H3ロケット6号機「30形態」打ち上げ成功|LE-9エンジン3基で挑んだ再起とMMXへの道

飛びました。固体ロケットブースタを1本も使わず、3基のLE-9エンジンだけで——H3ロケット6号機が挑んだ「30(さんぜろ)形態」は、日本の大型基幹ロケットがこれまで一度も飛ばしたことのない構成です。その初飛行が、昨年12月の8号機失敗からの「再起」と重なる一機でもありました。速報でお伝えした成功の余韻のなか、この特集ではあらためて腰を据えて、3つの論点を見ていきます。「6号機までどんな道のりがあったのか」「相乗りした6機の超小型衛星は何を運んだのか」、そして「この成功の先に、火星まで続くどんな予定が並んでいるのか」。歓声の裏側にある技術と物語を、いっしょにたどってみましょう。


JAXAは2026年6月12日9時53分59秒、H3ロケット6号機(30形態試験機、H3・F6)を種子島宇宙センター 大型ロケット発射場から打ち上げた。機体は順調に飛行を続け、衛星フェアリング分離、第1段エンジン停止、第1段・第2段の分離、第2段エンジンの燃焼まで計画どおりにコマを進め、搭載した小型副衛星も計画どおり順次分離していった。打上げは成功した。固体ロケットブースタを使わず液体エンジン3基だけで飛ぶ「30形態」の初飛行であり、2025年12月の8号機失敗からの飛行再開(RTF)でもある。

当初は6月10日の予定だったが、天候悪化の見込みから2日延期されていた。機体は全長約57m、全備質量約271トン。実衛星は搭載せず、性能確認用ペイロード(VEP-5)と小型副衛星6基(PETREL/STARS-X/BRO-22/VERTECS/HORN-L/HORN-R)を載せ、副衛星は高度約576〜586km、軌道傾斜角97.69度の太陽同期軌道(SSO)を目指した。

【編集部解説】

まずは、無事に飛んでくれたことを素直に喜びたいと思います。今回の6号機は、ただの新型ロケットのお披露目ではありません。固体ブースタを外した未踏の構成「30形態」の初飛行と、8号機失敗からの飛行再開(RTF)という、2つの重荷を同時に背負った一機でした。その両方を、計画どおりの飛行でクリアしてみせた——この事実から、3つの論点を順にひもといていきます。

ここまでの道のり——6号機が「6番目」に飛んだのではない理由

まず、番号の話から始めさせてください。今回飛んだのは6号機ですが、すでに7号機と8号機は先に打ち上げられていました。順番が逆に見えるこの状況こそ、H3という計画の性格をよく表しています。

H3ロケットは「低価格」「高信頼性」「柔軟性」という3つの柱を掲げて開発されました。なかでも「柔軟性」を支えるのが、搭載する衛星の重さや目指す軌道に応じてエンジンやブースタの数を組み替える、複数の機体形態というしくみです。号機ごとに新しい構成を少しずつ実証していく開発プログラムであるため、機体番号と打上げ順は必ずしも一致しません。

その歩みは、決して平坦ではありませんでした。試験機1号機(TF1)は分離に至らず失敗に終わり、その教訓はエキサイタやPSC2(2段推進系コントローラ)の改修というかたちで、試験機2号機(TF2)以降のすべての機体に反映されています。ここから着実に実績を積み上げてきたのがH3です。

では、なぜ6号機だけが後ろにずれたのか。理由は、6号機が担う「30形態」の難しさにありました。固体ブースタを外し、液体エンジンだけで離陸するこの構成は、地上での燃焼試験で慎重な確認を要しました。2025年7月24日に実施された1回目のCFT(1段実機型タンクステージ燃焼試験)では、約25秒の燃焼ののち、第1段の水素・酸素タンク圧の昇圧が不足するという課題が確認されます。対策を講じたうえで2026年3月に第2回CFTを実施し、ようやく飛行に支障のないことが確かめられました。この足踏みのあいだに、7号機・8号機が先に飛んだというわけです。

そして、6号機が背負ったもう一つの重さが「再起」でした。2025年12月22日に打ち上げられた8号機は、「みちびき」5号機を所定の軌道へ届けられず、失敗に終わっています。主因はエンジンではなく、衛星を載せる土台部品である衛星搭載アダプタ(PSS)の破損だった可能性が極めて高いとされています。6号機は、検査・補修を施し荷重試験を完了したPSSを実際に飛ばし、その健全性をフライトデータで確かめる「答え合わせ」の意味も持っていました。今回の成功は、その答え合わせをひとまず良い形で前へ進めたことになります。失敗と対策の詳細は速報記事で掘り下げているので、背景を押さえたい方はそちらもあわせてご覧ください。

主役は試験ペイロードと相乗り6機——VEP-5と超小型衛星の全容

6号機はシステムレベルの刷新を伴う試験機のため、実用衛星は積んでいません。代わりに搭載されたのが、性能確認用ペイロード「VEP-5」です。これは30形態で想定される衛星の質量を模した装置で、ロケットの性能を確かめる役割を担い、第2段から分離せず軌道投入もされません。本物の衛星ではないからこそ、新形態の初飛行という挑戦に専念できる、という設計思想がここにあります。

そして今回いちばんの読みどころが、相乗りした6機の超小型衛星です。注目すべきは、その搭載のしくみそのものが新しかったことです。6号機では、搭載環境と搭載能力の向上をねらって新規開発されたリング形状の超小型衛星搭載アダプタが採用されました。アダプタには4つの搭載ポートがあり、そのうち3つにBRO-22、STARS-X、PETRELがそれぞれ単独で、残る1つのポートにVERTECS、HORN-L、HORN-Rがインターフェースプレートを介してまとめて搭載されています。ここで少し紛らわしいのは、衛星を切り離す「分離機構(デプロイヤ)」は衛星ごとに1つずつ、つまり6機分あるのに対し、それらが載るアダプタの「搭載ポート」は4つだという点です。下の3機が1つのポートを共有するため、6機=4ポートという関係になります。衛星の放出機構やインテグレーションはSpace BD社が中心となって担い、6機のうち4機は同社の相乗り打上げサービスとして提供されました(残る2機はJAXAの革新的衛星技術実証プログラムによるもの)。基幹ロケットで初めて民間が相乗り打上げサービスを担う打上げでもあり、政府主導の輸送から商業化へと舵を切る象徴的な一機となりました。

分離は、第2段の燃焼を終えたのち段階的に進みました。打上げから約16分16秒後にPETRELとSTARS-Xを高度約576km・軌道傾斜角97.69度のSSOで分離し、続いて約22分26秒後にBRO-22、約27分26秒後にVERTECS、約28分46秒後にHORN-L、その後にHORN-Rを順次切り離していく計画です。速報の時点では、まずPETRELとSTARS-Xの軌道投入が確認されました。1機ずつ丁寧に送り出していく、まるで宅配便のような繊細な手順が組まれています。

では、それぞれが何を運んだのか。1機ずつ見ていきましょう。

うみつばめ(PETREL/東京科学大学ほか)——陸と海を「分光」で見つめるビジネス実証衛星です。さまざまな波長でデータを取得するマルチ/ハイパースペクトルカメラと、近紫外線で天体を観測する望遠鏡を搭載し、観測そのものに加えて、取得データを提供するサービスの運用までを視野に入れています。質量は約65kg。研究にとどまらず事業化を見据える姿勢が印象的です。

しらいと(STARS-X/静岡大学)——宇宙テザー(ひも状の構造物)の利用技術に挑む実験衛星です。分離後、宇宙空間で約1kmのテザーを伸ばす計画で、実施責任者の能見公博氏によれば、これほど長いテザーの伸展は日本初の試みとのことです。模擬的な宇宙ごみの捕獲や、将来の宇宙エレベーター構想にもつながる基礎技術で、質量は約65kgです。

VERTECS(九州工業大学ほか)——宇宙の可視光背景放射を観測する超小型衛星です。地上からは捉えにくい淡い光を宇宙から測り、宇宙の成り立ちに迫ろうとするミッションで、サイズは約9kg・6Uクラスです。

HORN-L/HORN-R(株式会社BULL)——運用を終えた衛星を速やかに軌道から離脱させる、膜面展開型の軌道離脱装置(PMD:Post Mission Disposal)の実証機です。膜を広げて大気抵抗を増やし、衛星の落下を早めることで宇宙ごみ化を防ぎます。各機約10.6kg・6Uクラスの2機構成です。

BRO-22(Unseenlabs/フランス)——船舶などが発する電波を宇宙から検知し、海上交通を監視する商業コンステレーションの一機です。8Uサイズで、H3ロケットに搭載される初めての海外衛星とされます。多様な国・組織の衛星を安全に届けられたことは、H3が国際的な相乗りサービスのプラットフォームとして信頼に足ることを世界へ示す一歩になりました。

ここで一つ、静かに胸を打つ事実があります。相乗り6機のうち複数が、「宇宙を散らかさないための技術」をテーマにしている点です。STARS-Xはテザーによる模擬デブリの捕獲に、HORN-L/HORN-Rは軌道離脱装置の実証に挑みます。低コストで宇宙への扉を大きく開く30形態が、その最初の積み荷として持続可能な宇宙利用のための技術を運んだ。ここに、ただ打ち上げて終わりにしない意思を読み取れる気がします。

この成功の先にあるもの——HTV-X、MMX、そして「年30件」

6号機の物語は、打上げで完結しません。まず目の前の運用として、ミッションを終えた第2段はインド洋上へ制御落下させ、軌道上にごみを残さない手順が組まれています。打ち上げる側もまた、デブリへの配慮を実践しているわけです。

その先には、より大きなミッションが控えています。国際宇宙ステーションへ物資を運ぶ新型補給機HTV-Xの後続機や、火星の衛星を目指す火星衛星探査計画(MMX)です。MMXは2026年度の打上げを予定する国際協力プロジェクトで、JAXAを中心にNASA、CNES(フランス)、DLR(ドイツ)、ESA(欧州)などが参加します。火星に向かうミッションには、惑星の位置関係で決まる打上げの窓があります。だからこそ、今回のH3の信頼性回復は、後続ミッションのスケジュールを守るうえでも重い意味を持ちます。8号機の失敗で一度は揺らいだ足元を、6号機の成功がしっかりと固め直した——そう言える結果になりました。

そして最終的にJAXAが見据えるのは、ロケットを特別な「受注品」から効率的な「ライン生産」へと移すことです。固体ブースタを外したシンプルな30形態は、製造工程の簡略化やリードタイムの短縮を通じて、この目標を直接的に後押しします。政府も宇宙産業の強化策として、2030年代前半までに官民で「年間30件程度」という打上げ能力の目標を掲げています。年間の打上げ回数を増やし、低価格でSSOへ衛星を届けられる30形態の実証成功は、その実現に向けた確かな一歩です。3基のLE-9エンジンが切り拓いたこの新地平は、日本の宇宙産業が持続可能な「輸出産業」へと脱皮するための、力強い架け橋になるでしょう。

【用語解説】

30形態(H3-30S)
H3ロケットの機体構成の一つ。第1段にLE-9エンジンを3基搭載し、固体ロケットブースタ(SRB-3)を1本も使わずに離陸する。6号機が初飛行となり、太陽同期軌道に4トン以上を投入できる。H3の各形態のなかで最も打上げコストが低い構成とされる。

RTF(Return To Flight/飛行再開)
打上げ失敗などで中断したロケットの飛行を再開させるミッションを指す。6号機は2025年12月の8号機失敗後、初めて飛ぶH3ロケットであり、RTFの役割も担った。

LE-9エンジン
H3ロケット第1段の液体水素/液体酸素エンジン。日本独自のエキスパンダーブリードサイクルを採用し、液体水素が冷却部で得た熱でターボポンプを駆動する。激しい燃焼を介さずポンプを回せるため構造を簡素に保ちやすく、高い信頼性と低コストの両立をねらう。

VEP-5(性能確認用ペイロード)
Vehicle Evaluation Payload-5の略。本物の衛星ではなく、30形態で想定される衛星の質量を模した装置である。ロケットの性能確認を目的とし、第2段から分離せず軌道投入はされない。

太陽同期軌道(SSO)
衛星が常に一定の地方時に同じ地点上空を通過する軌道。地球観測衛星などに適する。6号機の副衛星は、高度約576km・軌道傾斜角97.69度のこの軌道へ、段階的に分離された。

超小型衛星搭載アダプタ
6号機で新規開発された、複数の超小型衛星を1機のロケットに搭載するための機構。4つの搭載ポートを備え、一部の衛星はインターフェースプレートを介して1つのポートにまとめて取り付けられる。このため、衛星ごとに用意される分離機構(デプロイヤ)は6機分だが、アダプタの搭載ポートは4つとなる。H3での複数衛星搭載に向けた技術知見の獲得をねらう。

衛星搭載アダプタ(PSS)
ロケット第2段の上部に取り付けられ、その上に衛星が載る土台部品。8号機ではこのPSSの破損が打上げ失敗の主因となった可能性が極めて高いとされる。6号機では、検査・補修を施し荷重試験を完了した補修方式のPSSを適用し、フライトデータを追加取得した。

宇宙テザー
宇宙空間で展開するひも状の構造物。静岡大学のSTARS-Xは約1kmのテザーの伸展に挑み、模擬的な宇宙ごみの捕獲や将来の宇宙エレベーター構想につながる技術を実証する。

膜面展開型PMD(Post Mission Disposal)装置
運用を終えた衛星を速やかに軌道から離脱させ、宇宙ごみ化を防ぐための装置。膜を展開して大気抵抗を増やし、衛星の落下を早める方式である。BULL社のHORN-L/HORN-Rが軌道上実証を行う。

相乗り(ライドシェア)打上げ事業
1機のロケットに複数の小型衛星を相乗りさせ、容易かつ迅速な打上げ機会を提供するしくみ。6号機ではSpace BD社が中心となり、基幹ロケットで初の民間による相乗り打上げサービスを担った。

MMX(火星衛星探査計画)
Martian Moons eXplorationの略。火星の衛星を探査するJAXAの計画で、2026年度の打上げを予定する。JAXAを中心にNASA、CNES、DLR、ESAなどが参加する国際プロジェクトである。

【参考リンク】

H3ロケット6号機(30形態試験機)特設サイト|ファン!ファン!JAXA!(外部)
打上げ結果・ライブ中継アーカイブ・関連資料を集約したJAXA公式の特設ページ。一次情報で結果を確認できる。

H3ロケット6号機(30形態試験機)ミッション概要|ファン!ファン!JAXA!(外部)
VEP-5の役割や試験機としての位置づけ、機体構成の変遷をJAXAが公式に整理した解説ページ。

2026年度ロケット打上げ計画書 H3・F6/小型副衛星|JAXA(外部)
分離シーケンスや投入軌道、第2段の制御落下計画まで記した一次資料のPDF。本記事の数値の根拠。

H3ロケット6号機 打上げ準備状況(有田誠PM 資料)|JAXA(外部)
補修方式PSSの荷重試験完了や、将来のスプライス接着方式を見据えた方針を示す一次資料。

火星衛星探査計画(MMX)公式サイト|JAXA(外部)
H3の後続ミッションMMXの公式サイト。2026年度打上げ予定や国際協力体制を確認できる。

Unseenlabs(公式サイト)(外部)
副衛星BRO-22を開発したフランスの宇宙ベンチャー。船舶等の電波を宇宙から検知し海上監視を行う企業。

【参考動画】

JAXA公式YouTubeチャンネル「JAXA Channel」(外部)
H3ロケット6号機の打上げライブ中継が配信されたチャンネル。離昇から段分離、副衛星の分離までの様子を中継アーカイブで振り返ることができる。過去の打上げ中継や記者説明会のアーカイブも視聴できる。

【参考記事】

【更新】H3ロケット6号機打上げ成功 液体エンジンだけの30形態デビュー(マイナビニュースTECH+)(外部)
離昇から段分離・第2段燃焼まで計画どおり進み、打上げが成功したことを速報した記事。

【解説】H3ロケット6号機打上げへ! 初の30形態、注目ポイントと搭載される人工衛星を紹介(SPACE Media)(外部)
機体公開時の写真とともに30形態の要点と6機の搭載衛星を解説。各衛星の開発主体やミッションの詳細がわかる。

H3ロケット飛行再開へ 初のブースタなし「30形態」とは?(Impress Watch)(外部)
30形態の飛行経路を3号機と比較し、固体ブースタを外す利点を技術面から掘り下げた記事。

H3ロケット6号機(30形態試験機)機体公開(宇宙作家クラブ)(外部)
衛星搭載ポートの配置やCFTの経緯を、機体公開の取材をもとに具体的に報じている。

【関連記事】

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【編集部後記】

リフトオフの瞬間、私はいつも少し緊張しながら画面を見ています。今回はなおさらでした。8号機の失敗で、衛星が飛行のかなり早い段階でもぎ取られていた——その推定を知っていると、歓声の裏側にある技術者たちの祈りのような時間が、どうしても透けて見えてしまうのです。だからこそ、3基のエンジンだけで空へ駆け上がっていく姿を見届けられたことが、ことさら嬉しく感じられました。

個人的にいちばん心に残ったのは、安く・シンプルに宇宙への扉を開こうとする機体が、その最初の積み荷として「宇宙を散らかさないための技術」を運んだことでした。テザーで模擬デブリを捕まえる衛星、膜を広げて自ら軌道を去る衛星——入り口を広げると同時に、出口の作法まで考える。そこに、この時代の宇宙開発の良心のようなものを感じます。

もちろん、これで終わりではありません。各衛星がきちんと目覚め、それぞれのミッションを始められるか、これからの運用も見守っていきたいところです。けれど今日のところは、ここまで積み上げてきた人たちの仕事を、素直に讃えたい。みなさんと一緒にこの一機の旅立ちを見届けられたことに感謝しつつ、その視線を、HTV-X、そして火星へ向かうMMXへと、少しずつ伸ばしていけたらと思います。

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TaTsu
『デジタルの窓口』代表。名前の通り、テクノロジーに関するあらゆる相談の”最初の窓口”になることが私の役割です。未来技術がもたらす「期待」と、情報セキュリティという「不安」の両方に寄り添い、誰もが安心して新しい一歩を踏み出せるような道しるべを発信します。 ブロックチェーンやスペーステクノロジーといったワクワクする未来の話から、サイバー攻撃から身を守る実践的な知識まで、幅広くカバー。ハイブリッド異業種交流会『クロストーク』のファウンダーとしての顔も持つ。未来を語り合う場を創っていきたいです。