スマートフォンのAIが、画面の中だけでなくカメラそのものを動かす段階へ進もうとしています。被写体を追う可動式カメラは、一人での撮影やビデオ通話をどう変えるのでしょうか。新しさの裏側にある実用性と課題を整理します。
HONORは、可動式ジンバルカメラを背面に備える「HONOR Robot Phone」を2026年8月12日に中国で正式発表する。製品はARRIとの共同開発で、7月28日の映像技術発表会では撮影機能の詳細を披露した。HONORはMoon Shadow GrayとStar Trail Silverの2色を公式発表している。一方、12GB+512GBと16GB+1TBの容量構成は、JD.comの販売ページに掲載されたと報じられた未確認情報だ。
200メガピクセルの「4D Gimbal」カメラや120W充電は、7月28日の映像技術発表会でHONOR自身が正式に仕様を公表した。6.3~6.4インチのディスプレイ、
Snapdragon 8 Elite Gen 5、約6,000mAhのバッテリーなども報じられているが、
これらは正式発表前の未確認情報である。
【編集部解説】
HONOR Robot Phoneで注目すべきなのは、200メガピクセルという画素数でも、背面からカメラが飛び出す外観でもありません。より重要なのは、スマートフォンに搭載されたAIが、初めて画面の外へ物理的に働きかけようとしている点です。
これまでのAIスマートフォンは、写真を補正し、被写体を認識し、ユーザーの質問に答えることはできても、端末自身の向きを変えることはできませんでした。カメラは周囲を見る「目」ではあっても、自ら視線を動かすことはできなかったのです。
Robot Phoneは、超小型モーターと4自由度ジンバルによって、その制約を変えようとしています。HONORは、音の識別、動きの追跡、周囲の継続的な認識に加え、AIによる被写体追跡、利用者を追う全方位ビデオ通話、90度・180度の回転撮影を発表しています。つまり、AIが「何を見るか」を判断し、その判断をカメラの物理的な動作へ変換する端末です。
これは、AIアシスタントに便利な撮影機能が追加されたという話ではありません。スマートフォンのAIが、回答を表示するソフトウェアから、センサーとモーターを使って現実世界に作用するエージェントへ変わる試みと見るべきでしょう。
この構造が最も分かりやすく価値を発揮するのは、一人で動画を撮影する場面です。
現在も、外付けジンバル、自動追尾スタンド、Webカメラなどを組み合わせれば、動く人物を追いながら撮影できます。しかし、それぞれ充電や接続、アプリの設定、持ち運びが必要です。Robot Phoneが同じ役割を端末内で完結できれば、机に置くだけで料理や工作の手元を追い、歩きながら話す人物へカメラを向け、ビデオ通話中も利用者を画角内に保つことが可能になります。
折りたたみスマートフォンが「画面の形」を変えた製品だとすれば、Robot Phoneは「センサーの向き」を変える製品です。静止した板状端末を前提としてきたスマートフォンの設計に、初めから可動部を組み込んだことに意味があります。
さらにHONORは、OpenClawを通じて、開発者が自然言語でジンバルを動かせると説明しています。これは可動式カメラを、撮影専用のギミックではなく、ソフトウェアから制御できる「実行装置」として扱う構想です。外部開発者が利用できる範囲やAPIの詳細はまだ不明ですが、開放されれば、見守り、遠隔案内、教育、接客など、撮影以外の用途も生まれる可能性があります。
ARRIとの協業も、単に有名な映画用カメラメーカーの名前を付けたものとして見るべきではありません。
ARRIが提供するのは、映画用カメラそのものではなく、自然な色再現、ハイライトやシャドウの階調、撮影から編集までの一貫性を含むImage Scienceです。ARRIも、スマートフォンの小型センサーやSoC、光学系の制約を前提に、映画用ハードウェアを再現するのではなく、その原則をモバイル向けへ変換する取り組みだと説明しています。
ただし、Robot Phoneでは画質だけでなく、カメラがどの速度で動き、どのタイミングで被写体を追い、どの角度で止まるかも映像表現の一部になります。可動カメラでは、画像処理とカメラワークを切り離せません。
被写体を追う動きが機械的であれば、どれほど色再現が優れていても映像は不自然になります。反対に、追従速度や回転の緩急まで制御できれば、スマートフォンが単に映像を記録する機器から、構図や動きを提案する撮影装置へ近づきます。ARRIとの協業を評価する際は、静止画の比較だけでなく、実際に動く映像でカメラワークまで確認する必要があります。
一方で、カメラが自ら向きを変えることは、新しい問題も生みます。
固定カメラであれば、レンズの向きから撮影範囲をある程度推測できます。しかし、AIが周囲を認識し、人物へ自動的にカメラを向ける場合、近くにいる人は「誰を認識しているのか」「映像を保存しているのか」「なぜこちらを向いたのか」を判断しにくくなります。
そのため、撮影中であることを示す明確なランプ、可動機構を停止する物理スイッチ、認識中と録画中を区別する表示などが、従来以上に重要になります。プライバシー保護は設定画面の中だけではなく、端末の動きや外観から周囲の人にも理解できる必要があります。
加えて、可動部の耐久性、落下時の収納、動作音、消費電力、防水・防塵性能も、日常利用を左右します。HONOR自身も、現在公開している機能は準備中であり、市販版ではUIや機能が変更される可能性があるとしています。
Robot Phoneが成功するかどうかは、販売台数だけでは判断できません。数年後に、可動式センサーやモーターを備えたスマートフォンが他社からも登場するなら、この端末は新しい製品カテゴリの起点だったと評価されるでしょう。
AIスマートフォンの競争は、どれだけ大きなモデルを搭載するかだけでなく、AIが現実世界へ何自由度で働きかけられるかを競う段階へ移る可能性があります。Robot Phoneの面白さは、その変化を最も分かりやすい形で目に見えるものにした点にあります。
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【編集部後記】
Robot Phoneという名前には、どこか愛嬌があります。背面からカメラが伸び、こちらを向いて追いかけてくる姿も、無機質な端末というより小さな相棒のようです。スマートフォンが高性能化するほど、数字や処理速度の競争に見えがちですが、この製品には動きそのものの楽しさがあります。
AIが画面の中で答えるだけでなく、実際に首を振るようにカメラを動かす点も印象的です。 一方で、可愛らしさだけではなく、追跡精度や耐久性、周囲への配慮も欠かせません。日常で自然に使える完成度が伴えば、撮影機器ではなく「一緒に行動する端末」に近づくかもしれません。
Robot Phoneが一時的な珍しさで終わるのか、新しいスマートフォン像として定着するのか。まずは、その少し不思議で可愛らしい動きを実機で確かめてみたくなります。
【用語解説】
具身化AI(Embodied AI)
AIが画面内で情報を処理するだけでなく、カメラ、モーター、ロボットなどの物理的な機構を通じて現実世界を認識し、動作する仕組み。HONOR Robot Phoneでは、AIによる認識結果を可動式カメラの動作につなげる構想。
4自由度ジンバル(4DoF Gimbal)
4つの独立した方向や軸の動きを制御できる可動機構。HONORはHONOR Robot Phoneで、4自由度の機構と3軸ジンバル手ぶれ補正を組み合わせ、カメラの向きの変更や回転撮影を可能にしている。
マルチモーダル認識
映像、音声、動きなど、異なる種類の情報を組み合わせて状況を認識する技術。HONOR Robot Phoneでは、音を識別し、動きを追跡しながら周囲の状況を継続的に把握する機能として説明されている。
Agentic OS
利用者の指示を受け取るだけでなく、意図を理解し、複数のアプリや機器を使ってタスクを実行することを目指すOSの考え方。HONORは2026年7月、MagicOSを意図とタスク中心のAgentic OSへ高度化する技術フレームワークを発表した。
OpenClaw
HONORがHONOR Robot Phoneのジンバル機構を外部から制御するために利用すると説明しているオープンプラットフォーム。自然言語による指示を、カメラの物理的な動作へつなげる仕組みとして紹介されている。
ARRI Image Science
映像の色、明部と暗部の表現、階調、撮影から編集までの一貫性を設計するARRIの映像技術。単なるフィルターではなく、映像が撮影され、最終画面へ表示されるまでの表現全体に関わる。
【参考リンク】
HONOR公式サイト(外部)
スマートフォン、タブレット、PC、ウェアラブル端末など、HONORの製品情報と企業発表を掲載するグローバル公式サイト。
HONOR Robot Phone公式ページ(外部)
HONOR Robot Phoneの製品コンセプト、公式映像、今後の発表に関する情報を掲載するHONORの特設ページ。
ARRI公式サイト(外部)
映画・テレビ制作向けのカメラ、レンズ、照明、映像制作ワークフローなどを提供するドイツの映像機器メーカー公式サイト。
MWC Barcelona公式サイト(外部)
世界各国の通信事業者、端末メーカー、半導体企業などが参加するモバイル関連展示会MWC Barcelonaの公式サイト。
【参考記事】
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MWC 2026で公開されたHONOR Robot Phoneの公式情報。200メガピクセルカメラ、4自由度ジンバル、AI被写体追跡、回転撮影、全方位ビデオ通話などの機能を説明している。
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HONOR Robot Phone|HONOR(外部)
HONOR Robot Phoneの公式特設ページ。製品コンセプトや公式映像を掲載し、グローバル向けの最新情報を提供している。













