iPhoneより薄い謎のデバイスは、本当に存在するのでしょうか。報道と否定が真っ向から対立する中、その背景に見えてくるのは、AppleやGoogleに頼らない道を探るSpaceXの姿かもしれないのです。
ウォール・ストリート・ジャーナルは7月1日、イーロン・マスク氏率いるSpaceXが、iPhoneより薄いハンドセット型のAIデバイスのプロトタイプを投資家に披露したと報じた。
デバイスはQualcomm製Snapdragonチップを搭載し、xAI独自の技術を統合した独自OSを実行するとされる。しかし、マスク氏はX上でこの報道を「全くの虚偽」と公式に否定した。マスク氏は2月にも電話の開発を否定しており、2024年10月には「電話を作るのは嫌だが必要なら作る」と発言していた。
From:
SpaceX Secretly Unveiled New AI Device to Investors. Is It a Phone or Not?
【編集部解説】
対立している主張
WSJによれば、SpaceXは大型IPOを控えた時期に、一部の投資家・関係者へ、iPhoneより薄くスリムな筐体のハンドセット型AIデバイスのプロトタイプを披露していたとされています。独自OSを搭載し、xAIの技術を統合、Qualcomm製Snapdragonチップを使用しているとされ、SpaceXは「プロジェクトはまだ初期段階で、デザインは今後変わりうる。製品化が確定しているわけではない」と投資家に伝えていたと報じられています。
これに対しマスク氏は、X上で「Utterly false(全くの虚偽)」と投稿し、具体的な説明を加えないまま否定しました。この投稿は現在削除されています。SpaceXおよびQualcommはコメント要請に応じていません。
つまり現時点で確定しているのは、「WSJがそう報じた」ことと「マスク氏がそれを否定した」ことの2点のみです。デバイスの実在は、報道と否定が対立したまま、どちらか一方が裏付けられた状態にはなっていません。
なぜ「電話ではない」独自路線を模索するのか
この構想の背景には、マスク氏の過去の発言の積み重ねがあります。2022年11月、AppleとGoogleがX(当時Twitter)をアプリストアから排除する可能性を示唆した際、マスク氏は自分で電話を作ると発言しており、当時は実現性の低い発言として受け止められていました。2026年に入り、SpaceXは全株式取引でxAIを吸収合併し、AI事業を自社の運営に統合してきました。
WSJによれば、今回のデバイス構想は、決済・通信・購入といった機能を一つに集約する、中国のWeChatのような「エブリシングアプリ」をマスク氏が志向していることに由来するとされ、独自OS・独自デバイスにはAppleのApp Storeなど大手プラットフォームの制約から距離を置く狙いがあると考えられます。
マスク氏には、将来の構想には前向きに語る一方、具体的な報道は個別に否定するという傾向も見られます。1月末、マスク氏は「Starlink電話は将来的にありうる。現行のスマートフォンとは全く異なる、AI処理に最適化されたデバイスになるだろう」と発言していました。ところが一週間後の2月5日にロイターが「SpaceXがStarlink電話を開発中」と報じると、マスク氏は即座に「開発していない」「ロイターは嘘ばかりだ」と否定しています。今回のWSJ報道への反応も、この過去のパターンと重なります。
今後の焦点となりうる点
SpaceXは2026年6月にNasdaqへ上場し、史上最大級のIPOだったと報じられています。今回の噂が浮上したのは、その直後のタイミングです。並行して、フィナンシャル・タイムズはSpaceXがT-Mobile・AT&T・Verizonと競合するStarlinkブランドの携帯通信プランを検討していると報じており、SpaceXは最近EchoStarから65MHz分の無線周波数帯も取得しています。デバイスの実現可否とは別に、SpaceXが通信領域での存在感を広げようとしている動き自体は、複数の報道で共通して指摘されています。
一方で、AI専用ハードウェアという分野そのものが市場定着に苦戦してきた歴史も踏まえる必要があります。699ドルで月額24ドルの契約が必要だったHumane AI Pinは2025年にサービスを終了し資産をHPへ売却、Rabbit R1も市場での存在感を確立できずにいます。Apple・Google・Microsoftも同様にAI専用デバイスを模索しており、SpaceX/xAIのデバイスが実際に登場するかどうかは、「AI専用ハードウェアは定着するのか」というより大きな問いの中に位置づけられる話だと言えます。
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【編集部後記】
「電話ではない」という否定の裏で、SpaceXが通信・AIの両面でどう動くのかは、まだ多くが霧の中にあります。私たちは、この噂がどこまで実像に近づいていくのか、今後の報道を注視していきたいと思います。
【用語解説】
IPO(新規株式公開)
未上場企業が株式市場に新規上場し、株式を広く投資家に売り出す資金調達手法。SpaceXは2026年6月にNasdaqへ上場。
エブリシングアプリ(Everything App)
決済・通信・買い物・メッセージなど複数の機能を単一のアプリやプラットフォームに集約する構想。中国のWeChatが代表例とされる。
【参考リンク】
SpaceX公式サイト(外部)
ロケット打ち上げおよび衛星通信サービスStarlinkを手がける、イーロン・マスク氏率いる宇宙関連企業。2026年6月にNasdaqへ上場した。
xAI公式サイト(外部)
イーロン・マスク氏が設立したAI企業。大規模言語モデルGrokを開発し、2026年にSpaceXへ吸収合併された。
Starlink公式サイト(外部)
SpaceXが運営する衛星インターネットサービス。携帯通信プランへの展開が報じられている。
Qualcomm Snapdragon公式ページ(外部)
Qualcomm社が展開するモバイル向けプロセッサブランド。多くのAndroidスマートフォンに搭載されている。
Rabbit R1公式サイト(外部)
「Large Action Model」を掲げて登場したAIハードウェアデバイス。市場での存在感の確立に苦戦していると報じられている。
OpenAI公式サイト(外部)
ChatGPTを開発するAI企業。ジョニー・アイブ氏と共同で、画面を持たないAIデバイスを開発していると報じられている。
【参考記事】
Musk denies WSJ report that SpaceX showed AI handset prototype before IPO|Channel News Asia(外部)
ロイター配信。マスク氏の否定が「水曜(7月1日)」だったことを伝える記事。デバイスの仕様やSpaceX・Qualcommの反応も詳報。
Report: SpaceX showed investors an AI device before IPO; Musk denies it|SiliconANGLE(外部)
2022年11月の「自分で電話を作る」発言、IPOの規模(調達額約750億ドル、評価額約1.77兆ドル)、Humane AI PinやRabbit R1の苦戦例を詳報。
Elon Musk rejects claims of developing an AI device prototype|Android Authority(外部)
マスク氏の否定投稿が現在削除されていること、WSJが伝えた「WeChat型エブリシングアプリ」構想、EchoStarからの65MHz帯取得を報じている。
Musk denies SpaceX is developing a Starlink phone|Light Reading(外部)
2026年1月末のマスク氏によるStarlink電話に関する発言「Not out of the question at some point」の詳細な文脈を報じている。
Starlink fuels SpaceX growth with potential phone, more internet services|Reuters(Yahoo Finance配信)(外部)
2026年2月5日のロイター報道原文。Starlink電話計画の詳細と、それに対するマスク氏の即時否定を伝えている。












