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ーTech for Human Evolutionー

『POOLS VR』が描くリミナル空間体験。VRで広がる静かな恐怖と心理的没入の未来

 - innovaTopia - (イノベトピア)

The Backroomsをモチーフにしたウォーキングシミュレーター『POOLS』が、Steamで無料アップデートによりVR対応し、2025年5月30日(現地時間、日本時間5月31日)にリリースされた。

開発元はTensoriであり、UNIKAT Labelが共同パブリッシャーを務める。基本価格は$9.79だが、セール時には$6.36など価格変動がある。PlayStation VR2版は2025年後半を目標に開発中となっているほか、iOSやPS5フラットスクリーン版も計画されている。

本作はジャンプスケアやモンスターの襲撃を排除し、静かな恐怖やリミナルスペースの演出、VRによる没入感の向上が特徴である。全7チャプター構成で、6つのメインチャプターと、全てをクリアすると追加される「Chapter 0」が用意されている。プレイヤーはプールや奇妙な空間を探索し、心理的な不安や孤独感を体感する。

VR版では水の反射が片目にしか表示されないなどの不具合が報告されているが、快適性オプションが豊富で、プレイスタイルに合わせて調整可能。今後もバグ修正や新機能の追加が行われる予定である。

from:文献リンクPOOLS VR Review: A Darker Take On The Original | UploadVR

【編集部解説】

『POOLS』のVR対応は、The Backroomsやリミナルスペースといったインターネットミームを背景に、現実にはありえない「誰もいない空間」での孤独や不安を体験できるウォーキングシミュレーターとして注目されています。開発元のTensoriは、Unityエンジンを活用した高度な空間デザイン、オブジェクトの存在感にこだわった作りを実現しています。今回のVR化は、PC版『POOLS』の無料アップデートとして2025年5月30日にSteamで提供され、PlayStation VR2版も2025年内リリース予定です。さらに、iOSやPS5フラットスクリーン版のリリースも計画されており、幅広いプラットフォームで体験できるようになります。

このゲームは、ジャンプスケアやモンスターの襲撃といった古典的なホラー演出を排し、静かな環境や反響する足音、水の音、そして変化する空間が心理的な不安や緊張を生み出します。プレイヤーは明確な目的やストーリーを提示されず、ただ空間を歩き回り、自らの感覚と記憶を頼りに脱出を試みる体験が特徴です。VR化によって、プレイヤーは単なる観察者ではなく、その世界に「居る」感覚がさらに強くなり、没入感が飛躍的に向上しています。

他メディアやユーザーレビューを見ても、ジャンプスケアや敵対的な存在がいないこと、静かな恐怖や孤独感を演出する点に賛同が集まっています。ただし、VR特有のグラフィック不具合(水の反射が片目にしか表示されないなど)や、オクルージョンカリングによる壁のテクスチャ消失などの課題も指摘されています。

このような「空間そのもの」が恐怖を生むゲームデザインは、従来のホラーゲームとは異なるアプローチであり、VRの持つ没入感を最大限に活かした新しい体験を提供します。プレイヤーは、現実では味わえない「誰もいない空間」での孤独や、自分の存在が空間に影響を与える感覚を体感できます。これは、VR技術が単なる娯楽の枠を超え、心理的な体験やアート的表現の分野にも進出している証左といえるでしょう。

一方で、VR空間での長時間プレイや、強い没入感による精神的な負担、VR酔いや視覚的な疲労といった健康リスクも無視できません。特に「リミナルスペース」や「The Backrooms」のような現実感の高い空間は、プレイヤーによっては強い不安や恐怖を引き起こす可能性があります。こうしたリスクに対応するため、ゲーム内には快適性オプションが豊富に用意されており、プレイスタイルや体調に合わせて調整できる配慮がなされています。

今後は、より多様な空間体験や心理的効果を狙ったコンテンツが登場し、ユーザーの嗜好も細分化されていくと考えられます。また、VR空間での体験がリアルな心理的影響を及ぼすことから、倫理的・規制的な議論も活発化する可能性があります。

『POOLS』は、VR技術の進化とともに、ゲームという枠を超えた「体験」の可能性を示す一つの事例と言えるかもしれません。今後は、より今後は、より洗練された空間演出や、プレイヤーの心理に寄り添ったデザインが期待されるでしょう。また、こうした体験が一般化することで、VR技術の社会的な受容や、新たな規制基準の策定にも影響を与えるかもしれません。

【用語解説】

The Backrooms
現実世界から切り離された異空間を指すインターネットミーム。無人の、どこまでも続くような不気味な空間が特徴で、現実世界から「外れ落ちる」ことで迷い込むとされる。

リミナルスペース(Liminal Space)
「境界」や「過渡期」を意味する空間。既存の場所と次の場所の間、あるいは「何かが終わり、何かが始まる前」の非日常的な雰囲気を持つ場所を指す。

ウォーキングシミュレーター
物語や空間の探索が主体で、アクションやパズルなどの要素が少ないゲームジャンル。プレイヤーは歩き回りながら物語や雰囲気を体験する。

オクルージョンカリング(Occlusion Culling)
ゲームエンジンなどで、画面に表示されない部分の描画処理を省き、パフォーマンスを向上させる技術。『POOLS VR』ではこの処理が厳しすぎて壁のテクスチャが消えることがある。

ジャンプスケア
ホラーゲームなどで、突然の出来事やモンスターの出現でプレイヤーを驚かせる演出。

【参考リンク】

Tensori(テンソリ)公式サイト(外部)
『POOLS』を開発したフィンランドのゲームスタジオ。Unityアセットの制作も行う。

POOLS – Steamストアページ(外部)
『POOLS』の公式ストアページ。PC版およびVR版の情報が掲載されている。

【参考動画】

【参考記事】

Dive into the Unknown: POOLS VR Set to Haunt PS5 in 2025 | Balls.ie
『POOLS VR』がPS5/PC向けに2025年リリース予定であること、リミナルスペースやバックルームスをモチーフにした内容を紹介。

Photorealistic PC horror Pools is coming to PSVR 2 and PC VR | Mixed News
『POOLS』のVR化や、リミナルスペース/バックルームスを意識した世界観、6つのチャプター構成などを解説。

Eerie Walking Sim POOLS Gets Free PC VR Update This Week | UploadVR
『POOLS』のPC VR版が無料アップデートで配信されること、新チャプターやバグ修正などの内容を報じる。

【編集部後記】

『POOLS VR』は、従来のホラーゲームとは一線を画す体験を提供しています。ジャンプスケアやモンスターに頼らず、「空間そのもの」が持つ不気味さや孤独感を演出する手法は、VR技術の成熟とともに新たな表現の可能性を示しているといえるでしょう。特に注目すべきは、バックルームスやリミナルスペースといったインターネットミームが、実際のゲーム体験として昇華されている点です。これまでネット上の画像や動画でしか味わえなかった「誰もいない空間の不安感」を、VRによって実際に「体験」できるようになったことは、デジタルカルチャーとゲーム技術の融合の好例といえます。今後、このような「体験型コンテンツ」がさらに進化し、VR技術の普及とともに新たなエンターテインメントの形が生まれることを期待しています。

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乗杉 海
新しいものが大好きなゲーマー系ライターです!
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