Last Updated on 2025-06-17 09:47 by admin
日本政府は2025年6月13日、海外の優秀な研究者を戦略的に受け入れるため1000億円(6億9300万ドル)規模の「J-RISE Initiative」を発表した。
トランプ政権による米国の科学予算削減を受け、不満を抱く米国研究者の誘致を主要目標とする。城内実科学技術担当大臣は「日本を研究者にとって最も魅力的な国にする」と表明した。
東北大学は約300億円(2億800万ドル)を投じ、日本国内外から約500人の研究者を採用する計画である。
この動きは欧州委員会が5月に発表した「Choose Europe」スキーム(2025年から2027年にかけて5億ユーロのパッケージ)、フランスのエクス・マルセイユ大学による「Safe Place For Science」プログラムに続くものである。
英国も5000万ポンド(6700万ドル)の予算で米国研究者誘致を計画している。日本は半導体分野でRapidusが2027年までに2nmチップ製造を目標とし、この分野の人材確保にも期待がかかる。
From: Japan builds near $700M fund to lure foreign academic talent
【編集部解説】
今回の「J-RISE Initiative」は、単なる人材獲得競争を超えた戦略的な意味を持っています。トランプ政権による科学予算削減と学術の自由への圧力により、米国から優秀な研究者が流出している現状を、日本が国家戦略として活用しようとする動きです。
この施策の背景には、AI・半導体分野における国際競争の激化があります。特に注目すべきは、Rapidusが2027年までに2nmチップの量産を目指している点で、これらの先端技術開発には世界トップレベルの研究者が不可欠となっています。日本政府は単に研究者を呼び込むだけでなく、産業競争力の向上を見据えた戦略的投資を行っているのです。
興味深いのは、この動きが世界的な潮流となっていることです。欧州委員会の「Choose Europe」スキーム(5億ユーロ)、フランスのエクス・マルセイユ大学による「Safe Place For Science」プログラム、英国の5000万ポンド規模の誘致策など、各国が同様の取り組みを展開しています。
しかし、日本が直面する課題も少なくありません。スイスの国際経営開発研究所による「2024年世界人材ランキング」では、日本は67か国・地域中43位に位置しており、特に外国人高度人材にとっての魅力度は56位と低評価です。従来から指摘されている研究者の低賃金問題や、事務作業の負担軽減など、根本的な研究環境の改善が求められます。
長期的な視点では、この施策が日本の科学技術立国としての地位向上に寄与する可能性があります。一方で、優秀な人材の獲得競争が激化することで、研究者の処遇改善が世界的に進む可能性もあり、科学界全体にとってはポジティブな影響をもたらすかもしれません。
【用語解説】
J-RISE Initiative:
日本政府が2025年6月13日に発表した海外研究者誘致政策の正式名称。「日本が研究者にとって最も魅力的な国となる」という目標を掲げる。
大学ファンド:
政府が設立した10兆円規模の基金。運用益を活用して研究者の人件費や研究環境整備に充当する。
トランプ政権:
2025年1月に就任したドナルド・トランプ第47代米国大統領による政権。科学予算の削減や多様性・平等推進プログラムの廃止など、学術界に対する厳しい政策を実施している。
2nmチップ:
回路幅が2ナノメートル以下の最先端半導体。現在量産されていない次世代技術で、AI処理や自動運転などの高度な計算処理に必要とされる。
世界人材ランキング:
スイスの国際経営開発研究所(IMD)が実施する調査。2024年版で日本は67か国・地域中43位。
【参考リンク】
Rapidus株式会社(外部)
日本の先端半導体製造企業。2022年設立で、北海道千歳市に2nm半導体の量産工場を建設中。
Choose Europe(外部)
欧州14都市・地域が連携する投資誘致プロジェクト。北米企業や研究者の欧州誘致を目指している。
内閣府科学技術・イノベーション推進事務局(外部)
日本の科学技術政策を統括する内閣府の組織。J-RISE Initiativeの実施主体として機能。
【参考動画】
【参考記事】
政府 海外の研究者獲得に1000億円(外部)
Yahoo!ニュースによる日本政府の研究者誘致策の報道。大学ファンドの運用益活用について詳報。
政府、海外研究者受け入れ強化へ 1千億円規模、基金も活用(外部)
中日新聞による詳細報道。2025年6月13日の発表予定について言及している。
政府、「優秀な研究者」獲得に1000億円(外部)
読売新聞による包括的な報道。城内実科学技術担当大臣の発言や具体的な支援内容を詳述。
【編集部後記】
今回の「J-RISE Initiative」は、私たちの未来にどのような変化をもたらすでしょうか。トランプ政権の影響で流出する米国の優秀な研究者たちが日本に集まることで、AI・半導体分野での技術革新が加速する可能性があります。
一方で、世界人材ランキング43位の日本が本当に研究者にとって魅力的な環境を提供できるのか、疑問に感じる方もいらっしゃるかもしれません。皆さんは、この1000億円規模の投資が日本の科学技術立国としての地位向上につながると思われますか。それとも、根本的な研究環境の改善なしには効果は限定的だとお考えでしょうか。ぜひご意見をお聞かせください。