株式会社丸善ジュンク堂書店と株式会社PubteXは、2026年6月15日、RFIDを活用した「RFID店頭活用プロジェクト」を発足した。書店運営を人手依存からデータ主導へ転換し、出版流通全体の構造改革を進めることを目的とする。プロジェクトの実施にあたり、丸善ジュンク堂書店はPubteXが開発した書籍トレーサビリティシステム『BOOKTRAIL』の導入を進めている。
同システムはRFIDにより出版物の流通状況をタイムリーに把握するものである。すでに21店舗で導入済みで、2027年1月末までに計50店舗への展開を予定する。丸善ジュンク堂書店が実店舗での運用設計・検証を担い、PubteXがシステム提供やデータ分析を担う。取得したデータは出版社・取次と連携し、補充の最適化や返品の削減に活用する。丸善ジュンク堂書店の代表取締役社長は西川仁、PubteXの代表取締役社長は渡辺順である。
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丸善ジュンク堂書店とPubteX、RFIDで出版流通の構造改革を推進 ~書店運営を人手依存からデータ主導へ転換~
【編集部解説】
まず押さえておきたいのは、今回のニュースが単独の出来事ではなく、数年がかりで進んできた「出版流通DX」の一里塚だという点です。PubteXは丸紅グループと講談社・小学館・集英社が共同出資して2022年3月に設立された会社で、2025年1月29日に『BOOKTRAIL』の商用サービスを開始しています。つまり今回の発表は、技術検証の段階を越えて、丸善ジュンク堂書店という大手チェーンが本格運用へ踏み込んだことを示す節目なのです。
ここで重要になるのが、業界が抱える数字の重さです。出版科学研究所によれば、紙の書籍の返品率は2023年に33.4%でした。出版科学研究所関連の公表・報道によれば、2025年は紙の出版物の返品率が31.9%とされ、書籍でも改善傾向が指摘されています。ただし依然として3割前後で推移しているのが実情です。複数の報道によれば、返品されて処分される書籍・雑誌の損失額は年間およそ2000億円に上るとされています。リリースが「高い返品率が長年の課題」と述べる背景には、こうした構造的な損失が横たわっています。
なぜRFIDなのか、という点も整理しておきましょう。従来のバーコードは1点ずつ読み取る必要がありますが、RFID(無線自動識別)は電波を使い、複数の商品を一括で、しかも段ボールに詰めたままでも読み取れます。ユニクロが2018年から全商品に導入してレジ行列を短縮したのと同じ発想を、書籍流通に持ち込むものだと考えると分かりやすいはずです。
この技術が書店にもたらす効果は、すでに具体的な数字で表れ始めています。経済産業省や複数のメディアの報道では、ある書店でRFID導入後に万引きが約1400冊から66冊へ激減した事例が紹介されています。また九州の白石書店では、2025年8月から万引き85%削減を掲げた実証実験が始まりました。在庫精度・棚卸の効率・防犯という三方向で、効果が裏付けられつつあるわけです。
ただし、ここで一つ冷静な視点も必要です。RFIDタグを付ければ自動的に返品が減るわけではありません。識者が指摘するように、返品の削減には「責任販売制(買い切り)」など取引条件そのものの見直しが伴って初めて効果が大きくなります。タグはあくまで可視化の手段であり、それをどう経営判断や商習慣の変更に結びつけるかが問われます。今回のリリースが「POSデータとの連携」「出版社・取次との連携」を繰り返し強調しているのは、その本質を理解しているからでしょう。
潜在的なリスクや論点も見落とせません。タグの貼付には製本工程や物流にコストがかかり、その負担を出版社・取次・書店のどこが負うのかという問題があります。また書籍単位で「いつ、どこで、どう動いたか」というデータが蓄積されることは、読者の購買行動の可視化につながる側面もあり、データの扱いには透明性が求められます。標準モデルを誰が握るのかという、業界内の主導権の問題も今後浮上しうるでしょう。
長期的な視野で見ると、この動きは小売業全体の潮流と地続きです。海外ではウォルマートやZaraなどがRFIDを在庫管理・物流管理に活用しており、アパレル分野では在庫精度向上の事例が蓄積されています。アパレルで先行した「商品個体の見える化」が、ようやく日本の書籍流通に本格波及してきた——そう捉えると、innovaTopiaの読者にとっては「リアル店舗の未来形」を占う格好の試金石になります。
最後に、なぜ今これを報じるのか。経済産業省は2024年3月に書店振興プロジェクトを立ち上げ、2025年6月に書店活性化プランを公表しました。無書店自治体の増加という社会課題に、官民が同時に動き始めた局面です。21店舗から50店舗へという拡大計画は、その流れのなかで「実証から定着へ」の転換点を示しています。最も身近なメディアのひとつである本が、最先端の識別技術で再設計されようとしている——その現在地を記録する意義は小さくありません。
【用語解説】
RFID(無線自動識別)
電波を使って、商品に貼り付けたICタグの情報を非接触で読み取る技術である。バーコードが1点ずつの読み取りを必要とするのに対し、RFIDは複数の商品を一括で、段ボールに詰めたままでも読み取れる点が大きな違いである。アパレルでは先行して普及しており、ユニクロが2018年から全商品に採用している。
書籍トレーサビリティシステム
書籍を1冊単位で識別し、その所在・移動履歴・在庫状況などをリアルタイムに追跡できるようにする仕組みを指す。「トレーサビリティ」は「追跡可能性」の意味で、どの本がいつどこにあるかを可視化することを目的とする。
返品率
出版社へ返された書籍・雑誌の割合を示す数値である。日本の出版流通では委託販売制のもとで売れ残りを返品できる慣行が定着しており、この比率の高さが業界の長年の構造的課題とされてきた。
取次
出版社と書店の間に立ち、書籍・雑誌の流通を仲介する卸売事業者を指す。日本の出版流通では取次が配本や代金回収を担い、サプライチェーンの中核に位置している。
POSデータ
店舗のレジ(POS=販売時点情報管理)で記録される販売実績データを指す。何が・いつ・何冊売れたかを把握できるが、在庫の動きそのものまでは見えないため、RFIDによる在庫データと組み合わせることで店舗運営の精度が高まる。
責任販売制(買い切り)
書店が仕入れた書籍を返品せず売り切る取引形態を指す。返品を前提とする従来の委託販売制と対をなし、返品削減には販売条件の見直しが伴う必要があるという文脈で言及される概念である。
【参考リンク】
株式会社PubteX 公式サイト(外部)
丸紅グループと出版大手3社が出資し設立。RFIDを用いた出版流通システム「BOOKTRAIL」を提供する企業の公式サイト。
株式会社丸善ジュンク堂書店 公式サイト(外部)
全国に丸善・ジュンク堂などを展開する書店チェーンの公式サイト。店舗情報や企業情報を掲載し、今回の取り組みの主体である。
経済産業省 METI Journal ONLINE「出版物ICタグ」解説記事(外部)
RFIDが書店業務をどう変えるか、棚卸時間の短縮や万引き減少など具体例を交え政府公式メディアが解説した記事。
丸紅デジタルイノベーション「PubteXで出版サプライチェーンに変革を」(外部)
出資元の丸紅が、プッシュ型からプル型へという流通変革の構想とPubteX設立の狙いを解説する公式記事。
PubteX公式note(外部)
RFIDの仕組みやBOOKTRAILの技術背景、導入書店の事例を平易に紹介するPubteX運営の公式noteである。
【参考記事】
棚卸しの手間が激減!「出版物ICタグ」は本の流通・売り場の大変革ツール(METI Journal ONLINE)(外部)
返本率は2023年に書籍33.4%・雑誌47.3%、損失額は年約2000億円と指摘。棚卸20分、万引き10分の1の効果も紹介する。
2025年出版市場(紙+電子)は1兆5462億円で前年比1.6%減(HON.jp News Blog)(外部)
紙の販売金額が9647億円と1兆円割れの一方、紙書籍の返品率が31.9%へ改善したと報じる統計記事。
九州初‼ RFIDタグ活用で万引きを85%削減! 白石書店×PubteX 実証実験スタート(外部)
経産省の補助金を活用し、防犯効果として万引き85%削減を掲げた九州初のBOOKTRAIL実証実験の告知である。
【書店RFID特集】PubteX 書店RFID店頭販売で「顕著な効果」も(The Bunka News デジタル)(外部)
2025年12月時点で導入66店舗、年度末115店舗見込み。タグ貼付出版社12社、貼付率80%目標など波及状況を伝える。
書籍トレーサビリティシステム「BOOKTRAIL」商用サービス開始について(株式会社PubteX)(外部)
2025年1月29日の商用サービス開始を伝える一次発表。設立経緯やBOOKTRAILの機能を当事者の言葉で説明している。
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【編集部後記】
ふだん書店で何気なく手に取る一冊の裏側で、これほど大きな流通の仕組みが動いていたとは、私たちも調べながら新鮮な驚きを覚えました。RFIDが本にもたらすのは、効率化だけなのでしょうか。それとも、品切れに出会いにくくなったり、街の書店が生き残りやすくなったりと、本を選ぶ私たちの体験そのものが変わっていくのでしょうか。
みなさんが次に書店を訪れたとき、棚の本がどんなデータと結びついているのか、少しだけ想像してみていただけたら嬉しいです。一緒に考えていけたらと思います。












