CD Projekt Red CEO、完全AI生成ゲームに懐疑論|「魂のあるアイデアかどうかが問われる」

[更新]2026年6月23日

Googleで優先するソースとして追加するボタン

生成AIがゲーム開発の「速度の壁」を取り払いつつある今、問われているのは技術の可能性ではなく、その先にある問いです。大作RPGに数年を費やすスタジオのトップが、AI量産型の台頭を前に示した懐疑論は、単なる保守的な反応ではありません。「魂」という検証不能な基準を持ち出したとき、彼が本当に問うていたのは何だったのでしょうか。


CD Projekt RedのジョイントCEO、Michał Nowakowskiは、EDGEの「Knowledge」ニュースレターのインタビューで、完全AI生成ゲームの台頭に対する懐疑論を示した。Nowakowskiは、あるAI特化スタジオの創業者から「1週間で40本のプロトタイプを作成し、3週間後にはゲームをリリースできる」と聞かされたと述べ、「成功するかもしれないが、これが本当に進むべき道かどうか疑問だ」と語った。

同氏はこの流れを「避けがたい現実」として認識しつつも、その方向性の安定性には疑念を持つとした。一方で、「魂のある新鮮なアイデアがあれば、成功の可能性は十分ある」とも述べており、AI量産型ではなく人間の創造性を中核に置く姿勢を示した。Nowakowskiが率いるCD Projekt Redは現在、『The Witcher 4』を開発中である。

From: 文献リンクCD Projekt Red Exec Skeptical of Fully AI-Generated Games|Insider Gaming

【編集部解説】

「1週間で40本のプロトタイプを作り、3週間後にゲームをリリースする」。CD Projekt RedのジョイントCEO、Michał Nowakowskiが紹介したAIファーストスタジオの言葉は、ゲーム開発の常識を根底から揺さぶるものです。Nowakowski自身はこの方向性に懐疑的ですが、彼の発言が示す問いは単純な賛否を超えたところにあります。「量と速度で生み出されたゲームが、プレイヤーの時間と関心を獲得できるのか」という問いです。

Steamでは2025年に2万本超の新規タイトルがリリースされ、その約半数がレビュー10件未満で埋もれています。ゲームの数は毎年更新されてきた記録を塗り替えていますが、プレイヤーの可処分時間は増えていません。Nowakowskiが指摘した「注目の奪い合い」は、AIが登場する前から始まっていた構造問題です。AIによる量産がこの傾向を加速させた場合、発見される見込みのないゲームがさらに増えるだけという指摘は合理的です。

BCGのレポートは、生成AIが「ゲームの洪水」を引き起こす可能性を認めつつ、それが単なる粗製乱造(同レポートは”gameslop”と表現)に終わるのか、あるいは新たなブレイクスルーを含むのかは現時点で不明とし、「発見とキュレーションがこれまで以上に重要になる」と位置付けています。重要なのは、量産ゲームの「品質」をどう定義するかという問いが、業界全体でまだ定まっていないという点です。

GDC(ゲーム開発者会議)が2026年に実施した調査では、回答した開発者の52%が生成AIは業界に害をもたらすと答えており、2024年の18%から大幅に上昇しています。主な懸念は、著作権侵害・雇用への影響・クリエイティブな均質化の3点に集中しています。一方で、同じ調査では36%がすでに生成AIツールを業務で使用しており、プレイヤーに直接届く機能への適用は5%にとどまることから、現場では「補助ツール」としての使用と「中核への組み込み」には明確な一線が引かれていることが分かります。

Nowakowskiは「新鮮なアイデアと魂があれば、成功の可能性はある」と述べています。これはCD Projekt Redのような数年がかりで大作を作るスタジオの論理としては一貫しています。ただし、この基準は検証が難しいものでもあります。「魂」の有無を誰が、何で判断するのか。プレイヤーが実際に触れてから評価が形成される以上、AI量産ゲームが市場に届く前に「質の基準」で選別されるわけではありません。

この問いをより複雑にするのが、「品質」の定義が変わりうるという視点です。BCGのレポートが示すように、現在の「品質」の定義は高精細なグラフィックスと磨き込まれたストーリーラインですが、将来は「話題性」や「新奇性」に移行する可能性があります。もしそうなれば、3週間で作られたゲームがその基準を満たすケースも出てくるはずです。Nowakowskiの懐疑論は正当ですが、彼が自明視している「質」の定義そのものが問われているとも言えます。

現時点で確認できることは、完全AI生成ゲームが商業的に世界規模で成功した実例はまだ存在しないという事実です。Nowakowskiの懐疑論は、その不在を根拠にしているとも読めます。

【用語解説】

AI生成ゲーム(AIファーストゲーム)
ゲームのシナリオ・グラフィック・コード・音楽などの構成要素の大部分を生成AIが自動作成するゲーム。人間が設計・監督するAI補助型のゲーム開発とは区別される。現時点では商業的に世界規模で成功した事例はまだ存在しない。

Steam
Valveが運営するPC向けゲーム配信プラットフォーム。世界最大規模で、2025年に年間2万本超の新規タイトルがリリースされた。参入障壁が低い反面、新作の約半数がレビュー10件未満という「発見困難」な状況が続いている。

GDC(Game Developers Conference)
ゲーム開発者向けの年次カンファレンス。2026年よりGDC Festival of Gamingと改称。毎年、開発者を対象に「State of the Game Industry」調査を実施し、業界動向の指標として参照される。

KRAFTONとAIファースト戦略
『PUBG: BATTLEGROUNDS』で知られる韓国のゲーム開発会社。AIを中核に置く開発方針を掲げているが、完全AI生成のゲームはまだリリースしていない。

【参考リンク】

CD Projekt Red 公式サイト(外部)
『The Witcher』シリーズおよび『Cyberpunk 2077』を手がけるポーランドのゲームスタジオ。Michał Nowakowski氏とAdam Badowski氏が2024年1月よりジョイントCEOを務める。『The Witcher 4』を開発中。

EDGE Knowledge ニュースレター(GamesRadar+)(外部)
IGNと並ぶゲームメディアの老舗EDGEが発行する業界向けニュースレター。今回のNowakowski発言が収録されたインタビューの掲載媒体。

GDC 2026 State of the Game Industry(外部)
2,300人以上のゲーム業界専門家を対象にした年次調査報告書。生成AIへの感情変化、レイオフ状況、プラットフォーム傾向などを包括的に集計。

【参考記事】

CD Projekt Red CEO Has Doubts About Fully AI-Generated Games|Outlook Respawn(外部)
Nowakowskiの「注目の奪い合い」発言と「魂のあるアイデア」発言の詳細を収録したGamesRadar+報道に基づく解説記事。

Why game developers don’t want to use generative AI|GamesRadar+(外部)
30人以上のゲーム開発者へのインタビューをもとに、著作権・雇用・環境・創造性の4つの観点からゲーム開発者の生成AI懐疑論を詳述。

The Steam Paradox 2025|Game Developers Blog(外部)
2025年のSteam市場を分析。2万本超のリリースと新作の約半数が100本以下の販売に留まる「発見困難」の構造を詳細なデータで解説。

GDC 2026 State of the Game Industry|GDC公式(外部)
52%の開発者が生成AIを業界に有害と評価した調査の一次情報源。レイオフの実態や学生・教育者の将来展望も収録。

Video Gaming Report 2026|BCG(外部)
ゲーム業界のプラットフォーム統合・AI化・価格分化を分析したBCGの年次レポート。Steamメタデータ分析を含み、AI使用開示ゲームの比率が1年で倍増したことを示す。

【関連記事】

DreamCore Studio|AIと会話しながらゲームを作り込める国産ツール、提供開始
AIチャットだけでゲームを生成・公開できる国産ツール「DreamCore Studio」の詳細はこちらをご覧ください。

スクウェア・エニックス、生成AIでQA工程の70%自動化を表明―東大松尾研との共同研究で2027年実装目指す
国内大手の事例として、スクウェア・エニックスのAI導入方針とその波紋もあわせてご覧ください。

【編集部後記】

「魂のあるゲーム」という言葉を私たちは直感的に理解しますが、それを市場が自動的に選び出すかどうかは別の話です。AIが量産する作品の中に、偶然にせよ意図的にせよ、プレイヤーの心を動かすものが現れたとき、私たちはその「魂」をどう受け取るでしょうか。作り手の思想や経験の蓄積が価値の源泉だとする前提は、今まさに問い直されているように思います。

Googleで優先するソースとして追加するボタン
投稿者アバター
乗杉 海
SF小説やゲームカルチャーをきっかけに、エンターテインメントとテクノロジーが交わる領域を探究しているライターです。 SF作品が描く未来社会や、ビデオゲームが生み出すメタフィクション的な世界観に刺激を受けてきました。現在は、AI生成コンテンツやVR/AR、インタラクティブメディアの進化といったテーマを幅広く取り上げています。 デジタルエンターテインメントの未来が、人の認知や感情にどのように働きかけるのかを分析しながら、テクノロジーが切り開く新しい可能性を追いかけています。