Last Updated on 2025-04-24 16:31 by admin
Snapchat(スナップチャット)とSpectacles(スペクタクルズ)ARグラスを手がけるSnap Inc.のCEO兼共同創設者であるEvan Spiegel(イーバン・スピーゲル)氏が、2025年6月10日から12日にかけてカリフォルニア州ロングビーチで開催される拡張現実(XR)カンファレンス「AWE 2025」で初めて基調講演を行うことが発表された。
AWE(Augmented World Expo)は世界最大かつ最も長い歴史を持つXR専門カンファレンスの一つであり、2025年で16回目の開催となる。このイベントには6,000人以上の参加者、300の出展者、400人のスピーカー、150,000平方フィートの展示フロアが予定されている。
Spiegelの基調講演では、Snapの最新AR開発について紹介される予定で、特に第5世代となるSpectacles、カスタムオペレーティングシステムのSnap OS、開発ツールのLens Studioなどが取り上げられる。AWE参加者はSnapの最新技術を試し、開発者パートナーが構築したSpectacles上のARレンズを体験し、Snapチームの専門家と会い、月額$99のSpectacles開発者プログラムへの参加申請ができる。
Snapは現在、完全スタンドアロン型ARグラスを提供している数少ない企業の一つだが、より広範なXRコミュニティでは依然としてアウトサイダーと見なされている。これは部分的に、Snapが他の主要プレイヤーとは異なるアプローチを取っているためである。同社はARグラスだけでなく、独自のオペレーティングシステムやオーサリングツールも構築しており、このユニークなアプローチが既存のXRコンテンツとの互換性を難しくしている。
SnapのハードウェアVPであるScott Myers(スコット・マイヤーズ)氏によれば、同社はSpectaclesをSnapchatの拡張機能以上のものとして構築しており、将来的にはスマートフォンに完全に取って代わると信じている。「私たちは人々が(スマートフォンを見て)下を向くのではなく、(グラスを通して)上を見ることを望んでいる」とMyers氏は述べている。
2025年3月にSnapはSpectaclesの新機能として、GPS、GNSS、コンパス方向、カスタム位置などの位置情報機能や、新しい手の動き追跡機能を発表した。また、4月1日からは「Spectacles Community Challenges」という月間コンテストを開始し、上位10のLens開発者に計$20,000が授与されるプログラムを展開している。
AWE 2025ではSpiegelの他にも、QualcommのZiad Asghar氏(SVP & GM XR)、XREALのChi Xu氏(CEO兼創業者)、Atari創業者のNolan Bushnell氏、Oculus創業者のPalmer Luckey氏など、XR業界の著名人が多数登壇する予定である。
また、AWE 2025では新たに「AWE Builders Nexus」というプログラムが立ち上げられ、XR開発者やスタートアップ企業を支援する取り組みが行われる。このプログラムは、開発者がより簡単に革新的なコンテンツを作成し、資金調達やパートナーシップの構築を行えるよう設計されている。
Meta、Apple、Googleといった技術大手がメインストリームのARグラスを構築しようと競争する中、Snapは独自の戦略で今後数年間の成功を目指している。
from Snapchat CEO to Keynote AWE 2025 as Company Aims to Strengthen Its Position in XR
【編集部解説】
Snapの動きは、拡張現実(AR)市場における興味深い戦略を示しています。大手テック企業がARグラスの開発に注力する中、Snapは「ソーシャル」という自社の強みを活かした独自路線を貫いています。
特に注目すべきは、Snapが単にハードウェアだけでなく、オペレーティングシステムからアプリケーション開発環境まで、エコシステム全体を垂直統合的に構築している点です。これはAppleの戦略に似ていますが、SnapはARの社会実装において「ソーシャル」と「位置情報」を重視する独自の視点を持っています。
「人々が下ではなく上を見る」というビジョンは、スマートフォンの次の主要デバイスとしてARグラスを位置づける明確な意思表示です。これは単なるガジェットの進化ではなく、人間とテクノロジーの関係性の根本的な変革を示唆しています。
AWE 2025でのSpiegelの基調講演は、Snapにとって重要な転機となるでしょう。同社は第5世代となるSpectaclesを披露し、開発者プログラムへの参加も促進する予定です。これまでSnapはXR業界では「アウトサイダー」的存在でしたが、QualcommやXREAL、さらにはAtari創業者のNolan Bushnell氏やOculus創業者のPalmer Luckey氏といった業界の重鎮と並んで登壇することで、業界内での存在感を高めようとしています。
XR市場は2025年に1,574億ドル規模に達し、2030年までに8,653億ドルへと年平均成長率40.61%で拡大すると予測されています。この急成長市場において、Snapは独自の立ち位置を確立しようとしています。
Snapの戦略の特徴は、ARをソーシャルメディアの延長として捉えるのではなく、将来的にスマートフォンに取って代わる可能性のある独立したプラットフォームとして構築している点です。同社のSpectaclesは完全スタンドアロン型で、スマートフォンに依存せずに動作します。
2025年3月に発表されたGPSやGNSS、コンパス方向などの位置情報機能や、新しい手の動き追跡機能は、Snapがソーシャルと位置ベースのAR体験に注力していることを示しています。また、「Spectacles Community Challenges」のような開発者向けプログラムは、エコシステム構築への積極的な姿勢を表しています。
一方で課題もあります。独自のSnap OSやLens Studioを採用することで、既存のXRコンテンツとの互換性が限られています。これは開発者エコシステムの拡大において障壁となる可能性があります。
また、Meta、Apple、Googleといった技術大手との競争も激化しています。これらの企業は豊富な資金力と技術力を持ち、メインストリームのARグラスの開発を進めています。
しかし、Snapの「ソーシャル中心」「位置ベース」のアプローチは、他社との差別化要因となっています。特に複数ユーザーが同じ物理空間で共有できる「共同位置体験」は、ARの新たな可能性を示すものです。
今後のXR市場では、単なる技術的優位性だけでなく、ユーザー体験の質や開発者エコシステムの充実度が成功の鍵を握るでしょう。Snapが「世界最高の開発者プラットフォーム」を目指す姿勢は、この点で理にかなっています。
AWE 2025で新たに立ち上げられる「AWE Builders Nexus」プログラムは、XR開発者やスタートアップ企業を支援する取り組みで、業界全体のエコシステム発展に寄与するでしょう。
Snapの取り組みは、ARグラスが単なるガジェットではなく、私たちの生活や社会のあり方を根本から変える可能性を示しています。「下を向く」スマホ中心の生活から「上を向く」AR中心の生活への移行は、人間とテクノロジーの関係性における大きなパラダイムシフトとなるかもしれません。
【用語解説】
XR(Extended Reality): VR(仮想現実)、AR(拡張現実)、MR(複合現実)を包括する総称。現実世界とデジタル世界を融合させる技術全般を指す。
AR(Augmented Reality): 現実の世界にデジタル情報を重ね合わせる技術。スマートフォンやARグラスを通して、実際の風景に情報やグラフィックを追加表示する。
スタンドアロン型: 他のデバイスに接続せずに単体で動作するタイプのデバイス。Spectaclesの場合、スマートフォンやコンピューターに接続せずに独立して動作する。
AWE(Augmented World Expo): 拡張現実(AR)、仮想現実(VR)、拡張知能(AI)などの分野における世界最大級のカンファレンスおよび展示会。2010年に設立された。
共同位置体験(Co-located Experiences): 同じ物理的空間に複数のユーザーが存在し、AR体験を共有できる機能。例えば、友人同士が同じ場所で同じARコンテンツを見て操作できる。
Spectacles Community Challenges: Snapが2025年4月から開始した月間コンテスト。上位10のLens開発者に計$20,000が授与されるプログラム。開発者エコシステム構築の一環。
AWE Builders Nexus: AWE 2025で新たに立ち上げられるプログラム。XR開発者やスタートアップ企業を支援し、革新的なコンテンツ作成や資金調達、パートナーシップ構築を促進する。
【参考リンク】
Snap Inc.(外部)Snapchatアプリとスペクタクルズを提供するテクノロジー企業。カメラを通じた自己表現とコミュニケーションを重視している。
Spectacles(外部)Snap社が開発するARグラス。最新の第5世代モデルは完全スタンドアロン型で、独自OSを搭載している。
AWE(Augmented World Expo)(外部)XR業界最大のカンファレンス。2025年6月10日〜12日にロングビーチで開催予定。
Lens Studio(外部)Snap社が提供するAR開発ツール。開発者はこれを使ってSpectacles向けのコンテンツを作成できる。
Spectacles Developer Program(外部)月額$99でSpectaclesの開発者向けプログラム。ARレンズ開発者向けのリソースとサポートを提供。