これまで、何かを買うときの決め手といえば、ほかの人のレビューや口コミでした。ところが、その座が静かに入れ替わりつつあります。博報堂買物研究所の最新調査によると、買物の情報源として、生成AIへの信頼がついにECサイトのレビューを上回りました。しかも、約6割の人が「買うかどうか」の最終判断まで生成AIに委ねたいと答えています。私たちと買物の関係は、いま大きな転換点を迎えているのかもしれません。
博報堂買物研究所は2026年6月2日、「AIショッパー調査」の結果を発表した。全国の20〜69歳の男女2万人を対象に、生成AIの利用実態と購買行動への影響を調べたもので、調査時期は2026年2月20日から24日、調査はインテージに委託した。
生成AIの認知率は91.2%、認知者のうち日常生活での利用率は49.4%だった。買物に生成AIを使う「AIショッパー」は全体の24.6%で、うち週1回以上の利用が41.7%を占めた。情報源としての信頼度は生成AIの回答が51.7%で、ECサイトのレビューの48.6%を上回った。
AIショッパーが生成AIに任せたい範囲では、情報収集が89.4%、最終的な商品の決断が60.0%、購入をやめる判断が67.7%となった。
From:
買物の決め手は“レビュー”から“生成AI”へ 生成AIの信頼度はユーザーレビューを超え、約6割が最終判断も委ねたいと回答―博報堂買物研究所「AIショッパー調査」―

【編集部解説】
今回の調査でもっとも目を引くのは、買物に生成AIを使う「AIショッパー」のうち、最終的な商品の決断まで生成AIに「任せたい」と答えた人が60.0%に達した点です。実はわずか1年ほど前、同じ博報堂買物研究所の調査では、購入意思の決定をAIに委ねたいと答えた人は5%にとどまっていました。両者は設問や調査対象が同一とは限らず単純に比べることはできませんが、それでもこの数字の並びからは、生活者の心理的な敷居が変わりつつある兆しがうかがえます。
背景にあるのは、生成AIの「使われ方」そのものの変化です。これまでAIは検索や下調べの道具でした。それが今は、比較検討から候補の絞り込みまでを任せる相手へと役割を広げています。
ここで鍵になるのが「AIエージェント」という言葉です。従来のチャットAIが「質問に答える」存在だったのに対し、エージェントは「目的を伝えると、調べて・比べて・場合によっては購入手続きまで代行する」存在を指します。今回の調査が映し出したのは、まさにその一歩手前の生活者意識だといえます。
世界に目を向けると、この流れはすでに製品として動き出しています。MicrosoftのCopilot CheckoutやPerplexityのInstant Buyは、会話の画面を離れずに買物を完結させる機能で、Googleも一部の米国小売事業者向けに、AI Modeからの決済機能の順次展開を進めています。市場規模の予測も大きく、調査会社eMarketerは、2026年に米国の小売EC売上に占めるAIプラットフォーム経由の支出が209億ドルに達し、前年のおよそ4倍になると見込んでいます。「買物の入口がAIになる」という博報堂の所見は、日本固有の話ではなく、世界同時進行の構造変化の一部なのです。
この変化が私たちにもたらす恩恵は明確です。情報過多のなかで生活者が立ち止まってしまう「選べない買物」の負荷を、AIが肩代わりしてくれる可能性があります。調査でも、買物時間が短くなったのに納得感は高まるという、一見すると相反する結果が出ていました。時間を節約しながら、選んだ理由にも腹落ちできる——これは買物体験の質的な転換点といえるでしょう。
一方で、見落とせないリスクもあります。情報源としての信頼度で生成AI(51.7%)がECサイトのレビュー(48.6%)を上回ったということは、裏を返せば、AIの回答が偏っていたり、特定の商品に誘導されていたりした場合、その影響が口コミ以上に広く及ぶということです。AIの推薦と広告の境界が曖昧になれば、生活者は「中立な助言」と「巧妙な販促」を見分けにくくなるおそれがあります。
プラットフォーム間の覇権争いも、すでに摩擦を生んでいます。Amazonは自社サイトへの外部エージェントのアクセスをめぐってPerplexityと法廷で争い、米連邦裁判所はPerplexityのAIショッピングエージェントによるAmazon利用を一時的に差し止める命令を出しました。買物の入口を誰が握るのか——その綱引きは、最終的に「どの商品が生活者に見つけてもらえるか」を左右します。検索エンジンの最適化(SEO)が重要だった時代から、AIに引用・推薦されるための最適化へと、企業側の戦場も移りつつあります。
規制の観点でも、この問題は無視できません。公正取引委員会は2026年4月に生成AIに関する実態調査報告書のver.2.0を公表し、市場の動向を継続的に注視しています。AIが購買判断に深く関与するほど、推薦の透明性や公正な競争環境の確保は、今後の政策テーマとして重みを増していくはずです。
長期的に見れば、問われるのは「どこまでをAIに委ねるか」という、生活者一人ひとりの線引きです。AIショッパーのうち情報収集を任せたい人が89.4%いる一方、最終決断まで任せたい人は60.0%。この差にこそ、「便利さは享受したいが、最後は自分で決めたい」という人間らしい感覚が表れています。
これは単なる「買物の効率化」の話ではありません。何かを選ぶという行為は、自分が何を大切にしているかを確かめる営みでもあります。その判断の一部をAIに渡すとき、私たちは利便性と引き換えに何を手放すのか。買物という最も身近な意思決定の現場で、人とAIの新しい役割分担が静かに始まっている——今このニュースを取り上げる意味は、そこにあると考えています。
【用語解説】
AIショッパー
本調査が定義した造語で、買物(サービス利用を含む)に生成AIを使っている人を指す。今回の調査では全体の24.6%、約4人に1人がこれに該当した。
UGC(User Generated Content)
生活者や個人が発信する投稿コンテンツの総称。ECサイトのレビュー、SNS投稿、口コミ、ブログなどが含まれる。今回、情報源としての信頼度で生成AIは、ECサイトのレビューやSNS・動画のレビュー、個人ブログなどのUGC系情報源を個別に上回った。
「選べない買物」の悲劇
博報堂買物研究所が2018年に提唱した概念。情報や選択肢が多すぎることで比較・検討の負担が増し、生活者が選べない状態に陥る現象を指す。
SEO(検索エンジン最適化)
検索結果で上位に表示されるようサイトを最適化する施策。近年は、AIに引用・推薦されることを狙う最適化へと領域が広がりつつある。
【参考リンク】
博報堂買物研究所(外部)
本調査を実施した博報堂のシンクタンク。2003年より活動し、生活者の購買行動を研究して調査や予測を発信する。
株式会社インテージ(外部)
本調査を受託した国内大手のマーケティングリサーチ会社。消費者パネルや各種調査を手がける。
公正取引委員会(外部)
独占禁止法を運用する行政機関。生成AI関連市場の実態調査報告書を継続的に公表している。
eMarketer(外部)
米国の調査・分析会社。デジタル広告やEC、AIの市場規模に関する推計データを提供する。
Microsoft Copilot(外部)
Microsoftの生成AIサービス。会話画面で買物を完結させるCopilot Checkout機能を展開する。
Perplexity(外部)
回答に出典を併記する対話型AI検索サービス。買物機能Instant Buyを提供している。
Google AI Mode(外部)
Google検索に統合された生成AI機能。一部の米国小売向けに検索からの決済機能を順次展開している。
Amazon(外部)
世界最大級のEC。買物アシスタントRufusを展開する一方、外部AIエージェントには制限的な姿勢をとる。
【参考記事】
PayPal and Perplexity Launch Instant Buy Ahead of Black Friday(PayPal)(外部)
PerplexityユーザーがカタログをリアルタイムでみてプラットフォームのInstant Buyで直接購入できると説明する。
Conversations that Convert: Copilot Checkout and Brand Agents(Microsoft Advertising)(外部)
会話から購入までを一つの画面で完結させるCopilot Checkoutを米国で展開開始したとするMicrosoft公式の説明。
生成AIに関する実態調査報告書ver.2.0について(公正取引委員会)(外部)
公取委が2026年4月16日に公表。生成AI関連市場の動向を継続的に注視する姿勢を示す一次資料。
【関連記事】
ChatGPT・Gemini利用増、「なくなったら困る」59.2%|生成AI依存と検索離れの実態
生活者の生成AI依存と検索行動の変化を扱った記事。「どこまでAIに委ねるか」という本記事の問いと響き合う。
AWS Agentic Shopping Assistant 発表、AmazonがAlexaの接客AIを他社へ開放—Kate Spadeが初導入
小売向けエージェント接客AIの最新動向。エージェントコマースの実装事例として本記事を補完する。
Mastercard Agent Pay、香港で初のAI決済が完了—エージェンティックコマースの時代が始まる
AIエージェントが決済まで担う仕組みを解説。本記事の用語「AIエージェント」を深掘りできる。
Google公式が示した生成AI検索のSEO新ガイド、AEO・GEOは「依然SEO」
AIに引用・推薦されるための最適化を扱う。企業側の戦場の変化という本記事の論点を裏づける。
【編集部後記】
正直なところこの記事を書きながら、私自身も最近の買物を振り返っていました。気づけば、何かを買う前にまず生成AIに相談している自分がいます。便利だと感じる一方で、最後のひと押しは自分で決めたいという気持ちも、確かに残っています。
今回の調査は、そんな揺れを数字で見せてくれました。AIに任せることと、自分で選ぶこと。その境界は人それぞれで、正解はないのだと思います。みなさんはこれから、どんな線を引いていくでしょうか。私たちも一緒に、考え続けていきたいと思います。












