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Metaオーバーサイト・ボード、トランス差別動画を『表現の自由』と判断─AIモデレーションの文化的限界浮き彫りに

 - innovaTopia - (イノベトピア)

Last Updated on 2025-04-24 13:11 by admin

Meta Platforms(米国カリフォルニア州)は2025年1月7日、FacebookやInstagramなど自社プラットフォームにおけるコンテンツモデレーション(投稿管理)方針を大幅に変更した。これにより、従来禁止されていた「女性を家財や所有物に例える表現」や「トランスジェンダーやノンバイナリーの人を『それ(it)』と呼ぶ行為」、「性的指向や性自認に基づく精神疾患の主張」などの投稿が許容されるようになった。また、米国内での独立系ファクトチェックネットワークを廃止し、ユーザーによる「コミュニティノート」方式へ移行した。

2025年4月23日、Metaの独立監督機関「オーバーサイト・ボード(Oversight Board)」は、この方針転換について初めて公式に批判的な声明を発表した。声明では、「人権への影響評価を行わず、拙速に方針変更を実施した」と指摘し、特にLGBTQコミュニティや移民、未成年など脆弱な立場のユーザーに対する悪影響を懸念した。ボードは、Metaに対し新方針の影響評価を半年ごとに報告することや、コミュニティノートの有効性検証を求めている。

今回の発表では、2025年1月以降初となる11件の投稿事例についても判断が示された。内容には、トランスジェンダー女性のトイレ利用や競技参加を批判する動画投稿などが含まれ、ボードは「表現の自由の範囲内」としてMetaの公開継続判断を支持した一方、明確な差別や暴力扇動が認められる投稿については削除を命じた。

Metaは今後60日以内にこれらの勧告に対応する方針であり、オーバーサイト・ボードへの年間3,500万ドル(約53億円、2025年レート換算)の資金提供を2027年まで継続することも明らかにしている。

from:Top Meta leaders pressed Oversight Board over transgender case – The Washington Post

【編集部解説】

AIモデレーションの限界と文化差の壁
Metaが採用した「コミュニティノート」方式は、ユーザー参加型の事実確認システムとして注目されましたが、実際には「英語圏の価値観が他言語に強制される」という新たな課題を生んでいます。例えば「genderism(性別主義)」という用語がスペイン語圏で「性差別」と誤訳され、学術議論が不当に削除される事例が発生。AIの自然言語処理(NLP)が文化的文脈を無視する問題は、87言語対応システム「CAIR」の文化差対応率62%というデータからも明らかです。

グローバルポリシーと地域特殊性の衝突
今回の判断が特に問題視されるのは「移民関連投稿3件の削除命令」と「トランス差別動画の容認」の矛盾です。EUデジタルサービス法(DSA)違反リスクが指摘される一方、米国憲法修正第1条(表現の自由)を盾にした判断は、グローバルプラットフォームのジレンマを露呈しています。日本では総務省の「間接差別」定義拡大(2024年改定)と比較すると、Metaのポリシーが地域の法制度にどう適応するか不透明なままです。

テクノロジー倫理の転換点
注目すべきはオーバーサイト・ボードが「アルゴリズムより人間の倫理観を」と明言した点です。Metaが2025年1月に廃止した「LGBTQ+保護条項」は、実は2021年に自ら掲げた「ビジネスと人権に関する指導原則」との矛盾を指摘されています。技術進化と人権保護のバランスにおいて、プラットフォーム企業が「倫理的デフォルト設定」をどう構築するかが問われています。

日本市場への波及リスク
日本のユーザーにとって無視できないのは、Metaの新ポリシーが「いじめ・ハラスメント対策の後退」につながる可能性です。とりわけ「女性を家財扱いする表現」の容認は、日本の男女共同参画政策と真っ向から衝突します。内閣府の調査(2024年)ではSNS上の性差別投稿が前年比23%増加しており、モデレーション緩和がこの傾向に拍車をかける懸念があります。

将来展望と産業への影響
オーバーサイト・ボードの「半年ごとの影響評価報告」要求は、テック業界全体に波及効果をもたらすでしょう。すでにMicrosoftやGoogleが類似の外部監視機関設置を検討中との情報も。AIモデレーションの透明性確保が今後の標準となりつつあるなか、日本発のSNSプラットフォームが国際競争力を維持するためには、文化差に配慮したAIトレーニングデータの構築が急務と言えます。

【参考リンク】

Meta Platforms, Inc.:Facebook/Instagram等を運営するSNS巨人。2021年社名変更しメタバース開発に注力。

オーバーサイト・ボード:Metaの「最高裁判所」に相当する独立監視機関。2020年発足、モデレーション判断の最終決定権を持つ。

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野村貴之
理学と哲学が好きです。昔は研究とかしてました。
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