iPhone Fold、量産で2つの壁——ヒンジ・基板問題が同時進行、秋発表は維持の見通し

折りたたみスマートフォン市場は、Samsungが2019年に初代Galaxy Z Foldを投入してから7年が経とうとしています。その間、Appleは一貫して静観を続けてきました。完成度への妥協を許さないAppleが、折りたたみという複雑な機構にどう向き合うのか——その答えが今秋、ようやく示されようとしています。しかし、iPhone Foldの量産現場では今、複数の課題が同時進行していることがわかってきました。発表は予定通りとされる一方、「手に入れられるか」という問いはまた別の話になりそうです。


2026年5月26日、リーカーの「Fixed Focus Digital」がWeibo上で報告したところによると、Appleが初めて投入する折りたたみiPhoneが、組み立て前工程における表面実装技術(SMT)の歩留まり問題に直面している。同リーカーは、この問題は以前報告されたヒンジの信頼性とは別の課題だと主張している。

その数日前には、別のリーカー「Instant Digital」が、本体ヒンジが高頻度の開閉操作でAppleの品質基準を満たせていないと報告していた。Instant Digitalはその後、ヒンジ問題がリリース時期に影響を与える可能性は低いとフォローした。

サプライチェーン情報に強い台湾メディア・DigiTimesは4月、量産が約1〜2ヶ月遅れていると報じながらも、2026年秋の発売は維持されており量産開始は8月初旬にずれ込んでいるとした。

複数の情報筋から異例の量産トラブルが浮かび上がる一方、秋の発売自体は維持される見通しだ。Bloombergのマーク・ガーマン記者は4月、折りたたみiPhoneがiPhone 18 Proとともに9月デビューに向けて順調だと報告した。ただし「量産はまだ立ち上がっておらず、タイミングは確定していない」とも付け加えていた。

iPhone Foldは、7.8インチの内側ディスプレイと5.5インチのカバーディスプレイ、A20チップ、C2モデム、Touch ID電源ボタン(Face IDなし)、リアカメラ2基という構成が見込まれており、価格は約2,000ドルになるとの噂だ。

From: 文献リンクFoldable iPhone Reportedly Facing Mass Production Issues – MacRumors

【編集部解説】

今回 Fixed Focus Digital が指摘した「表面実装技術(SMT)の歩留まり問題」とは、具体的にどういうことでしょうか。

SMT(Surface-Mount Technology)とは、電子部品をプリント基板の表面に直接はんだ付けして固定する製造技術です。現代のスマートフォン製造において標準的な工法ですが、折りたたみスマートフォンではこの工程が通常より格段に難しくなります。

通常のスマートフォンは基板が1枚で固定されていますが、折りたたみ機種では折りたたみ動作に耐えられるよう、基板の配置・固定・配線の設計が根本的に異なります。加えてiPhone Foldは、折りたたみという機構に高密度な部品を詰め込む設計が求められています。薄さと折りたたみ耐久性の両立は、製造工程にとって二重の制約となります。「歩留まりが上がらない」とは、製造した製品のうち品質基準を満たすものの割合が低い——つまり不良品が多い——状態を指します。歩留まりが低いまま量産を続けても、出荷できる製品数は増えません。

注目すべきは、今回のFixed Focus DigitalによるSMT問題の報告が、5月18日のInstant Digitalによるヒンジ問題の報告とは「別の課題」として提示されている点です。

Instant Digitalが指摘したのは、長時間にわたる高頻度の開閉操作における耐久性に関するもので、Appleの品質基準を満たせていないと報告されたものです。AppleはiPhone Foldのヒンジに、航空・医療分野でも使われる「液体金属(メタリックガラス)」と呼ばれる素材を採用しています。これはチタン合金より耐変形性が高いとされる素材で、Appleは2010年にLiquidmetal Technologiesとライセンス契約を結んで以来、15年以上にわたって研究を続けてきた技術です。この新素材を、スマートフォンの基幹機械部品に初めて本格採用するのがiPhone Foldです。

すなわち現状では、①ヒンジの耐久性(設計・材料レベルの課題)と、②SMT歩留まり(製造工程レベルの課題)という、性質の異なる2つの問題が並走していることになります。ただしInstant Digitalはヒンジ問題の「続報」でリリース時期への影響は低いとしており、Fixed Focus Digitalも今回の報告で秋の発表が危ぶまれる事態とは述べていません。

複数の情報筋が一様に伝えるのは、「秋の発表は維持」という見立てです。Bloombergのマーク・ガーマン記者はiPhone 18 Proと並ぶ9月デビューを予測しており、DigiTimesも発売時期は維持されるとしています。

しかし、「発表されること」と「すぐに手に入ること」は別の話です。

DigiTimesの4月報告によれば、iPhone Foldの量産開始は当初の6月から8月初旬に後倒しとなっています。量産開始が遅れた状態でSMT歩留まりまで低いとなると、9月の発表イベントに間に合わせるために生産ラインはフル稼働を余儀なくされます。それでも初期出荷台数は、通常のiPhone新モデルに比べて大幅に限られる可能性が高いと言えます。MacRumors自身も4月の報告の中で「発売日に在庫がきわめて逼迫し、予約注文が数分で完売する事態につながる可能性がある」と指摘していました。

Appleの製品発表史を振り返ると、初物の供給制約は珍しいことではありません。例えばiPhone 15 Pro Maxでは、製造工程の歩留まり問題により発売時の初期供給が大幅に制約されました。また、折りたたみスマートフォンというカテゴリー自体も、先行するSamsungのGalaxy Z TriFoldが2026年1月に米国で発売された際、初期在庫が短時間で完売するという事態になっています。

Samsungが初代Galaxy Foldを発売したのは2019年9月のことです。そこからAppleは約7年間、折りたたみ市場を静観し続けてきました。この間、Samsungは毎年新モデルを投入し、ヒンジ・ディスプレイ・耐久性の改良を重ね、折りたたみスマートフォン製造の知見を着実に積み上げています。

Appleが後発を選んだ最大の理由として挙げられてきたのが、「折り目(クリース)問題」でした。画面を折りたたむと折り目が生じ、これがユーザー体験を損なうという課題は、折りたたみスマートフォンというカテゴリー全体に付きまとってきました。Appleはこの問題を「コストを度外視してでも解決する」方針で開発を進めてきたとされ、具体的には0.15mm未満のクリース深さと2.5度未満のクリース角度という極めて厳しい基準を設けたと報告されています。ディスプレイ層の応力を複数層に分散させる二層構造の超薄型ガラスや、高精度な光学透明接着剤(OCA:Optical Clear Adhesive)の開発がその具体的な手段となっています。

今まさに量産現場で明らかになりつつあるのは、後発として「完璧な体験」を追求してきたAppleが、その高い自己基準ゆえに直面している製造上のコストです。ヒンジに液体金属(メタリックガラス)を初めて本格採用すること、クリースレスを妥協なく追求すること——いずれも製造難度を押し上げる要因であり、今回の報告はそれが単なるリーク情報ではなく、現実の量産工程に現れ始めていることを示しています。

今後の焦点は2点です。ひとつは8月初旬への後倒しが報告されている量産開始が、さらに遅れるかどうかです。この見通しが維持されるかどうかが、9月発表・秋発売のシナリオの現実性を左右します。もうひとつは初期供給台数です。発表がイベント通りに行われても、購入者が実際に手に入れられるのがいつになるかは、現時点では誰にも確言できません。

Appleの折りたたみiPhone初参入が「完成度より市場参入を優先した妥協の産物」になるのか、それとも「7年待っただけのことはあった」と言わしめる製品になるのか——その答えは、これから数ヶ月の量産過程が決めることになります。

【用語解説】

SMT(Surface-Mount Technology/表面実装技術)
電子部品をプリント基板の表面に直接はんだ付けして実装する製造技術。現代のスマートフォン製造の標準工法。折りたたみスマートフォンでは、折りたたみ動作への耐性と薄型設計の両立が求められるため、通常より製造難度が高くなる。歩留まりとは製造した部品・製品のうち品質基準を満たすものの割合を指し、歩留まりが低いと出荷できる製品数が増えない。

液体金属(メタリックガラス)
原子配列が結晶構造を持たない「非晶質」な金属合金。別称:Liquidmetal。チタン合金より高い耐変形性・耐摩耗性を持ち、航空・医療分野でも使われる素材。iPhone FoldではヒンジへのApple初の本格採用が予定されている。Appleは2010年にLiquidmetal Technologiesとライセンス契約を結び、15年以上研究を続けてきた。

OCA(Optical Clear Adhesive/光学透明接着剤)
ディスプレイのガラス層と他の層を貼り合わせるために使われる透明な接着剤。折りたたみディスプレイでは折り目(クリース)を抑えるため、複数の薄型ガラス層を高精度に接合する必要があり、OCAの設計が画質・耐久性に直結する。

クリースレスディスプレイ
折りたたみスマートフォンの画面を開いたときに生じる折り目(クリース)を視覚的に見えなくする技術。折りたたみカテゴリー全体の長年の課題であり、Appleは0.15mm未満のクリース深さ・2.5度未満のクリース角度という独自基準を設けて開発を進めている。

DigiTimes
台湾を拠点とするIT・半導体業界専門メディア。Appleのサプライチェーン取材に強みを持ち、製造・量産タイムラインに関する報道の信頼性が高い。

【参考リンク】

iPhone Fold 最新情報まとめ – MacRumors Roundup(外部)
iPhone Foldに関するスペック・リーク・タイムライン情報を随時更新。英語の一次情報を追うための起点として最適。

Apple 公式サイト(外部)
iPhone Foldの正式発表後は公式ページで最新仕様・価格・予約情報を確認。

Liquidmetal Technologies 公式サイト(外部)
iPhone Foldのヒンジに採用される液体金属(メタリックガラス)の開発・製造元。技術の詳細と応用事例を公開している。

DigiTimes(外部)
Appleのサプライチェーン情報を継続的に報道する台湾の業界専門メディア。一部記事は有料だが、見出しだけでも動向把握に有用。

【参考記事】

Foldable iPhone Production Stalls Amid Hinge Issues – MacRumors(2026年5月18日)(外部)
Instant Digitalによるヒンジ耐久性問題の詳細、液体金属ヒンジの技術背景、クリースレス基準(0.15mm・2.5度)の出典として参照。

iPhone Fold Production Pushed Back, But Fall 2026 Launch Still on Track – MacRumors(2026年4月13日)(外部)
DigiTimesによる量産スケジュール(6月→8月初旬後倒し)の詳細、供給制約リスクの指摘の出典として参照。

iPhone Fold Expected to Launch on Time in September Despite Delay Rumors – MacRumors(2026年4月7日)(外部)
Bloombergマーク・ガーマン記者による「9月発表維持」報告、iPhone Foldの基本スペック確認に参照。

Foldable iPhone Reportedly Facing Mass Production Issues – MacRumors(2026年5月26日)(外部)
本記事の元記事。Fixed Focus DigitalによるSMT歩留まり問題報告の一次情報。

iPhone 15 Pro and Pro Max Supplies Could Be Constrained at Launch Due to Display Manufacturing Issues – MacRumors(2023年7月)(外部)
Appleの初物における製造起因の供給制約パターンの先例として参照。

【編集部後記】

折りたたみスマートフォンというカテゴリーが生まれて7年が経ちます。この間、私たちは毎年「折りたたみは今年こそ本命になるか」という問いを繰り返してきました。

今回の量産トラブルの報告を読んで、私が感じたのは「やはり難しい」という単純な感想ではありませんでした。ヒンジに液体金属(メタリックガラス)を使い、折り目の深さを0.15mm未満に抑えようとしている——その執念が、そのまま製造難度として跳ね返っている。それはAppleらしい難しさの種類だと思いました。

折りたたみiPhoneが手に入ったとして、私たちのスマートフォンの使い方は変わるでしょうか。大きな画面でできることが増えるのか、それとも「iPhoneはiPhoneのままでよかった」と気づくのか。その問いの答えは、発表を待たなければ分かりません。私たちも一緒に、続報を追っていきます。

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乗杉 海
SF小説やゲームカルチャーをきっかけに、エンターテインメントとテクノロジーが交わる領域を探究しているライターです。 SF作品が描く未来社会や、ビデオゲームが生み出すメタフィクション的な世界観に刺激を受けてきました。現在は、AI生成コンテンツやVR/AR、インタラクティブメディアの進化といったテーマを幅広く取り上げています。 デジタルエンターテインメントの未来が、人の認知や感情にどのように働きかけるのかを分析しながら、テクノロジーが切り開く新しい可能性を追いかけています。