XREALが新サブブランドxbxを立ち上げ|最軽量ARグラスa01、中国で発売開始

ARグラスという製品カテゴリに、長らくある課題が存在してきました。スクリーンレスの大画面体験という価値は理解できます。しかし、実際に手を出そうとすると価格の壁にぶつかり、装着感や見た目への不安も重なって、「いつか試してみよう」という気持ちのまま先送りになる——そんな潜在層が世界中に積み上がっています。XREALはそこに目を向け、新たなサブブランド「X by XREAL(xbx)」を立ち上げました。カジュアルなAR体験への入口を大きく広げようとしています。


XREALは2026年5月27日、新サブブランド「X by XREAL(xbx)」を発表し、その第一弾製品となるARグラス「a01」を中国で発売した。米国では2026年7月に299ドルから発売予定だ。

a01は重量62グラムと同カテゴリ最軽量を謳い、輝度1,600ニットのマイクロOLEDディスプレイにHDR10を搭載する。視野角は50度で、装着時の体験は実質147インチのテレビ相当とされる。

XREALは同製品を「廉価版の妥協品ではない」と位置づけており、新たな空間手ぶれ補正アルゴリズムによって通勤・飛行機・高速鉄道などの移動環境でも安定した映像再現を実現するとしている。また、交換式フロントフレームを採用しており、ユーザーが3Dプリンターでオリジナルのフレームアクセサリーを制作することも可能だ。

0DoF(0自由度)設計のため、Apple Vision Proのような空間コンピューティング用ヘッドセットとの競合は想定しておらず、旅行者・通勤者・携帯ゲーマー・動画視聴者向けの「ポケットシネマ」として訴求する。XREALの既存ラインナップはXREAL 1Sが449ドル、XREAL Oneが499ドル、One Proが649ドルであり、a01はOne Proの約半値以下、XREAL 1Sと比べても約3分の2の価格でカテゴリへの入口を下げる戦略的な位置づけとなっている。

From: 文献リンクXreal launches a cheaper AR glasses brand, starting with the $299 a01 — Engadget

【編集部解説】

ARグラスというカテゴリは、長らく奇妙な停滞のなかにありました。技術は確実に前進しているのに、市場の規模はなかなか伸びない。IPO申請書(BigGo)をもとにした推計によると、2025年の世界出荷台数はARディスプレイグラス全体で約90万台前後とされており、スマートフォンどころかワイヤレスイヤホンとも比較にならない小さな市場です。XREALはその市場で、iResearch調べ・ARグラス売上高ベースで4年連続の1位(2025年で27%)を誇りながら、2025年の出荷台数は約13万台にとどまっています。「業界トップ」でありながら、まだニッチ製品の域を出ていない——これが現実です。

停滞の一因として、価格が挙げられます。XREALの既存ラインナップを見ると、エントリー向けの「XREAL 1S」が449ドル、昨年発売の「One Pro」は649ドルでした。「試しに使ってみたい」という層にとって、この価格帯は踏み切りを難しくするには十分です。Engadgetによると、XREALはa01について「廉価版の妥協品ではない」と強調しており、同社はa01をiPhone SEになぞらえています。その比喩は的を射ています。iPhone SEが「Appleのエコシステムに初めて触れる層」を取り込んだように、a01の299ドルは「ARグラスというカテゴリそのものへの入口」を広げる役割を担っています。

価格を下げるにはトレードオフが伴います。a01が注目を集める一方で議論を呼びそうなのが「0DoF」という設計です。DoF(自由度)とは、デバイスが空間内のどの動きを追跡できるかを示す指標で、0DoFは「頭の動きに画面がそのままついてくる」状態です。視線を左に向ければ画面も左に動く——スクリーンを顔に直接貼り付けたイメージに近いと言えます。3DoFになると画面が空間にある程度固定され、6DoF(Apple Vision Proなどが採用)では画面が物理空間に存在するかのように固定された、本格的な空間コンピューティングが可能になります。DoFを上げるにはカメラや複雑なセンサー群が必要で、重量・消費電力・コストが跳ね上がります。a01が「カメラなし・62グラム・299ドル」という三条件を同時に達成できたのは、空間追跡を潔く省いたからです。

その代わりに採用されたのが、ソフトウェアによる「空間手ぶれ補正(Spatial Anti-Shake)」アルゴリズムです。移動中の身体の揺れを検知し、映像をリアルタイムで補正する仕組みで、ハードウェアトラッキングとは根本的に異なるアプローチです。空間に仮想オブジェクトを配置して歩き回るような用途では力不足ですが、「電車の中で映画を快適に見る」という目的に絞れば、これで十分と割り切る考え方は筋が通っています。

もうひとつのスペック、1,600ニットという輝度についても背景を補足しておきます。a01はマイクロOLEDにバードバス(Birdbath)と呼ばれる光学系を組み合わせています。この構造はハーフミラーを用いる設計上、目に届く実効輝度はパネル出力値より相当低くなります。つまり「1,600ニット」はあくまでパネル側の出力値であり、実際に視認できる明るさはそれより低くなります。それでも通勤・空港・機内といった環境での視認性を確保するには、このくらいの出力が必要という設計判断です。なお、バードバス光学系は外光の透過率が低い——つまり外の景色が見えにくい——という特性も持ちます。a01に「透明モード」と「没入モード」の切り替えがある理由のひとつは、この制約への対処です。

a01の発表と同じ週、XREALはGoogle I/OでAndroid XR対応の上位機「Project Aura」を披露しました。視野角70度・GeminiとAndroid XRを統合したProject Auraは2026年内の一般発売が予定されており、空間コンピューティングの先端を担う製品として位置づけられています。iPhoneで言えばa01がSE、Project AuraがProに相当する二層構造です。XREALはこの体制で、ARグラスの入口から先端まで、動機の異なるユーザーを同時に取り込もうとしています。

IDCの2025年通年データでは、XR市場全体(VRヘッドセット・スマートグラスを含む)のシェアはMeta 72.2%、XREAL 2.3%となっています。なお、XREALのARグラス売上高ベースの市場シェア(iResearch、27%)とIDCのXR全体シェア(2.3%)は、調査対象のセグメントが異なるため直接比較はできません。

ただし、そのどちらもまだ「スマートフォン並みの普及」には程遠い段階にあります。a01の299ドルが、停滞する市場を次のフェーズへ引き寄せる触媒になるかどうか——それは実際に使ってみた人たちの評価が積み上がってから、あらためて問い直されることになるでしょう。

【用語解説】

xbx(X by XREAL)
XREALが2026年5月に立ち上げた新サブブランド。「Xとアクセスしやすさ(Accessible)、そして大きなスクリーン体験(X-Large)」を掛け合わせた名称とされる。既存の上位ラインナップ(One Series・Project Aura)とは別に、より手の届きやすい価格帯でARグラス市場への入口を広げることを目的として設立された。

0DoF(0自由度)
ウェアラブルデバイスが空間内のどの動きを追跡できるかを示す「自由度(DoF:Degrees of Freedom)」の最小形態。0DoFでは頭の動きにそのまま映像がついてくる——画面は常に視野の中心に固定され、スクリーンが顔に貼り付けられたような感覚になる。3DoFでは頭部の回転のみを追跡し、6DoF(Apple Vision Proなど)ではさらに前後左右の移動も追跡して映像を空間に固定できる。0DoFはトラッキング用のカメラが不要なため、軽量・低コスト・低消費電力を実現しやすい。

マイクロOLED(OLEDoS)
シリコンウェハー上に有機発光ダイオード(OLED)素子を直接形成した超小型ディスプレイ。液晶(LCD)や従来のOLEDと比べてピクセル密度が非常に高く、応答速度が速く、コントラスト比も高い(黒が純粋な黒になる)。ARグラスの光学系との組み合わせでは「バードバス(Birdbath)」と呼ばれる光学コンバイナーと組み合わせることが多く、高い映像品質をコンパクトな光学系で実現できる。その一方でバードバス光学系は外光の透過率が低く、完全な透明ディスプレイとしての使用には向かない側面もある。

空間手ぶれ補正(Spatial Anti-Shake)
移動中(電車・飛行機・徒歩など)に生じる身体の揺れに対して、ソフトウェアアルゴリズムで映像を安定させる技術。0DoFグラスはカメラを持たないため、物理空間への映像固定(DoFトラッキング)ができない。その代わりに、内蔵センサー(IMU=慣性計測ユニット)などから振動データを取得し、映像をリアルタイムで補正することで移動中の実用性を高める。

バードバス光学系(Birdbath Optics)
ハーフミラーと曲面鏡を組み合わせた光学構造。マイクロOLED等の超小型ディスプレイからの光を目に届けるために使われる。コンパクトに設計できる一方、ハーフミラー構造による光の反射損失があり、目に届く実効輝度はパネル出力値より相当低くなる。また、外の景色が透けにくいため「没入型」の視聴に向いており、街中での常時装着よりも乗り物内や室内での使用に適した設計となる。

HDR10
高ダイナミックレンジ(HDR)映像の国際標準規格のひとつ。通常の映像(SDR)より明部と暗部の輝度差を広く表現でき、より鮮やかで自然な映像体験を提供する。a01はSDRコンテンツをリアルタイムでHDR相当に変換するAI機能も搭載している。

【参考リンク】

X by XREAL 公式サイト(外部)
xbxサブブランドおよびa01の製品ページ。スペック詳細・購入情報

XREAL 公式ショップ(米国)(外部)
XREAL製品ラインナップ全体の確認・購入窓口。a01の予約・発売情報もここから

XREAL Project Aura 公式ページ(外部)
Google I/O 2026で発表された上位モデルProject Auraの詳細。a01との位置づけの違いを理解するための参照先

XREALによる0DoF・3DoF・6DoFの解説(英語)(外部)
XREAL自身が書いた自由度の違いの解説。a01のトラッキング仕様を理解する出発点

IDC:XR市場成長レポート 2025(外部)
スマートグラス市場全体の動向・出荷台数・シェアデータ。ARグラスの現在地を俯瞰するための一次データ

XREAL Beam Pro(アクセサリー情報)(外部)
a01と組み合わせて使えるXREAL製コンパニオンデバイスの情報。スマートフォン・SteamDeck・ノートPCとの接続方法もここから確認できる

Reddit r/xreal(外部)
XREALユーザーのコミュニティ。購入前の質問、実機レビュー、競合製品との比較など。a01の実際の使用感を購入前に確認するのに有用

【参考記事】

XREAL’s $299 AR glasses finally look like something people may actually wear — Android Authority(外部)
快適性設計(アダプティブヒンジ・鼻パッド・薄型テンプル)と0DoFの位置づけを詳しく解説。「日常的に装着できるデザイン」という観点からの評価が参考になる

Xreal launches much more affordable ‘a01’ AR glasses, coming soon to the US for $299 — 9to5Google(外部)
XREAL 1S(449ドル)との価格比較と、xbxブランドの「accessible and inclusive」という方針を中心に報道。a01とProject Auraの役割分担を簡潔に整理

Xreal Just Made Its AR Glasses a Lot More Affordable — Gizmodo(外部)
視野角50度・147インチ相当・XREAL One(499ドル)との比較を数値で示したレビュー。スペック情報の補完に使用

AR Glasses Leader XREAL Rushes for Hong Kong IPO — BigGo Finance(外部)
XREALのIPO申請に伴う財務状況・市場シェア・出荷台数の公開データ。2025年の業界全体の出荷規模とXREALの立ち位置を把握するための資料

IDC — XR Market Expands 44.4% in 2025 as Smart Glasses Take Center Stage(外部)
2025年XR市場の全体動向。スマートグラス市場の急成長とメーカー別シェアを示した業界データ

XREAL and Google Demo Project Aura XR Glasses Ahead of 2026 Global Launch — Auganix(外部)
Project AuraとAndroid XRプラットフォームの関係を整理。a01の位置づけを上位モデルとの対比で理解するために参照

【編集部後記】

ARグラスを「いつか試してみたい」と思ったまま、ずっと先送りにしていた——そんな方は少なくないのではないでしょうか。価格の壁、装着感への不安、「そもそも日常で使えるのか」という疑問。a01はそれらひとつひとつに、299ドルという数字と62グラムという重量で答えようとしています。

ただ、私たちがもっと気になるのはここから先です。「ポケットシネマ」として割り切った設計のa01が実際に多くの人の手に渡ったとき、使われ方はどう広がるのか。3Dプリンターでフレームを自作するコミュニティは育つのか。そして、ARグラスの普及に本当に必要なのはハードウェアの進化なのか、それともキラーコンテンツなのか。米国での発売は7月の予定です。実機レビューが出始めたら、また一緒に考えてみましょう。

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乗杉 海
SF小説やゲームカルチャーをきっかけに、エンターテインメントとテクノロジーが交わる領域を探究しているライターです。 SF作品が描く未来社会や、ビデオゲームが生み出すメタフィクション的な世界観に刺激を受けてきました。現在は、AI生成コンテンツやVR/AR、インタラクティブメディアの進化といったテーマを幅広く取り上げています。 デジタルエンターテインメントの未来が、人の認知や感情にどのように働きかけるのかを分析しながら、テクノロジーが切り開く新しい可能性を追いかけています。