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Moth×ILĀ、量子コンピュータ駆動AIで世界初の商業音楽「Recurse」をリリース」

Moth×ILĀ、量子コンピュータ駆動AIで世界初の商業音楽「Recurse」をリリース」 - innovaTopia - (イノベトピア)

Last Updated on 2025-05-12 21:25 by admin

英国のテクノロジースタートアップMothと電子音楽アーティストILĀが、量子コンピュータを活用した生成型AIによって作られた世界初の商業音楽トラック「Recurse」をリリースした。この楽曲は2025年5月上旬に主要ストリーミングプラットフォーム(SpotifyやYouTubeなど)で公開された。

「Recurse」は、Mothが開発した独自プラットフォーム「Archaeo」を使用して制作された。このプラットフォームは量子リザバーコンピューティング(QRC)と呼ばれる量子機械学習手法を採用しており、フィンランドの企業IQM Quantum Computersが提供する量子コンピュータハードウェア上で動作する。

従来の生成AIとは異なり、Archaeoはインターネットから大量のデータを収集する代わりに、アーティスト自身が提供した少量のオリジナル音声データのみを使用してトレーニングされた。ILĀはAbleton用プラグインを通じてArchaeoにアクセスし、AIがベース、シンセサイザー、ドラムなどの音楽要素を生成する一方で、アーティストは楽器編成、エフェクト、全体的な構成に関する創造的な決定権を維持した。

通常版の「Recurse」に加えて、「Recurse [Infinite Mix]」と呼ばれる24時間365日のインタラクティブストリームも公開されており、リアルタイムで音楽を生成・進化させ続ける。

このプロジェクトは、計算創造性の研究で知られるブラジル人作曲家エドゥアルド・レック・ミランダ教授のアドバイスを受けて開発された。ミランダ教授はMothの取締役会メンバーであり、量子音楽に関する著書を執筆し、最近では量子コンピュータで作られた楽曲を集めたアルバム「Qubism」をリリースしている。

Mothの最高経営責任者(CEO)であるイラナ・ウィズビー博士は、このプロジェクトを「Mothだけでなく、創造性の未来にとっての決定的瞬間」と表現し、「私たちは単にテクノロジーのためのテクノロジーを構築しているのではなく、エンパワーし、インスパイアし、メディアと創造性の新時代を推進するツールを構築している」と述べた。

Mothは今後、この技術をゲーム、デジタルメディア、アートなど、より広範な創造的分野に応用することを目指している。

References:
文献リンクThe World’s First Song Created by Artificial Intelligence Using a Quantum Computer Is Here—It Sounds Nothing Like What You Expect

【編集部解説】

量子コンピュータとAIの融合による音楽制作という画期的な取り組みについて、さらに詳しく解説していきます。

Mothという企業は、量子コンピューティングの専門知識を持つイラナ・ウィズビー博士が率いるスタートアップです。彼女は以前、欧州で最も資金調達に成功した量子コンピューティングスタートアップの一つであるOxford Quantum Circuitsのトップを務めていました。

この「Archaeo」プラットフォームの特筆すべき点は、その倫理的アプローチにあります。現在主流の生成AIが大量のデータをウェブから収集(しばしば著作権者の同意なく)するのに対し、Archaeoはアーティスト自身が提供した少量のデータのみを使用します。これにより、創作者の権利を尊重しながら新しい表現を生み出すという、AIクリエイティブツールの新しいモデルを提示しています。

量子リザバーコンピューティング(QRC)という技術は、量子システムの特性を活用して小さなデータセット内の複雑なパターンを検出します。これは従来の機械学習では見逃してしまうような微妙なバリエーションやシーケンスを分析できるため、人間の感情や構造を保持しながらも量子レベルの複雑さを反映した音楽を生成することが可能になります。

興味深いのは、Mothがすでに音楽以外の分野への展開も視野に入れていることです。同社は「Sphinx」という量子生成音楽アプリケーションを開発しており、これを応用してマリオゲームのレベル生成なども実験しています。将来的には視覚メディアやその他のクリエイティブアプリケーションへの展開も計画されています。

この技術がもたらす可能性は計り知れません。ゲーム開発者は自分のクリエイティブな入力に基づいてカスタムコンテンツ(音楽、アート、ダイアログなど)を生成し、より深いパーソナライゼーションやモディングを可能にするかもしれません。

一方で、このような技術の普及には課題もあります。量子コンピュータはまだ一般に広く利用できる段階ではなく、コストや技術的ハードルが高いのが現状です。また、AIと創造性の関係については、アーティストの役割や著作権の問題など、議論すべき点も多くあります。

しかし、ILĀが述べているように「あなたを置き換えるのではなく、あなたと協力するために構築された技術」という視点は、AIと人間の共創の可能性を示しています。これは単なる技術革新ではなく、創造のプロセス自体を再定義する可能性を秘めています。

Mothの取り組みは、量子コンピューティングが一般消費者向けアプリケーションに近づいていることを示す重要なマイルストーンと言えるでしょう。「Q2C(量子からカスタマーへ)」技術のパイオニアとしての同社の挑戦は、量子コンピューティングの実用化に向けた大きな一歩となっています。

今後、このような量子AIツールが創造産業にどのような変革をもたらすのか、私たちinnovaTopiaは引き続き注目していきます。

【用語解説】

量子コンピュータ
従来のコンピュータとは異なり、量子力学の原理を利用して情報処理を行うコンピュータである。通常のコンピュータが0か1のどちらかの状態しか取れないのに対し、量子コンピュータでは「量子ビット」が0と1の状態を同時に持つ「重ね合わせ」という特性を活用する。これにより特定の計算において従来のコンピュータよりも高速な処理が可能になる。

量子リザバーコンピューティング(QRC)
量子コンピュータを活用した機械学習の一種で、少量のデータから複雑なパターンを検出できる特徴を持つ。従来の機械学習では見逃してしまうような微妙な変化やシーケンスを分析できるため、Archaeoプラットフォームの中核技術となっている。

生成AI
深層学習や機械学習の手法を駆使して、テキスト、画像、音楽、ビデオなどのデジタルコンテンツを自動で生成する技術。通常は大量の学習データを必要とするが、Archaeoは少量のアーティスト提供データのみを使用している点が特徴的である。

Moth
英国ロンドンを拠点とするテクノロジースタートアップで、量子コンピューティングと生成AIを組み合わせたクリエイティブツールを開発している。CEOはイラナ・ウィズビー博士で、以前はOxford Quantum Circuitsを率いていた。Mothは「Q2C(量子からカスタマーへ)」技術のパイオニアを自称している。

ILĀ
「Recurse」を制作した英国のエレクトロニックミュージシャン。Mothと協力して量子AIによる音楽制作を行い、自身のオリジナル音源をArchaeoのトレーニングに提供した。

IQM Quantum Computers
フィンランドを拠点とする量子コンピュータハードウェアの開発企業。Mothの「Archaeo」プラットフォームに量子コンピュータハードウェアを提供した。2025年3月には大学や研究機関向けに5量子ビットの量子コンピュータ「IQM Spark」をリリースしている。

【参考リンク】

IQM Quantum Computers(外部)
欧州を代表する量子コンピュータハードウェア開発企業で、Archaeoプラットフォームに量子処理能力を提供。

ILĀ(外部)「Recurse」を制作した英国のエレクトロニックミュージシャン。

【参考動画】

【編集部後記】

量子コンピュータとAIの融合が音楽制作に新たな可能性をもたらす時代が始まりました。皆さんは創作活動において、AIをどのように活用したいと思いますか?単なる代替ではなく、協力者としてのAIの姿は、私たち人間の創造性をどう拡張するでしょうか。もし量子AIが音楽以外の分野、例えばデザインや文章作成などにも応用されたら、どんな作品が生まれるか想像してみませんか?ぜひSNSで皆さんのアイデアや感想をお聞かせください。

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TaTsu
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