Last Updated on 2025-05-02 14:37 by admin
マサチューセッツ工科大学(MIT)の研究チームは、医療画像診断などの高リスク分野においてAIモデルの信頼性と効率性を向上させる新たな手法を開発した。研究成果は2025年5月1日(現地時間、日本時間同日)にMIT Newsで発表されている。
従来のAIによる画像診断支援では、例えば胸部X線画像において胸水貯留と肺浸潤のような症例の識別が難しく、AIが出す「最も確からしい予測」だけでは臨床医の判断材料として不十分な場合があった。そのため、複数の診断候補を確率的な保証とともに提示する「コンフォーマル分類」が注目されてきたが、実際には候補セットが大きくなりすぎて実用性に乏しいという課題があった。
今回、MITのDivya Shanmugam博士(現コーネル・テック所属、研究当時MIT大学院生)、Helen Lu氏、Swami Sankaranarayanan氏(現Lilia Biosciences研究員)、John Guttag教授(MIT電気工学・計算機科学部)が中心となって、コンフォーマル分類に「テストタイム拡張(TTA)」という画像変換技術を組み合わせることで、予測候補セットの平均サイズを10〜14%削減し、条件によっては最大30%の削減も可能であることを示した。信頼度(例:95%)は従来通り維持されている。
TTAは、画像を回転・拡大・反転など複数のバリエーションに変換し、それぞれに対してAIモデルの予測を行い、結果を統合する手法である。これにより、モデルの精度と頑健性が向上し、より少数で精度の高い診断候補セットが得られる。実験はImageNetなど複数の標準画像分類データセットで行われ、予測候補セットの平均サイズが10〜14%削減されることが確認された。
この研究成果は、2025年6月に開催されるコンピュータビジョン分野の国際会議「CVPR(Conference on Computer Vision and Pattern Recognition)」で発表予定である。研究資金の一部はWistron Corporationが提供した。
from:Making AI models more trustworthy for high-stakes settings
【編集部解説】
医療現場でAIを活用した診断支援が広がる中、MITの研究チームが提案した新手法は、実用性と信頼性の両立という課題に対して現実的な解決策を示しています。従来のコンフォーマル分類は、確率的な保証とともに複数の診断候補を提示できるものの、候補数が多すぎて臨床現場では扱いづらいという問題がありました。今回の研究では、テストタイム拡張(TTA)を組み合わせることで、平均10〜14%、条件によっては最大30%まで候補セットを削減しつつ、信頼度を維持できることが示されています。これにより、医師がより迅速かつ効率的に診断を絞り込めるようになることが期待されます。
この技術の大きな利点は、既存のAIモデルに後付けで適用できる点です。モデルの再訓練を必要とせず、画像の変換と予測結果の統合だけで精度と頑健性を高められるため、現場への導入障壁が低いことは注目に値します。ただし、TTAによる計算コストの増加や、画像変換が診断精度に及ぼす影響については今後の検証が必要です。
また、候補セットが小さくなることで、まれな疾患や未知のパターンが除外されてしまうリスクも指摘されています。医療AIの導入に際しては、こうしたリスクと利便性のバランスを慎重に見極める必要があります。
規制面では、説明可能AIや透明性の確保が求められる中で、本手法の「確率的保証」は審査当局の要件を満たしやすい特徴といえます。今後は医療だけでなく、動物種識別など他分野への応用や、テキスト分類モデルへの展開も視野に入れて研究が進められる見通しです。
長期的には、AI診断支援システムの評価基準として「候補セットの最適化率」が新たな指標となる可能性もあります。医療現場の効率化とAIの信頼性向上を両立させる本技術は、今後の医療AIの進化に大きな影響を与えるでしょう。
【用語解説】
コンフォーマル分類(Conformal Classification):
機械学習モデルの予測に統計的な信頼度を付与し、複数の診断候補セットを出力する手法。医療画像診断などで活用される。
テストタイム拡張(Test-Time Augmentation, TTA):
推論時に画像を回転・拡大・反転するなど変換し、複数の予測結果を統合して精度と頑健性を高める技術。
【参考リンク】
MIT CSAIL公式サイト(外部)
マサチューセッツ工科大学のコンピュータ科学・人工知能研究所。AI・機械学習分野の世界的研究拠点。
CVPR公式サイト(外部)
コンピュータビジョン分野で最大級の国際会議。毎年6月開催、最新AI研究が発表される。
Wistron Corporation公式サイト(外部)
台湾の大手ODM企業。IT・医療・産業機器の設計・製造を手掛けるグローバル企業。
Conformal Prediction解説論文(arXiv)(外部)
コンフォーマル予測の理論と応用について解説した学術論文(英語)。
DOI:https://doi.org/10.48550/arXiv.2107.07511