NTT-AT「NetworkBrain R12.3」提供開始|AIが障害の原因を自律診断

私たちが当たり前に使うインターネットは、誰かが夜通し支える「ネットワーク」の上に成り立っています。そのネットワークの運用現場に今、自ら考えて動くエージェント型AIが入り込もうとしています。NTTアドバンステクノロジが2026年6月15日に提供を始める「NetworkBrain R12.3」は、障害が起きたときにAIが自律的に原因を探り、対応方針まで示してくれる新バージョンです。熟練エンジニア頼みだったトラブル対応は、どう変わるのでしょうか。その実力と、人がAIにどこまで運用を委ねるべきかという問いまで、まとめて見ていきます。


NTTアドバンステクノロジ株式会社(本社・東京都新宿区、代表取締役社長・伊東匡)は、ネットワーク可視化/自動化&マップベースマネジメント「NetworkBrain」の新バージョンR12.3を2026年6月15日から提供開始する。

R12.3はAI機能を強化し、ネットワーク運用の分析・判断・対応の一連のプロセスを自動化する。新機能はDeep Diagnosis、AI Runbook Companion、Quick Assessment、Automate Network Changeの4つである。Deep DiagnosisはAIが情報収集やコマンド実行を自律的に行い、障害の根本原因を特定して対応方針を提示する。

今後はクラウド接続不要のものを含む主要なLLMを順次サポート予定で、AI機能を評価できるPoCプランも用意する。なお「NetworkBrain」はNetBrain Technologiesの登録商標である。

From: 文献リンクネットワーク可視化/自動化&マップベースマネジメント「NetworkBrain」の新バージョンを提供開始

【編集部解説】

まず押さえておきたいのは、今回の「NetworkBrain」が、米NetBrain Technologies社の製品を指すという点です。NTT-ATは2019年からこの製品を扱う日本唯一の代理店であり、グローバルでは「NetBrain」、日本では「NetworkBrain」の名で提供されています。今回の発表は、海外で生まれた技術が日本市場に届くタイミングの話でもあります。

実はR12.3は、本国では2026年2月にすでに公開されています。今回の6月15日は、その日本提供の開始日です。世界から約4カ月遅れで国内に上陸する——この時間差そのものが、ネットワーク運用という地味で重要な領域に「エージェント型AI」の波が届きつつあることを物語っています。

鍵になるのが「agentic(エージェント型)」という言葉です。従来のAIが質問に答える「助手」だったのに対し、エージェント型AIは自ら情報を集め、コマンドを実行し、原因の切り分けまで踏み込みます。NetBrain社はこれを「Agentic NetOps」と呼び、AIを補助役から「自律的な専門家」へ引き上げると位置づけています。

なぜ今、各社がこの方向へ動くのでしょうか。背景には、企業ネットワークがクラウドやKubernetesを含めて複雑化し、熟練エンジニア不足が深刻化している現実があります。同社のNixon新CEOは、ネットワーク障害の50〜80%が「変更作業」に起因すると指摘しました。人手による設定変更が、そのまま事故の火種になっているのです。

本製品が狙うのは、その火種を減らすことにほかなりません。Deep Diagnosisは障害の根本原因をAIが突き止め、対応方針まで提示します。注目すべきは、結論だけでなく「なぜそう判断したか」という過程を可視化する設計です。人が妥当性を確認しながら使える透明性は、運用現場の信頼を勝ち取るうえで欠かせません。

効果は数字にも表れます。NetBrain社によれば、ある大手航空会社は導入後、複雑な障害への平均対応時間を「数日」から「30分」へ短縮し、さらに5分を目標に掲げているといいます。属人化していた高度なトラブルシュートを経験の浅い担当者でも担える点も、人材難の現場には大きな意味を持つでしょう。

一方で、リスクも冷静に見ておくべきです。本番ネットワークへの自動変更は、一歩間違えれば大規模障害に直結します。NetBrain社が「実行の最終判断は人が握る」事前承認フローを強調するのは、その危うさを理解しているからでしょう。AIが誤ったとき誰が責任を負うのか——この問いは技術が進むほど重くなります。

技術面で見逃せないのは、エージェント型AIが「単なる推論」だけでは成立しないという論点です。同社は、ある通信事業者の事例で、自社の文脈情報に根ざしたAIが、単体の高性能LLMよりも正確に原因を特定し、修復コマンドまで導いたと説明しています。検証されたネットワークの現状に基づくことが、AIの暴走(ハルシネーション)を抑える鍵になる、という考え方です。

セキュリティ面では、今後の展開として「クラウド接続不要のLLM」への対応が予告された点に注目したいところです。外部へ通信を出せない閉域網や機密性の高い環境でも自律運用AIを使える道が開かれます。官公庁・金融・重要インフラなど、これまで導入のハードルが高かった領域にも選択肢が広がる可能性があります。

長期的に見れば、この動きは一企業の製品更新にとどまりません。ガートナーは「2027年末までに、ネットワーク自動化基盤ベンダーの80%がエージェント型AI機能を導入する。2026年初頭の20%未満からの増加だ」と予測します。ネットワーク運用は今、AIによる自動化が標準へと向かう転換点を迎えつつあります。

その潮流を象徴するのが、NetBrain社自身の変貌です。2004年創業・米マサチューセッツ州バーリントンに本社を置く同社は、米投資ファンドのブラックストーンが2026年1月に過半数出資を完了しました。出資はブラックストーンが企業価値7億5000万ドルと公表しており、あわせてAI検索企業出身の新CEOを迎えています。資本も経営も「AIネイティブ」へ舵を切ったといえるでしょう。ブラックストーンが約300億ドル規模とするNetOps市場で、主導権をめぐる動きが本格化しつつあります。

華やかな生成AIの裏側で、社会を支えるネットワークという土台が静かに自律化していく。その変化を誰が制御し、どこまで人に委ねるのか——みなさんと共に見届けたいと思います

【用語解説】

NetOps(ネットワーク運用)
ネットワークの構築・監視・障害対応・設定変更などを担う運用業務の総称である。近年はAIと自動化の導入が進む領域だ。

エージェント型AI(agentic AI)/ Agentic NetOps
人間の指示に答えるだけの「助手型」AIと異なり、自ら情報収集・判断・実行まで踏み込むAIを指す。これをネットワーク運用に適用した概念がAgentic NetOpsである。

ハルシネーション
AIが事実に基づかない情報をもっともらしく出力してしまう現象を指す。運用自動化では誤った判断が障害に直結するため、抑制が重要課題となる。

Kubernetes(クバネティス)
コンテナ化したアプリケーションの配置や運用を自動化するオープンソース基盤である。クラウド時代のネットワーク複雑化の一因とされる。

閉域網
インターネットなど外部ネットワークと接続しない、独立した通信環境を指す。官公庁や金融、重要インフラなどで機密性確保のために用いられる。

【参考リンク】

NetworkBrain(NTT-AT 製品ページ)(外部)
NTT-ATが日本唯一の代理店として提供する、ネットワーク可視化/自動化製品の公式紹介ページ。機能や導入事例を掲載している。

NTTアドバンステクノロジ株式会社(外部)
NTTグループの技術系企業。通信・ネットワーク・セキュリティ分野の製品やソリューションを提供する、本リリースの配信元である。

NetBrain Technologies(外部)
NetworkBrainの開発元である米国企業の公式サイト。2004年創業、Agentic NetOpsを掲げ世界で事業を展開している。

Blackstone(ブラックストーン)(外部)
世界最大級の米投資ファンド。2026年1月にNetBrain社へ過半数出資し、AIネットワーク自動化事業の拡大を支援する。

Gartner(ガートナー)(外部)
米国の大手ITリサーチ企業。エージェント型AI普及に関する市場予測を公表し、本解説の予測はその発表に基づく。

【参考動画】

【参考記事】

NetBrain’s new AI agents automate network diagnosis(Network World)(外部)
障害の50〜80%が変更起因、対応時間を数日から30分へ短縮した事例などR12.3の発表を報じた記事。

From Network Automation to Agentic NetOps(NetBrain/Business Wire)(外部)
ガートナー予測やVPN障害を5分未満で解決した事例など、エージェント機能の実運用化を伝える公式発表。

Blackstone Makes a Significant Growth Investment into NetBrain(Blackstone公式)(外部)
企業価値7億5000万ドルでの出資を公表。約300億ドル規模のNetOps市場獲得を狙う一次情報。

Blackstone Closes Majority Investment in NetBrain(NetBrain公式)(外部)
出資完了と新CEO就任など経営体制の刷新を伝える公式発表。自動化への転換方針を示す。

NetBrain names new CEO with Blackstone backing over the line(SDxCentral)(外部)
ブラックストーンの過半数出資と新CEO就任を報道。約300億ドル規模のNetOps市場の狙いに触れる。

NetBrain Advances Agentic NetOps with New AI-Powered Features(The Fast Mode)(外部)
2027年末までにベンダー80%がエージェント型AIを導入とのガートナー予測など、機能拡張を伝える記事。

NetBrain R12.3 Brings Agentic AI to Network Operations(Channel Insider)(外部)
MSP視点でR12.3を分析。診断・修復の自動化がSLA達成に与える影響を論じる記事。

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【編集部後記】

ネットワークの自律化は、私たちの目にはほとんど触れない場所で進みます。けれど、その静かな変化こそが、これからの社会の足元を形づくっていくのだと思います。

華やかさの裏側にある「土台のとなるテクノロジー」。それが次に大きく動くのは、人とAIの役割分担が定まるときかもしれません。その瞬間を、みなさんと一緒に見つめていけたら幸いです。

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門倉
様々な大学・学問をふらふらしていました。興味の幅は広いですが最新AIとバイオテクノロジーが特に好きです。