Sunoが8月12日、BMGとの世界規模の提携を発表しました。訴えて和解したワーナーとは違い、BMGはSunoを一度も訴えていません。過去の利用の清算も、この提携に含まれています。そのBMGは今年3月、別のAI企業を著作権侵害で提訴しました。
Sunoは2026年8月12日、BMGとの世界規模の戦略的提携を発表した。対象はBMGの原盤と音楽出版の両レパートリーで、音楽業界と共同で開発する初の音楽モデルの立ち上げに向けた枠組みとなる。
参加を選んだBMGのアーティストとソングライターは権利が保護され、対価が支払われる。BMGの原盤および出版作品の過去の利用も、この合意で解決する。Sunoが8月6日に公表した原則と安全策が、本提携で開発する体験の前提になる。
Suno共同創業者兼CEOのマイキー・シュルマンは、作り手と、彼らを代表する企業と直接組むことが責任ある開発だと述べた。BMGのEVPセリーヌ・ジョシュアは、選択が指導原理であり、この合意が保護と明確な経済条件、新しい創造の可能性を確立するとした。
From:
Announcing a Landmark Global Partnership with BMG
【編集部解説】
ワーナーミュージックのときと、順番が違います。
2024年6月、全米レコード協会(RIAA)の主導でユニバーサル、ソニー、ワーナーの3社がSunoを提訴しました。ワーナーが2025年11月に和解し、そのまま提携に転じたのが前回です。訴訟が先にあり、その出口として契約が生まれた形でした。
今回、BMGはSunoを提訴していません。訴訟という手段を取らないまま枠組みを作り、そのなかで過去の音源と出版著作物の利用も清算しました。和解の副産物としての提携から、提携そのものが先に立つ段階へ動いたことになります。ワーナー以来9か月ぶりに、大手の権利者がSunoと契約を結びました。
契約はゴールではなく、入口
見落とされやすいのは、合意が成立することと、作り手が実際に参加することが、別の段階だという点です。
両社は、参加を選んだアーティストとソングライターを対象に、権利保護と補償の枠組みを設けると説明しています。参加方法や、楽曲単位で選択できるのかといった具体的な手続きは、まだ公表されていません。
ジョシュア氏の言葉を借りれば、指導原理は「選択」です。この提携がどこまで広がるかを左右する要素の一つが、参加を選ぶ作り手の数になります。BMGは300万を超える楽曲・録音物を扱っていますが、BMG側の作り手のうちどれだけが手を挙げるかは、まだ分かりません。
訴える相手と、組む相手
BMGを「AIに前向きな会社」と読むと、実像を取り違えます。
同社は2026年3月、Anthropicをカリフォルニア州の連邦地裁に提訴しました。ジャスティン・ビーバー、ブルーノ・マーズ、ローリング・ストーンズらの歌詞を含む音楽著作物が、Claudeの学習に無許諾で使われたとする訴えで、Reutersによれば訴状は493件の侵害を挙げています。現在も係争中です。7月には、無許諾のAI生成音源をチャートから外す原則を提案する音楽企業の連合にも加わっています。
片方を訴え、片方と組む。ここから読み取れるのは、線がAIという技術にではなく、許諾と補償の有無に引かれている、ということです。これは公表資料からの解釈で、BMG自身がそう定義したわけではありません。それでも、今回の提携を「音楽業界が折れた」と読むのは、正確ではないはずです。
6日、10日、12日
今回の提携は、8月の一週間に並んだ3つの発表の最後に置かれています。
6日、Sunoは「音楽の未来を責任をもって築くための原則」を公表しました。学習用メタデータにアーティスト名を使わない方針、アーティスト名を含むプロンプトを音楽的特徴の記述へ置き換える処理、Audible MagicやMusixmatchと連携した音源と歌詞の照合、電子透かしとフィンガープリンティングの導入が含まれています。
10日には、9月3日施行の新しい利用規約とダウンロード方針を発表しました。有料プランで楽曲をダウンロードした利用者に商用利用の範囲を紐づける整理で、こちらは使う側に向いた変更です。
そして12日、BMGとの提携が発表されました。BMG側のリリースは6日の原則を名指しで参照し、それが今回の取り組みを導くとしています。発表の順序自体が意図的だったかは分かりません。ただ、権利者にとって、6日に示された安全策が提携を評価する材料の一つになったとは言えそうです。作る側と使う側、両方の輪郭を同じ週に描き直したことになります。
進む速度と、決まる速度
金額もレートも公表されていません。opt-inの受付がいつ始まるのか、参加した場合に何がどう分配されるのか、モデル名もまだ示されていません。時期についてSunoは「近く」とし、ワーナーは新しいライセンス済みモデルを2026年中に開始すると発表しています。
司法側の時計は、これとは別に動いています。7月31日、ミュンヘン地裁はGEMAが訴えた6曲について、米国での学習を含めてSunoの著作権侵害を認めました。地裁自身が判決は確定していないと明記しており、SunoはReutersに対し、判決を評価し上訴を含む選択肢を検討していると述べています。米国では、ユニバーサルとソニーがマサチューセッツ州で係争を続けており、終局的申立ての期限は2027年4月9日に設定されました。通常の日程は2027年まで続く設計ですが、それ以前に和解などで終わる可能性は残っています。
契約が積み上がる速度と、司法が答えを出す速度は、別々に流れている。この2つが交わるのはまだ先で、そのあいだにも枠組みのほうは増えていきます。BMGとConcordの統合も2026年後半の完了が予定されていますが、統合後に今回の契約がConcordのレパートリーへ広がるかどうかは公表されていません。
日本から見ると、これは設計図である
ここでひとつ、補助線を引いておきます。
今回のBMGは、2008年にベルリンで設立された会社です。かつて日本にあったBMG JAPANは、現在のソニー・ミュージックレーベルズへつながる系譜の会社で、今回のBMGとは別の法人にあたります。現在のBMGの拠点は13市場16か所です。
今回の合意はBMGのレパートリーを対象とするグローバルな枠組みで、日本市場全体を直接の相手にした契約ではありません。ただし、日本の権利者が一律に対象外だと言い切れる材料もありません。BMGが管理する楽曲との関係次第です。
日本の音楽業界にとって効いてくるのは、契約の適用範囲よりも設計のほうだと思います。opt-inを誰の単位で取るのか。原盤権者の単位なのか、作家個人の単位なのか、共作者の判断が割れたときはどうするのか。BMGは手続きを公表していませんし、日本の契約慣行にそのまま当てはめられる話でもありません。それでも、同じ問いが日本の権利者に届くまで、そう長くはないはずです。
参加率という指標
2026年2月、Sunoは有料会員200万人への到達を公表しました。利用者数については、2025年11月に「約1億人」、2026年2月に「1億人超」と公表されており、足元では1億人規模と見ておくのが妥当です。6月には4億ドル超を調達し、ポストマネー評価額は54億ドルになりました。数字の勢いは十分です。
けれど今回の提携で見るべき指標は、そこではありません。何人の作り手が「参加する」と答えたか。それが、AIと音楽の関係を「取られた」「取り返した」ではなく「選んだ」と呼べるかどうかを決めます。2026年中に出るというモデルは、その答え合わせの最初の場になります。
【関連記事】
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8月10日に発表された新しい利用規約についての記事。9月3日の施行により、商用利用の条件がダウンロードの取得に紐づけられることになる。
Suno、AI楽曲に電子透かし導入へ|大量配信を制限する新ダウンロード方針も
Sunoが8月6日に公表した原則を伝える記事。電子透かしとフィンガープリンティングの導入など、一連の安全策を盛り込んでいる。
Warner Music GroupとSunoがAI音楽で提携──アーティストの声とライクネスをどう守り、どう稼ぐか
2025年11月に発表されたワーナーとの提携についての記事。訴訟の和解を経て契約に至った、今回とは順番の違う事例にあたる。
【編集部後記】
Sunoのブログに、週次のライティングキャンプという一行があります。アーティストやソングライター、プロデューサーを招いて、毎週いっしょに曲を作る場を開いているそうです。
契約の話に比べれば地味な活動です。ただ、opt-inで「参加する」と答えてもらうには、その前に相手を知っている必要があります。300万を超えるレパートリーを持つ会社と握手する前に、毎週誰かと曲を書いていた。順番としては、そちらが先だったのかもしれません。
【用語解説】
opt-in(オプトイン)
既定を「不参加」に置き、権利者が自ら参加を選んだ場合にのみ対象となる方式。既定を「参加」に置き、拒否の申し出があったものを外すopt-out方式と対になる。
原盤
録音物そのものに生じる権利。楽曲の著作権(作詞・作曲)とは別に発生し、レコード会社などが保有することが多い。BMGは原盤と音楽出版の両方を扱う。
音楽出版
作詞家・作曲家の著作権を預かり、管理・許諾・収益回収を行う事業。今回の提携はBMGの原盤と出版の双方を対象としている。
フィンガープリンティング
音源の特徴量を抽出して指紋のように照合し、既存楽曲との一致を判定する技術。Sunoが8月6日の原則で導入を示した施策のひとつ。
電子透かし
生成された音源に、聴感に影響しない形で識別情報を埋め込む技術。あとから「この曲はAIが生成したものか」を判定するために用いる。
終局的申立て(dispositive motions)
訴訟を判決まで進めずに終わらせることを求める申立ての総称。米国の著作権訴訟では、フェアユースの成否がこの段階で争われることが多い。
レパートリー
音楽会社が管理する楽曲・録音物の総体。BMGは300万を超える規模を持つ。
【参考リンク】
Suno(外部)
テキストから歌入りの楽曲を生成するAI音楽プラットフォーム。2026年6月に4億ドル超を調達し、ポストマネー評価額は54億ドルとなった。
BMG(外部)
ベルテルスマン傘下の音楽会社。音楽出版と原盤の両方を扱い、300万を超える楽曲・録音物のレパートリーを世界13市場で管理する。
BMG and Concord Combine to Create World’s Leading Independent Music Company(外部)
BMGとConcordの統合を発表した公式リリース。統合後の社名はBMGで、本社はナッシュビル、欧州拠点はベルリンに置かれる。
GEMA(外部)
ドイツの音楽著作権管理団体。日本のJASRACにあたる。2026年7月31日、ミュンヘン地裁でSunoとの訴訟に一審勝訴した。
RIAA(外部)
全米レコード協会。2024年6月に3大レーベルを代表してSunoとUdioを提訴し、ワーナーは2025年11月に和解して離脱した。
Anthropic(外部)
AI企業。BMGが2026年3月、Claudeの学習に音楽著作物を無許諾で使ったとしてカリフォルニア州で提訴し、現在も係争中。
【参考記事】
BMG and Suno Announce Global Strategic Alliance Advancing AI Music Opportunities And Revenue Streams(外部)
BMG側の公式発表。過去のBMG音源・出版著作物の利用を清算するという、Suno側の発表には出てこない文言を含んでいる。
Suno inks global licensing deal with BMG, ahead of launching new music model(外部)
ワーナー以来9か月ぶりとなる大手権利者との契約であること、ユニバーサルとソニーが米国で係争を続けていることを整理している。
Suno signs another music licensing deal – with BMG(外部)
合意の成立と作り手の参加は別の段階であり、次の課題は所属アーティストに参加してもらうことだと指摘する記事。ドミノは倒れるかと問う。
Amidst AI-Music War, Suno Finds Another Industry Partner in BMG(外部)
BMGがSunoを提訴していなかった事実を明記したうえで、今回の契約を先回りの和解として位置づける見方を示している記事。
BMG Sues Anthropic for Alleged Training of Chatbot With Justin Bieber, Bruno Mars, Rolling Stones Lyrics(外部)
2026年3月のBMGによるAnthropic提訴を報じた記事。Claudeの学習に歌詞を無許諾で使われたとする訴えの内容。
GEMA wins court ruling on breach of copyright by AI music firm Suno(外部)
7月31日のミュンヘン地裁判決を報じた記事。米国での学習とドイツでの複製の双方について、著作権侵害を認めた内容を伝える。


















