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『Into The Darkness VR』アーリーアクセスで見えたVR物理演算ゲームの現在地:技術革新と体験設計のバランス

 - innovaTopia - (イノベトピア)

PC VR向け物理演算アクションゲーム『Into The Darkness VR』が5月29日(現地時間、日本時間5月30日)にSteamでアーリーアクセスを開始した。

9 LivesとCosmos Games共同開発による本作は、雪に覆われた施設を舞台に、暴走したアンドロイドと戦うSFアクションゲームだ。

重力グローブや敵の四肢切断システムなど先進的な物理演算を実装し、『Boneworks』系の体験を提供する。価格は19.99ドルで、アーリーアクセス版では3つのレベルを収録、完全版では6つのレベルが予定されている。

UploadVRのレビューでは物理演算の優秀さを評価する一方、パフォーマンス問題やインタラクティビティの浅さなど、典型的なアーリーアクセスタイトルとしての課題も指摘されている。PlayStation VR2版の開発も計画されており、VR物理演算ゲームの今後の発展が注目される。

from:
 - innovaTopia - (イノベトピア)Into The Darkness Hands-On: Promising Physics Action With A Long Road Ahead | UploadVR

【編集部解説】

『Into The Darkness VR』のアーリーアクセス開始は、VR業界における物理演算ベースのゲーム開発の現状と課題を考える上で興味深い事例と言えるでしょう。本作は技術的な野心を感じさせる一方で、VR開発特有の難しさも示しています。

物理演算システムの実装において、本作が『Boneworks』や『Half-Life: Alyx』といった先駆的な作品から影響を受けていることは明らかです。重力グローブのような物体操作、敵の部位破壊システム、環境との物理的な相互作用といった要素は、これらの先行タイトルを彷彿とさせます。UploadVRの過去のデモ版レビューでは、既存タイトルからの「借用が目立つ」との指摘もありました。

VR開発における大きな技術的挑戦の一つは、没入感を高めるリアルな物理演算と、快適なプレイ体験に不可欠な高いフレームレートを両立させることです。本作のレビューでも、高性能ハードウェアでもグラフィック設定を下げる必要があったと報告されており、これはVR業界全体が直面する最適化の難しさを反映していると言えます。90fps以上の安定したフレームレートを維持しながら複雑なリアルタイム物理演算を実行することは、現在のハードウェア性能をもってしても依然として困難な課題なのです。

アーリーアクセスという開発モデルの採用は、VRゲーム開発において有効なアプローチの一つと考えられます。完成品を一度にリリースするのではなく、開発の初期段階からコミュニティのフィードバックを積極的に取り入れながらゲームを改善していく手法は、特にインタラクションの設計が複雑なVR体験を洗練させる上で現実的な選択肢と言えるでしょう。開発チームがユーザーの意見を重視し、開発に反映させていく姿勢は、アーリーアクセスモデルの利点を活かす上で重要です。

しかし、UploadVRや他のユーザーレビューが指摘するように、物理演算の技術的な洗練度だけでは、必ずしも魅力的なゲーム体験に直結するわけではありません。本作のアーリーアクセス版では、環境とのインタラクションの幅が限定的であったり、多くのオブジェクトが単なる背景小道具に留まっていたりといった点が、ゲームプレイの深みに関わる課題として挙げられています。こうした点は、VRゲーム開発において、技術的なショーケースに留まらず、いかに総合的なゲームデザインを充実させるかという普遍的な課題を示唆しているのかもしれません。

PlayStation VR2版の開発計画も注目されます。PC版の完全版リリース後に提供が予定されていますが、PSVR2という特定のハードウェア環境に最適化するプロセスは、本作の物理演算システムにとって新たな挑戦となるでしょう。PC版で指摘されたパフォーマンスに関する課題が、コンソール版でどのように解決されるかは、今後のVRゲーム開発における一つの試金石と言えるかもしれません。

長期的な視点で見れば、『Into The Darkness VR』のような意欲的なタイトルは、VR業界の技術的進歩とゲームデザインの成熟度を測る上で、一つの参考事例となるでしょう。アーリーアクセス期間を経て、本作がどのように進化し、提示された課題にどう対応していくのかは、VR技術全体の今後の発展を考える上でも注目すべき点と言えます。

【用語解説】

物理演算(Physics Simulation):現実世界の物理法則をコンピュータ上で再現する技術。重力、衝突、摩擦などの物理現象をリアルタイムで計算し、ゲーム内のオブジェクトの動きを自然に表現する。

アーリーアクセス(Early Access):ゲームの開発途中段階で一般ユーザーに販売し、フィードバックを受けながら完成度を高めていく開発手法。Steamなどのプラットフォームで広く採用されている。

フレームレート:1秒間に表示される画像の枚数を示す指標。VRでは酔いを防ぐため90fps以上の安定したフレームレートが重要とされる。

重力グローブ:VRゲームで遠くの物体を引き寄せたり操作したりできる仮想的な装備。『Half-Life: Alyx』で有名になった機能。

【参考リンク】

Steam – Into The Darkness VR(外部)PC VR向け物理演算ベースアクションゲーム『Into The Darkness VR』の公式販売ページ。価格、システム要件、ユーザーレビューなどの詳細情報を確認できる。

【参考動画】

【参考記事】

Into The Darkness VR – Is the physics carnage worth it? |
RedditVRコミュニティでの詳細なユーザーレビュー。物理演算の優秀さを評価する一方で、敵AIの単純さや線形なレベルデザインなどの問題点を指摘している。

Hands-On: Into The Darkness Roughly Scratches The Boneworks Itch | UploadVR2023年のデモ版に関するUploadVRの詳細なハンズオンレビュー。『Boneworks』との比較を中心に、ゲームの特徴と課題を分析している。

【編集部後記】

『Into The Darkness VR』のニュースを見て、物理演算を活かした新しいVR体験にワクワクしています。雪の上を歩いたり、重力グローブで物を操る感覚は、想像するだけでゲーマー心がくすぐられます。まだ発展途上の部分も多いようですが、アーリーアクセスでどんな進化を遂げるのか今後が楽しみです。こうした挑戦的なVRタイトルが、次の“没入型ゲーム体験”を切り拓いてくれると期待しています。

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乗杉 海
新しいものが大好きなゲーマー系ライターです!
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