GoogleがディスプレイキャンペーンをDemand Genに統合|「手動運用」の終わりと、AIに委ねる時代の始まり

デジタル広告の世界で、20年近く「あたりまえ」だった風景が変わろうとしています。ウェブサイトを指定してバナーを配信し、クリック率を見ながら入札を調整する——そのサイクルを前提に積み上げられてきたマーケティングの常識が、AIの台頭によって根底から問い直されています。Googleが今回打ち出したのは、単なる機能追加ではありません。これは、「人間が管理する広告」から「AIが最適化する広告」への構造転換の、一つの決定打です。


Googleはディスプレイ広告をAI主導の「Demand Gen(デマンドジェン)」プラットフォームへ統合すると発表した。約20年にわたってデジタル広告の基盤であり続けたGoogleディスプレイネットワーク(GDN)は、この移行によって事実上その役割を終える。

これまでGDNでは、広告主が配信先のウェブサイトを個別に選定し、オーディエンスへの入札やクリエイティブのA/Bテストを手動で管理していた。Demand Genはこの仕組みを刷新し、広告主がビジネスゴールとクリエイティブ素材(画像・動画・見出し)を提供すれば、GoogleのAIがフォーマット・配信場所・ターゲットオーディエンスを自動で決定する。配信先はYouTubeのインストリーム広告、YouTube Shorts、Discoverへのインタラクティブ投稿など、視覚的なプラットフォームに集約される。

同時に、クリックスルー率(CTR)やクリック単価(CPC)といった従来の指標は意味を失いつつあり、代わりに顧客獲得コストや広告費用対効果(ROAS)といったビジネス成果の追跡が求められるようになる。MetaもAdvantage+で同様のAI主導の自動化を推進しており、業界全体で「広告スペースを購入するモデル」から「AIが顧客を探し出すモデル」へのシフトが加速している。

From: 文献リンクGoogle folds Display Ads into AI-first Demand Gen platform

【編集部解説】

Googleがディスプレイ広告をDemand Genに統合するこの移行は、単なるUIの刷新ではありません。日本のマーケターや広告代理店にとって、それは長年培ってきた「運用の熟練」というアドバンテージが問い直される転換点です。

移行は段階的に進みます。2026年6月から、対象の広告主はGoogle広告管理画面内の移行ツールを使って、既存のディスプレイキャンペーンをDemand Genへ任意で移行できるようになります。その後、新規のスタンドアロンディスプレイキャンペーンは作成不可となり、移行しなかったキャンペーンはGoogleによって自動的にDemand Genへ移行されます。全体の移行は2027年までに完了予定です。

この「自動移行」というオプションが存在することに安堵を覚えた方は、少し立ち止まってください。多くの日本の広告代理店は、クライアントのGDNキャンペーンに対して長い時間をかけて配信除外リストを構築してきました。低品質なアプリ、駐車ドメイン、ブランドイメージと合わない配信先——何ヶ月、場合によっては何年もかけてチューニングした設定が、自動移行によって完全に引き継がれない可能性があります。もし除外設定が不完全な状態でDemand Genが動き始めれば、意図しない配信先に予算が流れます。それは「効果が下がった」という結果として現れますが、原因が移行の不備にあると気づくまでに時間がかかりかねません。2026年1月に報じられたアカウントレベルの配信除外機能を活用し、この機会に管理体制を再点検するのが現実的な対策です。

Demand Genが要求するのは、「コントロール」ではなく「素材」です。Googleは画像、動画クリップ、見出しをインプットとして受け取り、AIがそれらを組み合わせてYouTube Shorts、インストリーム動画、Discoverへの投稿として最適化します。これは、これまで「どこに配信するか」を考えていたチームが、「何を渡すか」に思考を切り替える必要があることを意味します。特に動画素材は避けて通れません。日本のインターネット広告市場では、2025年に動画広告費が推定開始以来初めて1兆275億円を突破し、前年比121.8%という急成長を記録しました。Googleのこの動きは、日本市場のトレンドとも方向性が一致しています。

課題は、制作コストです。静止画バナーを中心に広告制作の体制を組んできた中小規模の広告主や代理店にとって、複数フォーマットに対応する動画素材を継続的に供給する体制の構築は、容易ではありません。GoogleはVeo AIによる静止画からの動画生成機能をDemand Genに追加しており、AI生成コンテンツがその一部を補う可能性はありますが、クオリティ管理や日本語コンテキストへの適応という課題は残ります。

日本のデジタル広告運用で長年使われてきた指標——クリックスルー率(CTR)やクリック単価(CPC)——は、Demand Genの世界では適切な評価軸ではなくなります。AIが複数のフォーマットと配信先を横断して同時最適化する環境では、「この1本のバナーがどれだけクリックされたか」という問いは意味を失うからだ。代わりに求められるのは、顧客獲得コスト(CAC)、広告費用対効果(ROAS)、購買ジャーニー全体への影響を測定する視点です。この転換はレポーティングの設計だけでなく、クライアントへの「広告が効いた」という説明の仕方そのものを変えることになります。日本の多くの広告代理店では、依然としてクリック数やインプレッション数でレポートを構成しています。クライアントとの合意形成を含め、指標体系の刷新は実務的な課題として早急に検討すべき事項です。

元記事が指摘するように、Demand GenのAIは正確なコンバージョンデータなしには機能しません。これは日本企業の多くにとって、CRMやECバックエンドとGoogle広告の連携品質が、直接的に広告パフォーマンスを左右するということを意味します。日本においては、レガシーな基幹システムとSaaSマーケティングツールの連携が不完全なケースは珍しくありません。コンバージョンデータが遅延・欠損している状態でDemand Genに大きな予算を投じても、AIは学習データが不足した状態で最適化を試みることになります。「まずデータ基盤を整える」という、地味だが本質的な作業が、AI広告時代の競争優位を決める要素の一つになりつつあります。

移行のメリットとして、GoogleはGDNをDemand Genキャンペーンに追加した広告主で平均9.5%のROI向上を報告しています(2025年8月のGoogle社内グローバルデータ)。またGoFoodはGDNをDemand Genに追加後、CPA24%減・コンバージョン量19%向上を達成しています。ただし、これらはあくまで平均値・個別事例であり、クリエイティブの強度、コンバージョントラッキングの精度、オーディエンスの質、配信先の適切さといった要因が揃って初めて実現する数字です。「AIに任せれば勝手に改善される」という読み方は危険です。むしろ、AIが成果を出せる環境——良質な素材、正確なデータ、明確なビジネスゴール——を整備することへの投資が、これからの広告運用の本質的な価値になります。

【用語解説】

Demand Gen(デマンドジェネレーション)キャンペーン
Googleが提供するAI主導の広告キャンペーン形式。YouTube(Shorts含む)、Discover、Gmail、Googleディスプレイネットワーク(GDN)などに横断配信できる。広告主がビジネスゴールとクリエイティブ素材を提供すると、GoogleのAIがフォーマット・配信先・ターゲットオーディエンスを自動で最適化する。2023年に登場し、Discoveryキャンペーンの後継にあたる。

GDN(Googleディスプレイネットワーク)
Googleが提携する200万以上のウェブサイト、アプリ、動画プロパティで構成される広告配信ネットワーク。世界のインターネットユーザーの90%以上にリーチするとGoogleは報告している。今回の変更でスタンドアロンのキャンペーンタイプとしては廃止され、Demand Gen内の「チャネル」として統合される。

Performance Max(パフォーマンスマックス)
Googleが提供する全チャネル横断型キャンペーン。検索・ショッピング・ディスプレイ・YouTube・Gmail・DiscoverなどすべてのGoogle面に配信できる。Demand GenはPerformance Maxより配信面が限定的だが、クリエイティブのコントロール性が高く、ファネルの中間段階(潜在顧客の関心醸成)に特化している。

ROAS(Return On Ad Spend/広告費用対効果)
広告費に対してどれだけの売上を獲得できたかを示す指標。計算式は「売上÷広告費×100(%)」。Demand Gen時代のレポーティングでは、CTRやCPCに代わりこの指標と顧客獲得コスト(CAC)が中心的な評価軸となる。

ルックアライクセグメント(類似セグメント)
既存の顧客リストや自社データ(ファーストパーティデータ)に基づき、GoogleのAIが類似した特性を持つ新規ユーザーを見つけ出す機能。Demand Genの主要なオーディエンスターゲティング手法の一つ。2026年3月から段階的に「シグナル」として扱われるsuggestion modeへ移行しており、AIが配信対象をより広く拡張する提案を行うようになっている。

配信除外リスト(プレースメント除外)
広告を配信したくないウェブサイト、アプリ、YouTubeチャンネルを指定するリスト。GDNの運用において、品質の低いインベントリやブランドイメージに合わない配信先を長期間かけて排除してきた設定が、今回の移行で引き継ぎ漏れが生じる可能性がある。Google広告ではキャンペーン・広告グループ・アカウントの各レベルでプレースメント除外を設定でき、2026年1月頃にアカウントレベルでの一元管理機能が報じられた。

Veo(ヴェオ)
Googleが開発した動画生成AIモデル。2026年3月のDemand Gen Dropで広告機能に統合され、静止画像から複数の動画バリエーションを自動生成できるようになった。動画素材の制作コストを下げるツールとして機能するが、品質管理や日本語コンテキストへの適応は広告主側の判断が必要。

【参考リンク】

Google ディスプレイ広告のDemand Genへの移行(Google広告ヘルプ公式)(外部)
移行ツールの使い方や2026年6月〜2027年の移行タイムラインを公式に説明したページ。実務担当者の第一参照先。

Demand Genキャンペーンについて(Google広告ヘルプ公式)(外部)
Demand Genの仕組み、配信面、入札戦略、クリエイティブ仕様を網羅した公式ドキュメント。

Demand Genを使った顧客へのアプローチ(Google広告 日本語)(外部)
Google広告の日本語公式ページ。Demand Genの概要と活用シナリオをビジュアルで確認できる。

2025年 日本の広告費 インターネット広告媒体費 詳細分析(電通デジタル)(外部)
動画広告費の1兆円突破やソーシャル広告の二桁成長など、日本市場のデジタル広告動向を把握できる一次資料。

Google広告「デマンド ジェネレーション キャンペーン」とは?(アナグラム)(外部)
日本語で読めるDemand Genの解説記事。ディスプレイ広告との違い、設定方法を実務目線で解説。2026年5月に更新済み。

2026年3月 運用型広告アップデートまとめ(アナグラム)(外部)
Veo AIによる動画生成やルックアライクセグメントの変更など、Demand Gen最新動向を日本語でまとめた実務情報。

【参考動画】

Google Ads公式チュートリアル「Create and capture demand with Demand Gen campaigns」(2024年、英語)。Demand Genの基本的な仕組みと設定方法を公式が解説。

【参考記事】

Google folds Display Ads into AI-first Demand Gen platform(AI News)(外部)
本記事の元となったRyan Daws記者によるレポート。GDN廃止の背景とDemand Genへの移行が業界に与える構造的影響を論じる。

Google Display Ads has a new home in Demand Gen(Google Ads & Commerce Blog)(外部)
9.5% ROI向上・GoFood事例を含むGoogle公式発表ブログ。移行の意図と期待効果を一次情報として確認できる。

Google Is Retiring Standalone Display Campaigns In Favor Of Demand Gen(Search Engine Journal)(外部)
移行後の配信除外リスト問題や広告主が今すぐ着手すべき準備事項を実務的に整理した記事。

Google Display Ads Is Moving to Demand Gen(Relevant Audience)(外部)
自動移行を待つリスクと、プレースメント除外設定の引き継ぎ確認の重要性を詳述した解説記事。

Google Display Ads Moves to Demand Gen: 2027 Migration Guide(davidtamachi.ca)(外部)
移行を「測定とクリエイティブの準備プロジェクト」として捉えるべき理由を論じる実務向け解説。

Google Demand Gen Update 2026: What Advertisers Should Test(Krows Digital)(外部)
日本市場固有の文脈(ローカライズ課題、電通データ引用)を交えながら、Demand Genの活用戦略を検討した記事。

Google adds Veo Video Tool to Demand Gen Campaigns(The Keyword)(外部)
2026年3月のDemand Gen Dropで追加されたVeo AI動画生成・クリエイターパートナーシップ・フォロービュー最適化の3機能を詳解。

【編集部後記】 

「AIに任せれば楽になる」という話ではない、と私たちは思っています。Demand Genへの移行が問いかけているのは、「あなたのチームは、AIが成果を出せる環境を整えられるか」ということではないでしょうか。良質な素材、正確なデータ、明確なゴール——その三つが揃って初めてAIは機能します。逆に言えば、その三つを整備することに今から集中できる組織が、この移行を追い風にできる組織です。私たちも引き続き、この変化の行方を追っていきます。

Googleで優先するソースとして追加するボタン
投稿者アバター
乗杉 海
SF小説やゲームカルチャーをきっかけに、エンターテインメントとテクノロジーが交わる領域を探究しているライターです。 SF作品が描く未来社会や、ビデオゲームが生み出すメタフィクション的な世界観に刺激を受けてきました。現在は、AI生成コンテンツやVR/AR、インタラクティブメディアの進化といったテーマを幅広く取り上げています。 デジタルエンターテインメントの未来が、人の認知や感情にどのように働きかけるのかを分析しながら、テクノロジーが切り開く新しい可能性を追いかけています。