衛星で地盤の動きを見るサービスの料金が、1㎢あたり21万円から4㎢あたり21万円へと変わりました。面積単価にすれば4分の1です。ただし料金表の下の注記には、解析回数は初回提供時の1回のみと書かれています。「モニタリング」という言葉から思い描くものと、実際に手元に届くものは、同じでしょうか。
スカパーJSAT、ゼンリン、日本工営の3社は2026年7月28日、衛星データで斜面・地盤やインフラの変状を可視化するサービス「LIANA®」に新サービスプランを追加した。JAXAの先進レーダ衛星「だいち4号」(ALOS-4)のデータを使うスタンダードプランを新設し、従来プランも刷新して3プラン体系とした。
ライトプランは税別21万円からで、ALOS-2の2014年から2025年までのアーカイブデータを使う。スタンダードプランは税別45万円からで、ALOS-2のアーカイブデータとALOS-4データを組み合わせる。アドバンスプランは個別見積で、広域・複数拠点の解析や個別カスタマイズに対応する。ライトとスタンダードの解析範囲は4㎢からで、スタンダードは同一画像1枚内に収まる範囲が対象となる。料金単位は従来の1㎢あたり21万円から4㎢あたり21万円に変更した。スタンダードではALOS-4画像を追加でき、2画像まではプラン料金内、3画像目以降は1画像あたり税別6万円となる。
From:
衛星データ活用で地盤変動を可視化するモニタリングサービス「LIANA®」だいち4号を活用した新サービスプランを7月28日より提供開始

【参考動画】
先進レーダ衛星「だいち4号」(ALOS-4)紹介ビデオ(JAXA公式)
だいち4号のミッションと、観測幅の拡大が何をもたらすのかを解説した公式紹介映像である。
先進レーダ衛星「だいち4号」(ALOS-4)CG動画集(JAXA公式)
軌道上での展開やアンテナの動作をCGで再現した映像。SARアンテナの規模や観測の仕組みが視覚的に理解できる。
先進レーダ衛星「だいち4号」(ALOS-4)/H3ロケット3号機ダイジェスト映像(JAXA公式)
2024年7月1日12時6分42秒に打ち上げられた際の記録映像である。
【編集部解説】
21万円で見られる面積が、4倍になりました
今回の改定でもっとも目を引くのは、21万円という価格が据え置かれたまま、その21万円で見られる面積が1㎢から4㎢へ広がった点でしょう。面積あたりの単価で見れば、実質的に4分の1になった計算です。
同時に、だいち4号のデータを使うスタンダードプランが新設されました。前号機だいち2号は、標準的な高分解能モードで3mの分解能を出せる観測幅が50kmでした。だいち4号はデジタル・ビーム・フォーミングという技術によって、同じ3mを保ったまま観測幅を200kmへと4倍に広げています。
観測できる幅が4倍になり、課金の単位面積も4倍になった。この符合は目を引きますが、公式発表は両者を結びつけて説明していません。実際、21万円のライトプランはだいち4号を使わずALOS-2のアーカイブのみで完結します。衛星の性能向上がそのまま価格表に反映された、と読みたくなるところですが、これはあくまで編集部の見立てにとどめておくべき推論です。価格改定とALOS-4対応が同時に行われた、という事実までが確認できる範囲になります。
プランを分ける軸は「いつのデータを見るか」です
ライトとスタンダードを分ける主要な軸は、扱うデータの時期と更新性にあります。
ライトプランが使うのはだいち2号のアーカイブのみ。つまり「この土地が2014年から2025年までにどう動いてきたか」を知るための商品です。一方スタンダードプランは、そこにだいち4号の最新データを重ねます。アドバンスプランはこれに加えて、広域や複数拠点の解析、個別のカスタマイズに対応する枠組みで、対象範囲と提供形態そのものが異なります。
なぜデータの時期が意味を持つのか。JAXAの説明では、日本全土の定常観測はだいち2号の年4回程度から、だいち4号では昼・夜それぞれ年20回程度、約2週間間隔へと向上します。干渉SARの時系列解析は、多数の画像を統計的に処理して大気や軌道に由来する誤差を低減するため、画像の枚数と間隔は精度と鮮度を左右する重要な要素の一つです。ただし実際の精度は、植生や積雪、地形、大気の状態、解析手法にも影響されます。
観測頻度が上がるほど、変化の途中経過を追いやすくなる。4回と20回のあいだに技術的な境界線が引かれているわけではありませんが、過去の履歴を確認する道具から、追加画像と解析によって継続観測にも利用できる道具へという性格の移り変わりは、プラン設計にはっきり表れています。
4㎢という単位が、道路や河川に効く理由
解析範囲の条件には「標準第3次メッシュの1辺が隣接する4メッシュ以上」とあります。これは統計上の基準地域メッシュ(第3次地域区画)にあたり、1辺およそ1kmの区画です。
この条件を素直に読むと、4つの区画は辺で接していればよく、必ずしも2×2の正方形である必要はないように読めます。1×4の細長い帯としても組めるのではないか、というのが編集部の読み方です。もしそうであれば、道路・河川・鉄道といった線状のインフラを、無駄な面積を買わずに一本の帯としてなぞれることになります。
ただし、公式ページに区画の形状例は示されていません。リリースが説明しているのは「新料金が線状インフラに利用しやすくなる」ところまでで、その理由を配置の自由度に求めているわけではない点は区別しておく必要があります。スタンダードプランには同一画像1枚内という条件も付くため、実際の申し込み時に確認する価値があるポイントです。
「モニタリング」という言葉には注意が必要です
見落とすと期待がずれる注記があります。解析回数は初回提供時の1回のみで、追加解析には別途費用が発生する、という一文です。
継続監視をイメージして導入すると、想定と異なる可能性があります。何をもって「モニタリング」と呼ぶのか、更新頻度と追加費用の条件は、検討段階で押さえておきたいところでしょう。
表示される変動量が衛星と地表との距離の変化である点も重要です。真下に沈んだのか、斜面が横に滑ったのかは、この一方向の計測だけでは切り分けられません。北行と南行という異なる軌道からの観測を組み合わせる2.5次元解析を行えば、準上下方向と準東西方向の変位を推定できます。ただし通常の干渉SARでは南北成分を十分に捉えられないため、完全な3次元の変位が得られるわけではありません。積雪地域では雪によって干渉性が低下するため、解析に利用できる画像や時期が限られる点も、雪国の自治体には効いてきます。
なぜ今、この報せなのか
背景には、日本のインフラが直面している数字があります。建設後50年を超えた道路橋は2023年3月時点で全体の37%、2040年には75%に達する見通しです。維持管理・更新費は2019年度からの30年間で、事後保全なら約250兆円から280兆円、予防保全に転換しても約180兆円から190兆円と推計されています。
2025年1月の八潮市の道路陥没事故を受け、国は管径2m以上かつ平成6年度以前に設置された下水道管路を対象に、全国特別重点調査を要請しました。その結果は2026年4月21日に公表されています。535団体・5,332kmが対象となり、2026年2月末時点で5,121kmの目視調査を実施したところ、対策が必要な延長は748kmにのぼりました。うち原則1年以内の対応が必要な「緊急度1」が201km、5年以内の「緊急度2」が547kmです。
ただし、2023年度末時点で、全国の下水道管路の総延長は約50万kmあります。今回調査されたのは、管径2m以上かつ設置から30年以上という条件で絞り込んだ一部にすぎません。人手による点検には物理的な上限がある以上、「まず広く面で見て、怪しい場所を絞り込む」というアプローチの価値は上がっていく——これは調査結果から自動的に導かれる結論ではなく、編集部の見立てです。国の調査そのものが衛星によるスクリーニングを求めているわけではありません。
もう一つ、宇宙産業側の文脈もあります。JAXAはだいち4号の観測データについて、2024年7月30日から事業者を公募し、Synspective、天地人、パスコ、そしてスカパーJSATを選定してきました。JAXAの案内では6月30日時点でスカパーJSATだけが「7月下旬に開始予定」と記されており、今回のプラン提供開始は、現時点で選定されている4社のうち最後の1社が動き出した瞬間にあたります。公募は今後も継続するため、事業者が4社で固定されるわけではありません。
差別化はどこにあるのか
地盤変動の可視化については、すでに複数の公的・民間サービスが存在します。国土地理院は、だいち2号の観測データによる全国の干渉SAR時系列解析の結果を公開してきました。さらに、2025年4月に定常観測が始まっただいち4号のデータも活用し、2026年3月31日には、だいち4号を用いた初の全国変動分布図を地理院地図で公開しています。Synspectiveも独自のInSAR解析サービスを展開し、ALOS-4を用いた解析事例を公開しています。
そのなかでLIANA®が置きにいっているのは、スカパーJSATが独自に開発した解析アルゴリズムとWeb UIに加えて、その上に載る二つの層だと考えられます。ゼンリンの詳細地図によって「動いている場所の周りに何があるか」が分かること。そして日本工営が、解析箇所の提案から危険性の評価までを担うこと。
衛星が測るのは地面の動きですが、現場が知りたいのは「で、どうすればいいのか」です。その最後の一歩を誰が埋めるのか。センサーの性能から解釈のレイヤーへ勝負どころが移りつつあるというのが編集部の見方ですが、業界全体がすでに移行を終えたと言える定量的な根拠があるわけではありません。
この先に控える問い
JAXAのデータ・サービス事業は2027年までの期間を区切って動いています。これは事業者への提供枠組みの期限であって、だいち4号の運用が2027年に終わるという意味ではありません。JAXAは、だいち4号の設計寿命を7年、定常運用期間を打ち上げ後7年間としています。
だいち2号は2014年5月の打ち上げで、設計寿命5年・目標7年を大きく超えて運用が続いてきました。ライトプランのアーカイブが2025年で区切られている理由は公表されていませんが、日本のLバンドSARをどう継ぎ続けるかという問いは、このサービスの土台そのものに関わってきます。
約2週間間隔で国土を観測できる時代が来たとき、私たちはそれを見て何を決められるのか。技術より先に、意思決定の側が問われはじめています。
【編集部後記】
過去と現在に、別の値札が付いています。2014年から2025年までの履歴なら21万円から買えますが、いまこの土地がどう動いているかを知るには45万円からが必要です。この24万円の差が、だいち4号の最新データを重ねる分にあたります。
インフラを預かる側が本当に知りたいのは、おそらく後者でしょう。一方で、稟議を通しやすいのは前者のはずです。2014年からの変動図を見て「これまで動いていないから大丈夫」と判断してしまう危険は、どちらのプランのほうが大きいのでしょうか。
【用語解説】
干渉SAR(InSAR)
同じ場所を異なる時期に観測した2枚以上のレーダー画像を重ね合わせ、電波の位相のずれから地表の動きを読み取る手法である。現地に計測器を置かずに広い範囲を面的に観測できる。条件が良ければミリメートル級の変位を捉えられるが、すべての地点で常にその精度が保証されるわけではない。
干渉SAR時系列解析
多数の干渉画像を統計的に処理し、大気や軌道に由来する誤差を低減する手法である。個別の干渉画像では捉えにくい微小な地表の動きと、その時間変化を追える。国土地理院はこの手法で全国解析を実施している。
Lバンド
波長がおよそ24cmと長いマイクロ波の帯域である。波長が短いXバンドやCバンドに比べ、植生の影響を受けにくく、地表からの反射を得やすい。日本では、JAXAとその前身であるNASDAなどが「ふよう1号」「だいち」「だいち2号」「だいち4号」へとLバンドSAR技術を継承してきた。一方、国内企業ではSynspectiveのStriXや株式会社QPS研究所のQPS-SARなど、Xバンドを採用する衛星もある。
デジタル・ビーム・フォーミング(DBF)
アンテナが受信した信号を機上でデジタル化し、高速に処理して位相調整と信号合成を行う技術である。同時に複数方向へビームを形成でき、だいち4号は最大4方向のビームによって、分解能を落とさずに一度に見渡せる範囲を広げた。
観測幅
衛星が一度の通過で撮影できる帯の幅を指す。分解能と観測幅は通常トレードオフの関係にあり、細かく見ようとすれば狭くなる。この両立が難しいからこそ、標準的な高分解能モードで3mを保ったまま50kmから200kmへ拡張したことが、技術的な達成として評価されている。
標準地域第3次メッシュ(基準地域メッシュ/第3次地域区画)
緯度・経度に基づいて国土を格子状に区切った統計用の区画のうち、1辺がおよそ1kmのものである。緯度差30秒・経度差45秒で定義され、国勢調査などにも用いられる。東西の辺は緯度によって変わり、札幌付近では約1,018m、那覇付近では約1,249m。南北の辺は約0.92kmでほぼ一定のため、厳密には1メッシュがちょうど1㎢になるわけではない。
アーカイブデータ
新規に撮影を依頼するのではなく、衛星がこれまでに蓄積してきた既存の観測データを指す。過去に遡った比較ができる一方、新規撮影のように希望する撮影日時や条件を指定することはできない。価格は契約やライセンス条件によって異なる。
予防保全/事後保全
壊れる前に手を打つのが予防保全、不具合が生じてから直すのが事後保全である。国土交通省は2013年を「社会資本メンテナンス元年」と位置づけて以降、予防保全型への転換を掲げている。長期的な総費用を抑えられる一方、まだ壊れていない対象に予算を投じる判断が必要になるため、「どこが危ないか」を示す根拠が求められる。
2.5次元解析
北行軌道と南行軌道という異なる方向から観測した干渉SARの結果を組み合わせ、準上下方向と準東西方向の変位成分を推定する手法である。通常の干渉SARでは南北方向の動きへの感度が低いため、完全な3次元の変位が得られるわけではない。
全国特別重点調査
2025年1月の埼玉県八潮市の道路陥没事故を受け、国が全国の地方公共団体に要請した下水道管路の緊急調査である。管径2m以上かつ平成6年度以前に設置された管路が対象となり、八潮市の現場と類似する構造・地盤条件の箇所を優先実施箇所として先行させた。
緊急度1/緊急度2
全国特別重点調査で用いられた判定区分である。緊急度1は原則1年以内の速やかな対策が必要な状態、緊急度2は応急措置を施したうえで5年以内の対策が必要な状態を指す。
【参考リンク】
LIANA®公式サイト(外部)
スカパーJSAT・ゼンリン・日本工営の3社が提供する地盤変動モニタリングサービスの公式サイト。機能や活用シーンを確認できる。
スカパーJSAT 宇宙事業「LIANA」(外部)
解析を担当するスカパーJSATによるサービス紹介ページ。独自の解析アルゴリズムやWeb UIの位置づけも把握できる。
スカパーJSAT(外部)
1994年11月10日設立。同社がアジア最大級と位置づける衛星通信事業者で、メディア事業と宇宙事業を展開している。
株式会社ゼンリン 企業概要(外部)
1948年創業、1961年4月設立の地図データベース企業。全国の現地調査による住宅地図データを保有している。
ゼンリン「LIANA」製品ページ(外部)
3プランの最新の料金・仕様を掲載。解析範囲やALOS-4画像の追加料金、機能一覧、FAQまで確認できる。
日本工営「LIANA(リアーナ)サービス紹介」(外部)
ID&Eグループ傘下の建設コンサルタントによる紹介ページ。解析箇所の提案から危険性評価までの役割が示されている。
JAXA 第一宇宙技術部門「だいち4号(ALOS-4)」(外部)
だいち4号の公式ページ。ミッション概要や設計寿命に加え、パンフレット類をダウンロードできる。
JAXA「ALOS-4 PALSAR-3観測データを用いたデータ・サービス事業」(外部)
だいち4号のデータを扱う事業者一覧と開始状況が随時更新される一次情報。誰から買えるのかを確認できる。
国土地理院「干渉SAR」(外部)
だいち4号とだいち2号のデータを用いた国の地殻・地盤変動監視の解説ページ。原理から解析事例までまとめられている。
国土地理院「『だいち4号』を活用した全国の変動分布図を公開」(外部)
2026年3月31日発表。だいち4号のデータを用いた初の全国変動分布図の公開を伝える一次情報である。
国土地理院「干渉SAR時系列解析による変位速度の見方」(外部)
地理院地図で公開される変位速度の読み解き方を解説。色分けの意味や欠測が生じる条件も説明されている。
Synspective「Land Displacement Monitoring(LDM)」(外部)
自社XバンドSAR衛星StriXを開発する国内企業の地盤変動モニタリング。ALOS-4を用いた解析事例も公開している。
国土交通省「社会資本の老朽化の現状と将来」(外部)
建設後50年以上を経過するインフラの割合を施設分類ごとに示した政府資料。予防保全が求められる背景がわかる。
国土交通省「下水道の維持管理」(外部)
令和5年度末の下水道管路の総延長や、耐用年数を超えた管路が今後どう増えるかの見通しを掲載している。
【参考記事】
先進レーダ衛星「だいち4号」搭載Lバンド合成開口レーダの初観測画像を公開(JAXA)(外部)
分解能3mを保ったまま観測幅を200kmへ拡大し、日本の観測頻度を年4回程度から20回程度へ高めた性能を示す。
下水道管路の全国特別重点調査の結果を公表します(国土交通省)(外部)
対象5,332kmのうち対策が必要な延長は748km。緊急度1が201km、緊急度2が547kmと公表した一次情報。
国土交通省におけるインフラメンテナンスの取組(外部)
2019年度からの30年間の維持管理・更新費を、事後保全と予防保全の両ケースで推計した政府資料である。
沈黙のリスク、崩れゆく基盤(前編)-インフラ老朽化の現状と政策の岐路(外部)
道路橋の37%、トンネルの25%が築後50年超。2040年にはそれぞれ75%、52%に達する見通しを示す。
老朽化した下水道管「要対策」計748キロ、調査判明分の16%―国土交通省(外部)
緊急度1が4%、緊急度2が12%という内訳を示し、調査対象が大口径かつ古い管路に限られていた点を伝える。
「だいち4号」PALSAR-3観測データを用いたデータ・サービス事業者の募集について(外部)
2024年7月30日に開始された事業者公募の一次情報。データ配布事業とサービス事業の定義が示されている。
地域メッシュ統計について(総務省統計局)(外部)
基準地域メッシュを緯度30秒・経度45秒、約1kmと定義した公式資料。区画の考え方と体系がまとめられている。












