点から説明できる可能性が高まり、医療や自動運転など説明責任が求められる分野での信頼性向上につながるでしょう。

一方で、マウス脳との類似性がそのまま人間の視覚認識と一致するとは限らず、今後はヒトの脳活動データとの比較や、より多様な環境下での検証が求められます。また、フィルター形状の動的変化がもたらす解釈性や、AI倫理・規制との関係についても議論が進むことが予想されます。

この研究の成果は、AI技術の進化が単なる性能競争から「人間中心の設計」へとシフトしつつあることを象徴しています。今後、医療画像診断や自動運転、ロボティクス、衛星画像解析など、社会のさまざまな領域で人間とAIの協調的な進化を促す基盤技術として、Lp-convolutionの応用が広がっていくことが期待されます。研究チームがコードをApache 2.0ライセンスで公開している点も、オープンサイエンス推進の観点から高く評価できます。

【用語解説】

Lp-convolution(エルピー・コンボリューション)
人間の視覚野の情報処理を模倣した新しい畳み込み手法。フィルター形状を動的に変形でき、柔軟で生物学的に妥当な特徴抽出が可能。

CNN(畳み込みニューラルネットワーク)
画像認識などで広く使われるAIの基盤技術。画像の特徴を自動的に抽出する層構造を持つ。

Vision Transformer(ViT)
画像を小さなパッチに分割し、Transformer構造で処理するAIモデル。高精度だが計算コストが高い。

多変量p-一般化正規分布(MPND)
フィルターの形状を楕円や長円など多様に変化させるための数学的モデル。空間的な広がりや方向性を制御できる。

【参考リンク】

基礎科学研究院(IBS)公式サイト(外部)
韓国の国立基礎科学研究所。脳科学やAIなど世界的な研究を展開している。

延世大学校公式サイト(外部)
韓国の名門私立大学。医学部や工学部の研究が盛んで国際的な評価も高い。

Max Planck Institute for Brain Research(外部)
ドイツの脳科学専門研究所。神経科学分野の世界的権威。

CIFAR-100 Data Set(外部)
100種類の物体画像から構成される機械学習用データセット。画像認識モデルの評価に広く使われる。

RepLKNet GitHubリポジトリ(外部)
大規模カーネルCNNモデルRepLKNetの公式実装。画像認識分野で注目されている。

Allen Brain Observatory(外部)
マウス脳の神経活動データを公開するアレン脳科学研究所のプロジェクト。

Lp-convolution GitHubリポジトリ(外部)
研究チームがApache 2.0ライセンスで公開しているLp-convolutionの公式実装。

ICLR 2025(国際学習表現会議)公式サイト(外部)
機械学習分野のトップカンファレンス。最新のAI研究が発表される。

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りょうとく
主に生成AIやその権利問題について勉強中。
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