「PLT Place」という名前の由来だったパレットトークンは、2025年に国内取引所から相次いで姿を消しました。名前の根拠が消えたマーケットが、日本円ステーブルコインJPYCを決済手段に据えて8月18日に再出発します。しかも運営はHashPortに移り、KDDIはその株を20%超握ったまま「αU」の名だけを残す。この設計は、何を手放して何を取りに行ったのでしょうか。
株式会社HashPortは、運営するNFTマーケットプレイス「PLT Place」をリニューアルし、「HashPort Market | αU」として2026年8月18日より提供を開始する。あわせて、KDDI株式会社が運営する「αU market」のクリエイター及びNFTの移行受け付けを7月30日に開始した。
新サービスは日本円と1対1の価値を持つステーブルコイン「JPYC」での決済に対応し、この機能にはHashPort Payment PlatformのEC決済ソリューションを採用する。同サービスは、同ソリューションを導入する初のプロダクトとなる。ほかにクレジットカード決済、ステーブルコインとクレジットカード双方でのユーザー間二次流通、一部ウォレットでのガスレス決済を備え、新たにPolygonチェーンにも対応する。
今後はHashPort Wallet、およびau Coincheck Digital Assetsがau PAYミニアプリとして提供予定のウォレットサービスとの連携を強化する。
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HashPort、ステーブルコイン決済対応のNFTマーケットプレイス「HashPort Market | αU」を提供開始
【参考動画】
【編集部解説】
「PLT Place」は、その名が示すとおり、パレットトークン(PLT)を主要な決済手段としてきたマーケットです。開発元のHashPaletteが2021年7月に国内初のIEOを実施した、そのPalette Chainの公式マーケットプレイスとして生まれ、Palette Chain上の取引でガス手数料を無料とする設計が売りでした。
しかしその土台はすでに姿を変えています。Palette ChainはAptos Networkへの統合が決まり、運営していたHashPaletteは2025年6月18日付でAptos Japanへ社名を変更。PLTはAPTへの交換(当初の公表レートは1PLT=0.00339139APT)が進み、従来の中心的な役割を終えつつあります。今回の改称は、看板の掛け替えではなく、決済の土台そのものが「独自トークン」から「日本円連動のステーブルコイン」へ移ったことの帰結だと編集部は捉えています。
決済に採用されるJPYCは、2025年8月18日に資金移動業者の登録を受け、同年10月27日に発行を開始した電子決済手段です。JPYC社は2026年6月2日、5月30日時点で累計発行額が30億円を突破し、JPYC EXの口座開設数が1万9000件に達したと公表しました。NFTの価格を円建てのJPYCで設定でき、受け取る側も円と1対1で交換可能な価値のまま資産を持てる。この当たり前さは、暗号資産建てのNFT売買が広がりにくかった一因を、裏側から照らしているように見えます。
もっとも制度上の制約はあります。JPYCは第二種資金移動業者による発行であり、発行・償還は1回あたり100万円が上限です。高額な作品の取引をJPYCだけで完結させようとすれば、この線引きが導線設計上の論点になるはずです。
見落としたくないのが、KDDIの立ち位置の変化です。KDDIの「αU market」は2026年10月30日に提供終了が予定されており、一部コレクションの移行先となる新市場の提供主体はHashPortです。そのHashPortの20%超株主は、KDDI自身にほかなりません。KDDIは2025年10月24日にHashPortへ出資して持分法適用会社とし、同年12月にはコインチェック、auフィナンシャルホールディングスとの合弁でau Coincheck Digital Assetsを組成しました(出資比率はKDDI 50.1%、コインチェック40.0%、auFH 9.9%)。直接運営から資本提携・協業へと関係を組み替え、ウォレットと決済の側に資源を寄せる判断と読めます。
技術面では、Polygon対応とガスレスの組み合わせに注目しています。かつてのガス代無料は自前のチェーン上で成立していましたが、Polygon上の対象取引では、一部ウォレットのガス代をHashPortが肩代わりする形になります。ユーザー体験としては同じでも、コストは事業者側に移った。この負担をどこまで続けられるかは、今後の判断材料になるでしょう。
その先に見えているのは、NFTを起点にしたウォレット経済圏です。au PAYの会員は約3967万人、Pontaの会員IDは約1億2615万。HashPort Walletは累計115万ダウンロードを超え、2026年8月にはローソン高輪ゲートウェイシティ店で日本円ステーブルコインの店頭決済実証も予定されています(対象は3社の関係者に限られます)。マーケットプレイス、ウォレット、リアル店舗が同じ通貨でつながったとき、NFTは「投機の対象」から「決済インフラの上に置かれたコンテンツ」へと性格を変える可能性があります。
一方で、逆風にさらされた時期は記憶に新しいところです。国内初のIEO銘柄だったPLTは、2025年1月20日にCoincheckで、2月12日にBitTradeで取り扱いが廃止され、国内取引所から相次いで姿を消しました。パレットコンソーシアムも2025年1月31日付で解散しています。ステーブルコイン決済の部分がJPYCという単一の発行体に寄る構図にも留意が必要でしょう。それでも、独自トークンの熱狂から始まったこの領域が、少なくともHashPortとKDDIの事業圏においては、円と地続きの決済基盤の上に着地しようとしている——その転換点として、この8月18日は記録に値すると考えます。
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【編集部後記】
引っかかるのは、ガス代の行き先です。かつてPLT Placeでガス手数料が無料だったのは、Palette Chainという自前の土俵の上で完結していたからでした。Polygonという他人の土俵に移れば、手数料は誰かが実際に払わなければなりません。今回それを引き受けるのはHashPortです。
利用者から見れば体験は変わりません。ただ、負担が見えなくなっただけで消えたわけではない。この肩代わりが続く条件は、二次流通の手数料率なのか、ウォレット経由の送客なのか、それとも別の収益なのか。8月18日以降の手数料表示に、その答えが書かれているはずです。
【用語解説】
NFT(Non-Fungible Token/非代替性トークン)
ブロックチェーン上で、一つひとつを区別できる形で発行されるデジタルデータ。デジタル作品の所有や、会員証・利用権としての活用が想定されている。
ガス代/ガスレス決済
ガス代とは、ブロックチェーン上で取引を実行する際に発生するネットワーク手数料。ガスレス決済は、この手数料をサービス提供者やリレイヤーなどが利用者に代わって負担し、利用者が意識せずに済むようにする仕組みを指す。本サービスでは、対象となる一部ウォレットのガス代をHashPortが負担する。
IEO(Initial Exchange Offering)
暗号資産交換業者が審査・仲介したうえで、企業が発行するトークンを販売する資金調達手法。2021年7月にCoincheckで実施されたパレットトークン(PLT)が国内第1号となった。
持分法適用会社
出資比率や実質的な影響力から見て、投資する企業が経営に重要な影響を与えられると判断される会社。損益の一部が出資元の連結決算に反映される。
【参考リンク】
HashPort Market | αU 提供開始のお知らせ(HashPort公式)(外部)
今回のリニューアルをHashPort自身が公表したページ。提供開始日や搭載機能を一次情報で確認できる。
〖重要〗αU market提供終了及びHashPort Market | αUのご案内(外部)
KDDIによるαU market提供終了の告知。終了予定日と、新市場へ移行するコレクションの扱いが説明されている。
HashPort(公式サイト)(外部)
「まだ見ぬ価値を暮らしの中へ」を掲げるブロックチェーン企業の公式サイト。ウォレットや決済基盤など事業全体を確認できる。
HashPort Market | αU(公式サイト)(外部)
本記事のNFTマーケットプレイス公式サイト。2026年8月18日のリニューアルまでは「PLT Place」として運営されている。
PLT Placeとは?(HashPort / Aptos Japan ヘルプセンター)(外部)
リニューアル前の仕様を説明したヘルプページ。PLT決済や二次流通、ガス手数料無料といった従来の設計が読める。
HashPort Wallet(公式サイト)(外部)
万博の「EXPO2025デジタルウォレット」を引き継いだノンカストディアルウォレットの公式サイト。対応チェーンを確認できる。
JPYC株式会社(公式サイト)(外部)
日本円ステーブルコイン「JPYC」の発行体の公式サイト。発行・償還プラットフォーム「JPYC EX」の情報を掲載している。
au Coincheck Digital Assets(公式サイト)(外部)
KDDI、auフィナンシャルホールディングス、コインチェックによる合弁会社の公式サイト。au PAYミニアプリのウォレット事業を担う。
事業内容(株式会社ロイヤリティ マーケティング)(外部)
共通ポイント「Ponta」の運営会社の事業紹介ページ。2026年3月末時点の会員ID数が掲載されている。
Aptos Japan(会社情報)(外部)
旧HashPaletteの会社情報ページ。社名変更やパレットコンソーシアム解散に関するお知らせがPDFで公開されている。
【参考記事】
KDDI、Web3ウォレット開発のHashPortと資本業務提携契約を締結(外部)
2025年10月24日の契約締結と、HashPort株式20%超の取得、持分法適用会社化をKDDI自身が公表した一次情報。
Coincheck Groupとの資本提携およびコインチェックとの業務提携契約締結について(外部)
au Coincheck Digital Assetsの合弁会社組成年月日、事業内容、出資比率をKDDIが公表した一次情報。
JPYC EXの累計口座開設数が19,000件、累計発行額が30億円を突破(外部)
日本円ステーブルコインJPYCの発行額と口座数を、発行体であるJPYC社が公表したリリース。
PLTからAPTへの交換に関するお知らせ(外部)
1PLT=APT 0.00339139という交換比率を、発行体が公表した一次情報。交換の対象と手順も記載されている。
パレットトークン(PLT)の取扱い廃止についてのお知らせ ※2025/1/20更新(外部)
2025年1月20日にPLTの取り扱いを廃止したと取引所自身が公表した一次情報。段階的な日程も記載されている。
株式会社HashPalette、Aptos Japan株式会社へ社名変更(外部)
2025年6月18日付の社名変更と、日本市場でAptos推進役へ軸足を移した位置づけを当事者が説明している。
ローソンで日本円ステーブルコインによる店頭決済の技術実証を実施へ(外部)
2026年8月の高輪ゲートウェイシティ店での実証と、HashPort Walletの累計115万ダウンロード超を公表している。












