New Relic、AIコーディングアシスタントの可観測性機能を発表|Claude Code・Cursor・GitHub Copilotを横断監視

コードを書くのはもはや人間だけではありません。でも、AIが何をしたかを把握しているのは、まだほとんどの組織で「誰もいない」状態です。監視されていないシステムはブラックボックスになる。それはAIコーディングアシスタントも例外ではありません。New Relicが問いかけているのは、ツールの機能より前にある、もっと根本的な問題です。


New Relicは2026年6月8日、AIコーディングアシスタント向けのオープンソース可観測性機能「New Relic AI Coding Observability」の開発を発表した。同機能は、Claude Code、Cursor、GitHub Copilot、Windsurf、Amazon Qといった主要なコーディングアシスタントを横断的に監視し、コスト管理、生産性計測、セキュリティ・コンプライアンス確保、ベンダーロックイン回避を主な用途として設計されている。OpenTelemetryプロトコルとMCPをネイティブサポートし、既存の本番インフラとのテレメトリー連携も可能とする。

Gartnerは2028年までにエンタープライズのソフトウェアエンジニアの90%がAIコードアシスタントを利用すると予測しており、同社CPOのBrian Emersonは「見えないものは管理できない」と述べ、AIツールの拡大とリスク拡大が同時進行している現状を指摘した。追加費用なしで2026年6月23日に提供開始予定。

From: 文献リンクNew Relic Introduces AI Coding Observability to Bring Critical Visibility and Governance to AI Coding Assistants

【編集部解説】

AIコーディングアシスタントは今、多くのエンジニアリング組織の日常業務に入り込んでいます。GitHub Copilot、Cursor、Claude Codeといったツールが並行して使われ、チームによっては複数のアシスタントを使い分けているケースも珍しくありません。しかしそこには、あまり語られてこなかった問題が生まれています。これらのツールが、既存の監視・可観測性(オブザーバビリティ)の仕組みの外側で動いているという問題です。

従来の可観測性ツールは、アプリケーションの本番環境やインフラを監視するために設計されています。AIコーディングアシスタントはその手前、コードを書く段階で働くため、既存の監視スタックには入ってきません。何のツールがどれだけ使われているか、どんなリクエストが飛んでいるか、コストはどこに発生しているか。これらが組織として把握できていない状態は、ツールの普及が進むほど深刻になります。

New Relicが発表した「AI Coding Observability」は、この空白を埋めることを目的とした機能です。軽量なフックを各コーディングアシスタントに導入することで、AIツールの呼び出し、モデルとのやり取り、コストイベントなどのテレメトリー(計測データ)を収集し、New Relicの既存プラットフォームと連携します。

この設計で注目できる点は2つあります。まず、OpenTelemetryとMCP(Model Context Protocol)をネイティブにサポートしていること。特定のベンダーやクラウドへの依存を避け、今後ツール構成が変わっても乗り換えやすい設計になっています。次に、オープンソースとして提供されること。コードが完全に公開されているため、組織のセキュリティチームが動作を独自に検証できます。また、ローカルのみで処理する「ゼロアウトバウンドモード」も予定されており、データを外部に送出せず自社ネットワーク内で完結させることが可能です。これは、金融や医療など規制の厳しい業界での導入を意識した仕様と読み取れます。

現時点で同機能が対応予定のツールはClaude Code、Cursor、GitHub Copilot、Windsurf、Amazon Qの5つです。提供開始は2026年6月23日で、New Relicの標準インジェストレートが適用される以外、追加料金はかかりません。

ただし、この機能はまだ「開発中」の段階です。New Relic Experimentalというオープンソースのインキュベーター上でのリリースであり、正式サポートや厳格なSLA(サービス品質保証)を伴う製品とは異なります。組織としての導入を検討する際には、成熟度と安定性の両面から評価することが必要です。

Gartnerは2028年までにエンタープライズのソフトウェアエンジニアの90%がAIコードアシスタントを使うようになると予測しています。その規模になれば、「何のツールに、いくら使っているか分からない」という状態は組織のリスクになります。AIコーディングアシスタントの可観測性という領域は、今後ガバナンスの観点から注目が集まる分野になるでしょう。New Relicが今回オープンソースとして先行投入した背景には、標準的なアプローチをコミュニティと共に作り上げ、事実上のデファクトとしての地位を確立しようという意図も読み取れます。

【用語解説】

オブザーバビリティ(Observability / 可観測性)
システムの内部状態を、外部から得られるデータ(ログ・メトリクス・トレース)をもとに把握できる度合いを指す。単なる「監視(モニタリング)」が事前に決めた指標を見るのに対し、オブザーバビリティは予期せぬ問題も含めて原因を探れる状態を目指す概念。

テレメトリー(Telemetry)
ソフトウェアやシステムが自動的に収集・送信する計測データの総称。ログ、メトリクス、トレースの3種類が基本。AIコーディングアシスタントの文脈では、ツール呼び出し回数、モデルへのリクエスト数、コスト発生量などが該当する。

OpenTelemetry
テレメトリーデータの収集・送信に関するオープンソースの標準規格。特定のベンダーに依存せずにデータを取得・転送できるため、ツールの乗り換えや複数ツールの併用がしやすくなる。CNCFが管理するプロジェクト。

MCP(Model Context Protocol)
Anthropicが2024年に公開した、AIモデルと外部ツール・データソースをつなぐオープンプロトコル。AIエージェントが様々なサービスにアクセスするための共通規格として広まりつつある。

FinOps
クラウドや外部サービスの利用コストを可視化・最適化する組織的な取り組みのこと。AIコーディングアシスタントの複数並行利用が進む中、その費用管理への関心が高まっている。

【参考リンク】

New Relic(外部)
アプリケーションやインフラのパフォーマンス監視・可観測性プラットフォームを提供するアメリカの企業。今回発表のAI Coding Observabilityを開発している。Free、Standard、Pro、Enterpriseの4プランを提供しており(日本版では無料・Pro・Enterpriseの3プラン)、毎月100GBまでのデータインジェストを無料で利用可能。

New Relic Experimental(GitHub)(外部)
New Relicのオープンソースインキュベーターリポジトリ。AI Coding Observabilityを含む実験的プロジェクトが公開されており、コミュニティとの協働で開発が進む。採用度が高まったプロジェクトは正式サポート製品へ移行する仕組みになっている。

New Relic AI Observability(外部)
本番環境で動くAIアプリケーションを対象とした、New Relicの既存オブザーバビリティ機能。LLMのレスポンス品質・トークン消費・コストをモニタリングするもので、今回発表のAI Coding Observability(コーディングフェーズ向け)とは対象フェーズが異なる。

【参考記事】

Building the Future of Telemetry in the Open|New Relic Blog(外部)
New RelicのProduct Marketing ManagerであるDavid Fabritius氏による公式ブログ記事。AI Coding Observabilityの技術的な仕組み(軽量フックによるテレメトリー収集)と、New Relic Experimentalとしての位置づけを解説している。

【関連記事】

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MCPをAI可観測性に活用するという同じ技術的文脈の記事。大規模eコマースでのログ統合・根本原因分析という運用フェーズの実装事例を詳解しています。今回のAI Coding Observabilityとあわせてご覧ください。

【編集部後記】

AIコーディングツールは「使っている」から「管理している」へと移行する局面に来ているのかもしれません。複数のツールを使い分けながら、それぞれのコストや動作を誰も把握していない、という状態は今の多くの組織にとって他人事ではないはずです。

「生産性が上がった気がする」という感覚を、データとして示せるかどうか。その問いに答えられない組織は、AIツールへの投資の正当性を経営層に説明しにくい立場に置かれていきます。New Relicが今回の機能をオープンソースとして出した背景には、その問いを業界全体の課題として共有しようという姿勢が感じられます。

私たちエンジニアリング組織は今、AIツールを「使う側」から「評価する側」への転換を求められているのではないでしょうか。

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乗杉 海
SF小説やゲームカルチャーをきっかけに、エンターテインメントとテクノロジーが交わる領域を探究しているライターです。 SF作品が描く未来社会や、ビデオゲームが生み出すメタフィクション的な世界観に刺激を受けてきました。現在は、AI生成コンテンツやVR/AR、インタラクティブメディアの進化といったテーマを幅広く取り上げています。 デジタルエンターテインメントの未来が、人の認知や感情にどのように働きかけるのかを分析しながら、テクノロジーが切り開く新しい可能性を追いかけています。