数百ドルのドローンを、数百万ドルのミサイルで撃ち落とす。この「割に合わない交換」が、防御側の予算を先に削っていきます。Lockheed Martin が示した答えは、当てて壊すのをやめ、電子を焼いて機体は回収するというものでした。撃墜数よりも、その発想の転換に目が留まります。
ロッキード・マーティンは2026年7月20日、英国ファーンボローで対ドローンシステム「MORFIUS™ X-Rotor」を発表した。地上から発射され、飛行しながら高出力マイクロ波(HPM)を用いるシステムで、同社によれば一度の飛行で50機を超える敵ドローンを無力化でき、現地での回収・再利用が可能である。
センサーおよび指揮統制の種類を問わず、専用センサーを必要とせず、火器管制レーダーにも依存しないとする。同社は試作機とHPMペイロードの生産を加速しており、アリゾナ州、カリフォルニア州、オクラホマ州での飛行・迎撃・無力化性能(lethality)の試験を経て、次の飛行試験を計画している。同社によれば、本システムは米国防総省(発表文の表記は Department of War)の2025〜2028年 迅速対応・対UASロードマップを支える。過去の派生型は2017年以降飛行しているという。同社ミサイル・火器管制先進プログラム担当バイスプレジデント兼ゼネラルマネージャーのランディ・クライツがコメントを寄せた。

【編集部解説】
なぜ「1機撃墜あたりのコスト」が主役なのか
この発表を読み解く鍵は、実は撃墜数の「50機超」という数字そのものではありません。ロッキード・マーティンが繰り返し強調する「コスト・パー・キル(1機撃墜あたりの費用)」という言葉にこそ、現代の戦場が直面する根本的な難題が凝縮されています。
市販ベースの小型ドローンは、1機あたり数百ドルから、高くても数千ドルで手に入ります。ところが、それを迎撃する従来型の地対空ミサイルは、1発で数十万ドルから数百万ドルに及ぶこともあります(迎撃弾ごとに単価の幅は大きい点には留意が必要です)。安価な脅威を高価な兵器で叩くという「割に合わない交換比率」は、群れ(スウォーム)で押し寄せられたとき、防御側の予算や在庫を圧迫しかねません。
MORFIUS X-Rotor が狙っているのは、まさにこの費用の非対称性を反転させることです。1発で1目標を破壊する使い捨てのミサイルではなく、電子機器の機能を奪う高出力マイクロ波(HPM)で複数機を無力化し、しかも機体そのものを回収して再び使う。「1対多」かつ「再利用可能」という二つの設計思想は、コスト面で守る側を優位に立たせるための答えを目指したものだと、編集部は捉えています。ただし機体価格や整備費、回収率、HPMペイロードの寿命は公表されておらず、実際の費用優位はまだ証明されていません。
「新型」だが、ゼロからの新規開発ではない
見落とされがちですが、MORFIUS は突然現れた兵器ではありません。ロッキード・マーティンによれば、前身となる派生型は2017年から飛行試験を重ねており、今回の X-Rotor は同じ系列の HPM エフェクターを引き継ぐ、その延長線上にあるとされます。なお、一部の二次報道は初期型が筒発射式の運動エネルギー型(キネティック)迎撃機だったと伝えていますが、今回確認できた同社の公開資料からは、キネティック方式からHPM方式へ転換したという詳細な開発史までは確認できませんでした。
同社が「リスクの低減」を掲げるのは、実績のある機体系統と既存のHPMエフェクター群を流用しているためです。まったくの白紙から作るより、開発の不確実性を抑えられるという主張には一定の説得力があります。
発表の「場」と「タイミング」が語るもの
この発表が英国ファーンボローで行われた点も見逃せません。会場は世界有数の航空宇宙見本市「ファーンボロー国際航空ショー」であり、ロッキード・マーティンは同じ場で、同社がPAC-3 MSEの半額未満と説明する迎撃弾「PAC-3 ACE」も同時に披露しています。低コストで数を揃えられる防空——という一本の戦略的メッセージが、複数の製品を貫いているように、編集部には映ります。
背景として、同社によれば、この取り組みが支える「2025〜2028年 迅速対応・対UASロードマップ」は、米国防総省(ペンタゴン)の施策です。なお、発表文では「Department of War」という呼称が使われていますが、これは2025年9月5日の大統領令14347により副次的名称として使用が認められたもので、法律上の正式名称は現在も「Department of Defense(国防総省)」のままです。報道によって両方の表記が混在するのは、このためです。
冷静に見ておきたい点
一方で、いくつか留保が必要です。MORFIUS X-Rotor は現時点で完成・配備された装備ではなく、試作機の生産を加速している段階にあります。「50機超」「最も効果的で低コスト」といった性能は、あくまで同社の主張であり、独立した第三者による検証を経たものではありません。試験の実施は確認できますが、目標数・距離・成功率などの条件も公表されていません。
技術的な課題も残ります。マイクロ波は、ビーム範囲や周波数、出力、対象機器の耐性によっては、標的以外の電子機器にも影響が及ぶ可能性があるため、指向制御や電磁両立性、味方装備との調整が実運用上の論点になります。同社は「付随的被害を最小限に抑える」と述べていますが、その実証は今後の試験に委ねられます。
さらに、対ドローン兵器の急速な進化は、それを回避しようとするドローン側の進化を促すと考えられ、終わりのない「矛と盾」の競争を加速させる側面も持ち合わせています。エピルス社の「Leonidas」や、かつてボーイングが空中発射型HPMとして実証した「CHAMP」など、マイクロ波を用いた対抗技術はすでに複数存在しており、MORFIUS はその潮流の中の一手だと位置づけるのが正確でしょう。
未来を先取りする技術は、しばしば脅威と防御が互いを映し合う鏡のような構造の中から生まれます。この一機がどこまで実戦の景色を変えるのか——その答えは、次の飛行試験と、その先の配備が示すことになります。
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【編集部後記】
「ドローンを1機落とすのに、いくらかかるのか」——MORFIUS X-Rotor が突きつけているのは、突き詰めれば経済の問いです。数百ドルの機体を数百万ドルのミサイルで迎え撃つ構図が続くかぎり、守る側は「勝っても消耗する」というジレンマから抜け出せません。マイクロ波で群れを無力化し、機体を回収して再び使う。この設計は、戦い方の効率だけでなく、防衛予算という有限のリソースをどう配分するかという問いにも踏み込んでいます。
同時に、私たちが注視したいのは、こうした「安く数をさばく防御」が普及したとき、攻撃側のドローンがどう進化していくのか、という点です。矛と盾は互いを映し合いながら発展します。次の飛行試験、そして実際の配備が、この鏡の向こうにどんな未来を映し出すのか。innovaTopia は、その一つひとつを追い続けます。
【用語解説】
高出力マイクロ波(HPM:High Power Microwave)
強力な電磁波(マイクロ波)を短時間に集中して放射し、標的の電子回路を妨害・劣化・損傷させて機能を停止させる技術である。必ずしも「焼き切る」わけではなく、対象や条件により作用の度合いは異なる。電磁エネルギーはほぼ光速で伝わり、複数の目標を一度に対処できる潜在力を持つが、有効範囲やビーム幅、効果は装置と条件によって変わる。
スウォーム(swarm/群れ)
多数の小型ドローンが群れとなって押し寄せる攻撃手法を指す。狭義には相互に通信・協調して行動する群れを、広義には多数機が同時に飛来する攻撃も含めて用いられ、統一された定義はまだ定まっていない。1機ずつは安価でも、数の力で防御側のセンサーや迎撃手段を飽和させる点が脅威となる。
対UAS(C-UAS)/ UAS・UAV
UAVは無人航空機(機体そのもの)、UASは機体に加えて操縦・管制装置や通信リンクまで含めたシステム全体を指す。厳密には同義ではないが、日常的にはいずれもドローンと呼ばれる。C-UAS(Counter-UAS)は、それらを探知・追跡・無力化する対抗手段の総称だ。
1対多(one-to-many)
1つの迎撃手段で複数の目標に対処する考え方。1発のミサイルで1機を狙う従来の「1対1」に対し、面で効果を及ぼしやすいHPMは「1対多」を実現しやすい。ただし「一度の照射で同時に」を必ず意味するわけではなく、連続的な交戦を含む場合もある。
コスト・パー・キル(cost per kill)
標的1つを無力化するのにかかる費用のこと。数百ドルの安価なドローンを数百万ドルのミサイルで撃ち落とす「割に合わない交換」を避け、この値を下げることが対ドローン防御の核心とされる。実務上は弾薬費に加え、センサー・運用・整備の費用によっても変わる。
キネティック迎撃/非キネティック迎撃
キネティック(運動エネルギー型)は、ミサイルや弾丸で標的に物理的に命中させて破壊する方式。対して非キネティックは、マイクロ波やレーザーなど、物理的な衝突を伴わずに機能を奪う方式を指す。MORFIUSは後者にあたるが、非キネティックでも対象の電子機器を損傷させる場合があり、「非キネティック=無害・非破壊」ではない。
火器管制レーダー(FCR:Fire Control Radar)
兵器を目標へ正確に誘導するための専用レーダー。多くの対空システムが利用するが、光学・赤外センサーやネットワーク情報を用いる方式もある。MORFIUSについて同社は、このFCRに依存しないと説明している。
指揮統制(C2)アグノスティック
「アグノスティック(agnostic)」は、特定の方式や機器に縛られず「種類を問わない」という意味のIT・技術用語。MORFIUSは特定の指揮統制システムに固定されず、多様なC2との連接を想定しているとされる。
付随的被害(コラテラル・ダメージ)
攻撃の際に、本来の標的以外に及んでしまう被害。マイクロ波は条件によっては標的以外の電子機器にも影響を及ぼしうるため、味方や周辺への影響をどう抑えるかが課題となる。
無力化性能(lethality)
軍事分野で、標的を撃破あるいは機能停止させる能力を指す語。対象がドローン(無人機)の場合、人体への「殺傷」ではなく、機体を飛行不能にする撃破・無力化の効果を意味する。
迅速対応・対UASロードマップ(2025〜2028年)
安価で迅速に配備できる対ドローン技術の導入を加速するための計画で、ロッキード・マーティンはMORFIUSがこれを支えると説明している。政府一次資料上の正確な名称・期間は一部が非公開である。
Department of War(発表文の表記)と Department of Defense(国防総省)
現行の合衆国法典(10 U.S.C. §111)は正式名称を「Department of Defense」と定めている。2025年9月5日の大統領令14347により「Department of War」が副次的名称として使用可能になったが、正式名称の変更には議会の立法が必要であり、法的には従来どおりだ。報道により両表記が混在するのはこのためである。
【参考リンク】
MORFIUS | Lockheed Martin(外部)
再利用可能な高出力マイクロ波型インターセプターとしてのMORFIUS公式製品ページ。
Counter-Unmanned Aerial Systems | Lockheed Martin(外部)
同社の対ドローン能力と多層防御の考え方を紹介する公式ページ。
Lockheed Martin(企業公式サイト)(外部)
航空・ミサイル・宇宙など全領域の事業と製品を掲載する企業公式サイト。
Epirus(エピルス公式サイト)(外部)
競合するHPMシステム「Leonidas」を手がける米防衛テック企業の公式サイト。
【参考記事】
Lockheed Announces X-Rotor, Directed Energy Counterdrone System(Aviation Week)(外部)
50機超・2017年の前身機・対UASロードマップに加え、英国主導の欧州対ドローン計画にも触れる。
Lockheed Martin’s Morfius X-Rotor built to fry 50 enemy drones in one flight(Defense News)(外部)
地上発射・回収再利用・センサー非依存といった公式仕様を整理し、試作段階である点を伝える。
US unveils reusable microwave drone-killer that can take down 50 UAVs per mission(Interesting Engineering)(外部)
50機超などの数値を整理。ロードマップを「国防総省」の施策と表記する対照例。
Lockheed Martin introduces PAC-3 ACE interceptor, MORFIUS X-Rotor counter-UAS system(Military Aerospace)(外部)
安価な迎撃弾PAC-3 ACEとの同時発表に注目し、低コスト防空という戦略を読み解く。
Lockheed Martin unveils MORFIUS X-Rotor to fry drones with high-power microwaves(The Jerusalem Post)(外部)
EpirusやBoeingなど、複数企業がHPM対ドローン技術を競う業界動向を報じている。
Lockheed Martin Unveils MORFIUS X-Rotor Airborne HPM Counter-Drone System(New Atlas)(外部)
群れを「蚊」に喩え、数で押し寄せる脅威の構図をファーンボローの状況とともに解説。












