SpaceX、史上最大IPOを135ドルで決定|初日19%高で時価総額2兆ドル超え

史上最大のIPOが、ついに飛び立ちました。SpaceXが1株135ドルで上場し、750億ドルを調達。初日に株価は19%上昇し、時価総額は2兆ドルを突破、イーロン・マスクは世界初のトリリオネアになる見通しです。ロケット、衛星通信、そしてAI――3つの未来産業を束ねたこの企業に、市場はなぜ1.77兆ドルもの値段をつけたのか。「割高だ」という慎重論や、私たちの積立資産にも及ぶ意外な影響まで、未来を報じる視点で読み解きます。


SpaceXは2026年6月11日、株式の公開価格を1株135ドルに決定したと発表しました。発行株式数は5億5560万株で、引受会社への売却により750億ドルを調達しました。これは史上最大のIPOであり、2019年のサウジアラムコ(基本募集で約256億ドル、追加売出を含む最終で約294億ドル)を大きく上回ります。

正式名称はSpace Exploration Technologies Corp.で、ナスダックにティッカーシンボル「SPCX」で上場します。この価格水準により、イーロン・マスクは世界初のトリリオネアになる見通しです。同社は公式ロードショー開始前から135ドルを投資家に提示し、募集には用意した株式数の4倍の需要が集まりました。需要次第で追加8330万株を出すオプションがあり、その場合さらに110億ドルを調達します。予測市場Hyperliquidは執筆時点で同株を167ドルで値付けしていました。

最大の受益者はマスクで、クラスA株を8億5000万株弱、クラスB株を56億株保有する権利を持ちます。アントニオ・グラシアスは5億0340万株を保有します。

そして6月12日、SPCXはナスダックで取引を開始し、初日は約19%高の160.95ドルで引け、時価総額は2兆ドルを超えました。

From: 文献リンクSpaceX officially prices shares at $135 in the largest IPO ever(TechCrunch)

From: 文献リンクSpaceX stock gains 19% on first day of trading(NPR)

【編集部解説】

今回のニュースの核心は「いくら調達したか」ではなく、「どうやって価格を決めたか」にあります。

通常のIPOは、引受幹事が価格帯を提示し、機関投資家の需要を聞きながら最終価格を詰めていきます。ところがSpaceXは、ロードショーが始まる前から1株135ドルという数字を投資家に提示し、最終的にもその135ドルで価格決定しました。価格帯に幅を持たせて市場に委ねる従来のやり方とは、明らかに毛色が異なります。創業者が市場に対して強い交渉力を持つ、新しいIPOの形がうかがえる進め方でした。

その一方で、この価格が妥当なのかという問いは、依然として宙に浮いたままです。公開価格135ドルが示す企業価値は約1.77兆ドルに達しますが、独立系の調査会社モーニングスターの評価はその半分以下でした。同社のDCF分析では、打ち上げとStarlink事業の価値が約6110億ドル、AI部門が確率加重で約1700億ドルと算定されています。市場が織り込む期待と、足元のファンダメンタルズとの間に大きな開きがある、という指摘です。

なぜこれほど強気の価格がつくのか。鍵を握るのは、まだ完成していない技術への「賭け」です。完全再利用可能なStarship、商用競争力のある軌道上データセンターという2つの技術的マイルストーンは、IPO時点でいずれも解決しておらず、分析筋によれば少なくとも2028年までは実現が見込まれていません。投資家は、現在の売上ではなく、数年先の「できるようになるかもしれない世界」に値段をつけているわけです。

そして、今回の上場が単なる「ロケット企業の株式公開」にとどまらない理由が、ここにあります。SEC資料によれば、2025年3月にxAIがXを統合し、2026年2月にはSpaceXがそのxAIを取り込んで自社のAI部門に組み入れました。宇宙輸送、衛星通信、そしてAIという3つの未来産業が、一つの上場企業の中で束ねられたのです。1.77兆ドルという値段は、この「融合」への期待値だと読み解くこともできます。

ここで日本の読者に直結する論点を一つ挙げておきます。それは、私たちの年金や積立口座が、知らないうちにSpaceX株を持つ可能性があるという点です。

上場後まもなく、SPCXは大手の株価指数に組み入れられる可能性が高いとみられています。MSCIは大型IPOの早期組み入れルールを設けており、対象になればその指数を追う投資信託にも影響が及びます。MSCIの指数は約5.79兆ドルの運用資産に追跡されているため、SPCXが組み入れられた場合、これらのパッシブファンドはルールに沿って同株を買い入れていくことになります。インデックス型の投資信託を通じて、財務を一度も精査していない多くの個人が、間接的に出資者になりうる構図です。米国ではエリザベス・ウォーレン上院議員が、選択の余地なくSpaceXのリスクにさらされかねないと問題視し、SECに公開の延期を求める書簡を送りました。技術への期待と投資家保護のバランスをどう取るのか、規制当局にとっても前例の少ない論点が生まれています。

リスクをもう一段、構造面から見ておきましょう。今回公開されるのは同社の約4%にすぎず、この薄い流通量と高い評価額が組み合わさることで、上場直後の株価が乱高下しかねないとの懸念が出ていました。少ない浮動株に強い需要が集中すれば、価格は本来の価値から大きく振れやすくなります。

その懸念と期待が交差した結果が、初日に表れました。6月12日、SPCXはナスダックで取引を開始。150ドルで寄り付いて公開価格を上回り、取引中には176ドル台まで上昇しました。終値は160.95ドル、約19%高で初日を終え、時価総額は2兆ドルを超えて世界有数の上場企業に並びました。事前にHyperliquidが示していた「20%のポップ」という予測に、現実がほぼ重なった形です。

日本市場への波及も見ておきましょう。直接的な株価連動は限定的という冷静な見方が主流です。野村総合研究所は、750億ドル(約12兆円)規模のIPOにより、短期的には米国株式市場全体の需給が悪化する可能性を指摘しています。巨大な「お金の吸引装置」が現れ、ほかの銘柄から資金が一時的に抜ける構図です。

日本株への波及は「テーマの連想買い」という形をとります。NEC(6701)や三菱電機(6503)は衛星・宇宙通信インフラに関わり、スカパーJSATホールディングス(9412)はアジア最大級の衛星通信事業者で、日本で唯一、マルチチャンネル有料放送と衛星通信サービスの両方を手がけます。NTT(9432)は宇宙通信の研究開発に注力しているとされ、いずれも間接的な関連銘柄として注目されます。ただし宇宙ベンチャー側は、いずれも若く赤字段階で開発遅延リスクが構造的につきまとう「サテライト」「ロマン枠」と運用現場から線引きされており、過熱には注意が要ります。

それでも、この上場が持つ歴史的な意味は揺らぎません。私たちがいま注目すべきは、株価の上下そのものではなく、「まだ実現していない未来」に人類がどれだけの価値を前払いできるのか――その問いに、市場が初めて明確な数字で答えを出そうとしている点です。ここに、テクノロジーと社会の関係を読み解く鍵があると考えています。

【用語解説】

IPO(新規株式公開)
未上場の企業が、自社株を初めて証券取引所に上場し、一般の投資家が売買できるようにすること。企業は大規模な資金を調達でき、創業者や初期投資家は持ち株を現金化できる。

ロードショー
IPOを控えた企業が、引受幹事とともに機関投資家を訪問し、事業や将来性を説明して株の購入を働きかける一連の活動。通常はこの過程を経て公開価格が決まる。

ブックビルディング
引受幹事が価格帯を提示し、機関投資家の需要を積み上げながら公開価格を決定する、現代のIPOで一般的な手法。SpaceXはこの幅を持たせる手順をとらず、早い段階で135ドルを提示した。

応募超過(オーバーサブスクライブ)
売り出す株式数に対し、購入希望が上回っている状態。需要が4倍とは、用意した株の4倍の買い注文が集まったことを指す。

浮動株(フロート)
市場で実際に売買できる株式の割合。今回は全体の約4%にすぎず、薄い浮動株は価格を振れやすくする要因になる。

ロックアップ期間
上場後の一定期間、既存株主が保有株を売却できないよう制限する取り決め。市場への大量売却による株価急落を防ぐ目的がある。

SPV(特別目的事業体)
特定の投資を行うためだけに設立される器(ビークル)。複数の小口投資家の資金をまとめ、本来は出資が難しい未公開企業へ間接的に投資する際などに用いられる。

クラスA株/クラスB株
議決権の重みが異なる株式。SpaceXの場合、一般投資家が買えるクラスA株は1株1票だが、創業者側のクラスB株は1株10票で、少ない株数で会社を支配できる仕組みになっている。

トリリオネア
資産が1兆ドルを超える人物。これまで歴史上、達成者はいない。

パッシブファンド/株価指数連動
特定の株価指数(インデックス)に組み入れられた銘柄を機械的に売買する投資信託。指数に採用された銘柄は、ファンドの判断とは無関係に自動的に買われる。

DCF(割引キャッシュフロー法)
将来生み出すと予想される現金収入を、現在の価値に割り引いて企業価値を算定する評価手法。モーニングスターはこの手法でSpaceXを評価した。

軌道上データセンター
人工衛星に演算装置を搭載し、宇宙空間でデータ処理を行う構想。冷却や太陽光の利用に利点があるとされるが、商用化はまだ実現していない。

【参考リンク】

SpaceX 公式サイト(外部)
ロケット打ち上げ、Starlink、Starshipなどを手がける米国の宇宙開発企業の公式サイト。打ち上げ実績やミッション情報を掲載している。

Starlink 公式サイト(外部)
SpaceXが運営する衛星インターネットサービスの公式サイト。提供エリアや料金プラン、申し込み手続きを確認できる。

Nasdaq 公式サイト(外部)
SpaceX(SPCX)が上場した米国の証券取引所の公式サイト。株価や上場企業情報、市場ニュースを提供している。

Hyperliquid 公式サイト(外部)
SPCXの合成的な値動きを提供したブロックチェーン上の取引プラットフォーム。現物・無期限先物取引を扱う分散型取引所である。

Morningstar 公式サイト(外部)
SpaceXに割安評価を示した独立系の投資調査会社。財務分析や公正価値の算定、格付け情報を提供している。

U.S. SEC(証券取引委員会)公式サイト(外部)
ウォーレン上院議員が公開延期を求める書簡を送った米国の証券規制当局。上場企業の開示書類を閲覧できる。

スカパーJSAT 公式サイト(外部)
アジア最大級の衛星通信事業者。本文で関連銘柄として触れた、宇宙とメディアの両事業を手がける日本企業の公式サイト。

【参考記事】

SpaceX stock gains 19% on first day of trading(NPR)(外部)
取引初日に19%高の160.95ドルで引け、時価総額が2兆ドルを超えて世界有数の上場企業になったと報じる。

SpaceX shares debut after biggest IPO in history(CNN Business)(外部)
150ドルで寄り付き高値176.52ドル、終値161.11ドルで19.34%高と記録。xAI統合の経緯にも言及している。

SpaceX IPO Opens at $135 on Nasdaq: Record $75 Billion Raise(Tech Times)(外部)
約5.79兆ドルの資産が追うMSCI指数への組み入れで、パッシブ資金が機械的に流入する構造を指摘する。

The Largest Public Offering in History: SpaceX IPO Comes With a Stratospheric Risk(Investing.com)(外部)
モーニングスターのDCFで、最楽観でも154ドル相当・実現確率7%と分析。技術は2028年まで未実現とする。

SpaceX Record-Breaking IPO(IBTimes UK)(外部)
サウジアラムコの294億ドルを上回ると報じ、公開は約4%のみで株価変動の懸念があると伝える。

日本の個人投資家も注目するスペースXのIPO:短期的には株式市場の需給悪化も(野村総合研究所)(外部)
750億ドル(約12兆円)の調達が短期的に米国株式市場全体の需給を悪化させうると分析する。

SpaceX IPOまで残り1ヶ月|上場後の株価展望と日本の宇宙関連株への影響(Invest Leaders)(外部)
NEC・三菱電機・スカパーJSAT・NTTを関連群とし、連想買いは個人主導で短期になりやすいと指摘する。

【編集部後記】

私がこのニュースで最も心を動かされたのは、株価でも、イーロン・マスクの資産額でもありませんでした。「まだ存在しない技術」に、世界中の投資家が2兆ドルという値段をつけた――その一点です。火星の都市も、宇宙のデータセンターも、いまはまだ図面の中にしかありません。それでも人は、未来そのものに前払いをしました。

その熱量は、X(旧Twitter)上の反応にもはっきり表れていました。全体としては「アメリカンドリームとイノベーションの勝利」を祝う、祝賀ムードが優勢だったように見えます。終値や時価総額の更新を速報する投稿が次々と拡散し、ナスダックの公式アカウントもSpaceXに祝意を寄せていました。宇宙分野の解説者からは、マスクさん個人の富よりも、ストックオプションで人生が変わるほどの資産を得た初期従業員たちに光を当てる声も上がっていました。日本の投資系アカウントでも、初日の急騰や関連銘柄への波及を実用的に解説する投稿が目立ち、関心の高さがうかがえます。

一方で、冷静な視点が消えたわけではありません。赤字が続くなかでの高い評価を「過熱では」と問う声や、富の集中をめぐる課税論、投資家保護の観点からの慎重論も、確かに存在していました。祝祭と懐疑が同じタイムラインに並ぶ――この温度差そのものが、今回のIPOの本質を映していると感じます。

もちろん、私たち自身にも冷静さは必要です。モーニングスターが示した「半分以下」という評価は、夢と現実のあいだにある距離を、静かに教えてくれます。期待が大きいほど、外れたときの揺り戻しも大きい。だからこそ私は、この銘柄を「応援」ではなく「観察」の目で追っていきたいと思っています。

そしてもう一つ。気づかぬうちに、私たちの積立資産がこの壮大な賭けに少しだけ加わっているかもしれない、という事実です。未来に関わる方法は、ロケットを打ち上げることだけではないのかもしれません。あなたは、この「未来への前払い」を、どんな気持ちで眺めますか。よければ、感想を聞かせてください。

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TaTsu
『デジタルの窓口』代表。名前の通り、テクノロジーに関するあらゆる相談の”最初の窓口”になることが私の役割です。未来技術がもたらす「期待」と、情報セキュリティという「不安」の両方に寄り添い、誰もが安心して新しい一歩を踏み出せるような道しるべを発信します。 ブロックチェーンやスペーステクノロジーといったワクワクする未来の話から、サイバー攻撃から身を守る実践的な知識まで、幅広くカバー。ハイブリッド異業種交流会『クロストーク』のファウンダーとしての顔も持つ。未来を語り合う場を創っていきたいです。