UtaMe(うたミー)を応援したい理由──AI×歌×著作権の2年間と、権利から始める国産の挑戦

好きなキャラクターが、自分のためだけに歌ってくれる。しかもリアルタイムで、目の前に立体的に浮かびながら。少し前ならアニメや映画の中の話でしたが、それを本気で実現しようとしている小さな開発チームがいます。ただ、この挑戦のいちばん面白いところは「歌える」こと自体ではありません。その歌声や楽曲を、誰の権利も勝手に使わずに成立させる——そこにこそ、いま応援したくなる理由があります。


音声対話型AIキャラクターアシスタントアプリ「ACUAH(アクア)」を開発するシーズユナイト株式会社が、リアルタイム歌唱システム「UtaMe(うたミー)」の実装に向けたクラウドファンディングを実施している。募集はAll-in方式で、期間は2026年7月1日から8月31日、目標金額は100万円。歌声合成には正式に許諾を受けたエンジン「VoiSona」などを、カラオケ再生には「JOYSOUND」のスマートフォン向けライブラリを用い、楽曲はJASRACおよびNexToneの許諾のもとで運営するという。無断学習による歌声生成を行わない、という設計思想がその根っこにある。

UtaMeがどんな体験を目指すのか、その技術構成やコンパニオンAIとしての面白さについては、すでに別の記事で詳しく紹介している。この記事ではあえて視点を変え、UtaMeを、AIと音楽が衝突を続けてきたこの2年間の流れの中に置いてみたい。すると、この小さな挑戦がなぜ今応援に値するのか、その意味がくっきりと浮かび上がってくる。

From: 文献リンクホログラム×音声対話|歌で癒しを届ける「UtaMe(うたミー)」開発プロジェクト

【編集部解説】

まず、いま私たちがどんな時代にいるのかを振り返らせてください。この2年、AIと音楽の関係は「無断学習」という一点をめぐって激しく揺れてきました。

2024年6月、全米レコード協会(RIAA)が大手レーベルを代理して、AI音楽生成のSunoとUdioを著作権侵害で提訴しました。争点は、著作権で保護された楽曲を許諾なく学習データに使ったのではないか、という疑いです。その後、2025年にはUniversal Music GroupがUdioと、Warner Music GroupがSunoと相次いで和解し、いずれも「許諾された楽曲だけで学習する」新プラットフォームへと舵を切りました。訴訟から和解、そしてライセンスへ。大きな流れは、この方向へ動いています。

配信プラットフォーム側も、防衛に動き出しました。TIDALは完全AI生成と判定した楽曲の収益化を停止し、AIバッジの表示を打ち出しました。背景には、大量生成された楽曲が不正な再生でロイヤリティを吸い上げる「原資の奪い合い」があります。DeezerはAI生成楽曲のストリームのうち相当割合が不正だったと公表しており、問題はもはや「AIか人間か」という美学ではなく、お金の流れという経済構造に及んでいます。

この2年をひとことで言えば、「何を学習させたのか」「その対価は誰に払われるのか」を後回しにしたサービスが、次々とツケを払わされてきた期間でした。だからこそ、順番を最初から入れ替えた挑戦に、私は目を留めました。

権利処理を、いちばん最初に置いた

UtaMeが掲げる方針は3つ。無断学習による歌声生成を行わないこと。正式に許諾を受けた歌声合成エンジンを使うこと。そして正規ライセンスの楽曲だけを使うこと。歌声にはテクノスピーチのVoiSona、カラオケ再生にはエクシングのJOYSOUND Smartphone Library、楽曲の管理はJASRACとNexTone。海外の大手が訴訟と和解を経てようやくたどり着いた「許諾を前提にする」という地点に、この小さなチームは最初から立とうとしています。開発者自身が「権利関係の整理こそ、開発でもっとも苦労した部分」と明かしているのが、その本気度を物語っています。

もちろん、UtaMeはまだクラウドファンディングの段階です。リアルタイム歌唱の品質も、実際の体験も、これから確かめられていくものです。誇張して持ち上げるつもりはありません。それでも、「面倒な権利処理を先に済ませてから、楽しい体験をつくる」という順番を選んだこと——ここに、私は静かな信頼を覚えます。派手なショートカットで先行する道もあったはずなのに、あえて遠回りを選んだのですから。

だから、応援したい

好きなキャラクターが歌ってくれる未来は、それだけで心が少し軽くなります。でも、その歌声の裏側で誰かの権利がないがしろにされていたら、私たちは心から楽しめるでしょうか。UtaMeが選んだ道は、その問いに対する、地に足のついた一つの答えです。「歌える」ことより「安心して聴ける」ことを先に据えた設計は、これから当たり前になっていくAIサービスの、ひとつの手本になりうると思います。だからこそ、この挑戦がきちんと形になるところまで、応援したくなるのです。

【関連記事】

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訴訟から「許諾を前提にした学習」へ舵を切る事例。UtaMeの設計思想と同じ方向を海外側から示す。

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UtaMeと同じJOYSOUND基盤を使う別事例。AI・カラオケ・著作権処理が交わる国内の動きとして接続する。

【参考リンク】

UtaMe(うたミー)開発プロジェクト(CAMPFIRE)(外部)
本記事で紹介したクラウドファンディングのページ。リターン内容や開発の詳細、支援の受付はこちらから。

シーズユナイト株式会社 公式サイト(外部)
ACUAHや3Dホログラム装置を手がける起案企業の公式サイト。事業方針や企業情報を確認できる。

ACUAH(アクア)サービスサイト(外部)
音声対話AIキャラクターアプリ本体の公式情報。UtaMe実装後のサービス像を知る手がかりとなる。

【編集部後記】

最初にこのプロジェクトを見たとき、私がいちばん引っかかったのは「歌う」でも「ホログラム」でもなく、開発者が権利処理を「いちばん苦労した」と書いていたところでした。楽しい機能ではなく、地味で骨の折れる部分を苦労の中心に挙げている。そこに、このチームの姿勢がにじんで見えた気がしたのです。

海外の大手が、訴訟という高い授業料を払ってようやくたどり着いた「許諾を前提にする」という地点。UtaMeは、そこに最初から立とうとしています。もちろん、掲げた方針が実際にどこまで守られていくのかは、これから一緒に見ていくべきものです。それでも、遠回りに見える誠実な順番を選んだ小さな挑戦を、私は見届けたいと思いました。

もし少しでも気になったら、公開されているデモや前回の歩みをのぞいてみてください。そのうえで「いいな」と思えたら、支援という形で背中を押してあげてほしいのです。「未来を知りたい、触りたい、関わりたい」——そんな気持ちを持つ一人として、私はこの挑戦の続きを、みなさんと一緒に応援したいと思っています。

【用語解説】

UtaMe(うたミー):音声対話AIキャラクターアプリ「ACUAH」に搭載予定のリアルタイム歌唱システム。無断学習に頼らず、許諾済みの歌声合成エンジンと正規ライセンス楽曲で歌唱を実現することを掲げる。

VoiSona(ボイソナ):株式会社テクノスピーチが開発する音声合成・歌声合成プラットフォーム。UtaMeでは会話・歌唱の両面で同シリーズの技術が活用される。

JOYSOUND Smartphone Library:株式会社エクシングが提供する、スマートフォンアプリ向けのカラオケ再生ライブラリ。UtaMeのカラオケ再生基盤となる。

JASRAC/NexTone(ネクストーン):日本の代表的な著作権管理事業者。作詞・作曲家などの権利を預かり、楽曲利用の許諾と使用料の徴収・分配を行う。

無断学習:著作権者の許諾を得ないまま、楽曲や歌声などの作品をAIの学習データに使うこと。生成AIと音楽をめぐる一連の訴訟で、中心的な争点になってきた。

All-in方式:クラウドファンディングの方式のひとつ。目標金額に届かなくてもプロジェクトを実行し、リターンを届ける仕組みである。

【参考記事】

シーズユナイト、歌唱システム「UtaMe」開発プロジェクトを発表(PR TIMES)(外部)
ボイスライブラリ一覧や許諾番号など、起案者発表の詳細を確認できる公式プレスリリース。

テクノスピーチ、UtaMeへの技術採用を発表(外部)
歌声合成側の企業がUtaMeへの技術採用を公表した一次情報。連携の裏づけとなる。

RIAA、SunoとUdioを著作権侵害で提訴(公式発表)(外部)
本記事の背景にある、無断学習をめぐる代表的な訴訟の一次情報。議論の出発点となる発表。

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山本 達也
『デジタルの窓口』代表。名前の通り、テクノロジーに関するあらゆる相談の”最初の窓口”になることが私の役割です。未来技術がもたらす「期待」と、情報セキュリティという「不安」の両方に寄り添い、誰もが安心して新しい一歩を踏み出せるような道しるべを発信します。 ブロックチェーンやスペーステクノロジーといったワクワクする未来の話から、サイバー攻撃から身を守る実践的な知識まで、幅広くカバー。ハイブリッド異業種交流会『クロストーク』のファウンダーとしての顔も持つ。未来を語り合う場を創っていきたいです。