イトーキ「ITOKI OFFICE DEVICES」|会議室・座席の実利用データを取得、運用を最適化

「予約は埋まっているのに、覗いてみると誰もいない」——オフィスでそんな経験をしたことはないでしょうか。出社回帰が進むなか、多くの企業がこの「予約と実態のズレ」に頭を悩ませています。オフィス家具大手のイトーキが2026年6月11日に発表した「ITOKI OFFICE DEVICES」は、その悩みに家具の側から答えようとする試みです。会議室の椅子やソロ席に組み込んだセンサーが、誰がいつ座り、いつ離れたかをAIが直接読み取り、「予約では見えない実利用データ」を可視化します。家具そのものがデータを語り出す時代に、オフィスはどう変わるのか。本社12階に実装されたプロトタイプの中身と、その先にある働き方の未来を読み解きます。


株式会社イトーキは2026年6月11日、家具と連動したセンサーによりAIがオフィスの実利用データを取得するデバイスソリューション「ITOKI OFFICE DEVICES」を開発したと発表した。

本社「ITOKI DESIGN HOUSE TOKYO」12階(約2700㎡)のリニューアルにあわせ、ソロ席やチーム席にプロトタイプを実装し稼働を開始した。12階の会議室5か所に「Office Box」、ソロ席計18席に「Office Sensor」を搭載する。取得データは利用開始・終了、着席・離席、滞在時間、利用人数を想定する。

同社が2026年2月に発表したAIエージェント「ITOKI OFFICE AI AGENTS」や会議室予約システム「Reserve Any」と連携させる予定だ。顧客への提案開始は年内を予定し、価格は未定である。

From: 文献リンクイトーキ、AIエージェントとの連携でオフィス運用を最適化する「ITOKI OFFICE DEVICES」を開発 | ニュースルーム | ITOKI 企業情報サイト

株式会社イトーキ公式プレスリリースより引用

【編集部解説】

イトーキが今回発表した「ITOKI OFFICE DEVICES」は、ひとことで言えば「オフィス家具そのものを、データを取得するセンサー端末に変えてしまう」という発想の製品群です。これまで会議室や座席の利用状況は「予約システム上の数字」でしか把握できませんでしたが、本ソリューションは家具に組み込んだセンサーで「実際に座っているか」「何人いるか」「いつ離席したか」を直接センシングします。予約という意思表示と、実利用という事実とのあいだに横たわる空白を埋めようとする試みです。

この「予約と実態のズレ」は、リモートワークから出社へと揺り戻しが進んだ2025年以降、多くの企業で顕在化した運用課題です。イトーキ自身が同日に公表した本社刷新リリースでは、全国5,296名を対象とした意識調査で「リモートワークは行っていない」と回答した割合が67.5%に達したと示されています。出社が増えれば限られた会議室や席の奪い合いが起き、「空予約」が稼働率を見かけ以上に圧迫します。今回のデバイスは、まさにこの構造的なボトルネックに照準を合わせています。

技術的な要点として注目したいのは、会議室向けの「Office Box」が人感センサーを採用しつつ、ガラス張りの空間でも室内の人だけに反応するよう設計されている点です。ガラスの向こうを歩く人を誤検知すれば稼働データは無意味になりますから、検知範囲の絞り込みはデザインと機能を両立させるうえでの核心です。距離センサー「Office Sensor」がソロ席18席に搭載された背景にも、モニター完備の人気席が特定個人に占有されない「公平な利用」という、運用現場のリアルな悩みが透けて見えます。

この製品が単独のセンサーに留まらない点も見逃せません。イトーキはオフィスのデータを「レイアウト」「家具」「設備」「働く人」の4層で捉えており、今回はそのうち「家具」層の取得を本格化させる位置づけです。取得データは、同社が2026年2月に発表したAIエージェント「ITOKI OFFICE AI AGENTS」や予約システム「Reserve Any」と連携します。空予約をセンサーが検知して予約者に開放を促し、予約者が応じれば予約を解除して次の利用者に開く——この一連の流れが、運用設計に組み込まれて滑らかに回り始めることに本質的な新しさがあります。

市場の文脈で見ると、この分野は世界的な成長期にあります。海外の市場調査では、机の占有センサー市場は2026年に3億7,890万ドル規模、2034年には6億2,140万ドル規模に達するとの予測もあり(出典は後述)、出社回帰とハイブリッド勤務の定着が共通の追い風となっています。欧米ではmmWave(ミリ波)レーダーやプライバシー保護型のセンサーの採用例が増え、注目を集めていますが、イトーキの強みは「家具メーカーが自社の家具にセンサーを統合できる」という垂直統合の立ち位置にあります。後付けのセンサーではなく、空間設計の段階からデータ取得を織り込める点が差別化の鍵になりそうです。

一方で、潜在的なリスクにも目を向けておく必要があります。「誰が・いつ・どこに座ったか」を継続的に記録する仕組みは、一歩間違えれば従業員の行動監視に転じかねません。離席時間や滞在パターンが人事評価や管理に流用されれば、働く人の心理的安全性を損なう懸念があります。イトーキは過去のデータ事業でも、収集した情報を暗号化し、分析時は個人を特定できない仮名IDに変換する設計を前提としてきましたが、こうした基盤の運用設計と透明性の確保は、製品の信頼を左右する条件になるでしょう。実利用データの取得は、あくまで「空間をよくするため」であって「人を測るため」ではない——その線引きを誰が担保するのかが問われます。

長期的に見れば、この取り組みは「オフィスが自らの使われ方を学習し、レイアウトや運用を自律的に最適化していく」という方向への一歩です。イトーキは自社オフィスを「永遠に完成しないオフィス」と表現してきましたが、家具がデータを語り始めれば、空間は固定された箱から、使う人に合わせて更新され続ける生き物のような存在へと変わっていきます。私たちが働く場所そのものが、人とともに進化していく——その入り口に、この小さなセンサーは立っているのかもしれません。

【用語解説】

Office3.0
イトーキがワークプレイス事業を3段階で定義したうちの最新概念。Office1.0=家具の製造・販売、Office2.0=空間ベースのソリューション提供、Office3.0=データ活用による働き方ベースのオフィスDX、と位置づけられる。今回のデバイスはこのOffice3.0領域を強化する取り組みである。

データドリブン
勘や経験ではなく、取得したデータの分析結果を根拠に判断や運用を進める考え方。本件では、実利用データに基づいてオフィスの稼働改善を図る姿勢を指す。

Layer(レイヤー)構造
イトーキがオフィス利用データを4階層で捉える整理法。Layer0=オフィスレイアウト、Layer1=オフィス家具、Layer2=オフィス設備(湿度・温度など)、Layer3=働く人(個別データ)。今回のデバイスはLayer1(家具)のデータ取得を本格化するものと位置づけられる。

【参考リンク】

株式会社イトーキ 企業情報サイト(外部)
1890年創業のオフィス家具・空間ソリューション企業の公式サイト。事業概要やニュースを確認できる。

ITOKI DESIGN HOUSE TOKYO 紹介ページ(外部)
プロトタイプを実装した本社オフィス兼ショールームの紹介ページ。空間コンセプトを解説している。

会議室予約システム「Reserve Any」公式ページ(外部)
本デバイスが連携予定の会議室予約システムの製品ページ。アルゴリズムや導入効果を紹介している。

【参考動画】

【参考記事】

Office Desk Occupancy Sensor Market Outlook 2026-2034(外部)
机の占有センサー市場を2026年に3億7,890万ドル、2034年に6億2,140万ドル規模と予測した調査。

Workplace Utilization Index | Office Occupancy Benchmarks 2026(外部)
6.3万超の実空間データに基づく稼働率レポート。会議室56%など囲われた空間に需要が集中する。

Occupancy Sensor Market Outlook 2026-2034(外部)
ミリ波やエッジAIなど占有センサーの技術潮流を整理し、誤検知低減の動向を解説した調査。

イトーキ、従業員数1.5倍、1人あたり面積35%減でも成果につながる本社オフィスへ刷新(外部)
同日公表の関連リリース。5,296名調査でリモートワークなしが67.5%と示した出典。

イトーキ、3種のAIエージェントがオフィス投資判断支援 2026年夏から順次展開(外部)
連携先AIエージェントの発表記事。Office3.0で2年160社超を支援した実績を伝える。

Best Office Occupancy Sensors: 2026 Buyer’s Guide(外部)
施設管理者らがリアルタイムの正確な稼働データを求める現場ニーズを整理した選定ガイド。

【関連記事】

ITOKI OFFICE AI AGENTS発表 ― イトーキが3つのAIエージェントで”AI経営モデル”へ転換
本デバイスが取得したデータを分析・判断する連携先AIエージェントを解説した続報元の記事。

Perplexity Computer実利用調査:作業時間87%減・コスト94%減、AIエージェントが変える働き方
働き方を実利用データで測り直す潮流を伝える記事。本件と問題意識が重なる。

三菱電機BSとPreferred Robotics、エレベーター連携でマンション内荷物配送の実証実験を開始
ビル内設備の稼働データをIoTで統合する事例。空間のデータ化という点で隣接する。

【編集部後記】

「予約は埋まっているのに、部屋は空いている」という現象は、誰もが一度は経験した小さな不条理かもしれません。今回のデバイスが面白いのは、その不条理を人の善意やマナーに頼って解こうとするのではなく、家具自身にセンサーを持たせて事実から解こうとした点にあります。

この中で注目したいのは、「便利さ」と「見られている感覚」が同じ仕組みから生まれてしまうというテクノロジーの両義性です。データが空間を支える側に働くのか、人を測る側に傾くのか。その分岐点を決めるのは結局、技術ではなく運用する人間の思想なのだと感じます。こうした「働く場所の進化」を、これからもみなさんと一緒に見つめていきたいと考えています。

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omote
デザイン、ライティング、Web制作を行っています。AI分野と、ワクワクするような進化を遂げるロボティクス分野について関心を持っています。AIについては私自身子を持つ親として、技術や芸術、または精神面におけるAIと人との共存について、読者の皆さんと共に学び、考えていけたらと思っています。