【解説】Suno「v6」提訴、AIは前の世代から何を引き継げるのか

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Sunoは9月9日、レーベルとの提携を背景に開発した新世代モデル「v6」を公開しました。その9日後、UMGとSony Musicは、そのv6を名指しして提訴しています。新しいモデルに乗り換えれば、過去は切り離せるのか。訴状はそこに「同じ毒の木の果実」という言葉を置きました。


2026年9月18日、UMG Recordings、Sony Music Entertainmentなど12社が、AI音楽サービスのSunoをマサチューセッツ州連邦地方裁判所に提訴した。対象は録音物6万202件。請求は1972年以降の録音物の直接侵害、音楽近代化法に基づく1972年以前の録音物の侵害、DMCA第1201条(a)の技術的保護手段の回避の3本である。原告は、Sunoが9月9日に公開した新世代モデル「v6」についても、保持し続けている原告録音物のコピーに加え、旧モデルの出力と選好データを学習に用い、知識蒸留などの手法で旧モデルの能力が受け継がれたと主張している。2024年6月の訴訟は係争中で、8月18日には6万1026件の追加を求める申立てが却下されていた。

今回の訴訟を「レーベルがまた訴えた」と読むと、いちばん新しい論点を取り逃がします。争われているのは、学習データに何が入っていたかだけではありません。あるモデルが学んだことを、次のモデルがどこまで引き継げるのか。その継承を著作権法はどう扱うのか、という問いです。

裁判所が先に道筋を示していた

話は8月18日にさかのぼります。原告は、証拠開示で見つかった6万1026件を第1訴訟に追加したいと申し立てました。デニス・セイラー判事はこれを却下します。

ただ、却下の中身は「認められない」ではありませんでした。命令は、原告が有効な侵害の請求を追行する権利は当然にあり、侵害の規模は抗弁にならない、と明記しています。そのうえで判事は選択肢を2つ並べました。追加を認めずに別訴を出してもらうか、追加を認めたうえで新しい分を分離して止めておくか。

第1訴訟は事実に関する証拠開示の終盤にあり、フェアユースの略式判決が控えています。6万件分の証拠開示をここに足せば、決着は無期限に遠のく。判事は並行する2つの訴訟がいちばん釣り合いの取れた道だと結論づけました。却下は再訴を妨げない形で、別の場で出し直せます。

同じ日、判事はもう一つの申立てを認めています。YouTubeのローリング暗号を回避したとするDMCA第1201条(a)の請求を、第1訴訟に追加することです。アクセスの制御なのか複製の制御なのかは事実認定の問題であり、書面だけでは決められない、という判断でした。

9月18日の提訴は、裁判所が示した道筋をそのまま歩いたものです。同じ日、両当事者は第1訴訟の日程を変える共同申立ても出しました。狙いは、新しく加わった第1201条の請求に的を絞って証拠開示の時間を作ることにあります。

「学習データ」から「継承」へ

新しいのは、ここから先です。

Sunoは9月9日にv6を公開しました。v6、v6-wild、v6-miniの3モデル構成で、Warner Music Group、BMG、Believeとの提携のもとに開発されたと説明されています。公式ブログには、v6の展開とともに従来モデルを退役させ、プラットフォーム全体をv6世代へ移すと書かれています。

訴状は、この移行そのものを争点にしました。

Sunoが旧モデルの学習に使った録音物の複製は、いまも保持されているのではないか。訴状は、コーパスも派生データセットも旧モデルとその重みも破棄したという説明はまだ出ていないとしたうえで、保持されたものがv6の開発・評価・改良に使われていると主張しています。

そのうえで訴状が持ち出したのが、知識蒸留とモデル移転です。新しい「生徒」モデルを、先行する「教師」モデルの学んだふるまいを再現するように訓練する。教師の出力と非合成データの両方を使い、移転した知識を忘れないようにしながら新しいデータで学習を続ける。訴状はこの技術をそう定義したうえで、教師にあたるのは無許諾のコーパスで学んだ旧モデルであり、ジャンルやスタイルをまたいで人間の音楽らしさを組み立てる能力は、そこから受け継がれたものだと述べています。

もう一本の筋が、ユーザーのインタラクションです。Sunoは2曲を並べて提示し、利用者がどちらを良いと感じたかを暗黙に受け取って、モデルを改善してきました。訴状は、その選好信号はすべて旧モデルの出力についての判断であり、出力と切り離せないと主張します。

3つの表現が、この主張を要約しています。新しいモデルを侵害モデルの出力で学習させても侵害は消えない、ロンダリングされるだけだ。v6は白紙からの出発ではなく、同じ毒の木の果実である。そして、最初期のモデルからv6まで、Sunoが公開したすべてのモデルは無許諾の複製の産物である、と。

争点は二層に分かれている

ここは分けて読む必要があります。

Suno側は、主張は事実と法の両面で根本的に誤っているとしたうえで、v6が何で学習したかを3つ挙げました。パートナーからライセンスを受けたコンテンツ、創作と選好信号を含むコミュニティのインタラクション、そしてチームの蓄積された学習です。共同創業者兼CEOのマイキー・シュルマン氏は、提携していないUMGやSony Musicの楽曲はv6の学習に使っていないと説明しています。

これに対して訴状は、旧モデル由来の出力や選好データだけでなく、Sunoが保持し続けている原告録音物のコピーそのものもv6の開発に使われたと述べています。つまり両者は、v6の開発に原告の録音物が直接使われたかどうかという、いちばん手前の事実認識から食い違っています。ここは争点の一層目です。

二層目が、継承です。直接の学習データとは別に、旧モデルの出力や重み、そこから抽出された能力を後継モデルが引き継ぐことをどう評価するのか。学習データの適法性については、この2年で判断が積み上がってきました。けれど、旧モデルから後継モデルへのこうした継承について、法的評価はまだ定まっていません。

ライセンス契約が証拠として使われる

もう一つ、事業判断として重い論点があります。

訴状は、Warner Music Group(2025年11月)、BMG(2026年8月12日)、Believe(2026年9月8日)との3件の契約を並べ、1年足らずで3件の合意が成立したことは、録音物を学習データとしてライセンスする市場が機能している証拠だと述べています。市場が存在する以上、無償で使うことはフェアユースの第4要素で不利に働く、という組み立てです。

和解と提携によって訴訟から出口を作る戦略が、残った原告にとっては値札と前例になる。業界と組むほど、組んでいない相手との交渉は難しくなりうる。ここは、AI企業と権利者のやり取り全般に効いてくる構造です。

日本から見ておきたいこと

日本の著作権法第30条の4は、著作物に表現された思想や感情を享受することを目的としない利用であれば、必要と認められる限度で、許諾なく利用できると定めています。ただし、著作権者の利益を不当に害することとなる場合は除かれます。AI学習を含む情報解析は、この非享受目的に当たりうると整理されており、米国とは前提が違います。

ただ、今回の訴状で独立した請求になっているのは、学習のための複製とは別の、取得の過程のほうです。DMCA第1201条(a)は、著作物へのアクセスを制御する技術を回避する行為そのものを禁じています。著作権侵害とは別に成立しうる請求で、学習がフェアユースと認められても残る可能性がある。日本に同じ条文があるわけではありませんが、第30条の4が適用されることだけで取得の過程に関わる他の問題まで免責されるわけではない、という構造は共通です。

そして継承の論点は、法域を選びません。Sunoのように旧モデルを退役させて新モデルへ移る設計を採るとき、旧モデルの重み、出力、選好データ、そこから抽出された能力をどう扱うか。記録を残せるかどうかが、後から効いてきます。

訴状が挙げている金額は、1作品あたり最大15万ドルという法定損害賠償の上限と、回避1回につき最大2500ドルという数字です。総額は示されていません。報道が伝える約90億ドルは、6万202件に15万ドルを掛けた理論上の数字にあたります。追加申立ての6万1026件と第2訴訟の6万202件には824件の差がありますが、その理由はまだ明らかになっていません。

これから開くもの

第1訴訟のうち、第1201条の請求に関わらない事実の証拠開示は、9月30日に終わります。共同申立ての案では、第1201条に関わる分を11月20日まで延ばし、略式判決を含む終局的な申立ての期限を、2027年4月9日から6月22日へ置き直しています。

決まるのは、6万件の行方だけではありません。AIモデルが世代を重ねるとき、前の世代から何を持ち越せるのか。その線をどこに引くかが、音楽以外の領域にも順に降りてきます。日本で生成AIを使って何かを作る人にとっても、モデルの系譜を意識する年が始まったところです。

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【編集部後記】

共同申立てに、本文へ入れなかった一行があります。両当事者が中立の統計家を立て、Sunoのプロンプトと出力のログから、統計的に代表となるサンプルを作り始めているというくだりです。

証拠開示はすでに19か月に及び、9月18日までに15人の当事者証人が尋問を受けています。争いの中心が、主張の応酬から標本の設計へ移りつつある。この訴訟がどこで決まるのかは、その一行に表れています。


【用語解説】

知識蒸留(Knowledge Distillation)
先行する「教師」モデルのふるまいを再現するように、新しい「生徒」モデルを訓練する手法。教師モデルが生成した出力を学習素材に使うことで、生徒モデルは教師の能力を引き継ぐ。訴状は、関連するモデル移転の技術群とあわせて、v6が旧モデルの能力を受け継いだ根拠として挙げている。

モデルの重み(Weights)
学習の結果としてモデル内部に蓄積される数値のまとまり。何を学んだかが、この数値として残る。モデルを退役させても、重みそのものを破棄しなければ、学習の成果は保持される。

選好信号(Preference Signal)
利用者がどちらの出力を好んだかという判断を、モデルの改良に使うためのデータ。Sunoは2曲を並べて提示し、選ばれたほうを暗黙の評価として受け取ってきた。訴状は、この信号が旧モデルの出力についての判断である点を問題にしている。

フェアユース(Fair Use)
米国著作権法第107条が定める、許諾なく著作物を利用できる場合の考え方。目的と性質、著作物の性質、利用された量、そして潜在的市場への影響という4つの要素を総合して判断する。第4要素が、ライセンス市場の有無と結びつく。

法定損害賠償(Statutory Damages)
実際の損害額を立証しなくても、法律が定める範囲内で賠償を請求できる制度。米国では作品1件あたり最大15万ドル(故意侵害の場合)。請求には、原則として米国著作権局への登録が必要になる。

DMCA第1201条(a)
デジタルミレニアム著作権法のうち、著作物へのアクセスを制御する技術を回避する行為そのものを禁じる条項。著作権侵害が成立するかどうかとは別に、回避行為だけで請求が立つ。

ローリング暗号(Rolling Cipher)
YouTubeが動画の取得を防ぐために用いる、変化し続ける暗号化の仕組み。訴状は、Sunoがこれを回避して音源を取得したと主張している。

音楽近代化法(Music Modernization Act)
2018年成立の米国法。1972年2月15日より前に固定された録音物に連邦法上の保護を与えた。法定損害賠償を請求するには、著作権局への索引登録が前提となる。

証拠開示(Discovery)
訴訟の当事者が互いに証拠を出し合う手続き。米国では審理前の中心的な工程であり、この段階で新たな事実が判明することが多い。今回の6万件も、この過程で特定された。

略式判決(Summary Judgment)
争いのある事実がないと判断できる場合に、審理を経ずに法的な結論を下す手続き。フェアユースの成否は、この段階で判断されることが多い。

著作権法第30条の4
日本の権利制限規定。著作物に表現された思想や感情を享受することを目的としない利用について、必要と認められる限度で、許諾なく利用できると定める。ただし、著作権者の利益を不当に害することとなる場合は除かれる。

【参考リンク】

Suno(外部)
テキストから楽曲を生成するAI音楽サービス。2026年9月9日に新世代モデルのv6を公開し、従来モデルからの全面的な移行を進めている。

Suno Blog「Introducing v6」(外部)
v6、v6-wild、v6-miniの3モデル公開と従来モデルの退役を告知した公式発表。業界パートナーとの共同開発だとしている。

Universal Music Group(外部)
第2訴訟の原告筆頭。録音、音楽出版、マーチャンダイジングを世界で手がける音楽企業である。傘下にCapitol Recordsを持つ。

Sony Music Entertainment(外部)
第2訴訟の共同原告。Arista Records、LaFace Recordsなど傘下レーベル9社とともに、訴状に名を連ねている。

CourtListener|UMG Recordings, Inc. v. Suno, Inc.(第2訴訟)(外部)
2026年9月18日に提訴された第2訴訟のドケット。事件番号は1:26-cv-14275-FDSで、提出された書面を追うことができる。

CourtListener|UMG Recordings, Inc. v. Suno, Inc.(第1訴訟)(外部)
2024年6月に提訴された第1訴訟のドケット。8月18日に出された2つの命令と、9月18日付の日程変更の共同申立ても収める。

e-Gov法令検索|著作権法(外部)
日本の著作権法の条文。AI学習をめぐる議論の中心にある権利制限規定、第30条の4を含む全条文をここで参照することができる。

【参考記事】

UMG Recordings files 2d lawsuit v. Suno, as expected. Adds 60,202 works to copyright claim.(外部)
第2訴訟の訴状PDFを掲載した訴訟トラッカーの記事。8月18日の命令が並行訴訟を示していた経緯まで、時系列で整理している。

Sony Music and UMG say Suno’s new models still violates their copyright(外部)
6万202件に1作品あたり15万ドルを掛けた最大約90億ドルという試算を示し、あわせてSunoの反論コメントを載せた報道。

UMG, Sony Hit Suno With Lawsuit After New AI Music Model(外部)
提訴を伝える記事。Suno広報が挙げたライセンス、コミュニティのインタラクション、チームの蓄積という3要素の出どころである。

Suno Launches AI Music Models in Partnership With Music Biz(外部)
v6公開の時点で行われたシュルマン氏へのインタビュー。提携していない企業の楽曲は学習に使っていない、という説明を伝えている。

Suno admits it obtained YouTube audio to train its AI – but challenges UMG and Sony’s standing to bring ‘stream ripping’ claim(外部)
9月1日付で提出された26ページの答弁書を確認した報道。第1訴訟の修正訴状に対する書面であり、第2訴訟とは別のものである。

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山本 達也 代表社員
合同会社デジタルの窓口 代表。ウェブ解析士。生成AI・サイバーセキュリティ・ 宇宙開発領域を中心に執筆。

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